2017-06

気仙沼「あさひ鮨」

 猫友、ISIS友である裕美さんが仙台に行ったら、あさひ鮨に行けという。おすすめの鮨なのだそうで、仙台滞在中ずーっとアタマのどこかに「あ・さ・ひ・鮨」というワードが点滅していた。鮨好きだもの、そりゃあそうだ。場所は、仙台駅構内すし通りの中にあるという。帰りの便が夕方なので、そんなにゆっくりはできないし、まだおなかは空いてはいないのだが、おすすめの店に行かずして何としよう。どうせ、仙台駅から空港に行くのだし。

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 ところが、すし通りは牛タン通りの奥にあり、区画が渾然一体となっている。それに牛タン通りの店は店先で旨そうな匂いを漂わせており、これではせっかくの鮨の口が、牛タンの口になってしまわないかと心配になる。匂いテロって、強烈だもんな。しかし、脳裏に点滅している「あ・さ・ひ・鮨」というワードのおかげで、牛タン店をやり過ごし、目的の店に入ることができた。

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 まだ、握りを食べるにはちと早い。が、鮨のよさというのは、食べたいものだけ好きなように注文できるそのフレキシビリティにある。まずは、日本酒だ。なんと、一昨日の夜、いわさきで教えてもらった綿屋があるではないか。早速注文する。お兄さんが気前よくなみなみと注いでくれ、あ、そこまででいいですと制止するタイミングを失った。余談であるが、私は升にコップを入れあふれさせるほど注ぐあのスタイルが好きではない。普通のコップよりたくさん入っていますよとのアピールだろうけど、別にそんなものはいらないし、飲みにくいし、口を升に近づける姿勢があまりきれいではないからね。だから、たいていコップが一杯になる直前で止めてもらう。ま、この日はなみなみをありがたくいただいた。刺し身はおすすめネタを盛り合わせにしてもらう。鯛、イカ、鯵、マグロ、アワビ、タコ、子持ち昆布、玉子。これを一切れつまんでは、綿屋できゅっと流しこむ。ああ、至福。

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 最後に穴子の天ぷらで〆た。握りを何カンかもらうという選択肢もあったのだが、なぜかたまらなく天ぷらが食べたくなったのだ。時間にして30分弱。この後、仙台空港に向かうので、後ろ髪引かれながら勘定してもらった。

 裕美さん、今度はちゃんとした時間に来て、ちゃんと握りも食べるので。あ、ほやも次回はチャレンジしてみよう。
 

2017-06-30 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

仙台牛タンの店「喜助」

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 民藝協会全国大会二日目。午前中は被災地を訪ねた。宮城県は津波の被害だけで阪神淡路震災を上回る犠牲者を出したという。仙台郊外には、仙台平野と呼ばれる平坦な田園地帯が広がっており、その沿岸部にあった主な集落が被害にあった。自らも津波で流されたというガイドさんが語る話には災害時の教訓がいっぱい詰まっており、阪神大震災のことも思い出しつつ、他人事ではなく真剣に耳を傾けた。流された家々の跡地はそのままになっており、いかに津波被害が凄まじかったかを想像させる。荒浜という地区では、小さな鳥居がポツンと残されてい、そのすぐ隣には観音様が立っていた。この光景の中にいるだけで、胸の奥の方がヒリヒリとし、視界がにじむ。現地に行かないと感じられないことはたくさんあるのだと改めて思う。日和山という小さな山には、津波で流されてしまった閖上湊神社と富主姫神社が祀られてい、鎮魂の場となっている。小高いこの山のてっぺんから、被災地一帯が見渡せる。ポールに黄色いハンカチをつけているのが目についた。これはこのエリアを行政が居住禁止に指定したことに対し、今まで通り住み続けたいと願う住民の意思表示なのだそうだ。将来的にこの地域が本当に住むのに安全なのかどうかは私にはわからないが、神戸でも被災した自分たちの家に帰りたい、住み続けたいという人は多かった。誰にとっても、自分の家のある場所がいちばん落ち着いてくつろげる居場所なのである。行政とうまく話し合いで解決すれば良いなと願う。

 被災地を後にし、仙台市内へと向かう。バスの中はいささか重苦しい空気が流れていたが、昼食の説明が始まると少し和んだ雰囲気になった。本日は仙台の民藝協会の方々のイチ押しの牛タンを食べに行くそうである。

