2014-07

獄花

4・2013年9月26日・獄花

【獄】ゴク ひとや うったえる
言は神に詛盟すること。二犬はその犠牲として当事者の双方から提出されるもので、これによって裁判が開始される。金文に「從獄」という語があり、獄訟に連なることをいう。獄舎のことは古く夏台・などといった。1・ひとや、牢。2・うったえる、うったえ、さばく。3・つみ、つみする。(白川静『字通』より一部抜粋)

2014-07-29 | Posted in 千花千態No Comments » 

 

瞳花

3・2013年8月23日・瞳花

【瞳】ドウ ひとみ
声符は童(どう)。[玉篇]に「目の珠子なり」とあり、眸子をいう。[淮南子、脩務訓]に「舜に二瞳子あり、是れを重明(重瞳子)と謂ふ」とあり、また項羽も重瞳子であったという。1・ひとみ、まなこ。2・瞳焉は無知のさま。(白川静『字通』より一部抜粋)

2014-07-29 | Posted in 千花千態No Comments » 

 

志花

1・2013年8月8日・志花

【志】シ こころざし しるす
[詩序]に「詩は志の之(ゆ)く所なり。心に在るを志と為し、言に發するを詩と為す」とあり、それで志を「心の之往(ゆく)する」意の会意とする説もある。古くは誌・識の意に用い、むしろ心にある意こそが初義であろう。1・心にあるもの、本心。2・しるす、心にしるす、おぼえる、かきとめる。3・こころざし、のぞみ、ねがい、めざす。4・しるしのもの、はた。5・記録する、記録。6・識・志と通じ、しるす。(白川静『字通』より一部抜粋)

2014-07-28 | Posted in 千花千態No Comments » 

 

歌舞伎座「桟敷シャンパン」

写真写真[1]

 恵比寿でフレンチを食べた前回がとても楽しかった、またやろう。そんな声を聞いたので、せっかくなのできちんとした倶楽部にしようということになった。どうせなら、名前もつけよう。どうせなら、松岡師匠の縁で知り合った者同士なのだから、師匠に名前をつけてもらおう。すったもんだしたあげく、すみやかに師匠にお伺いをたて、倶楽部の名前は「回會(KAIKAI)」と相成った。松岡師匠がネーミングに要した時間は、ほぼ五分。うーん、と唸りながら、いきなり「かいかい!」と叫びながらこの字を書いてくれた。かいかい?奇々怪々?快快?掻い掻い?面妖な名前である。みんなで「かいかい、かいかい」と言っていると、師匠が「一回會、二回會、三回會・・・」と呟きながらにやにやするのである。「なるほど〜面白い!」今ではもうこの名でなくてはならないくらいなじみ、愛すべき名前になった。

 回會のルールは3つ。一・着物を着る。二・美味しいものを楽しむ。三・日本的なことを経験する。このご時世にハードルが高いものが三つも入っている。だが、そういった遊びを通じて何かが生まれたり、新しく気づけることもたくさんあるだろう。大切なのは、「実際にやる」ということである。

 二回會は歌舞伎に行こうということになった。ちょうど九月の歌舞伎座では「花形歌舞伎」と銘打って海老蔵新作の「陰陽師」をやることが決まっている。決行はそのタイミングに合わせてということになった。

 ない藤のわかだんから連絡があり、「いっぺん、桟敷席でシャンパンを飲みたい」という野望が明かされた。いいね、いいね。私もそんなのやったことない。やろうやろう。新たな展開につき、急遽桟敷席を抑えることに。だが、私の歌舞伎界ゴールド会員枠では枚数が足りない。しかし、そこは大きな声では言えないが祇園の特殊ルートという太いものがあったのである。 だが、当日までに新たな問題勃発。まず、3階の吉兆が桟敷に弁当を運べないというのである。また、わかだんに頼る。歌舞伎通の姐さまから、おすすめの弁当をつくってくれる店を紹介してもらう。後、調達するのはシャンパンと、グラスと、弁当と・・・。シャンパンは当日買えばいいし、グラスは会社にあるプラスチックだけど見た目は本当のシャンパングラスに見えるものがあるので、それを持ち込む。弁当の手配も完璧。するとまたわかだんから連絡がはいる。「あのね、シャンパンはハーフボトルがおサレなようで」と通筋からのアドバイスがあった模様。なるほど、桟敷みたいなただでさえ目立つ場所でのフルボトルはいかにも無粋。なーんも考えんとうれしげにフルボトルを持ち込むとこだった。やはりそれなりに歳取ってくると、何事もこうして周囲からさまざまなアドバイスをもらえ、眉を嚬められたり後ろ指をさされるようなこともないのである。

