千夜千食

第18夜   2014年1月吉日

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芦屋の料理屋「仁」

ここ最近は鮨か和食かに
固定化している誕生日ディナー。
もちろんその方向で大歓迎ですが。

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 もう十年以上になるだろうか。出不精の親友と誕生日ディナーなる習慣をつくっている。彼女の誕生月が12月、私が1月で近いこともあって、要は年末と年始の誕生日に近い日に食事会を強制的にやっている。ここのところ圧倒的に鮨か和食に行くことが多い。夙川、芦屋あたりで良い店を探すと言う意味もある。5、6年前に連れて行ってもらった店は星をとり移転して今や予約が取りにくい店になったし、今はなくなってしまった山の手の料亭にいた人がやっているという店にも連れて行ってもらった。阪急だけでなく、JRにも阪神沿線にも名店は多い。

 今回は阪急芦屋川。阪急の線路を北へくぐり、西へ曲がると昔からの古い商店街がある。和菓子屋さんやお好み焼き屋さん、揚げたてコロッケを売っているお肉屋さんなどが点在する生活に密着した庶民的なエリアである。正式には芦屋山手サンモール商店街という。ここが最近、オーガニック系のカフェとか雑貨屋さんとかがぽつぽつとでき始め、活気づいているらしい。夜なのでその片鱗は感じられなかったが、昔ながらの商店街が若いオーナーによって復活するというのはうれしいことである。

 そのサンモール商店街から一本路地を山側に上がってすぐ右にその店はある。うん、ここはきっと旨いだろうと思える店構え。中に入ると正面にカウンター。左手には大きなテーブル。地元の人たちであろうわりと年配のグループが盛り上がっている。カウンターにも中年のカップル。客層が大人ということは、当然料理への期待が高まる。

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 まずは純米吟醸の「福袋」というめでたい名前の酒で乾杯。赤い酒器がめでたさを増幅してくれる。最初の二品はあったかなすり流しとあんかけ。これだけで一合が空いてしまい、お造りのために「鳳凰美田」を注文する。小林酒造のこの酒は最近注目しているひとつである。鯛もひらめも「いかって」おり、これでまた鳳凰美田が進む。たこの柔らか煮も関西のテイスト。むにゅっとした歯ごたえがたまらない。焼き魚の上に盛られているのは、しんじょよりもっとエアリーな食感の山芋。こういうのチャレンジングでよいな。焦げ目がいやがおうにも食欲をそそる。「松の司」をたまらず注文。そしてメインは鴨ロース。中が半生になっている私好みの火の通し方。テンポよく出されるので、酒がうまい具合に進み、気持よくいただいた。

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 全体として端的にまとめられた上品な仕立て、という印象を受けた。けっして派手さはないが、どの皿もひと口いただくと真面目で誠実な仕事をしていることがわかる。使っているうつわや酒器にもなかなかのこだわりがある。流行り廃り関係なく地元で愛されるのは、こういう店ではないだろうか。コストパフォーマンスもなかなかよいらしい。

 こういったレベルの店が生活圏内にあるというのが、阪神間の強みである。海と山に挟まれた南北わずか7キロくらいの街に阪急、JR、阪神電車が平行して走っており、阪急沿線には住宅街の中にひっそりと、 JR沿線なら昔ながらの商店街の近くに、阪神沿線だと高架下のようなところにそれぞれのエリアの持ち味を活かした店が点在している。三つの路線を行き来するのは単純に南北を移動するだけなので、みんな状況に応じていろいろ使い分けているようだ。私も朝はJRで大阪まで出て(そのほうが早い)、帰りは阪急で帰るという悪い習慣(定期を持たないという)がついてしまっている。

 平日、芦屋で途中下車する機会はなかなかないが、和食も鮨もまだまだ知らない名店がこのエリアにはたくさんありそうだ。