恵比寿「ラ・ベイエ」
今年もまた白アスパラガスの季節がやってきた。
溶かしバターのソースと生ハムと一緒にたいらげる。
美味しい前菜は、悪魔の食欲をも連れてくるのが玉に瑕。
白トリュフ。白きくらげ。白子筍(第216夜参照)。白甘鯛。白桃。白金豚。食材に「白」という色がつくだけで、とたんに有り難みが増す。白アスパラガスもそんなひとつである。
私が子供の頃はむろんグリーンアスパラガスもまだなく、アスパラガスといえば缶詰と相場が決まっていた。当時は缶詰といえどもけっこう高級品で、しかし独特の香りが強烈で、その割に食感がふにゃふにゃでさほど美味しいとは感じなかったが、ホテルなどでハムサラダに缶詰のアスパラガスが入っていると珍しさも手伝ってかよく食べた。
そのうちに生のグリーンアスパラガスが出回るようになり、アスパラガスがこんなシャキシャキした野菜であったことに驚いたものである。そして、ここに来て生の白アスパラガスが登場したのである。白アスパラガスは、葉緑素を作らないよう陽の光をあてずに栽培することで白くなる。グリーンアスパラガスと品種が違うわけではなく、育て方が異なるのだそうだ。出回りだした頃は、圧倒的にヨーロッパ産が多かったが、さすがに日本の農業は優秀で、またたくまに国産のレベルの高い白アスパラガスがメジャーになった。何と言っても野菜は採れたての新鮮なものであればあるほどいい。
東京日帰り出張で、比較的仕事に余裕のあるときは、この店にサッと寄って、混む前に注文して、チャッと食べて、8時半くらいの新幹線に乗って帰る。この日も、店のオープンと同時にカウンターに座り、黒板メニューを見ると、白アスパラのムニエル生ハム添えというのが目に飛び込んできた。早速注文する。白アスパラが見えないくらい生ハムが乗っており、白菜、卵を刻んだものが散らされている。溶かしバターのソースをからめてその上に生ハムをのっけてかぷっと食べる。最初はシャキシャキしているのに、口の中でむにゅ〜と柔らかくなるこの食感、緑のではこうはいかない。卵好きであるのでオランディーズソース(あのエッグベネディクトにかかってるヤツね)をかけるのも大好きである。お次はイサキとブロッコリーの温サラダ。イサキがカリカリにソテーされて、これもこたえられない美味しさ。ブロッコリーはイサキの下にたっぷりと隠れている。
三品めは、こちらの名物塩ウニとじゃがいものガレットである。今日はスペシャルで生しらすバージョン。こちらのお店に初めて来るなら、絶対外せないのがこのガレットである。スライスしたじゃがいもに塩ウニをからめ、セルクルに入れカリカリに焼く一品。桜えびの季節は桜えびのジャリジャリ具合がまた絶妙なのだが、生しらすの柔らかな食感もこのガレットにはよく合っている。また塩ウニの独特の味が、じゃがいもにメリハリの効いたを添えるのだ。いや、風見さんは天才だわ。
ここいらでやめとけばいいのに、やっぱりパスタを食べないと収まらない。で、スモークサーモンと菜の花のペンネ、トマトソースである。旨いのはいうまでもない。
そして、パスタを食べただけでもよくないのに、調子に乗ってデザートまで注文してしまう。しかし、前にも書いたが(第78夜)こちらのモンブランは絶品なのである。スポンジケーキをサイコロ状に切り、そこにアマレットを垂らし、その上に生クリーム、さらにたっぷりの栗のピュレを乗せてくれるのである。栗のピュレには栗のつぶつぶした食感が残っており、なめらかな生クリームとの微妙なテイストの違いがこたえられない至福の時間を生み出してくれるのだ。
ああ、今日も幸せな心地。あとは新幹線で爆睡するだけだ。