南森町「すし芳」
いつ行っても進化している。
アグレッシブなチャレンジがある。
変わり続けることを是とする変幻自在鮨。
会社を設立した頃であるからもう17年も前である。有名なグルメ評論家が関西で江戸前の鮨が食べられるとして絶賛していたのがこちらである。会社の近所なので早速でかけ、気に入ったので10日ぐらいのあいだに3回もでかけた。3回目にはあまりに気持ちよく酔っ払ってしまい、当時会社で捕獲していた子猫を酔った勢いで家に連れ帰ってしまった。その猫は我が家の二匹目となり、三年ほど前に天寿をまっとうした。何かと因縁のある鮨屋でもあるのだ。それからは、時折思い出してはぽつぽつ行くという関係がずーっと続いている。だけど、行くたびに前とは違う新鮮な遊び心があるのでいつも驚かされ、目が離せない。
久々の訪問である。最初に低温でゆっくり熱を入れた半生の白子。新鮮さが生きている。この低温調理、最近いろんなところで出合うが、分子料理につぐトレンドとなりつつあるようだ。化学の方法を使い、旨味と食感をキープするということか。だいだいを軽く絞るというのも新鮮である。こりこりのヒラメの薄造りは九条ネギと。酒は磐城の寿という純米酒でスタートし、静岡の正雪。そうこうしているうちに大将がかつおの切り身を持ち、店の外へと向かう。店の前でかつおを藁でいぶすのである。
大阪市北区。堀川戎へと続く参道でもあり公道でもある町中で堂々と七輪で炭を熾し、煙もうもうするのである。なかなかシュールな光景である。(この作業、今やこの店の名物となっている。今回はじめて大将の後を追い、いぶす作業を見学した)それにしても、いぶしたてのかつおのたたきは絶品である。藁の香りがほどよく乗った脂にまとわりつき、口中に入れるやいなや蕩けていく。その香ばしさはずーっと後を引く。いつまでも余韻にひたっていたいが、すぐさま車海老が出る。向こう側の笹の中にも車海老の鮨が入っている。ひとつの素材で調理法を変えたり、産地別に出したりと、二種類のプレゼンテーションをするのがここの真骨頂。刻んだハラペーニョを乗せた牡蠣が出されたかと思うと、はい手を出してと言われ手のひらを差し出すとツメを塗った牡蠣の鮨がのせられるといった具合。カウンターとそこに座る人を立体的な舞台に見立て、縦横無尽なアイデアをめぐらせる。そのパフォーマンスがいつやってくるかわからないので、毎回どんな手を使うのかと期待する楽しさがあり、まったくもって愉快ったらありゃしないのである。
本日の真打ちは生のクロマグロ。山口県仙崎で穫れた126キロ級だ。これはもう素材そのもののストレート勝負。ねっとり旨く、まったり口中にまとわりつく。赤身は小気味良い血の味がする。血気盛んに勢いよく泳いでいた生きのよい一尾だったのだろうと想像する。酒は備後の天寶、出雲の天穏。ほたるいかのジュレがけの後、再びほたるいかを串にさし炙ったのが出る。酒がどんどん進んで、赤貝のサラダ仕立てと貝柱のリンゴ和えを秋田のまんさくの花で楽しむ。そして炙った貝柱を海苔で無造作にくるんだ手巻き鮨。赤貝のひもと胡瓜の細巻。ここで炙った鯖の登場である。続いて鯖の押し鮨。これはここでは初めて食べたが、脂ののり具合に痺れ、唸るしかない旨さである。最後は、生のマグロのトロ鉄火。ほとんどマグロ巻きといった豪快さに圧倒され、その威勢のよい味わいにまたしても唸る。マグロと海苔はほんとうに相性抜群だなと思う。
かつて江戸前と絶賛された鮨は、もはや江戸前ではない。斬新な趣向と遊び心あふれる目くるめく前衛鮨だと私は思っている。大将の中ノ上さんは、うつわにもそうとうこだわりがあり、店には河井寛次郎の書や北大路魯山人のうつわなども飾られている。日本酒の銘柄が変わるたびに替えてくれるグラスは、どれもアンティークのバカラやサンルイ。鮨よし、うつわよし、で、すし芳か。良いではなく芳しいというネーミングが今やぴったり来る店になっている。
総てヲ出ス 出し切ル オシミナク出ス
カウンターに掲げている河井寛次郎の言葉どおりに、総てを惜しみなく出し切って日々変貌し続けている店である。







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