 仙台といえば牛タンとよく言われるが、私はまだこの地では食べたことがない。初・牛タンである。おすすめの店は、喜助という。創業は昭和50年。厳選した牛タンの中でも吟味した部位を選んで、職人が一枚ずつ手振りで塩を振り、丁寧に味付けをするのだそうだ。それを冷蔵室でじっくり熟成させ、牛タン本来の旨味を閉じ込め、炭火で一気に焼く。ということを、たっぷりと説明していただき、おなかがすいてきた。期待が高まる。

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 最初にやってきたのは、たんとうふ。熱々の絹ごし豆腐の上に、タン先のコリコリした部分をミンチにし秘伝のたれで味付けした餡がかかっている。あっさりした豆腐がタンの魔法で、酒の肴になりそうな一品になっている。牛タン厚焼き卵は、牛タンスモークのチップを巻き込んだ一品。喜助と押された焼印が、いかにも旨そう感を盛り上げている。わかめの彩りサラダは、南三陸町歌津の肉厚のわかめがたっぷり乗っている。シコシコのフレッシュな食感である。わかめもここいらでいいのが穫れるのだな。

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 いよいよ、メインの牛タンがやってきた。コリッと小気味よい食感なのに、噛みしめるとじゅわ〜ん肉汁があふれる口福。これがみんなを夢中にしている牛たんの魅力なのねと納得。つけあわせにはおしんこ。こちらのおしんこは、大根ではなく胡瓜の浅漬けで、シャキシャキの食感である。ごはんは、白米に大麦をブレンドしたいわゆる麦めしである。上にはたっぷりの青森産山芋のとろろがかかっている。牛タンと交互にこのとろろめしを食べながら、ときどきおしんこを口中に放り込む。さらに、青唐辛子を特製味噌に漬け込んだ味噌南蛮で変化をつける。またたくまに完食である。最後にコラーゲンたっぷりのテールスープをいただいたが、これがまたコクがあるのにすっきりしていて、美味しいこと。なるほど、これは充分満足できるご馳走である。

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 なんで仙台で牛タンなのかを少し調べてみた。話は戦後まで遡る。当時は焼鳥屋が多かったのだが、「他の店にないものを出したい」と考えたある料理人がたまたま洋食のタンシチューを食べ、これだ!とタンを焼くことを思いついた。あるいは、余ったタンを使ってみないかと相談され、試しに焼いてみたら美味しいので、それが定着したとか、微妙にディテールは違うけれど、まあおおむねそういうことであるらしい。けっして牛タンの産地だったからというわけでない名物。町おこしが成功した宇都宮の餃子とか富士宮の焼きそばとか、気がつけば普段の暮らしのなかになじんでいるご当地名物はけっこう多い。いいね、こういうの。近所にあったら、しょっちゅう通うだろう。

2017-06-22 | Posted in 千夜千食, 未分類Comments Closed 

 

仙台「いわさき」

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 日本民藝協会の全国大会が仙台で開催される。今年のメインイベントは日本民藝館の深澤直人館長と日本民藝館展に入選した工人(民藝では作家さんのことをこう呼ぶ)との対談「手仕事の国・東北の未来」で、これはぜひとも聞いてみたいと早速申し込むことにした。

 全国大会は土日なので、金曜の夜から仙台前乗りである。ちょうど仙台へ行くならこのお店がいいよとの情報も震災以降東北の仕事が増えたという三浦さんから教えてもらっていた。

 仙台は十年ほど前に一度足を踏み入れた程度で、震災以降ははじめてである。日曜には仙台近郊の震災地区をまわるツアーにも参加する予定になっている。会社を少し早めに出て、空港に向かう。飛行機で1時間と15分、あっという間に到着だ。ホテルにチェックインする頃にはすっかり夜の帳が降りていた。仙台の夜。しかも金曜日。そんなになじみのない街の夜というのは、なんだか妙にドキドキする。どんな顛末になるのかしらんという期待感もある。何より、よく知らない土地を歩くというのが無性に好きな性分なのだ。目指すは青葉区国分町。仙台で夜、と言えば、国分町であるらしい。稲荷小路とか虎屋横丁など、風情あるネーミングの路地が縦横に走り、東北一の歓楽街であるそうな。賑わっているエリアは一見、仙台なのか、どこなのかわからないくらい似通ってはいるのだが、呼び込みのお兄さんのしゃべっている言葉の訛りが今まで知っているのとはちょっと違う。なじみのないイントネーション。いいぞ、いいぞ。めざす店は、雑居ビルの中にある。

