千夜千食

第237夜   2015年5月吉日

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銀座鮨「一柳」

ふらっと来て、ちゃっと食べて、さっさと帰る。
鮨って本来はそういうものだったと聞くが
当日予約困難な銀座でここだけはそんな楽しみ方ができる。

 「一柳」は銀座の名店でありながら、当日電話しても意外とすぐ入れるというのが有難い鮨屋である。すでに何度も紹介しているので、詳しくは書かないが、銀座の鮨で当日電話して入れるところなど皆無と言っていいのに、そしてここはいつも行ってみれば満席であるのに、なぜか融通がきくのである。

 なので、突然鮨が食べたくなったときには、躊躇せず電話してみる。時間制限がつくときもあるし、時間調整をしないといけないこともあるけど、十中八九は入れてもらえる有り難い店なのである。

 そして、もうひとつ有り難いのは、ここはいつ来ても、ほぼ同じコンディションの魚が食べられることである。これは店主である一柳さんの姿勢というか流儀である。「いつも同じ状態の魚や鮨をいつでも変わらず出し続ける」このことの難しさは素人であっても容易に想像がつく。

 いくら築地が近くにあろうと、魚の漁獲はそのときの天候や海のコンディションによって左右される。海水温の変化によりプランクトンの量が減ったりすると、今まで獲れていた魚が獲れなくなったりすることもあると聞く。逆に今まで滅多に獲れなかった魚が急に豊漁になったりということもあるらしく、いつも同じクオリティの魚を毎日仕入れるのは至難の技である。取引であるから、当然、毎日コンスタントに買い続けることによる信用も必要だろうし、ときにはハズレのタネしかない日もあろう。もちろんその季節の旬というのもふんだんに用意しながらも、つまみではタコ、カツオ、あん肝、アワビ、ウニはほぼ一年中食べられるし、鮨ではカレイなどの白身、マグロ、イカ、コハダ、穴子なども食べるたびにああいつもの味だと安心するのである。(もちろん、こうした姿勢は一流と呼ばれる鮨屋ではあたりまえのことではあると思う。あるレベルを超えた鮨はほとんどそうだろう)

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 本日は、厚岸の白魚からスタートである。向こうにはホタルイカ。刺身は鯛であるが、これはお腹のコリコリしたところ。たまらん歯ごたえと脂である。そして鯛の子。これも好物。さすがに鯛の子は季節限定である。とり貝は愛知からやってきた。これも季節によって産地はまちまちであるけれど、いつもしっかり肉厚で甘い上質のものを仕入れている。これはたいてい生きたまま、パンっとまな板に打ち付けられ、その刺激で目の前の皿に置かれてもまだ動いていることが多い。続いて桑名の蛤。こちらで生の蛤が出るときはたいてい桑名産のものである。

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 紫蘇を巻かれているのは、カレイの縁側をホイル焼きしたもの。カツオは、いつもスペシャルな薬味でいただく。このタレ、瓶詰めにして売ればいいのにといつも思うのだが、これで海鮮サラダとかのドレッシングを作れば旨いに違いない。写真を撮り忘れたが、こちらのタコも絶品である。昔ながらの大根で叩いて柔らかくするという方法を取っているらしく(見たことはないが、大根で叩いているのは見てみたい)、しっとり柔らかい歯ごたえの馬鹿馬な一品である。

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 美しい黄金色のウニは、余市の馬糞。解禁日初日のを仕入れてきたと聞けば、有り難く、塩でちびちびと味わう。水茄子でウニの濃厚さをスッキリさせたら、平貝を海苔で巻いた磯辺焼き。毛蟹をポン酢でいただき、あん肝、アワビと日本酒が進むつまみが続く。至福のひとときである。つまみのフィナーレには金目鯛を焼いたもの。たいそう良い脂がまわってい、舌鼓を打つ。

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 そろそろ握りと行きますか。まずは、マコガレイ、シマアジ、イサキ、黒ムツ。ねっとりと甘かったり、コリッと滋味深かったり。それぞれが独特の美味を内包する白身たち。ううむ。鯛やヒラメ以外で、これだけ白身のバリエーションを持たせるなんてさすがであると唸りつつぱくぱくと平らげる。

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 メインはマグロ三銃士。ヅケ、中トロ、大トロだ。本日は日本海で暴れていた子、佐渡方面のマグロである。マグロがいつ来てもちゃんとあるというのが江戸前の大原則であろうけど、本当にいつ食べても旨い。旨すぎる。この仕入れだけでも並大抵のものではないと感心する。だから、どんなにお腹がパンパンで、握りをパスしたいときでも、マグロ三銃士だけはスルーできないのだ。

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 マグロの後はアオリイカ、コハダ、キスの昆布締め、アジ、カスゴと来て、これも絶対いつも食べたい穴子である。そして、シメはやっぱりトロタクじゃないと終われないので、半分だけ巻いてもらう。ああ、今日もよく食べた。ちゃっと食べるのがいいなどと言いながら、居心地がいいのでずいぶんと長居してしまった。まあ、いいか。

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