千夜千食

第9夜   2014年12月吉日

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NYフレンチ「ダニエル」

予約を取るのに三年かかった。
寒い中ドレスアップして
満を持してでかけた三ツ星フレンチ。

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 年に一度の年末NY。彼の地に住む友人たちが滞在中一度はスペシャルディナーにつきあってくれる。今回は「ダニエル」である。毎回、予約しようとするのだが、なかなかほどよい時間に予約が取れず、ここはずーっとお預けになっていた。76丁目にある「カフェ・ブリュー」は何度かは行ったが、やはり本家本元に来なくては話にならない。

 今年は7時というディナーとしては理想的な時間に予約が取れた。友人たちとは現地集合である。こちらのレストランのほとんどにウェイティング・バーがあるので、先に到着したものから適当にシャンパンとかを飲んで待てるので便利なのである。オンタイムにタクシーを降りると雪が舞っていた。おお寒。いくらダウンを着ているとはいえ、中は薄いシルクのワンピース一枚。だが、さすがに冬のニューヨークの室内はあったかく、肩を出したドレスでも寒くないよう空調は完璧にコントロールされている。ちょうど友人と入り口で出会ったので、もう一人が来るまでにワインリストを見せてもらいシャンパンを選ぶ。メニューの分厚いこと。バーはバーで素敵なので最初のシャンパンはこちらで楽しむことにした。ほどなくもう一人の友人登場。全員そろったところで乾杯をし、しばし歓談。

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 やがてダイニングルーム中程の全体が見渡せるなかなかいい席に案内される。大好きなハイバックソファ席。メニューを見ながら、どのコースにするかで思いっきり迷う。いろんな料理を少しづつ7皿で供するテイスティングメニューというのがあり、せっかくなのでそれにした。オプションでその皿に合うワインをセレクトしてくれるワイン・ペアリングというのも一緒に注文する。これ、ここ最近のトレンドで、料理に合わせて最適のワインをグラスで持ってきてくれる。店側都合でもあるだろうが、ボトル選びに失敗するリスクを思えば客側にとっても都合のよいシステムだとは思う。ワイン好きの人にとっては邪道なのかもしれないが、私はいろんなのを少しずつというのも決して嫌いではない。

 店内のライトがとても暗いので写真のクオリティはあまりよくないのが残念だし、ひとつひとつのメニューをちゃんと記録していなかったので、料理の細かい説明は割愛させていただく。が、全7皿の流れにちゃんと起伏が仕込まれており、ブロック状になったテリーヌ仕立ての一皿やスープ仕立ての一皿に歓声をあげ、メインの子羊にいたるまで幾度もの嬉しい驚きがある。テイスティングワインをセットしたせいでワインもデザートワインを含め6種類もサーブされ、おなかはパンパンである。それでもデザートの最後に出てくるふわふわの焼きたてマドレーヌまでしっかりといただき、大満足かつ大満腹の夜となった。

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 トータルな印象としてはさすがに三ツ星。接客も、インテリアの雰囲気も、料理の内容も申し分はない。サービスする人の動きには無駄がなくエレガントだし、モダンテイストなバーからダイニングルームに入ると、一転してコンサバティブで優雅なインテリアが迎えてくれ、こういう雰囲気はやはり日本ではなかなか真似の出来ないレベルである。価格も日本の三ツ星フレンチと比べると(チップを勘定に入れなければ)、3コースで125ドル、7コースで220ドルと意外に良心的に感じるほどである。

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 ただ私が終始考えていたのは、もはや日本のフレンチを始めとするレストランのクオリティの高さは、いまや世界で引けをとらないレベルに来ているなということだった。東京は世界でいちばん三ツ星レストランの多い都市なのである。10年前に来ていたらすっかり魅せられ大感激していたであろうが、今やわざわざダニエルに来なくても東京でもこのクラスのレストランはたくさんあるという事実の方にいたく感じ入ってしまったのである。

 ひとつだけダニエルに優位性があるとすれば、それはやはり何と言ってもここが大好きなニューヨークにあるということである。雪が舞うマディソン・アベニューを歩きながら、65丁目を曲がり、ダニエルを目指す。正面に立つと、ドアマンが扉を開けてくれる。中に入るとクロークが素早くコートを預かってくれる、バーに案内される。完璧なレディ扱い。この女心をときめかせてくれるきわめてドラマティックな一連の流れだけは、東京にはない。