 満を持してその日がやってきた。三浦さんとは定宿が同じなので、一緒にタクシーに乗り銀座へ向かう。待ち合わせは歌舞伎座横の凮月堂。今回のメンバーは、三浦さん、ない藤のわかだん、東さん。スペシャルゲストは今をときめくアートアクアリウムのプロデューサー木村さんである。

 新作歌舞伎「陰陽師」は言わずと知れた夢枕獏のあの名作である。魑魅魍魎が跋扈する平安の都。謎の怪事件が都を揺るがす恐るべき陰謀へとつながり、都を闇が覆うとき、一人の男が立ち上がる・・・・その名は安倍晴明・・・。陰陽師安倍晴明を染五郎、源博雅を勘九郎、そして平将門を市川海老蔵、興世王を片岡愛之助、俵藤太を松緑、桔梗の前を七之助、滝夜叉姫を菊之助が演じるという、これからの歌舞伎界を背負って立つ花形によるきわめて贅沢な舞台なのである。幕間を二度挟んで三時間あまりの通し狂言である。

 最初の幕間は35分間。いよいよ弁当&シャンパンタイムである。桟敷席にかくしておいた冷えたシャンパン(注・ハーフボトル)を2本出し、シャンパングラスをみなさんに配る。音がしないよう注意深く、シャンパンの栓を抜く。しゅぽっ。それでも一段高くなっている桟敷席なので、シャンパンを注いだりしていると下からの視線を感じる。ご注進はこれだったのね。ハーフボトルにして正解。それでもやはり目立つ。あくまでも控えめに乾杯して、弁当をいただく。こちらも銀座の名店の仕出しにふさわしく、立派でたいへんに美味しい。いいねえ。桟敷でシャンパン。気分はお大尽。

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 軽く酔いがまわっての観劇も、新作歌舞伎のわかりやすさと面白さゆえ、誰一人落ちることなく最後まで楽しめたのは幸いである。終了は8時半。この後は銀座のとあるバーでしばし歓談。本日のスペシャルゲストである木村さんプロデュースの「アート・アクアリウム」を日本橋コレドでやっているというので、着物姿のままぞろぞろと出向く。
 アートアクアリウムとは、世界中から集められた金魚が泳ぐ水槽に、最新かつ奇想天外な演出により度肝をぬくような世界を作り出すアート展覧会。予備知識なしに行ったものだから、そのスケールと場のしつらえ、音楽と光の演出など、すべてにあんぐりと口をあけたまま状態だった。真っ先に心配したのは金魚たちのストレスだが、木村さんによるとそれは何の問題もないとのこと。私がいちばん驚いたのは金魚の種類の多彩さだ。中国で改良に改良を重ね生まれ、鑑賞するためだけに人の叡智を集めて生まれた魚。愛好家にはたまらないのだろうが、私はなんだか切ない気持ちになった。

 このアートアクアリウム、今年はついに入場者数が300万人を超えたそうだ。金魚の妖艶な美しさが木村さんの手によって今年はどのようにプレゼンテーションされるのか、興味深いところである。

 さて、回會はまだまだ続く。アートアクアリウムの会場を出て、さてこれからどうしよう、ということになった。時刻はそろそろ12時に。とりあえず、有楽町まで行けば深夜店がありそうということでタクシーに乗り移動。有楽町に降り立った面々は、ガード下の居酒屋を物色し、焼き鳥屋に入った。といってもここは路地をうまく利用して店の外に机や椅子を置いている。煙草も誰はばかることなく吸い放題。またしても一同は一回會に続いて、着物姿でビール&焼き鳥を楽しんだのである。

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 フレンチも、シャンパンも、最期の〆のラーメンや焼き鳥にはかなわないのか。いや、それも含めての企画になりつつある回會。うん悪くない。

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2014-07-27 | Posted in 回會記No Comments » 

 

恵比寿「ロブション」

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 松岡正剛師匠がナビゲートするNARASIAセミナー。最終回の第三講は根津美術館で遠州流お家元の講義を聞くというスペシャルな趣向が明かされた。一緒に参加していた三浦さんに「次回はやっぱり着物やな」と持ちかけたところ、「もちろん」という返事とともに、どうせ着物を着るんやったらその後フレンチに行くのはどうやろという提案があった。オーケイ。コーディネイトはまかせてと私もふたつ返事で引き受ける。メンバーはない藤の若旦那、東さん、西井さんの5人が名乗りをあげた。

