千夜千食

第16夜   2014年1月吉日

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上原屋本店の「うどん」

ソウルフードとは、
あたりまえのように食べていた
子供の頃からの味をいうのだと納得する。

写真[1]写真

 竹清、鶴丸、懐かしの連絡船うどん、とくれば、この店を紹介しないわけにはいかない。「上原」。私にとってのうどんの原点。この店はもともとは小さな製麺所で、生家のすぐ近所にあった。子供時分は毎日この店の前を通っていたし、コロという柴犬がおりよく一緒に遊んだ。

 当時の製麺所は今と違いうどん玉を飲食店に卸すのがメインなので、店内や店先でうどんを食べるという習慣はなかったが、近所の人たちが家で食べるうどんを鍋やざるを持って買いに来ている風景はよく目にした。我が家も土曜のお昼などにはよく買ったことを思い出す。土曜の夜がカレーだったりすると、日曜のお昼は買ってきたうどんに余ったカレールーをかけ、自家製カレーうどんを楽しんだ。

 再び、ここのうどんを認識したのはずーっと後である。たしか大学生時代に、少し離れたところに移転し、セルフうどん店になったのである。その頃には、うどんを家に持ち帰るのではなく、外に食べに行くというスタイルも定着しつつあり、父などは懐かしがってよく出かけていた。帰省すると「今日は上原で玉を買ってあるから」とすき焼きの〆に入れたりもした。

 やがてさぬきうどんブームが来た。最初はそんなに注目される店ではなかったと思うが、そのうちここの旨さがあまねく知れ渡ることになり、たまの帰省時でも並ばないと入れない人気店になってしまった。しまいにはその店でも押し寄せる客をまかないきれなくなり、何年か前には広い駐車場付きのもっと大きな店になった。

写真[3]

 麺は太すぎず、細すぎない、絶妙なサイズで、つるりとしたツヤと弾むようなコシがある。噛み締めると、にちにち、した小気味よい食感で、これがなんともたまらんのである。大を注文し、きつねとちくわの天ぷらを皿に取り、黄金色に輝く、透き通ったいりこだしを蛇口からじゃばじゃばかける。一日三食、これの繰り返しでもいいとすら思う旨さである。馬鹿馬。なにより、長年食べ慣れた味わいでもある(ような気がする)。

 なので、やはり帰省するとやはり一度は食べたいうどんなのである。かつて生家があった土地の隣には銀行ができているし、近所にはマンションも立ち並び、道路をはさんだ向かいには大型の店舗もできすっかり様変わりしてしまった。それだけに、唯一昔と変わらないうどんがあるということは、どれだけうれしく、ホッとすることか。

写真[2]

 讃岐の幼児語でうどんのことを「おぴっぴ」という。口の中でぴちぴちとうどんが跳ねるその様をふるさとの先人たちはなんと絶妙なオノマトペイアにしたことか。上原のうどんは、私にとってのおぴっぴ。唯一無二のソウルフードなのである。