2016-03

大阪新地「キュニエット」

 連れて行くのは30代と40代。和食の堅苦しい雰囲気ではないし、居酒屋では物足りない。うーんどうしよう、どこ行こう。思いついたのは、新町か新地のイタリアン。でもなあ、新町は帰りがちょっと不便。新地はこの時間、同伴が多そうだなあ。5名くらいで食事となるといつも困ってしまう。カウンターでは店にも迷惑がかかるし・・・で、思い出したのである。

 10年ほど前はちょくちょく行っていたのだけど、しばらく足が遠のいていたあのお店。思い起こせば、社員の女のコも連れて行ったし、プチ同窓会もしたし、遅めの時間にけっこう飲んで食べたこともある。店はこじんまりしていて、テーブルも5人だったらちょうどいい。当時はシェフとソムリエの二人体制で、サービスはソムリエの人が仕切っていた。サジェスチョンが明快でどのワインも間違いなかったし、シェフはスペシャルでパスタをお願いしても快く応じてくれていたことも思い出す。現在はソムリエ(後にオーナーだったと聞いた)が近所に新しい店を開いたので、シェフが新たにオーナーとなり続けているのだそうだ。前もってコースを予約しておいた。

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 ひと皿めは、飯蛸の赤ワイン煮。2月から3月にかけての明石の飯蛸は、頭の部分に卵をぎっしり抱えて絶品になる。これがまるでお米のようなカタチであることから、飯蛸と呼ばれているのだ。子供の頃からの大好物のひとつで、祖母は飯持ちと呼んでいた。煮るともっちりした独特の味わいになる。これを、フレンチ仕立てでいただけるとは思っていなかった。赤ワインと煮込むのも悪くない。

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 四角い皿には、鯛、ホタルイカ、剣先イカと、ホワイトアスパラや赤カブ、ルッコラなどの野菜がきれいに盛りつけられている。まるでソースを塗っているように皿にあしらわれた銀の模様と、ソースも含めた盛りつけのバランスがとてもよい。近頃のフレンチやイタリアンの流行のひとつに野菜のこれでもか攻撃があるが、これぐらいの量が私にはちょうどよいのだ。ホワイトアスパラの美味しいこと。お次は、帆立のムース。足赤海老と菜の花がのっている。ソースには海老の濃厚なエキスが入ってい、ムースの端正さに華やかさを加えている。こういうひと皿をいただくと、フレンチって足し算の妙というか、和食とは次元の違う組み立てだなと思う。いろんな素材を足していき、そこにソースを加えて完成する料理。総合力とかハーモニーを大事にする感覚、オーケストラみたいなものかしらん。

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 この時点でシャンパンが空いてしまったので(写真は撮り忘れる)、白をグラスでいただく。ボルドーのムート・ル・ビアンというビオワイン。有機栽培でブドウを生産し、野性酵母のみで醸造しているのだそうだ。リンゴやバニラの香りがしながらも、口に含むとしっかり丸みがある。四皿目のフォワグラのキャベツ包みにも、軽やかに合う。私は断然白ワイン派である。

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 ハッとするほど鮮やかな緑のソースの上の魅惑的な赤は、金目鯛。ころんと塊でほぐれる白身には、上品な脂がのっている。金目鯛、ほんとうは煮付けにしたり、軽く炙ったお刺身でいただくのが好きなのだが、こういう仕立てにしても金目鯛の美味はちゃんと感じられるというのが、この魚の素晴らしいところである。素材がよければ、どんな調理法でもOKということやね。メインは、鹿とフォワグラのパイ包み。フォワグラを鹿肉でくるんで、そのまた外側をパイで包むという三重奏。鹿と鵞鳥というどちらかと言えばワイルドな素材を、パイでワンクッション置いてお上品に仕立てた一品。ぱりぱり、さくさくの奥に、濃厚なしっとりを隠してる。ううむ、シェフはなかなか手だれであるなあ。デザートは濃厚バニラアイスクリームにたっぷりのベリーソースとマカロン。メインのパワフルなあと味を、甘味と酸味で和らげる。やっぱりフレンチって、デザートまで食べて完成する流れなんだと納得するコースであった。

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 旨いだけではない。ひと皿ひと皿誠実につくっているのがわかるフレンチ。女のコたちもたいそう喜んでくれた。気取らない雰囲気の中で、こういう本格的な美味をいただける店はなかなか得難い。

