千夜千食

第78夜   2014年5月吉日

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恵比寿の「ラ・ベイエ」

本当だったらもっと頻繁に来たい店だが
なんだか今年はとっても相性が悪いのだ。
ずーっとふられ続け、やっと来ることができた。

 こちらも大のお気に入りフレンチビストロである。ただし、閉店がけっこう早いのと(早いと言っても10時半まではいける)、混んでいるときはものすごく混んでいるので、今年はずーっと振られっぱなし。5月も後半になってやっとこさ予約が取れたのである。

 最初に連れてきてくれたのはカメラマンM3氏である。彼の大のお気に入りということで紹介してもらい、定宿の近くということもあって、ちょくちょく伺うようになった。
  
 店はカウンターのみ。料理もサービスもオーナーシェフの風見さんがひとりで切り盛りしている。私は、こういったスタイルの店をこよなく愛している。なにより、これからいただくご馳走を作る人の顔が見えるというのが素晴らしい。それだけで店との距離が一気に縮まるし、使っている食材や調味料、作り方についていろいろ教えてもらえるのも有難い。今年のトリュフはキロいくらだとか、今頃の千葉のアジはめっぽう味がよいとか、このペーストはブランダード(注1)だとかね。食にまつわる幅広い知識を積み重ねておくと、どんな店に行っても楽しめて、何より会話が弾む。食に関するコミュニケーションを愉しむことこそが、カウンター店に行く醍醐味であろう。店によっていろんな学びがあるし、実際に行かないとわからない発見もある。さらには、シェフの人柄に触れることもできる。

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 そういう意味でも「ラ・ベイエ」は風見シェフの卓越した感覚が随所にあふれるカウンターフレンチである。注1のブランダード。私はこれをここで初めて知った。南仏ではこのブランダード(干しダラのディップ)をパンにつけて食べるのだそうだ。土地の伝統料理であるらしい。風見さんは、鯛のアタマの身にじゃがいも、ガーリックを入れて、オリジナルブランダードを作っている。これとパンとワインだけでも、食事が成立するくらい旨い。が、あまり食べすぎるとほかのお皿が入らなくなるので、いつも抑え気味にしている。

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この日は、カリフラワーのスープからスタートした。クリーム仕立てだがしつこくなく、カリフラワーの味がしっかり生きている。アジのマリネは今とても味がよいという千葉県産アジを使っている。シャキシャキの玉ねぎや人参もふんだんに入ったヘルシーメニュー。アジのシメ具合、神業の如し。メインは、カマスのソテーアンチョビソース。和食ではいつも淡白な滋味という印象のカマスが、カリカリにソテーされると攻撃的な一品になる。アンチョビソースの濃厚さに負けないカマス!そのコーディネーションの妙に唸る。シメは春キャベツと白魚のパスタ。キャベツが生き生きしている。そこに清楚な白魚が絶妙な塩気をまとって、からんでいく。ふうう。やっぱり、素晴らしい。フレンチなのになんでパスタがあるの?なんて野暮は言いっこなし。

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 こちらは、デザートも悪魔級。この日は我慢することができたが、私が大好きなのはモンブラン。アマレットを吸わせたスポンジケーキの上に栗のピュレを無造作に乗せるというもので、こたえられない一品である。次回は絶対にいただこうっと。