2015-10

Noma@マンダリン

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 今年初頭のグルメな噂のなかでダントツのぶっちぎり(失礼)だったのは、何と言っても「Noma」の上陸だろう。コペンハーゲンのお店を一ヶ月休んで、スタッフ全員で東京に来るのだという。

「Noma」の何が凄いかっていうと、「世界のベストレストラン50」でなんと1位を4回もとっていて、世界一のレストランとしてその名を轟かせているからである。しかもシェフのレネ・レゼピはあの「エル・ブリ」の出身なのである。「エル・ブリ」というのは、スペイン、カタルーニャ地方の山の中にあるレストランで、50席しかないシートに年間200万件もの予約が殺到していたと言われる世界一予約が取れないレストランで、その独創的な料理は世界中の料理人に影響を与えたと言われている。今やすっかりポピュラーになっているエスプーマ(食材をムースのような泡状にして出す)を考案したのも、この「エル・ブリ」のシェフである。ところがこの店は2011年の夏閉店したのである。その心意気を引き継いでいるのが「Noma」なのである。
 
 いつかは行ってみたかった「エル・ブリ」。わざわざカタルーニャ地方まで、そのためだけに出かけて行くなんて食いしん坊にとっては究極の贅沢である。でも、もうできなくなってしまったのである。で、「Noma」であるのだが、コペンハーゲンにあるこの店だって、予約はまったく取れない。それが、日本に来るのである。少々お高くたって、行かなければならんだろう。

 しかし、1月の抽選には外れた。地団駄踏んでもどうにもならぬ。ところがある日、東京のホテルを予約するのに利用している一休からスペシャルな案内が届いたのである。大好評につき、2月も少しだけ営業を延長するのだという。「Noma」が店を出しているのは、日本橋のマンダリンオリエンタルホテル。その宿泊とセットなら、まだ席が取れる可能性があるのだという。宿泊料とセットになったかなり強気の値段ではある。しかし、コペンハーゲンまでわざわざ行くことを考えたら、ある意味リーズナブルとも言えなくもない。さっそくスケジュールをチェックすると同時に、こういうのにつきあってくれる友人も抑え、申し込んだらあたったのである。

 そうこうするうちに、1月すでに行った人のブログなどがあがりはじめ、どうやら蟻を食べさせるらしいということがわかってきた。蟻ですって?好き嫌いのない私であるが、好んで虫を食べる趣味はない。一体全体どういう料理を出すんだろう。めらめらと食い意地が燃えて来た。万全の体調を持ってして臨まなければいけない。

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 さて、当日。申込の条件として相席とあったので、6人がけの丸テーブルに三組である。相客に軽く会釈をして、ドリンクメニューを見せてもらう。事前にワインとドリンクのペアリングの告知もあったが、なにしろワインが24700円、ドリンクでも16500円である。ふーん、これはあり得んぞ。それよか好きなシャンパンやワインをボトルで飲んだ方がいいわ。なので、シャンパンをお願いする。ヴェット・エ・ソルベ。シャンパンというよりドライなワインのような味わい。これ、イケる。

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 一皿目。噂の蟻である。氷を敷き詰め、そのまわりには貝殻をずらりとデコレーション。赤いプレートは渋い漆器である。中央に鎮座するのは北海道のぼたん海老。海老のまわりの黒いのが長野の蟻である。蟻には独特の酸味があって、これが海老に絞るレモンとか酢橘のかわりになるのだそうだ。だから、口に入れると蟻のシャリっとした感触はあるものの、軽い酸味は別に嫌じゃない。もちろん手づかみで食す。さすが、バイキングの国から来ただけのことはある。ワイルドだ。

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 二皿目。柑橘類をサラダ仕立てにしたもの。八朔、文旦、タンカン、みかんを切って、昆布出汁とオイルにピパーチという島コショウを混ぜたドレッシングがかかっている。山椒がピリリと利いた味。これを漆塗りのスプーンとフォークでいただくのである。素材のセレクトに日本への敬意とサービス精神が横溢している。うつわやカトラリーの選択にもメッセージがある。

