千夜千食

第147夜   2014年11月吉日

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深夜の「函館塩ラーメン」

どうして深夜になると人はラーメンが恋しくなるんだろう。
なぜ、あの提灯や看板に吸い込まれてしまうのだろう。
こういうのクセになると絶対いかんのだ・・・

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 夜も深まり、白金あたりで気持よく飲んでいると、決まって「この後、あそこで飲もう」という魅惑的なお誘いがかかり、ついふらふらついて行ってしまうという悪習慣がついているこの頃。そろそろ年末だし、なんだか飲み足りないし、大勢でわいわいやるのも悪くないし。

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 で、恵比寿三丁目あたりの店で飲む(食べもする)のだが、そのうち必ず誰かが(私も言うけど)「この後、チョロる?(第39夜参照)」と言い出すと、もう行かずには済まなくなってくる。であるのだが、この日はちょろりがすでに閉まっていたのである。すると、函館塩ラーメンも悪くないという声があがり、「え〜、もう無理〜」と言いながらもついていくのが我ながら悲しくて仕方がない。この函館塩ラーメンの看板、前々からここにあるのは知っていたし、遅くまで開いていることも先刻承知である。でも、まあ、ひとりじゃ入りにくいので、うだうだ言いながらもついていく。

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 塩ラーメンというくらいであるから、非常にあっさりしたシンプルなラーメンである。浅蜊ラーメンや味噌ラーメンもあるようだったが、私にあてがわれたのはこの一品。メンマに焼き豚、ほうれん草、海苔、ナルト。絵に描いたようなラーメンらしさがたまらない。

 「オバQ」で小池さんがいつも食べていたラーメンって、こんな感じに違いないと思うような昭和の懐かしい味と佇まい。余談であるが、私の記憶では(勘違いかも知れないが)、小池さんはいつもやかんから直接丼にお湯を注いでラーメンを食べており、まだチキンラーメンが地方にまで流通してなかった当時、なんでやかんでお湯を注ぐだけでラーメンが食べられるのかは長年の疑問でもあった。まあ、どうでもいいことではあるが、この塩ラーメンを食べた瞬間に、その懐かしい小池さんのことを思い出してしまったのである。

 昔の夜鳴きそばというのも、たしかこういう感じだったと思う。うどん県出身なので、そんなに幼少の頃食べたわけではないが、それでも何度か夜に丼を持って買いに行った記憶がある。大人になって東京に行くようになると、今度は支那そばという看板が気になった。ちょうどラーメンブームが来始めていた頃で、それとは対照的なシンプルな支那そばは、小池さんのラーメンや夜鳴きそばをも彷彿とさせ、けっこう好きであった。

 だから、函館塩ラーメンはノスタルジーも含めて、私的にはど真ん中の好みの味であったのだ。うどんで言えば、すうどん。パスタで言えば、ペペロンチーニに近い感覚である。ほとんど具が入ってないからといってカロリーが低いわけではないのだが、大人の夜遊びのシメにこれほどふさわしいものもない。

 ちょろりのワンタンラーメンか、ここの塩ラーメンか。深夜のバリエーションが増えるのうれしいことである。