 さっそく、ロブションを予約するも、ガストロノミーとラターブルとふたつある。値段がまったく違う。が、ここはやはりガストロノミーだろうなとメニューを見るも、さすがに世界に冠たる三ツ星の価格である。三浦さんにおそるおそるコースはどうする?おすすめはデギュスタシオンで36,000円なんだけど・・・と遠慮がちにメールすると、即座に「デギュスタシオンでいいでしょう」との返事。なんと剛毅なことか。よっしゃ。そういう気なら、とことん行くでとでデギュスタシオンを5名分予約した。

 もひとつ剛毅なことに東さんはこの日のために京都で羽織袴まで新調した。コーディネイトしたのはない藤の若旦那である。西井さんの貸衣装、そして当日の着付けまでアレンジしてくれ、晴れて全員が着物でそろった。

 待ち合わせは恵比寿のウェスティンホテルロビー。目の前には燦然と輝き、聳え立つ「ジュエル・ロブション」

 女一人に男四人の着物姿。一体全体こやつらは何者?という見るからに怪しげな集団はゆるゆるとロブションに入り、入り口で記念撮影の後、羽織をクロークに預けた。外から見るだけだったお城は、内側もまた異次元の世界。うやうやしく案内されたのは、その異次元ゴージャスなガストロノミーの中でもど真ん中の丸テーブル。否が応でも視線の集まる場所である。そして、私たち以外はほとんどがカップルだ。

 ソムリエがにこやかな笑みをたたえてやってくる。うやうやしくワインリストが配られると思いきや、なんと手渡されたのはiPad。リストはすべてこの中に入っているのだった。まずは景気づけにシャンパンをボトルで注文。みんなで威勢良く乾杯をする。 

 いよいよデギュスタシオンが始まった。アミューズは、ひとりひと缶のキャビア。もうこのまんま。何も足さず、何も引かず、そのまんまスプーンですくって食べる。ああ、なんとシャンパンと合うことか。ひと缶独り占めの幸福にクラクラする。しょっぱなから、もうれろれろである。続いて、ウニを使った三種のオードブル「特選ウニ3変化」。ロブション風ピュレと共に食べるウニ、ブランマンジェになったウニ、マリネされキュウリと大根の上に乗ったウニ。ねっとり、まったりと、口腔にからみつくウニの風味を異なる食感と料理法で堪能する。なんだかここまででも、もうじゅうぶん幸せな感じである。

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 お次は、北海道産インカのめざめをマリネしてカルパッチョ仕立てにした一皿。たっぷりのトリュフがかかっている。そして「旬の甲殻類3変化」は、たらば蟹、ラングスティーヌ(手長海老)、甲殻類のブイヨンの三重奏。もう、何がなんだかいちいちわからないのだが、どれも感動的な美味しさで、ワインが進むったらありゃしない。続いてホタテと根セロリとフレッシュトリュフのサラダ。三浦大根のヴルーテとフォアグラのポワレ。まだコース半ばですでにキャビア、トリュフ、フォアグラの御三家が出払ってしまった。この後何が出てくるのだろうと不安、いや期待はいやがうえにも増してくる。それにここまで出るのにかれこれ一時間半くらいは経っている。ない藤の若旦那が、「今日はこのへんでええかも。僕、この後ラーメンでもええわ」と恐ろしく魅力的なことを言う。「じゃあ、今日はここで締めてもらって、明日また途中からはじめてもらう?」そんな客はいないだろう(笑)。

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 ところで、最初のキャビアやウニには、お皿と一緒にカラープリントした写真がついていた。聞けば、シェフの趣味であって、素材がひとめでわかるというので好評であるらしい。遊び心というものか。テーブルセッティングのまわりには、大粒のダイヤモンドがさりげなくごろごろと撒かれており、「これ本物かしら、一粒持って帰ってもいいかしらね」などと馬鹿げた冗談も言い合えるようになっている。

