千夜千食

第42夜   2014年3月吉日

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ロケの「ばくだんおにぎり」

こういうガツン系おにぎり、
いやガテン系かしらん。
うん、いいよ、いいよ。嫌いじゃない。

写真

 年10回ほど撮影の仕事がある。昔に比べると立ち会うことはめっきり減ったが、それでも行っておかないといけない現場もある。ロケの場合は移動に時間がかかるので、だいたい出発するのは早朝。朝ごはんはバスの中でスタッフと一緒に食べる。

 たいていはおにぎり、卵焼き、鶏のからあげ、胡瓜の漬け物あたりが定番である。ロケバスさんや撮影するカメラマンによっていろいろ店の好みがあるようだが、ここ最近はだいだい2〜3店のローテーション。業界用に炊きたてのごはんでおにぎりを結ぶ店がいくつかあって、どの店も具にもいろいろ工夫していておいしいのだ。やはり、ちゃんとごはんを炊き、人の手でていねいに握っているからだと思う。

 今回は、カメラマンのM(4)くんたってのリクエストでロケバスさんが築地の場外まで買いに行ったというスペシャルおにぎりである。ロケバスさんがおにぎりの入ったビニール袋を開きながら「このばくだんおにぎりがM(4)さんのスペシャルリクエストなんで、ひとつは取っといてあげてくださいね」と念を押す。リョーカイ。よし、ばくだんおにぎりは隠しておいて、彼が来たらもう全部食べちゃったよと意地悪したろ。

 カメラマンのM(4)くんは車を運転するのが大好きなので、どんなに遠方ロケでもロケバスには乗らず、自慢のマイカーを飛ばしてやってくる。到着したら、せっかくリクエストしたおにぎりがもうなくなっているという状況は、どんなにか彼をがっくりさせるに違いない。(私もほんまに意地が悪い・・・心底意地悪・・・)

 さて、現場に自慢の愛車で現れたM(4)くん。「おはようございます」の挨拶の後、おにぎりの袋を探っているので・・・「あ、ばくだんおいしかったわ。全部食べちゃった」と言うと、「え、・・・」と目が一瞬点になり、半泣きになっている。すぐ可哀想になり「嘘、嘘、ちゃんと取ってあるよ」というと、今度は満面の笑み。彼は超お子ちゃまなのだ。いちびったりして悪かった。

写真[1]

 さて、このばくだんおにぎり。中には半熟卵の醤油漬けが一個丸ごと入っている。そのまわりにはみっしりとごはん。ごはんだけで2膳分ぐらいありそうなボリュームである。大きな口をあけかぶりつくと、まず塩気をしっかりまとったごはんの中ににゅるると半熟卵の食感。ゆるすぎず固すぎないこの半熟の具合がなかなかよろしい。やがて醤油味がごはんに溶け出し、口中で塩、醤油、黄身が複雑に混ざり合い、そこへごはんが中和を図る。ううむ。この味わい、癖になるわ。普段はほとんど朝食を食べないのだが、たまのロケで早朝起きると7時頃には猛烈な空腹感をおぼえてしまう。この日もそうだったから、このガツンと凄いボリュームのおにぎりもぱくぱくと食べ、しっかり胃袋に納まったのである。

 このシリーズ、ほかにもいろいろバリエーションがあるらしい。サケの身とイクラのカップリングとか。こういうの食べると力が出るね。築地のお店も一度行ってみたい。