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 三皿目。漆盆の上にナプキンが折りたたまれ、その上に乗っているのはあん肝トースト。あん肝を凍らせたものを薄く削っているのである。口に触れると体温でぬめっととけていく。もちろん、これも手づかみである。どんどん気持ちが野蛮人になっていく。

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 四皿目。「タ・コ・ヤ・キ〜」と言いながらデンマーク人が持ってきたものは、たこ焼きではなく、イカソーメン?いや、イカそばである。順番を間違えたな。なんとこれは甲イカを蕎麦のように切り、上にイカのわたを発酵させているソースを塗っている。この蕎麦を松の香りをつけた出汁に石垣島の薔薇を散らしたものにつけて食べるのである。黒々したイカをピンクの薔薇につけるなんて。なんちゅう発想。日本人ではこうはいくまい。良いとか悪いとかではなく、アイデアがぶっ飛んどるわな。ちなみにこのお箸をプロデュースしたのは、三角屋の三浦さんである。黒檀でできた希少な一品だ。

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 五皿目。北海道馬糞雲丹のタルト。これもナプキンの上に乗っているので、当然手づかみである。台は羅臼昆布の粉末を練り込んだ生地。雲丹の下にはサルナシのペーストが敷かれている。このサルナシ、キウイの原種で(五回會のとき「本湖月」のデザートではじめていただいた)すっぱ旨い。ふっくら芳醇な雲丹との相性はなかなかよい。

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 六皿目。作り立ての豆腐の上に、くるみ、味噌、柚子を乗せて。豆腐がまったり溶けていく。生のくるみの食感も、しゃりしゃりして面白い。

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 七皿目。二日間干した帆立の貝柱をピューレ状にし、バターと蜂蜜を加え、ホイップし冷凍している。こうすることで、まわりにはショワショワの泡状のものがつき、食べるとまるで揚げ煎餅のような不思議な触感が生まれる。仕上げに昆布オイルとごま油を少々。こういうのはもうサイエンスの世界である。どんだけ実験したんだろうな。

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 八皿目。南京。かぼちゃである。カツオ出汁で似たかぼちゃに、ローストした羅臼昆布の細切りを並べ、桜の花の塩漬けをデコレーションした一品。ソースはとろりとしたバター風味に桜の木のオイルを浮かべて。

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 九皿目。フワラーガレット。黒にんにくをつぶして葉っぱのカタチにしてる。しかし、これが不味いのなんのって。オーストラリアのベジマイトって知ってます?あれを初めて食べたときと同じくらいのオーマイガッドな衝撃。うえ〜って感じ。箸休めでも、口直しでもない、摩訶不思議なブレイクである。もちろん、全部食べたけどね。

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 十皿目。根菜の盛り合わせ。むかご、クワイ、百合根、ちょろぎ、蓮根、牛蒡。これを味噌漬けの卵黄につけて食べる。ソースは焼き昆布の出汁にアーモンドを加えたソース。これは楽しいし、日本で昔から親しまれてきた根菜のよさを外国人のシェフに教わっている感じ。忝ない。

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 十一皿目。メインである。なんと、野生の鴨の丸焼きである。網で獲った鴨を三週間熟成させているそうだ。これをまずは丸ごと見せてくれる。ファンキーでワイルドな演出である。その後、部位ごとにちゃんと切り分けてくれ、マツブサの実のソースで食べる。鴨は大好きなので、ウハウハ言いながら食べたけど、向かいに座っている人にあてがわれた鴨は生焼けでほとんどピンク色であった。連れが、野生の鴨の生はいろいろ寄生虫があるからなあ、などと恐ろしいことを言う。聞こえてるってば・・・それにしても、それを食べるのは苦行だったろうなあ。

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 十二皿目。イーストと椎茸のなかで炊かれたカブ。ううむ。十三皿目。米でつくったアイスクリーム。麹と柚子風味。白いのはサクサクしたお米の煎餅。鴨の口直しとしては蟻、もといアリである。十四皿目。砂糖で丸一日煮込んだ人参芋。キーウィのソースで食べる。もう似たようなかぼちゃ食べてるし・・・別にさつまいもをご丁寧に味付けしなくても・・・・

