千夜千食

第243夜   2015年6月吉日

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大阪老松町「匠味」

エッジの効いた和食を出していたお隣さんの引っ越し先は、
老松通りと御堂筋が交差する角で、目の前は北新地。
オフ新地と呼びたい好立地でパワーアップ。

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 住所こそ西天満であるが、御堂筋はさんだ向こうはネオン燦めく北新地である。店は老松通りが新御堂筋と交差する角に位置している。新地ほどハードルが高くなく、むしろ御堂筋はさんで東側の老松通りに属しているというだけで民度がググッと上がる感じがする。同心から一気に、表舞台へ進出したという按配である。

 ここはもともと我がオフィスの隣にあって、何度か行ってけっこうレベルの高い旨い料理を出すことがわかったので、社員の歓送迎会や忘年会のときにケータリングを頼むのに大変重宝していた(第158夜)。引っ越ししたとて、その味には変わりはないはずだ。店内は前の店と比べると一気に広くなり、カウンターはもちろん、テーブルも、仕切りのついた小上がりもあって、いろんな使い方ができるようになっている。メニューは基本そんなに変わってはいないけど、今日は京都からの客人を連れているの、コースを頼んでみることにする。

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 こちらは日本酒が充実している。まずは玉川Ice Breakerというペンギンの親子が描かれた涼しげなラベルの純米吟醸。丹後久美浜にある酒蔵である。これ、なんとロックで飲むことを推奨している無濾過生原酒で、氷の溶け具合によって味が微妙に変わるのを楽しめるらしいのだ。日本酒に合わせるように、イカの塩辛、炙った肝、牡蠣と三種の肴を出してくれる。旨い、旨いと目を細めながら酒を飲んでいたら、次に出たのはイカのしんじょのお椀。また、この出汁が本格的なお味なの。

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 続いてワタリガニの身をほぐしたのが出たので、ネクスト日本酒をお願いする。今度のは日本の夏という名で、昼間、日本の夏を老松の「夏柑糖」で楽しんだと思ったら、夜は日本酒で日本の夏を堪能するという偶然。こういう重なりは実に愉快である。ラベルのイラストも郷愁を誘う出来栄え。作り手は、長野の伝統の蔵、明鏡止水。スーッと気持ちの良い喉越しで、ついグビグビと飲んでしまう。

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 お造り盛り合わせも、見るからにゴージャスである。イワシに、マグロに、鯛、イカ、雲丹、カンパチ、甘海老、伊勢海老・・・。刺身のてんこ盛りである。これを宮城・石巻の墨廼江・純辛という酒でいく。南部杜氏の技を駆使した個性的な酒で知られる石巻の酒蔵で、爽快な切れ味のある夏専用の酒である。

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 野菜の炊き合わせも、本格的なお味。茄子、金時草、冬瓜、湯葉、蓮根・・・たっぷり出汁を含んで滋味深い味わいである。焼魚は、鰆の西京漬である。王道というか、覇道というか、正統的な間違いのない旨さである。そうとうほろ酔いになってきたところで、シメの食事をいただく。またこの炊き込み御飯の美味しいこと。

 昼間、京都「老松」の名物菓子をいただき、夜は大阪の老松通りで和食を食べる。夏みかんにの甘酸っぱさに日本の夏を実感し、明鏡止水の日本の夏に酔いしれる。老松〜日本の夏〜つながりの一日であった。こういう偶然がつながっていく感覚、長く生きているとけっこう頻繁に起こるのである。それにしても、この店、なかなか居心地が良い。隣にあったときより、かえって気軽に入りやすいし、また、ちょくちょく来よう。