大阪ミナミ「ままごとや」
うつわに詳しい女将さんとの会話は楽しいし
本日の魚について板前さんとあれこれ交わすのも
めっぽう愉快なミナミの隠れ家。
「関係者連れてきたらあかんで。ここは僕の隠し球やからな」とA様。
はい、なので大阪の会社関係の人間とは来ておりませぬ。東京のスタッフとか友人オンリー。それに大阪でもミナミとなると、そうそう来る機会はない。
この日は明日の四回會に備えて大阪ホテルステイなので、一緒に泊まる友人とやって来た。昼間にすでに一回目の「杉本文楽・曾根崎心中」を観ている。なので日本酒は迷わず醸し人九平次を選んだ。何故かって?「曾根崎心中」の主人公はお初・徳兵衛であるが、そのふたりを破滅へと追い込むのが敵役の九平次なのである。九平次はあまりにも理不尽な仕打ちを徳兵衛にするのである。友人であったはずなのに、いきなり豹変するのである。「曾根崎心中」の床本を読む限りでは、近松門左衛門がどんな意図を持ってこの悪役を描いたのかは、まったくわからない。物語の発端までにそれなりの意趣があるはずだと思うのであるが、それが原作には見当たらないのである。いろいろ想像、詮索はしてみるのだが、皆目見当がつかないのである。なので、せめて九平次という名の日本酒を飲むことで、溜飲を下げるのである(意味不明・・・)。2012年の純米大吟醸と2013年の別誂純米大吟醸。名前は最悪だが(笑)、味といい香りといい最高の心地がする。
こちらではまずは女将さんや板前さんにあれこれおすすめを聞きながらお造りをいただく。瀬戸内海を中心に、日によっては日本全国から揚がった活きのよい魚がそろっている。情報もいろいろ教えてくれる。今年の鱧は、実は淡路のより韓国産の方が格段においしいよという通ネタを囁いてくれたのものここの板前さんであった。本日は瀬戸内海の鰆と鯛。さすがに近海物、よくイカっている。女将さんが「たまにはフレッシュな野菜もね」と出してくださったプチトマトは信じられないほど甘い。これを甘露というのであろう。焼き物はブランド豚のロースト。外はかりっと中はピンク色した絶妙の焼き加減。ここで黒龍の「八十八号」というとっておきをいただく。黒龍の中でも上出来の酒は八十八号というタンクに集められるのだそうで、「石田屋」「二左衛門」に次ぐ名酒である。味もそうだが、ラベルも華やか。続いてフレッシュなイカは、生でサラダ仕立てにするのと天ぷらとのダブルで。イカだけによくイカってる(笑)。天ぷらはほくほく。〆はざくざく切ったうなぎのひつまぶし。二口ほどそのままいただいて、後はだしをかける。美味しゅうございました。
こちらのお店は料理方は男性、女将さんをはじめ給仕方はすべて女性という布陣。女性にとってはたいへんに気持ちよく過ごせる貴重な店である。大学時代陶芸を学んでいたという女将さんセレクトのうつわや日本酒もいろいろ楽しく、だからA様の隠し球ということでもあるのだろう。そして、私にとってもカウンターの隅っこで煙草を吸わせてくれるたいへん有り難い店でもある。