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 十五皿目。発酵させたセップ茸をチョコレートでコーティングしているのだが・・・苔のボウルの上に素晴らしいデコレーションで乗っているのだが・・・小枝はワイルドシナモンなんだが・・・味の想像を超えて、うえ〜。不味い。ま、これはご愛嬌であるな。

 全十五皿。
 普段我々が使わないような知らないような日本の食材まで綿密にリサーチして取り入れているその執念と探究心には圧倒された。これは美味しいとか旨いという次元を超えたシェフ、レネ・レゼピの高次元なパフォーマンスであり、プレゼンテーションであり、食べることのできる一瞬のアートなのだろう。一皿、一皿にこめられた創作への熱情は、たしかにひしひしと伝わってきた。世界一の評価というのは、その飽くなき好奇心と面白いものを独創的に表現してやろうという精神に捧げられているのではないか。レネによる度肝を抜くアミューズを一度は経験してみたいという人は世界中には確かに大勢いるだろう。もちろん、私もその物好きの一人である。

2015-10-29 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

北新地「弧柳」

 今夜はクライアント様との会食である。新しいプロジェクト推進のため、互いにやるべきことを再確認する場である。本当は個室というのが望ましいのだが、会食が決まったのが三日前である。探しに探し、ようやくこちらが予約できた。

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 よく知っている大阪・北新地の道を一本南に入ったところ。こんなところに、こんな名店があったのね。なんと、こちらは某グルマン機関で星を3つもとっているのである。いや、星3つの店もいろいろあって、銀座の某鮨屋なんて(私にとっては)最悪であったから、盲信するわけにはいかないが、ま、ある種の目安にはなるだろう。

 こちらはカウンター13席のみ。奥のカウンターは4人ぐらいが向き合えるかっこうになっているのが面白い。

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 さてと。和食のときは、日本酒にするというのが私の鉄則である。いろいろ聞いていたら、大好きな新政のスペシャルがあるという。立春朝搾り。平成二十七年乙未二月四日と書いている。つい一週間ほど前に搾ったぴかぴかの生原酒なのである。ふわっと広がる吟醸香。こっくりしつつもまろやかな甘み。目を細めつつ、日本酒ならではの奥行きのある旨さをしみじみと味わう。

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 先付は、お椀に入った山菜。春の息吹をたっぷりどうぞという趣向であろうか。染付に入っているのは雲丹であえたイカ。お味もだけれど、この花びらのような皿が素晴らしい。ちゃんと料理との相性を考えているのがよくわかる。そして大きな塗のお盆にずーっと下ごしらえしていたお造りが出される。魚庭という面白いネーミングがつけられている。四角いお盆に、扇のカタチの織部の向付、そして丸、四角、楕円、扇型の小皿がバランスよく並び、水仙まで銘々のお盆に活けられているのである。たしかに魚庭ではあるな。ま、このコーディネイト、あんまり私の好みではないのだが、この一品にご主人の気合がこめられているのはよくわかる。コリコリの鯛、イクラをまぶしたイカ、すーっと溶けていく大トロ(卵黄の醤油漬けでいただく)、キリッとしたアジなど、魚はどれもしっかり吟味されている。

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 メインのお椀は、ふぐの白子のお吸い物である。まるでお雑煮のお餅のようにこんがり焦げ目のついた白子。ふっふ、お口の中がとろとろになるわ。お出汁も美味しい。たまらず新しい日本酒を所望する。今度は、銘酒山形正宗、純米大吟醸。袋採り一斗瓶囲いというスペシャルバージョンである。蔵元である水戸部酒造、名刀正宗のように切れ味鋭い日本酒をめざしているのだそうだ。ううむ、正宗か。余談だが、亡くなった父はたいそう日本刀が好きで、いっとき水心子正秀の脇差を持っていた(あるいは憧れていて話に何度も出てきただけかもしれないが)ような記憶がある。名刀→刀、正宗→正秀という連想である。たしかにキリリとした素晴らしい味わいである。

