千夜千食

第200夜   2015年3月吉日

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大阪本町「時分時」

大阪の粉モン文化と、海の幸山の幸の鉄板焼きを
ええ感じにミックスしてちょいと洗練させた店。
関東の人を連れて行くとたいそう喜ばれるのである。

 出張で東京から岡島さん(第142夜参照)がやってくる。一泊するので食事をということになった。上方にはお江戸に負けない鮨や京都にも引けをとらない浪花懐石というのがある。いろいろ考えていたというのに、「粉モン」が食べたいというではないか。どうも、東京の人間は、大阪に来たら粉モンを食べなければいけないと思っているフシがある。いや、わかるよ。わかるんだけど、粉モンってお好み焼きとかたこ焼きのことでしょ。せっかくのお客様を粉モンでというのは、どうも心地が悪い。それに、東京の人間は、大阪の人間はしょっちゅう粉モンを食べていると思っているようでもある。うどん県ならわかる。毎日は大げさでも、週に2〜3回はうどんを食べる。だが、大阪に住んでいるという人が、普通そんなには粉モンは食べない。たしかに、関西生まれ育ちの友人たちの家には必ずお好み焼を焼くためのホットプレートとたこ焼き器があるというから、まあ月に何回かは家で楽しんではいるのだろう。だが、それは普段のシーンであって、けっしてとくべつなものではない。

 粉モンかあ・・・

 そして、はた、と思い出す。あそこがある。あそことは「時分時」である。だが、超人気店ゆえに予約は取りにくい。が、ちょっと遅目のスタートでなんとかカウンターが取れた。

 食いしん坊どうしである。うふふ。

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 まずは、ふわふわのエビパンにクリームソースを乗せた一品。バゲットを鉄板で焼くという発想が素晴らしい。そしておすすめの串焼きをアソートしてもらう。美味しいものを少しずつというのがよい。椎茸フォワグラバター。塩リードヴォー。サーモンイクラ・・・。この彩りといい、盛り付けのセンスといい、期待が高まるひと皿である。

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 明石の活けダコは、酒盗ソースをつけていただく。いやあ、さすがに東京にはこれ、ないでしょう。地の利ならではのご馳走である。穴子を軽く炙ったのは海苔をくるりんと巻いて食べる。真ん中のスティック状になったのは、明太子を干したのである。こういう素材と素材の合わせ技が凄いのよねえ。やはり普段からいろんな食材を食べて、知って、研究して、合わせてみて。ご主人の並々ならぬ探究心が伝わってくる一品である。淡路の玉ねぎは、中がとろとろになっている。このナチュラルな甘みといったら、もうほんま、あきまへん。私って野菜が好きだったのねと、錯覚する旨さ。

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 さて、これは何でしょう。

 あれです。トンペイ焼き。

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 とん平焼きとも、豚平焼きとも書くけれど、これは東京にはきっとないのだろう。案の定、岡島さんも食べたことないというので、注文する。しかし、これは、私が今まで知っているトンペイ焼きではないのである。まず、この高さ。上質のとんかつにするようなお肉を使っている。そのまわりを絶妙にくるんだふわふわの玉子。いや、今までトンペイ焼きって、さほど興味なかったのであるが、これを食べるといけない。こんなに美味しいものだったのかと唸るのである。豚さんの後は、牛さんである。淡路牛のカイノミステーキは塩と金山寺味噌をつけて食べるのだ。カリッと焼いたにんにくがまたこたえられない香ばしさ。

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 〆は二品。もやしそばはここの名物である。最後はどうしたって豚玉を食べないといけないので、こちらには海老を入れてもらう。あまりの旨さに、しまった少なめじゃなくちゃんと一人前作ってもらえばよかったと後悔・・。そして真打ちの豚玉である。ホットケーキのように角が立っている豚玉。神戸のバーでお好み焼き談義になると、決まって大阪の縁が切り立ったお好み焼きなんぞ食べられたもんではないと(第32夜参照)槍玉に挙げられる「あの縁の切り立ったホットケーキのような」お好み焼きである。これが絶品なんである。焼き方の技術だとは思うが、生地にキャベツがほどよくなじんでさくさく、ふわふわ。生粋の神戸の人には悪いけど、私はこういう大阪のお好み焼も大好きである。もちろん岡島さんも大阪流粉モン鉄板焼きをたいそう楽しんでくれたのは言うまでもない。