2016-03-15 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

六甲焼き鳥「よしおか」

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 阪急六甲駅で降り、改札をまっすぐ出て二階通路をそのまま道なりに山側へ曲がってゆくと、ちょうど駅前の古くからあるビルの真ん前に出る。六段ほどある階段を降りた真正面には、実にさまざまな店が現れた。いちばん最近はたこ焼き屋さん、その前はたい焼き屋さんだった。花屋のこともあったし、不動産屋だったこともある。はて、その前はなんだったかはもう思い出せない。とにかく続かないのだ。阪急神戸線駅前の一等地であるのにもかかわらずだ。

 阪急六甲の山側は、六甲山系の鶴甲山(標高327メートルあった)の周囲を切り開き、30万平方メートルの宅地と30万平方メートルの公園や緑地帯をつくったことから発展した。高度経済成長期には鶴甲団地はサラリーマンの憧れだったようだが、今ではすっかり老朽化している。ただ神戸淡路大震災のときも阪急から上はほとんど家屋の倒壊もなく、鶴甲のへんは何事もなかったというから、地盤も含め街自体は成熟しているし、何と言っても六甲山のお膝元だから住環境も申し分ない。マンションもどんどん建設され住人も増えているし、神戸大学や松蔭女子大などの大学もある。だから、駅前の飲食店がもっと充実してもいいはずなのに、ほんとうに数えるほどしか店がないのである。

 震災で被害が甚大だったJR六甲道近辺(歩いて8分ほど)が再開発され、飲食店がかなり充実しているので、そちらで充分ということなのかもしれないが、そちらの賑わいとは対照的に阪急六甲界隈はいつも何となく寂しい・・・。

 ある日、またたこ焼き屋さんが消えたんだ・・・と切ない気持ちでいると、改装工事が始まった。外観に木をあしらい、内装にも時間をかけている。こりゃあ、和食系か。これだけこだわっているということはそれなりの店だな・・・いろいろ近隣で聞き込みをすると、どうやら焼き鳥の店らしいということがわかった。やがてオープンしたのだが、店が終わるのはけっこう早い。私が阪急六甲駅に降り立つ時間には、もう店じまいしているので流行っているのかどうか勝手がわからない。そのうち新しくできた焼き鳥はまあまあイケるという噂が伝わってきた。定休日は木曜なので、土日に行けるではないか。さっそく天皇バーの面々繰り出すことにした。

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 入るとカウンターがあり、奥には個室もあるようだ。出入り口が別の完全個室もあって、こちらは密談にももってこいの空間である。はじめてなので、カウンターに座る。食べたいものをまずはそれぞれが注文し、それを全員で1本ずつもらう。4人で行ったので、ズラリ並ぶと圧巻である。せせり、かわ、とりはらみ、こころ、ずり、ささみ、手羽・・・。こちらの焼き鳥はずっしり大きく、ボリュームがあって、食べごたえがある。たたきも、白肝も、ベーコン巻きも、ちゃんと旨い。今日は、焼き鳥を食べたい!という日にはうってつけの店である。それでいて、個人がやっているので、丁寧に仕事しているのがわかる。悪くない。いや、いいじゃないか。

 平日の夜の様子はあまりわからないが、土日の夜はなかなか予約が取りにくいと聞く。この雰囲気と味とボリュームなら、家族が日曜日に気軽に食事するのにもいいし、若いものどうしでちょっと一杯という場合でも入りやすいだろうし、奥のテーブルでグループでわいわいというのもよさそうだ。

 喫煙も可能ということで、4人のうち3人が食後に煙草を吸った。ほどなくして、完全禁煙になりましたという看板が表に出た。きっとあの日の私たちのせいである。煙草の煙と焼き鳥の煙は質が違う。申し訳ないことをした。

追記

 平成28年になってから、かしわの水炊きもメニューに加わった。水炊き(小鍋)1,800円。かしわ水炊きコース(お一人様)3,000円から。焼き鳥コース(お一人様)3,000円から。リーズナブルである。

2016-03-08 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

新地鮨「黒杉」

 もう、十年ぐらいになろうか。新地で新進気鋭の鮨があると聞いた。店主はまだ若く、二回転めには新地の名店のシェフたちが集まってくるという噂もあった。鮨好きとしては行かねばなるまい。だが、そうそう新地に通っているわけではないので、そうしょっちゅうは行けない。それでも、クライアント様や、仕事のパートナー、懇意にしている鮨職人や友人、社員と、いろんな人を連れて行った。ここしばらくは足が遠のいていたのだが、久しぶりに訪ねることにした。