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 四角い黄瀬戸に乗っているのは琵琶湖のわかさぎ。貴重な魚である。河内れんこんが添えられている。白いお皿は寒ブリにカニ味噌をかけ焦げ目をつけた一品。うーん、これはたまりませんな。やっぱり私、ブリもとっても好きなんだと改めて認識する。おかわりしたいくらいである。この白いのは、大根を薄く切ったものだが、その下には白海老が隠れている。海鮮の連打に、心の底からにんまりする。丸紋を描いた染め付けに盛られているのは宮崎牛の炭火焼。このほとんど贅沢なレア状態を、とうもろこしのお味噌でいただく。付け合わせは軽く揚げた海老芋である。

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 〆に立派な漆のお椀と織部のお皿。あれれ、もう一度お椀?と思うのだが、これは留椀。それにしても立派な蒔絵である。この意匠は鶴だろうか。織部が松の文様になっている。鶴と松。蓋をあけると、なんとごはんではなく、おかゆである。高槻のキヌヒカリというお米を箕面の天然水で炊いたものだという。これは絶品の味わいであった。おかゆというのが、何ともやさしく、あたたかい気持ちにさせてくれる。

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 最後に渋い三島の皿に盛られたデザートをいただいた。新地の板前割烹で星を取っていることを考えれば、コースの価格はなかなかリーズナブルであろう。ご主人も真摯に料理をつくっておられる。コース全体を振り返れば、やはり魚庭(なにわ)とネーミングされた造りのアソートがこちらの料理のメインなのだろう。全体に味は申し分ない。が、水仙といい小皿のコーディネイトといい、供し方に少々ツーマッチな感じを受けた。枯山水的な懐石を期待していくと、いきなり蘇州あたりの石庭が出現するという印象。ご主人はまだまだお若いとお聞きした。今はまだプレゼンテーションに凝りたいお年頃なんだろう。5年後、10年後どうなっていくのかにはおおいに興味があるし、きっとこの先もっともっと洗練されていくに違いない。なので、また何年かしたら、訪れてみようと思う。

2015-10-27 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

京都三条「ブランカ」

 今夜はあのソニア・パークさんが主宰するブランドARTS & SCIENCE京都店オープンのレセプションパーティである。満を持しての京都デビューである。私も近頃けっこうハマっているブランドなので、招待状をいただいた。二条木屋町のあの通りの一角があんなに人で賑わっているのを初めて見た。店内は人がぎゅうぎゅうで立錐の余地がないとはこのことだ。なので、さーっと見渡して、レセプション会場へと向かうことにした。

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 現地で待ち合わせしている三浦さんや内藤のわかだんに電話してみると、パーティの前に軽く腹ごしらえしているという。合流するには時間がなかったので、私も川沿いののれんをひょいとくぐる。なにしろ、金沢で居酒屋デビューしているので、もう入れない店はない。ところが、ここがなかなかの老舗であって、突き出しもおでん、日本酒もおいしく、たいそう居心地がよかったのである。だが、この後パーティなのであまりゆっくりもしていられない。後ろ髪を引かれながら、店を後にした。

 パーティの方も、けっこうな人数が集まっており、こちらも満員である。ARTS & SCIENCEの洋服、今までは東京でしか(金沢にも取り扱っている店はあるが)手に入らなかったのである。それが、これからは京都でも買える。関西のファッショニスタたちにはたまらないであろう。少し前に、南青山の店にあった白いスプリングコートがあまりに素敵でさんざん悩み、何度も試着して断念した。それとおぼしき白いコートをソニアさんは会場で着ているではないか。ううむ、やっぱり、自身のブランドだけあって、カッコいい。何より、しゅっとしてはる。スリムな彼女だからこそ着こなせるのだわと、コートを断念したことを己に納得させる・・・。

 パーティというもの、たいていビールやワインをいただいて、おしゃべりするというのが定番であろう。友人の友人を紹介してもらったり、はじめての人と話しが弾んだりと、いろんな出会いがあるのが楽しい。今宵も、わかだんにくっついている着物美女、昔からのお友達かなと思っていると、初対面というではないか。だけど、気の合う者どうしは、なぜか引き合うのである。

 で、こっからが本題なのであるが、宴もたけなわ。そろそろ失礼しようかという話になるのだが、パーティ前に軽く腹ごしらえしているとはいえ、みんなお腹のほうがそろそろグーグー言っている。京都で、それなりの人数で、パーティのシメに行く店といえば、この面子ではあそこしかない。そう、あそこ。「ブランカ(第134夜)」である。タクシーに分乗して、みんなで向かう。

