千夜千食

第40夜   2014年3月吉日

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慈慈の邸「マクロビごはん」

こんな手間ひまかけたマクロビ料理が
きっといちばん贅沢に違いない。
デコさんの見事な腕をじっくり味わう。

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 2012年夏まで「マクロビ」が正確には何をさすのかよくわかっていなかった。何となく理解したのは、エバレット・ブラウンさんと中島デコさんが主催する「半断食デトックス」というプログラムに参加してからだ。
 
 エバレットさんとは松岡師匠イベントの喫煙スペースで仲良くなった。千葉いすみ市でブラウンズフィールドと慈慈の邸(じじのいえ)という施設を奥様とやられているとは聞いていたが、フェイスブックで「半断食デトックス」の告知があり、ちょうどダイエットしなければと思っていたし興味津々で参加した。そのときの体験は、また別の機会に披露したいが、奥様であるデコさんにも私はすっかり惚れてしまったのである。

 今回は、翌日撮影でお借りするので、そのロケハンと当日の準備段取りのため、ひとり前乗りである。慈慈の邸は宿泊施設でもあり、ちゃんと一泊二食付きで泊まれるのである。食事は、マクロビ(正式にはマクロビオテック)料理である。独自の陰陽論を元に食材や調理法のバランスを考える食事法で、玄米や野菜などが中心となる。「身土不二」「一物全体」「陰陽調和」がその三大理念らしいのだが、これはこれで突き詰めていくと理にかなった思想だと思う。(私のような怠惰な人間はとてもじゃないがようやらんが・・・)

マクロビ1

 訪れた日はぽかぽか陽気で、すでに庭には見事なしだれ梅が咲いていた。さっそくブラウンズフィールドのカフェで玄米カレーをいただく。まともに玄米を食べるのは半断食のとき以来であるが、この噛みしめれば噛みしめるほど滋味の出る玄米というもの、この歳になるとしみじみと美味しいと思うのである。きのこのカレーとの相性も抜群。アッという間にぺろりと平らげる。夕方まではロケハンを兼ね、あちこち歩いたのですでに夕刻にはおなかがぐーぐー言い始めた。

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 お待ちかねの夕食。エバレットさんがとっておきの赤ワインをあけてくれる。大切なコレクションからの一本である。イタリアのモンテプルチアーノ・ダブルッツオ2005年。作り手はエミディオぺぺ。ビオワインである。ここ最近赤はあまり飲まないのだが、このワインには驚嘆した。なんだろうね。この豊穣な香りと奥行き。デキャンタージュしたそれをグラスに注ぎ、エバレットさんはまるで神の滴をいただくようにうっとりした表情でゆっくりと味わう。いつもならワインだってぐいぐいともったいない飲み方をしてしまう私もそれに倣う。至福とはまさにこういう時間のことを言う。

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 そして珠玉のマクロビディナー。前菜は上から右回りに大豆のフリッター、アーモンドの醤油焦がし、木戸泉酒造の酒粕焼き、いじちく、おからの海苔巻き、豆腐。これを少しずつ齧って、ワインと一緒にゆっくり、じっくり、味わう。イラチの私は食べるのも早いのだが、マクロビはやはり噛みしめることが大事なのだ。次なる一品は、カシューソースをかけたペンネのグラタン。オーブンでこんがり焼かれ、きつね色の焦げ目がついている。ペンネもブラウンズフィールドでとれた小麦でつくったもの。スープはレンズ豆としめじのブラウンスープ。畑の豊かな味がする。メインは慈慈の邸の刻印が押されたプレートに乗って。手前から時計回りに、酒粕クリームコロッケ、じゃがいもののひじきメースと和え菜の花添え、トマトと玄米のリゾット、野菜のミルフィーユ、切り干し大根とみかんのサラダ。使っている素材ひとつひとつに物語がある。すべての素性がわかっている。食においてこれほど贅沢なことはないだろう。デザートはチョコレートのムース。たっぷりかかったナッツが香ばしい。食後はなおもチーズをいただきながら、ワインをゆっくりと楽しんだ。

 マクロビが提唱する「身土不二」というのは、暮らしているその土地で穫れる旬のものを食べるという考え方だ。最近良く言われる地産地消と似ているが、結果的に収穫されるものが食べごろなわけだから地産地消ならごく自然に旬のものを食べていることになる。「一物全体」は、米なら玄米で、野菜なら皮も葉もできるだけ丸ごといただくという考え方。そういえば、長生きのすすめを提唱している某医師もめざしや干物などはアタマからしっぽまで全部バリバリ食べようと言っていた。なるほど。さらに、マクロビではすべての食材に「陰」と「陽」があると考え、これをバランスよく食べる「陰陽調和」も大事にしている。たとえば、夏の胡瓜(陰性)は身体から熱を取る作用があり、冬のごぼう(陽性)は冷えた身体をあたためてくれるといった具合。厳密には調理法にもこの陰陽のバランスを取りいれるらしい。私たちに厳密なマクロビ生活は無理だとしても、なるべくその土地の旬のものを丸ごと食べるくらいは、普段の意識を少し変えればできそうな気がしてくる。

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 翌日の撮影ランチもデコさんにお願いした。スペシャル注文である。このズラリ並んだプレートをご覧あれ。ボリュームはあるが、こちらもすべてマクロビ料理である。こんなの毎日食べていたら、どんなに健康になるんだろうか。絶対やせるだろうしなあ。ああ、デコさんところに一ヶ月くらい入院したいというと、友人に「無理、無理。絶対夜中脱走して、鮨食べに行くって」と言われた。おあいにくさま。ここは房総半島。脱走したって、歩いて行ける鮨なんて近くにないんだよ。

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