千夜千食

第27夜   2014年2月吉日

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やっちゃった「丸かぶり鮨」

いったいいつから定着したのだろうか。
寿司屋や海苔屋の陰謀に踊らされ
とうとう恵方を向いて丸かぶりしてもうた。

写真[1]

 陰謀というのは少し言い過ぎた(笑)。しかし、この恵方巻きという習慣、いつ頃から定着したのだろう。

 ウィキペディアによれば、平成10年にセブンイレブンが全国発売するにあたり「恵方巻き」とネーミングしたことで一気に広まったらしい。それまでは、「丸かぶり寿司」と普通に呼ばれていたのだという。たしかに20年ほど前から、スーパーや大衆的な鮨屋に貼られたポスターなどで、ひそかにキャンペーンは行われていた。が、もともと季節の風物というものでもなく、バレンタインデーと同じ感覚で仕込まれたイベントであろう。知ってはいたが、だからといって、試してみたことはなかった。

 ただし、丸かぶりというのはとても魅力的な行為である。丸かぶり。丸ごと。丸った食いというのに子供の頃から憧れてはいた。なにしろ、丸ごとものを食べるのはずっと禁じられてきた。お歳暮やお中元でいただいたカステラを親が切り分けるのを見ながら、ああ一本好きなだけ食べられたらどんなにいいだろうかとか、デコレーションケーキも一度丸ごと食べてみたいとどれほど思ったことか。だから、大学を卒業してひとり暮らしを始めたとき、よくやったのはケーキのホール食いである。当時はモロゾフのチーズケーキやアップルチーズケーキをよくホールで買った。スイカなども一個思い切りよく買ってきて半分に切ってスプーンですくう。アメリカのテレビドラマや映画でよく出てくるアイスクリームの大容量カップも何度か試してみた。懐かしのカステラ一本食いだってもちろんチャレンジ済みだ。だけど、巻き寿司だけは未経験だった。普通すでに切り分けられている。ホールの巻き寿司は家で巻かない限り、なかなか探せない。しかもそれを丸かぶりするのである。

 そのどちらかといえばお上品な行為を堂々とできる日がやってくるなんて。

 JR大阪駅のイカリスーパーに、その巻き寿司はあった。切っていない一本丸ごと。思わず手に取り会社に向かった。昼休み。ネットで今年の恵方を調べ、そちらを向いて巻き寿司にかぶりつく。食べ終わるまでしゃべってはいけないというルールがあるらしいのでこっそりとやる。だけど、誰も気づいてくれないし、面白くもなんともない。こんなのは、誰かと目配せしながら、笑いをこらえながらやるもんだよね。