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 三浦さん、内藤軍団、着物美女。総勢7名でカウンターを占拠。いろんなものを少しずつ出してねと、まずは砂ずり。こんなにパクチーがかかっているのは初めてであるが、これがまたよく合うのだよ。コリコリ。青いパパイヤのサラダは、シャキシャキ。この生ピーナッツがまた食感にバリエーションをくれるのである。ここにもさりげなくパクチー。そして島らっきょう。ここに来てこれを食べないわけにはいかないのである。ほのかに苦く、シャキンとした噛みごたえ。たっぷりのかつおぶしと共に、シャリシャリシャキン。このコロッケは、三浦さん特注である。旨い。続いて、オオタニワタリとジャコイリチー。これ、初めて食べた。オオタニワタリというのは、独特のヌメリとシャキシャキ感のある石垣島特産の葉野菜。シダの仲間であるらしく、食用である。この先がくるくるっと巻いているのが、いかにも南の野菜って感じ。この美味しそうな焦げ目のついたのは、九条葱と小エビのチヂミ。石垣島で磨いた腕が、京野菜と出会ったのだなとにんまりする旨さ。

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 そして、誰だ、もち豚のジンジャーステーキなんて頼んだのは。ま、パクチーがこんなにかかっていると、それはそれでヘルシーな気分になってくる。だけどもうお腹がパンパンになってきた。なのに、わかだんがジャージャー麺を注文する。ちょっとだけなら大丈夫かしらん。いや、待って、この皿はなあに?これ、また違う麺じゃない。しかし、この油そばのような一品も馬鹿旨だったのである。拌麺というそうだ。そうしたら、今度はごはんの上に麻婆豆腐が乗ってくる。こんなのもう無茶!と言いながらも、食べるとこれがまた癖になるような美味しさ。しっかり平らげる。一同、ほとんどへらへら笑いながらも、完食。恐ろしい軍団なのである。

 挙句の果てにだよ。

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 店主はごはんを炊いている。宮津の減農薬米。これをちゃっちゃとおにぎりにして、サッと炙った海苔で巻く。このつやつやした米を見て。こんなの出されたら、食べちゃうじゃないの。もちろん、きれいにいただいたことは言うまでもない。

 お腹ぽんぽんの一同、さすがに店を出てからは、それぞれのねぐらへおとなしく帰った。この店はかなり危険である。

2015-10-23 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

京都「佳久」

 写真家エバレット・ブラウンさんとは、松岡正剛師匠のイベントの喫煙所で仲良くなった(第40夜)。今でこそ禁煙しているが、当時はちょくちょく吸っていたようである(笑)。以来、未詳倶楽部でご一緒したり、ブラウンズフィールドに遊びに行ったり、写真展にでかけたりのおつきあいが続いている。

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 エバレットさんの日本を視る目にはつねづね感服しているが、もっと魂を揺さぶられるのは彼の写真とその手法である。写真ではなく、正確には湿版光画という。この手法、1850年頃から普及し、乾板写真が発明される1870年頃まで使われていたそうである。エバレットさんも1860年代のカメラとレンズを使い、湿版ネガを用いている。木製の三脚にカメラをセットし、それを担いでどこへでも行く。ガラスに液体状のジェルを敷き、撮影現場で簡易テントのようなラボを組み立て、ガラスのネガを作る。露光に時間がかかるので、大抵の場合被写体は15秒から30秒くらいのあいだ動けないのだそうだ。大変な作業である。その気の遠くなるような手間と引き換えに、湿版光画には私たちが忘れ去っていた時間と空間が写りこむ。深い皺が刻まれた職人の手には、積み重ねてきた時間だけがつくる技の気配のようなものが影向しているし、祭りの中心でこちらを見据えている少年の眦には、まっすぐな矜持とでもいうべきものがみなぎっている。だから、光画に圧倒され、魂が揺さぶられるのである。

 そのエバレットさんから、京都で日本文化に関わる人達と食事するからご一緒しましょうと誘っていただいた。これは、是が非でも行かねばならぬ。ま、大阪北区から京都へは、1時間もあれば行けるのである。早速、指定された店へと出向いた。