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 まだ少し肌寒いので日本酒をぬる燗にしてもらう。初っ端はトマトである。三島のうつわにぽんと盛って、塩をぱらり。まずはこれで口中をすっきりさせる。ツマミ第一弾は、田辺の初鰹。春、黒潮に乗って太平洋岸を北上する元気のいいやつ。生と表面を炙ったの、それを北海道の行者にんにく醤油と淡路の新玉ねぎのぽん酢の二種類で楽しむ。明石の鯛は、さすがにコリッと小気味良く、淡路の平目はねっとり旨みをたたえている。この店が好きな理由はいろいろあるが、ツマミの付け合せにワカメを出してくれるのがうれしい。大根よりダンゼンワカメだ。

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 ぬる燗が終わったのでそろそろ冷酒にする。ここも、近頃の例に漏れず、日本酒をというとネタに合わせて大将がセレクトしてくれる。で、なんと大好きな三千盛の純米大吟醸である。ミチ(三千盛のことを勝手にこう呼んでいる)は本醸造でもけっこう鮨に合うのだが、純米で大吟とくればキリッとした辛口がまろやかになり、たしかに旨い。そのミチにまた合うのが鹿児島の筍と桑名の蛤。いいよね、こういう一品。尊王攘夷派と佐幕派が、仲良く皿の上で交わってる。さて、この茶色い物体は何でしょう。あん肝ではありません。なんとこれは、エイ肝をルイベにしてスライスしたもの。味の系統は似ているけど、舌の上に乗せると体温でルイベが柔らかく溶けていく。それをさらにミチで流し込む。至福、ですな。

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 串は、うなぎの塩焼き。黒杉名物である。うなぎを串にぐるぐる巻いて、炙って、塩をパラパラっと振った香ばしい一品。赤玉のうつわには子持ち昆布とクラゲ、胡瓜の酢の物。うなぎの脂をひとまずなだめる感じ。洒落たスクエアなガラス器に入っているのは、甘海老の紹興酒漬け。とろとろの食感の中にそこはかとなく香る紹興酒。塩ブリをお椀に仕立てたものをいただいて、めくるめくツマミの連打が終わる。

 どうでしょう、このツマミの流れ。素材のセレクトはきわめて正統的なんだけど、出し方に緩急があるのがよい。順番の妙というものかね。初鰹は少しクセのある薬味で出しておいて、白身を二種。で、筍&蛤の煮物。エイ肝、うなぎと濃厚なものの後に酢の物。最後は、甘海老、塩ブリ。たいへんけっこうである。

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 さ、後半戦である。再びスタートは鰹から。これはヅケにしている。フレッシュな初鰹が、ねっとり醤油をまとって衣替え。続いてはコハダ。しっかり仕事のされた江戸前の味わい。ここからは奥播磨の大吟で攻める。トロになりかけているマグロは宮崎からやってきた。日向灘も黒潮が北上しているのだ。近海物はさすがに旨い。にやにやする。この巻き巻きしているのは鯖である。軽く昆布で〆た鯖を手巻きにしているのである。うふふ、手巻きを出されると楽しいな。カウンターの向こうから、「はい」とか「ほい」てな感じで手渡されるとそれだけで、大将との間がぐっと近くなる。鮨屋の間合い。とてもよい。

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 続いてはイカ。ねっとりに、どっきり。しっとりに、うっとり。今日の雲丹は北海道の馬糞である。陶器のスプーンで口に運ぶ。こってりしているのに、すっきりとした後口。馬鹿馬。合間に味噌ソープをいただいて、濃厚さを洗い流した後は鯛の昆布締め。ツマミでもいただいた明石の鯛が、身悶えしているように妖艶に変化している。さすがはアミノ酸のパワー。そして、もう一度手を出してと言われ、素直に手を出すと小柱を刻んだ小ぶりの握りが手のひらに乗せられる。ゴマがかかっていて、見るからに美味しそう。いや、実際、旨いのだが。そして玉子。ていねいにじっくりと焼かれた逸品である。そして煮穴子。甘いツメを塗ったものと塩でいただく二種類で〆る。