 さて、後半戦。

 ゴルゴンゾーラピカンテはエスプーマ仕立て。どうしたらチーズをこのように料理しようという発想が浮かぶのだろう。萩からやってきたという甘鯛はうろこ付きのまま香ばしく焼かれている。旨い。一皿一皿は小さめだがすでに八皿が出されている。九皿目は特選和牛のロースト。黒胡椒の香りを効かせ、ロブション風ピュレの上に可愛らしく乗っている。いい案配の焼き加減である。そしてまた写真とともに出されたのは旬の野菜たちを小さなココットに入れエチュベ(蒸し煮)したもの。野菜の滋味にほっとしながら、十皿目を終了。ここからはデザートである。まずは、グリオット(さくらんぼ)のマリネ。上にはピスタチオのアイスクリームが乗っている。爽やかな甘みである。そしてピンクのダリア。なんと美しい色とカタチだろう。中身はライム風味のチーズケーキなのである。最後の最後まで、シェフの遊び心と技量の連打に酔わされる。

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 大満足である。ご機嫌である。ご満悦である。申し分ない。ご満腹でもある。

 ガストロノミーの隣には、妖しく艶やかなバーがある。その名もルージュ。赤を基調にしたインテリアは淫靡で退廃的ですらあるのだが、お腹ぽんぽんの一同、ここで食後のウイスキーなどを嗜み、しばし歓談する。

 勘定をすませ、店を出るときに驚いたことがある。クロークにずらり並ぶこの羽織を見よ。退出する私たちのためにきちんとたたんでくれているのである。壮観である。さすがに三ツ星グランメゾン。

写真[14]

 さて、この話にはまだ続きがある。

 アフターロブション。まだ飲み足りない。いや、食べ足りない?ロブションから歩いてすぐのところには、私の深夜の御用達店「ちょろり」があるのである。「ちょろり行く?」「うん、行きたい」「行こ、行こ」もちろん、いつも清く正しく明日も朝から仕事があるという三浦さんは、ちゃんと帰った。残りの不良4名はフレンチを食べた直後に、着物を着たままぞろぞろとちょろりへビール&ラーメンを食べに行くという暴挙に出たのである。

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 ラーメンを一口すすった若旦那がひと言。「ああ、やっぱりラーメンや」

 
 ジュエル・ロブションが泣いている。

※デギュスタシオンとは、(仏語・degustation)元々は、試食や試飲を意味する言葉。レストランではシェフが全体の流れやバランスを考えながら、ひと皿を少なめにして幾皿もの料理を提供するコースのことを意味します。

◎追記

 この記事を書くため、当日もらったメニューをずーっと探していたのだが、どうやら紛失してしまっていた。もしやと思い、ロブションに電話した。「一年半も前のことなんですが、その日のメニューがどんな内容だったかわかるでしょうか?」わかったのである。名前を言うと、下の名前までフルネームで記録が残っており、「たしかにその日いらしてますね、お待ちください」と即座にメニューが出てきたのである。ファックスが読みづらかったので、メールにメニューを添付して送ってもらった。

 完璧な顧客管理である。

 電話に出たレセプションの女性の対応も迅速かつ丁寧で舌を巻いた。つまり、一度でも行けばその情報が記録に残っているということである。ワインのセレクトもたぶん記録しているはずである。次回行けば、そのへんのデータをきちんと把握した接客になるに違いないと思う。ここまでやれている店がどれくらいあるのかはわからないが、そこまでできて三ツ星というのなら、やはりここは最高のフレンチレストランであろう。

2014-07-27 | Posted in 回會記No Comments » 

 

NY鮨 「sushi of gari」

 昔、ニューヨークアッパーイーストに住む友人の家の近くに「ガリのすし」という店があった。店名がいかにも面白そうなので友人に「ここどうなの?」と聞くと「おいしいらしいよ」とは言う。だけど彼女の行きつけの店は他にあって、一緒に鮨といえばそこへ行くのだった。だから、名前に惹かれながらも、のれんをくぐる機会はなかった。

 二年前のことだ。別の友人が「sushi of gari」に行きましょと何度も誘うので予約してもらい出向いた。少し変わった鮨と聞いていたので、正直そんなに期待はしていなかった。行ってみて気がついた。「sushi of gari」は、あの「ガリのすし」だったのだ。店内は日本人だけでなく、ニューヨーカーで賑わっている。予約もかなり取りにくいという。店名のガリというのは、てっきりショウガのガリだと思っていたが、これはオーナーである杉尾雅利さんの音読みニックネームであった。そのガリさんが握ってくれるのは、カウンター前わずか3席のみ。予約するときは「ガリさんの前のカウンター」と指定しなければならない。