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 烏丸御池。京都市役所の裏手あたりである。目指す店は、いかにもらしい風情でひっそりと佇んでいる。こういう店は教えてもらわなければ、なかなか探せない。のれんをくぐって、引き戸をガラリ。案内されたのは、カウンターの向こうの和室。すでに鍋の準備も整っている。ほどなく、エバレットさんとそのお友達が来られた。久々にお会いする。相変わらず精力的にいろんな活動をされているようだが、今夜の趣旨は日本文化を愛するものどうしの縁をつないでいただくということだろうか。

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 私はまずは熱燗をいただく。うっかり細かな食材を取材し忘れてしまったが、それは会話に夢中になっているせい。話は日本の染色に始まって、江戸の祭りにまで飛んでいく。お友達のNさんは、染色の専門家で紋様や意匠などにとてもお詳しい。話が弾んでいる間に、テーブルには小さな七輪が置かれ、なんと鱧を焼いている。鱧って夏の魚じゃないの、と思われる方も多いだろうけど、本来の旬は晩秋である。夏よりも脂が乗っていると好む人も多いという。酒が進んでしかたがない。

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 本日のメインは鴨鍋である。こちらの鴨は正真正銘長浜からやって来る。関東の人にはピンとこないかもしれないが、長浜というのは琵琶湖の湖北にある市で、鴨は湖北の冬の味覚として夙に知られている。むろん合鴨ではなく、シベリアから飛来する真鴨であり、天然鴨の猟が解禁になる11月から3月までの限定付きのお楽しみなのである。鴨鍋の旨さを決めるのは、たたき(つみれ)の出来で、鴨の骨ごと包丁で叩き、ミンチ状にしたものをまず鍋に投入する。このたたきからにじみ出る旨みこそが、鴨鍋の真髄である。ひとしきり鍋をいただいた後は、鴨ロースをしゃぶしゃぶにする。このズラリと並んだ美しい色のロースが一人前である。赤ワインが大好きなエバレットさんにおつきあいして、私も鴨ロースは赤ワインでいただく。天然の力をいただくと、身体に野性的な気がみなぎっていくのがわかる。

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 鴨鍋をたらふくいただいた後は、いよいよシメである。雑炊か、と思っていると、こちらのお店では鍋の出汁を使って汁そばをつくってくれる。しまった!最初からわかっていれば、鴨ロースを二切れくらいとネギを残しておいて、鴨南蛮にできたのに!後の祭りであるが、鴨のエキスをじんわり含んだ出汁とそばだけで、じゅうぶん美味しい一品であった。当然、汁は最後までずずいと飲み干す。

 食事が美味しいと、盛り上がった話も忘れ、ついつい飲みと食に走ってしまうのは、いたしかたないし、いつものことである。今宵もそんな素晴らしく美しい夜であった。エバレットさん、今度はぜひ東京で。いや、思いっきり辺境で、というのもいいかもね。

2015-10-21 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

三宮フレンチ「マロニエ」

 年に一度か二度ほど一緒にご飯を食べる妹分のようなコたちがいる。私は基本的に、キレイな女のコたちが好きなので(誰だって好きか・・)、こういうお誘いは大歓迎である。週末の三宮で、というご指定だったので、さてどこにしようかと悩んでいたら、彼女たちが何度か行ったフレンチにしましょうということになった。

 はじめての店はどんなジャンルであれ楽しみである。しかも週末よく徘徊している元町近辺。縄張りである。

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 待ち合わせの刻限、店に向かう。朝日ホールの山側の路地を入ったところの二階。ふーん。こんなところにフレンチがあったのね。エレガントな内装の店内は、すこぶる感じがよい。すでに集合していた妹分たちとまずは乾杯である。こういうシチュエーションでは、当然シャンパンをいただく。が、こちらのお店、シャンパンボトルは3本しか種類がない。しかもどれも価格が一緒である(と記憶している)。なので、まずはピエール・カロのブラン・ドゥ・ブラン。ラベルの上にノン・ドゼとあるのはあえて辛口になるよう、瓶詰めのときに糖分を加えていないという印。すっきり辛口のテイストである。

