再び白金鮨「いまむら」
攻めてくる鮨の正体を見極めに
中10日ほどで再びでかけてみたのだが、
やっぱりファーストインプレッション通りの凄さ。
わずか10日後の再訪である。気に入った店を間髪入れず訪れるのは私の癖ではあるが、それにしてもこんなことは珍しい。さほどに、初回で魅了されたということもあるし、本当に良い店かどうか今一度確認したいという意味もある。
攻めてくる鮨と前回書いたが(第79夜参照)、10日後ならさほどネタのバリエーションが変わっていることもないだろう。今日は、冷静に鮨を楽しもうと出かけた。
本日の日本酒は会津中将純吟。福島の銘酒である。これを、渋い備前のとっくりに入れてくれる。この鄙びた肌あいを見てください。ぽってりとした盃の見込みには緑色の釉がかかっていて、この何ともいえない取り合わせに痺れてしまう。ツマミが来る前に、ぐびり。ああ、いいお酒をいいうつわでいただく幸福よ。さて、ツマミ第一球は、真子鰈。あらら、前回はマツカワ鰈だったけど、ちゃんと鰈のバリエーションがあるのね。第二球はタコ。そして鮑のやわらか煮。この二品は前回と同じ。紛うことなき旨さである。そして、ここでいきなり茶碗蒸しが出た。これははまぐりのお出汁でつくった茶碗蒸しなのである。このタイミングでこれを出すなんて、凄い変化球である。そして、イワシ。脂が乗っていて、凄いのなんのって。しかも、このうつわ。唐津の作家さんらしいけど、この枯れかた尋常じゃない。いつまでも眺めていたい。ポケットに入れて持って帰りたい(笑)。続いてはシコシコのバイ貝を串に刺したもの。茶碗蒸しといい、串刺しといい、やっぱり普通では終わりませんぜと意表を突いてくる。カツオも、ねっとり具合に唸らせられる。日本酒は前回もいただいた大純吟の山桃桜(ゆすら)。前回も堪能した唐津の徳利とお猪口で出されて、たまらないうれしさ。このひと揃いもポケットに入れて持って帰りたい(笑)。本日の焼き物は太刀魚である。酢橘をきゅーっと絞っていただく。そ、そして酒の肴にもう一品所望してみると・・・
バチコである。
東京でバチコ(バチコはナマコの卵巣。クチコとかコノコとも呼ばれる)をいただけるとは思っても見なかった。これは、金沢の「みつ川」が得意とする必殺ネタである。そ、それがお江戸白金にあるのである。生のバチコを軽く炙った絶品。この美しいオレンジ色といったらどうだろう。少しずつ齧りながら、山桃桜をちびちびとやる至福。それにしても、なんという守備範囲の広さであろう。
そろそろ握ってもらう。まずはアオリイカ。例の複雑系である。どうよ、この端正な切り目。「小松弥助」の大将(第70夜参照)が三枚おろしなら、こちらは網の目切り(そんな言い方があるのかどうかわからないけど)。どちらも口に入れたときのふわっとした食感を大事にしたいという気持ちからこうしていることはよくわかる。職人のこだわりのひと手間である。金目鯛も美味。最近は流通が良くなって、関西でもときどき食べられるけどやっぱりお江戸は伊豆に近いのね。よくイカってる。小鯛の昆布締め。前回と同じくかすごですな。昆布でシメられたねっとり具合が非常によろしい。続いてミル貝。これは今回初登場。独特のコリッとした食感に唸ります。マグロのヅケ、大トロ。相変わらず、威圧感のあるマグロである。実に男らしい。高倉健のような、惚れ惚れするほどの存在感である。一方、コハダは小股の切れ上がったいい女風。清楚にして端正である。そして、例のエロティック鳥貝。あいかわらずのエロさである。アジにいたっては、こんなにご開帳されてなんという姿態か。そして車海老、雲丹、穴子と安定したラインナップが攻めてくる。最後にトロたくをいただいて、おなかパンパンになりながらもそれでもデザートのアイスクリームは別腹である。
ううむ、やっぱりここ、とんでもない鮨屋である。ネタのバリエーション、まだまだありそうな懐の深さを感じる二回目だった。今回若いカップルが少々はしゃいでいたが、大将きっぱりと「もう少しお静かに」と注意していた。カウンターを完全に支配している大将。貫禄というにはまだお若いだろうが、鮨にも場の仕切りにもしっかりと目を行き届かせている店である。わずか8席しかないカウンター、予約は困難になりつつあるらしい。こういうお店が、家か会社の近所にあればいいのに。後30回は行きたい(笑)。