 で、肝心の鮨だが、ここの鮨は完全オリジナルである。江戸前とか、いわゆる日本の鮨を期待していくところではない。そのかわりガリさんだけのアイデアあふれる、びっくりするような鮨が食べられる。

 からすみ大根や鯛の昆布締めくらいは、想像できるだろう。だが「ヤリイカの耳を漬け込んだものにうずらの黄身をのせる」鮨の味をイメージできるだろうか。「鯛の中落ちに温泉卵で和えたサラダをのせて、その上に揚げた蓮根をつぶしてクリスピー状にしたものをかける」鮨はいったいどんな歯ごたえなのか。「カンパチに刻んだハラペーニョ」をのせた鮨は、一体全体辛いのか、旨いのか。ひとつとして普通の鮨は出てこない。徹頭徹尾、創意に満ちた鮨のオンパレードだ。これが、「もう食べられない」とストップをかけるまで、延々と出される。

突き出し

 初めてカウンターに座って、初めてガリさんの鮨を味わったときの衝撃は未だに忘れることができない。「えっ、凄い創作系」とまず見た目で思って口に入れ、素材と素材が口の中で合わさりまったく別の素材を食べているようにダイナミックな変化を遂げるのを味わう驚き。想像するに、ガリさんがニューヨークに来た頃は、今のように流通もよくないし、日本の鮨を握るには素材に限界があったのだと思う。だから、築地にあるような本マグロの大トロの食感を出すためにこちらのマグロの上に雲丹をのせたり、大味なひらめに昆布をのせてみたりしたのではないか。当初は代替的に作っていたものが、それはそれで面白く美味しく、やがてガリさん自身が考える鮨のベースとなって、ネタに不自由しなくなった今はそのダイナミックなアソートの技が磨かれ、ガリさんだけが握る鮨に昇華した。勝手に私はそんなふうに思っている。

 江戸前は日本に戻れば死ぬほど食べられる。だけど、ガリさんの鮨はニューヨークに来ないと味わえない。つまり、私にとっては年1回のスペシャル鮨なのだ。

 実はこの日、ガリさんはもう引退したという噂があって、二番手の人が握ると聞いていた。友人もそれなら行かないと言い、結局一人で出向いたのだった。ところが、行けばカウンターにガリさんの姿があるではないか。「え〜ガリさん引退したって聞いたけど」と言うと、満面笑みのガリさんは「俺のこと、殺さないでよ〜」と言いながら、風邪を引いていたので店に出るかどうか予約の時点ではわからなかったのだと説明する。ああ、よかった。これで今回も来た甲斐があったと胸を撫でおろす。後で友人にそのことを伝えると、とても悔しがったのは言うまでもない。

ガリさん

★ここの鮨は記録しておかないと絶対憶えられないので、
今回はしっかり記録した。23貫。ああ、お昼抜いてくるんだったと後悔。

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1・からすみ大根
2・鯛の昆布締めにさらに昆布をのせて
3・あぶった銀だら
4・ずわい蟹に雲丹をのせたものを炙って
5・づけのサーモン(皮がカリカリ)
6・ヤリイカの耳を漬けこみ軍艦にして、うずらの黄身をのせて

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7・ぶり(すんごい脂)
8・西海岸のぼたん海老に柚子味噌をのせて
9・大トロに昆布パウダーをかけ、その上から醤油を落とす
10・サンタバーバラの雲丹にイクラをつぶしたソースをかけて
11・毛ガニを軍艦巻きにし、溶かしバターをかけて
12・鯖に胡麻和えソースをからませて

13・鯛の中落ちに温泉卵で和えたサラダをのせて揚げた蓮根をつぶしてクリスピーに(残念ながら撮り忘れる!)

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14・マグロをユッケ風に味つけして、海苔の天ぷらの上に
15・金目鯛の上に乾燥芽かぶを刻んで
16・カンパチに刻んだハラペーニョのせ
17・ホタテに梅マヨネーズ
18・バター焼きした太刀魚
19・ミル貝にあん肝をつぶしたソースがけ

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20・牡蠣のせグラタン
21・縁側に鶉のポーチドエッグをのせ、トリュフオイルをかけて
22・大トロ炙りにニンニクショウガたれ
23・白菜漬物に雲月の小松昆布刻み

2014-07-15 | Posted in 千夜千食No Comments » 

 