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 驚いたのは、シャンパングラスである。ご覧のようにトレーにいろんなカタチのグラスを乗せ、好きなのを選ばせてくれるのである。好きなお猪口を選ばせるというカタチを取っている和食はよく見受けるが、フレンチで見たのは初めてである。こういうの女性には人気なんだろうなと思う。このアイデア、店でというより自分の家で人を招くとき(あんまりやらないけど)に応用できそう。家にあるグラス類って、たいてい割ってしまったりして数が揃わない。なら、いっそ、お気に入りをひとつずつ買い揃えるという方法があるじゃん!と気づく。そうなのよね。バカラとかセットで買うのは大変だけど、一個づつならなんとか買える。

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 さて、今宵のメニューである。まず前菜に驚かされる。どこから見てもデザートである。白い皿に乗っているのはオペラ(チョコレート菓子の)をイメージした鴨のババロア。グラスの中にあるのはチョリソーのマドレーヌ仕立て。黒いお椀に入っているのはカリフラワーのスープ。クランチしたブラックオリーブを入れて食す。なんだか、楽しい仕立てである。こういうのをアミューズというのだろうね。二品めは、春の野菜畑。ホタルイカ、シマアジ、白魚、寒ブリ、平目の昆布締めなどをそれぞれ美しくデコレーションし、春野菜をアソートした一品。こういった魚や野菜を使い、創意工夫を凝らしたプレゼンテーションをするのは昨今のトレンド。女性にはこういうのも受けるのであろう。美しいとは思うが、おっさんの私には量が少ない(笑)。

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 この二皿が出てくるまでに、かなり時間がかかったので、シャンパンは予想通りすでに二本目である。今度は、リシャール・シュルラン、ブリュット・カルト・ドール。ピノ・ノワール勝ちなので、さすがにエレガントな味わい。ま、このクラスであれば、何を飲んでも外れはない。

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 続いての皿も、え?ティラミスと思うが、ここはイタリアンでもないし、最初のデザート仕立ての皿で、こちらのシェフの手の内はわかっている。これは、北海道のじゃがいものパンケーキなのである。中には帆立も隠れてい、シャンパンときのこのソースがかかっている。スフレのような一品の下には、明石の鯛。まわりを取り囲んでいるのは春野菜たち。ここで口直しのブラッドオレンジのソルベをいただいて、いよいよメインである。千葉産の牛ヒレ肉のロースト。トリュフと赤ワインのソース。すでにシャンパンも尽きたので、この皿に合わせてグラスで重めの赤をもらう。

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 最後は、またしてもプチソルベ、そして苺のシャンパンとプチ菓子のデザートをいただいた。

 今宵は、おしゃべりが主体なので、こういうきれいなフレンチでも満足である。この後、バーでいっぱい飲んで解散したのだが・・・私は家の近所の天皇バーにふらふらっと立ち寄ったはいいのだが、あろうことか深夜にオムライスを食するという暴挙に出てしまった。本音では、食べ足りなかったということであろう。ほんとにおっさんである。いや、おっさんではなく、中学生か。

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2015-10-16 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

舟和「芋ようかん」

 昔からここの芋ようかんは大好物である。

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 年に一度、浅草へ新春歌舞伎を観に行く。これは若手による花形歌舞伎というもので、ここ数年は応援している尾上松也丈が出ることが多いので、コンスタントに通っている。浅草公会堂は浅草寺のすぐ隣にあり、開幕前や幕間に仲見世通りやオレンジ通りなどをうろついていて、本店を発見した。
そうか、こんなところにあったのね。

 大昔の関西では百貨店の催事でしか手に入らなかったが、気がつけば新幹線の品川駅でも売るようになったので最初の頃こそ何度が買ったが、いつでも買えると思うと有り難みがなくなるものである。が、それでも、本店というのはとくべつである。

