清春芸術村「高原ランチ」
山梨県北杜市にある芸術村。
白樺に囲まれた夢の様な空間で
佳人のバースデーを祝う。
知らないだけで、日本の地方にはいろいろな美術館や施設がある。こちらも今回初めて知った場所である。山梨県北杜市、清春芸術村。開村は1980年。83年には、白樺派が建設しようとして果たせなかった幻の美術館を、武者小路実篤や志賀直哉を敬愛し親交のあった吉井長三氏(銀座、吉井画廊オーナー)が「清春白樺美術館」として実現させた。設計は谷口吉生氏。私にとってはMIMOCAやMOMAで親しみのある建築家である。先月の金沢でも鈴木大拙館を訪れたばかりである。こちらのルオーコレクションは、圧巻である。油彩画だけでなく、版画、陶器作品も収蔵されているし、白樺派の縁で民藝の作家たちの作品も多い。
敷地にはルオー礼拝堂、梅原龍三郎アトリエ、藤森照信設計の茶室、安藤忠雄設計の光の美術館なども併設され、一画には見事な白樺が群生している。今回は、この白樺を背景に、まさしく白樺のような佳人の写真を撮るためにはるばる来たのである。
佳人というのは、黒田知永子さんである。長年、我がクライアントと一緒にオリジナルブランドのウェアをプロデュースしてくださっている。卓越したファッションセンスでもって新鮮なアイデアをいつもいただき、細部にひねりのきいた大人のカジュアルウェアを作っている。仕事をご一緒するようになってずいぶん長いが、本当にいつお会いしても気持ちのよい人である。ただ美しいだけでなく、可愛らしさと無邪気さと正義感がうまい具合にミックスされて、人としての真っ当さがきちんとある、そんな印象である。もちろん大人世代のファッションアイコンとして、ナチュラルに年を重ねた美しさと、スリムなスタイルをキープしているところは、さすがあっぱれとしか言いようがない。
奇しくも撮影当日が、黒田さんの誕生日であることがわかった。芸術村をネットで調べると、レストラン・パレットというのがあり、電話するとランチを用意できるという。担当の女性といろいろ話をして、バースデーケーキも手配してもらえることになり、乾杯用のシャンパンもお願いした。当日、ランチの打合せのため、レストランに赴くと、なんと電話でお話した女性がシェフなのであった。こちらも美しい人であった。
昼過ぎには撮影終了。いよいよ、バースデーランチである。最初に、シェフが手作りケーキを運んでくれる。まさか、手作りしてくれているとは思いもよらず、それだけでもサプライズである。超大型の四角ケーキ。フルーツがふんだんに飾られて、女性シェフならではの心遣いを感じるデコレーションである。ロケバスさんだけがノンアルコールビールで、後は全員でシャンパン(すみません、手違いでスパークリングワインとなってしまいましたが・・・)でハッピーバースデーの乾杯。
グリーンの彩りがきれいなヴィシソワーズは、初夏にふさわしい冷たいスープ。やさしくまろやかな味である。サラダはまるでフラワーブーケのような盛り付け。サラダ菜、にんじん、タコのマリネ、カボチャ、プチトマト、ソーセージと大根、甘酢のビーツ、ソーセージなどの彩りを計算しながら、リースのようにデコレーションした一品。美しい。野菜の滋味をしみじみと堪能する。メインはカリカリにソテーされた地鶏と牛脂でくるんだ牛肉の煮込み。どちらも丁寧につくっていることがわかる奥行きのある味。美味しゅうございます。そしてデザートは、シェフ手作りのバースデーケーキ。ホールもゴージャスで素敵だったけど、こうして切り分けられているのを見ると、スポンジが三段になった豪華さ。スポンジがみずみずしく、甘さもくどくないので、フルーツとも生クリームともなじんで、ぱくぱく食べられる美味しさ。
この日の清春芸術村は、訪れる人もほとんどおらず貸し切り状態。白樺の林も、ここレストラン・パレットも、シェフも、私たち撮影隊、そして黒田さんのためにあるかのような気分を味わえた。天気にも恵まれた初夏の一日。素敵な時間であった。
お誕生日おめでとうございます。この一年も美しく、麗しく、健康で。
清春芸術村を開村した銀座吉井画廊オーナーによる画廊開設や開村までの苦労話、作家、芸術家たちとの交流譚が描かれた一冊。解説は安藤忠雄。こういう裏話、好き。
アマゾンで吉井長三の『銀座画廊物語』を買う