MOMA「THE MODERN」

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 MOMAが谷口吉生氏の新たな設計によって蘇ってからはや10年。リニューアル当初はいつ行っても長蛇の列で、MOMA自体に行くのがうんざりするほどであったが、ここがあることを知ってからはMOMAを素通りしてでも通うようになった。歩き疲れちょうど時分になったので、試しに入ってみたのが5年ほど前。以来、ニューヨークにいるときは必ず一二回は訪れる店のひとつになった。

 魅力は三つほどある。

 ひとつは、やはりそのアメイジングな美味しさだ。勢いのあるシェフならではのチャレンジと工夫にいつも満ちあふれている。それにプラスして素材×食感×盛りつけの三位一体パワーにも毎回驚嘆させられている。ふたつめはなんと言ってもロケーションである。美術館の中にあるというのはこたえられないアドバンテージだと思う。それに大好きだった「Sex and the City」の映画版でキャリーがビッグとの結婚を報告するシーンで使われたというのもポイントが高い(笑)。みっつめは、インテリアも含めた雰囲気。なにしろダイニングルームからはMOMAの彫刻の庭がきれいに見渡せる。冬しか行ったことがないが、晴れの日だけでなく、雨の日も雪の日も経験済みだ。

 中はダイニングルームとバーとに分かれている。バーはカウンターも含め予約がなくても比較的スムーズに入れるが、ダイニングルームの方は予約がないとなかなか座れない。それぞれメニューが違うので、どちらも経験することをおすすめする。

 今年はまずMOMA鑑賞の日のランチにバーを攻めた。

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 メニューは1・2・3のゾーンに分かれていてそれぞれから好きなものを選ぶというカタチになっているが、一品だけでもかまわないというのが気軽でよい。だけど、いつもつい欲張ってしまう。で、アペタイザーはツナのタルタル。上にかかったカリカリしたスパイスがツナと合わさって、予想外の食感を生み出す。ちょとしたことだろうけど、いつもこの異素材ミックスというのにガツンとやられてしまう。メインは白身の魚らしい向かいの人が食べていたのを指差して(笑)。ソースには葱が入っているが、この色の組み合わせは日本人としては度肝を抜かれる感覚だ。だが、カリッと揚げられておりとても美味しい。これで終わるつもりだったが、視床下部が我慢してくれず追加でチョリソーを頼む。こちらは、ザワークラウトとの相性が抜群だった。いつも何年かかけて全メニュー制覇しようと目論むのだが、結局毎回同じようなものばかり食べてしまう。帰りに明後日のダイニングルームのランチを予約する。

 翌々日のランチ。

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 今回案内された席は、バーを背にして中庭を正面に見ることのできる最高のシート。しかも椅子ではなく大好きなハイバックのソファ席。クッションを思いっきり後ろにはさんでリラックスする。そしてまずはシャンパン。旅しているときの楽しみのひとつが昼間に飲むシャンパンだ。大型のフルートグラスに気前よくなみなみとついでくれるところも気に入っている。アミューズはグリーンのスープ。この微妙な量が食欲を増進してくれる。アペタイザーは、ローストしたロイヤルマッシュルーム。この斬新なスクエアフォルムを見よ。ムール貝やトーストしたアーモンドなど異なる食感が、アリッサソースでまとまっている。イベリコ豚がスプーンにささって添えられているのがご愛嬌だ。お次ぎはエルサレムアーティチョーク(キクイモ)のスープ。聞いたことのない野菜だが、ラディッシュとアーティチョークを足して二で割ったような味で悪くはない。スープ中にはふわとろの卵が隠れてい、卵好きにはたまらない悪魔の味だったし。メインはローストポーク。脂とブラックベリーソースのマリアージュを楽しむ。こちらのパンは、山羊のバターと普通のバターの両方を味わうことができるのも素敵なのだ。いつも交互に楽しむ。デザートの完成度も言うまでもない。

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シェフはジャン・ジョルジュで腕を磨いたガブリエル・クルーザー。フレンチをベースにしたアメリカン・キュイジーヌであるが、世界中の素材という素材を集め、使いたいものを選び、自由な発想と卓越したテクニックでひと皿ひと皿を吟味しているという印象がある。それが、世界中の最新が集まってくるここニューヨークの近代美術館の中にある。かつてTHE MODERNと呼ばれたMOMAに代わってここがTHE MODERNと名付けられたのは当然と言えば当然なのかもしれない。

2014-07-12 | Posted in 千夜千食No Comments »