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 季節料理いわさきとある。こんばんは、とのれんをくぐると、カウンターと奥には個室。さっそくカウンターに座って、本日のおすすめのコースというのをお願いする。あ、その前に、まずはおすすめの日本酒をいただかなくては。セレクトしたのは、綿屋(わたや)という宮城のお酒。名前のようにふわりと柔らかで端正で、けっこう好みの味わいである。これはいいものを教えてもらった。先付けに出されたアスパラガスのすり流しにもよく合う。そしてこのすり流し、中にウニのジュレが隠されているのだ。ふふ。初っ端から、いい感じで驚かせてくれる。この店はアタリ!かも。

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 色鮮やかな色絵の皿に載っているのはコハダのにぎり鮨。あれ、お鮨屋さんに来たんだっけ、と錯覚しそうになるうれしいサプライズである。しっかり脂が乗ったふっくらしたコハダをキュッと酢でシメてい、おまけに左は包丁の切れ目が鮮やかで、右は編み込みと、見た目も食感も微妙に違うようにこしらえている。こういうの、ちょっとした遊び心だよな。いいぞ、いいぞ。

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 コハダに興奮しているとメインがやってきた。わくわくしながらお椀をあけると、茄子とぐじが仲良く鎮座。お出汁には蓴菜が入っている。ううむ、このお出汁なかなか旨いぞ。関西風の滋味がある。お造りは、スモークしたカツオ。軽く塩を振ってちょんと乗った辛子で食べる。カツオのきれいな赤が色絵の皿に映えること。おぬし、計算づくだな。お造り第二弾は、仙台の鯛とアオリイカ。今度は色をおさえたうつわなので、鯛の桜色とイカの白がさりげなく引き立っている。日本酒も第二弾、日高見にする。これも東北の酒ですこぶる飲みやすい美酒である。

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 焼き物は、鱧と空豆。鱧はカリッと白焼きにされてい、手だれの料理人の手にかかるとこうも手懐けられるのかといった風情。尖った主張をせず、コースの流れの中に焼き物としてほどよく収まっている。空豆には黒ゴマで目をつけているので、カエルくんに見えてしまい思わずくすりと笑う。ふふ。シブい志野のうつわには、七ヶ浜のアワビ、毛蟹、白ズイキが盛られている。松島湾で穫れるアワビは磯の豊富な海藻を食べて育つので、味が濃厚になり、旨みがぎっしり詰まるそうである。噛みしめると、磯の香りが口中に広がっていく。たしかに、忘れ難い旨さである。お肉は、岩手と宮城との県境にある栗原で大事に育てられた漢方牛。漢方と名づけられているとあって、14種類の漢方薬やハーブなどを食べて育った牛なんだそう。なんと融点が23℃前後と低いので、口に入れた瞬間にすーっと溶けていくのである。

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 シメにシャコがいやというほど入った炊き込みごはんをいただいた。お味噌汁にはたっぷりと海藻が入っていて、ああ仙台に来ているのだなとしみじみ実感する。

 七ヶ浜、栗原など、関西にいると耳慣れない地名であるが、仙台近辺の産地の素材を実にうまく使って、素晴らしい一品に仕上げている。すぐ近くに松島湾という良好な漁場があるせいで、仙台の海の幸のレベルもすこぶる高い。何より、震災後、漁場が落ち着きを取り戻し、以前と変わらない安定した漁獲量が確保されているのだとしたら、これほど喜ばしいことはない。

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 ご主人におすすめのバーを聞き、一杯だけのつもりで飲みに立ち寄った。The Bar an。キャンベルタウンのスプリングバンクが充実しており、普段めったに飲まないのでチャレンジすることにした。アイラモルトの磯の香りとはまた違う、潮の香りのするシングルモルト。杯を重ねつつ、いつかウィスキーの蒸溜所を訪ねる旅がしたいなと妄想する。

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 国分町の夜は更けていく。

2017-06-09 | Posted in 千夜千食Comments Closed