 この黒杉、夏には移転(2015年7月にすでに移転)するそうである。引っ越し先は新地に突如出現する新しいビルディング、新ダイビル。そこに4店だけ選ばれた店が入るのだそうだが、なんとその一店になるそうだ。これは楽しみ。落ち着いた頃、また行ってみよう。

2016-03-04 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

新地おでん「とみ乃家」

 あらためて写真を見て、ほんとうに無茶苦茶な注文のしかただと反省。いや、私が注文したわけではない。クライアント筋のおじさまや若いのも交えての会食。みんながそれぞれ好きなものを注文した結果なのであるが、それなりの店でこういう雑食をしてはいけないとつくづく思った。まるっきり、居酒屋状態である。

 こちらはおでんで有名な新地まん卯の系列店である。カウンターもテーブルも掘りごたつ式になっているので、くつろぎながら食事が楽しめる。基本は好きなおでんネタを注文し、一品づつ上品に盛りつけられた小皿で出汁とともにいただく。

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 先付けとして最初に出されたのは、折敷の上に並べられた小皿。ホタルイカとわけぎのぬた、湯葉、いんげん、あんこうの肝。志野の向付に入っているのは、平目の昆布締め。特別純米の極上吉乃川をちびちびとやりながら、いただく。いい按配である。

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 続いて出てきたのは、すっぽん鍋である。コラーゲンたっぷりのすっぽんを贅沢にも葱だけでいただく一品。すっぽんというのはほんまに凄い。単一の素材でこれだけパワフルに漲るエキスを出せるのだ。すっぽんには、コラーゲンだけでなく、必須アミノ酸、リノール酸、ビタミンB群はもちろんのこと鉄やカルシウムなどが含まれてい、昔から滋養強壮に効くと言われてきた。そのうえ血液をサラサラにしてくれ、美肌に効果があるともいう。だが何といってもすっぽんの最大の魅力は、健康と美容に素晴らしい効能がありながらとびきり旨いということだろう。力強いエキスのパワー。こっくりしながらもキレのある澄んだスープ。これが漢方薬のような味だったら、すっぽんの値打ちは半減するだろう。出汁だけでも死ぬほど旨い。いや、ほんま。

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 ところがである。ここから暴走が始まるのである。すっぽんだけでもうじゅうぶんなご馳走であるのに、若いのと一緒だとこんなんじゃ全然足りないのである。おじさまも気を使ってか、すき焼きを注文してくださる。しかし、普通すっぽん鍋を食べた後に、すき焼きなんぞ食べるかね。と、思いながらも、自分にあてがわれた小皿(もちろん卵が割られている)につい肉を入れてしまう。新地の名店であるから、当然上等の牛肉を使っておりさすがにとろけるような旨さである。日本酒で一服していると、せっかくだからおでんも行こうという話になる。

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 おでん。いいですね。まずはロールキャベツ。はじめておでんにこういう洋モノを入れたのは誰なんだろうね。邪道だのなんだのいう人もいるけど、普通に美味しいのよね。餃子なんてのもあって、これもつるりと小気味良く喉を通っていく。そして半熟の卵。卵好きであるから、ついこれは積極的に注文してしまった。

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 〆は名物のさえずりである。さえずりとは、クジラの舌を乾燥させたもので、関西でおでんといえばさえずりと同義語であるくらい、メジャーかつ高級タネとされている。ここのは、しっかり戻したさえずりにたっぷり出汁を含ませた一品で、口に入れると独特の弾力がありながら、出汁がじゅわ〜んと滲み出るのである。ああ、幸せ。

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 これでお開きねと思っていると、おじさまがシメに近くの蕎麦屋から出前を取るという。ええ〜、まだ食べるの〜(いやね、別に全然入るんだけど、こういう場では私はそんなに欲張らない)ま、ざるそばぐらいだったら、食べられるか。というわけで、ざるそばをずずっとすすって、お開きとなった。

 炭水化物が最後の蕎麦だけなので、さほど満腹感があるわけではない。だけど、すっぽん、すき焼き、おでん、そばという異種混合の仕立てに気持ちがすっかりおなかいっぱいになった夜だった。あかんね、こういうところに集団でくるのは。今度は、すっぽん&おでんを、ゆっくり落ち着いて味わいに来たいな。

2016-03-02 | Posted in 千夜千食Comments Closed