千夜千食

第150夜   2014年11月吉日

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今治「弥生寿司」

地方の駅前にある鮨屋にふらりと入り
地酒と地魚で一杯やるというのもなかなかよろし。
それに、噂の「ザンキ」をとうとう食したのである。

 149夜がまだ続いている。爆睡(泥酔?)したまま松山空港に着陸した。これから今治に移動する。アタマがちゃんと正常に働いていれば、空港バスなどに乗る冷静な判断をしていただろうが、まだほろ酔い状態にある。妙に気が大きくなっているのと、羽田から都内へ行くような感覚でついタクシーに乗ってしまう。ところが、松山から今治というのは特急でも35分はかかるのである。タクシーは夜道を走りに走って1時間。ようやっと今治に到着した。タクシー料金も腰が抜けそうな金額である・・・少しずつ正気に戻りながら、冷や汗をかく。後の祭りである。

 ホテルにチェックインして、さてと。シャンパンの酔いが醒めてみると、それなりに空腹である。チェックインカウンターに置いてあった近隣の店ガイドというペーパーを見ると、歩いてすぐのところに何軒か鮨屋がある。よし。

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 外に出てみると駅近というのに、町は閑散としている。夜のネオンもぽつり、ぽつりとしかついておらず、ああ悲しいかな、これが地方の現状なのである。いくつか角を曲がると、やがて前方にネオンの看板と提灯が見えてきた。ガラリと戸を引くと、カウンターの先客は一組だけ。カウンターいいですか?と許しを得て、端っこに陣取った。

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 まずは大関の特選特別純米酒・山田錦。酔いも醒めているので、これぐらいならいいかと300ミリの瓶を注文。今日のおいしいとこ、適当にお願いしますと、まずは刺身を。瀬戸内海ですからね、まずは鯛。大好きなお腹のコリコリしているところ。続いてハマチ。愛媛は養殖ハマチの本場。こちらもゴリゴリすぎるぐらいの活かり具合である。そして赤貝。シャキシャキである。さっと炙ったゲソも強靭な歯ごたえ。日本酒300ミリなど、あっという間である。

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 ここからはもう握ってもらう。ブリになりかけているハマチ。鯛。平目の縁側、車海老の踊り、雲丹。アジに大トロ。江戸前と違い、地元の魚を大胆に切り豪快に握ってくれる。さすがにお腹がいっぱいになってきた。そろそろシメに茶碗蒸しでももらおうかと思って目の前の貼り紙を見ると、「センザンキ」という文字を発見した。

 ザンキ。

 そう、それはこのへんのスペシャル唐揚げの呼び名である。なぜ知っているかと言うと、大昔天皇バーでアルバイトしていた新居浜出身のF君がいつもこのザンキを話題にしていたからである。「ああ、おかんのザンキが食べたい」「おかんのつくるザンキは旨い」とさんざん聞かされていた。その「ザンキ(正確にはセンザンキ)」が目の前のメニューにあるではないか。

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 もちろん注文してみた。ただし、半分の量で。何のことはない、鶏の唐揚げである。下味はしっかりついている。愛媛県の観光サイト「いよ観ネット」で調べると、「センザンキ」とは鶏のさまざまな部位を使う骨付きの唐揚げである、とある。醤油や生姜、にんにくをすり下ろした漬け汁に漬けこんだ後、片栗粉と卵をあえた粉をもみこんで揚げる。鶏をまるごと千に斬って小さく切るため「千斬切(センザンキ)」と呼ぶとも、中国語の清炸鶏という発音がなまって「センザンキ」になったとも諸説あるようで、真相は定かではないらしい。そして新居浜では「ザンキ」と呼んで、骨なし肉で作るそうである。

 凄いネーミングである。千斬切とはね。もともと「ザンキ」と聞いていた頃から、私のアタマの中では慙愧に堪えないの慙愧とか、斬鬼とか、おどろおどろしいイメージがあったから。千斬切なら、あながちその印象は外れていない。そして、初めて食べたご当地の「ザンキ」はしっかり醤油味のついたなかなかにイケる唐揚げであった。

 今治では、焼き鳥は「皮」に始まり「センザンキ」で終わるのが通の食べ方であるらしい。では、鮨のシメに「センザンキ」というのは、通中の通なのか、邪道なのか。誰か、教えてほしいものである。