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 本店での人気ナンバーワンはもちろん芋ようかんである。が、あんこ玉も美味しそうである。しばし悩むが、おみやげにもしたいのでやはり芋ようかんが王道であろう。こちらの芋ようかん、甘藷(さつまいも)を一本一本手で皮をむき、砂糖と塩だけで作る。だからさつまいもの素朴な味が活きた、飽きない味になる。日持ちしないので、店では秋冬の食べ方として焼芋ようかんというのもすすめている。オーブントースターで焼き目をつけたり、フライパンにバターを落とし焼くのである。私は、食べ飽きたときは、適当な大きさに切り芋きんつば風にして焼く。バターをたっぷりまぶして焼き、シナモンなどをかけるのもおすすめである。

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 そして本店では、芋ようかんのソフトクリームというなんとも魅力的なものまで売っていた。芋ようかんが入っているのである。このポテトチップスのようなものもさつまいもでできている。芋金貨というお菓子である。クリームの舌休めにときおりポリポリ。ふっふ、これは歌舞伎の幕間のおやつとしてはちょうどいい。店先の小さなベンチに腰掛け、ゆっくりと味わう。寒い季節ではあるが、芋ようかんというのはなんだか焼き芋を連想するので寒くはない。

  店頭を観察していると、芋ようかんやあんこ玉とともに“すあま”というのが飛ぶように売れている。“すあま”?「すはま」の間違いではないのか、と思うのだが、何度確かめても“すあま”とある。それにどう見ても「すはま」とは別物の紅白の餅菓子のようである。

 「すはま」は洲濱と書く。関西ではおなじみの大豆粉に砂糖と水飴を合わせ練った和菓子で、しゃりっとした感触がきなこ好きにはたまらない。、京都の植村義次のはあまりにも有名である。が、こちらの“すあま”は、たぶん素甘ということであろう。調べてみると、やはり餅菓子の一種で上新粉に甘みをつけ蒸したものであった。これはこれで美味しそうなのである。来年の浅草新春歌舞伎に行ったら、“すあま”にも挑戦してみよう。

2015-10-15 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

同心「大阪とらふぐの会」

 噂を聞いたことはある。

 大阪に、完全会員制のふぐ専門店のあることを。何でも住所電話ともに非公開で、会員に連れて行ってもらわないと入れないという。ネットで調べてみたら、そこにはこう書かれている。

ご来店に関して

当店は、ふぐ愛好家の集まる隠れ家的店舗になっております。
会員制のため住所・電話番号は公開しておりません。
当店でのお食事につきましては、現会員様(ファミリー)とご一緒にご来店いただくか、もしくは現会員様(ファミリー)よりご紹介いただくことにより、当会の会員様(ファミリー)とさせていただきます。

 噂は本当なのである、ところが蛇の道は蛇とはよく言ったもので、ここの三番目にできたPREMIUMという店、我が社から歩いて100メートルくらいのところにあるのである。我がメインクライアント様の社屋の向かいなのである。しかも。我がクライアント様のお偉いさんたちは、あろうことかここの会員なのである。これを僥倖と言わずして何をか言おう。

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 ある夜の会食。「ふぐは好き?」と問われ、一も二もなく「好きに決まってますよ」と返事を差し上げると、どうも件の「とらふぐの会」に連れてってくれるらしい。シーズンなので、早い時間の予約しか取れなく、スタートは5時半である。会社から這ってでも行ける距離である。何の問題もない。そして約束の時間にその店に向かう。

 マンションである。入り口はオートロックになっている。どこにもそれらしい表記はない。知っている人だけがその部屋番号を押せるのである。ファンキーなシステムである。やがて応答があり、ロックが解除された。エレベータに乗り11階をめざす。ドアが開くと、そこには和風の門構えが出現する。紛れもなくそこはふぐ専門店なのである。

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 個室に通されたが、なんとマンションの高層階の庭に日本庭園があるのである。竹が植えられ、灯籠が鎮座し、灯りが妖しく発光している。全員そろったところで、さっそくのふぐコースである。

 こちらで使っているのは、すべてとらふぐ。体重2〜3キロ前後の大型ふぐがメインであるそうな。うふふ、美味しそう。まずはヒレ酒を注文しなくっちゃ。

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 こちらのヒレ酒は「炎のナイアガラ」と呼ばれる。何故かというと、ヒレ酒がやって来ると部屋の電気を消し、ヒレ酒を豪快にじゃぶじゃぶさせて、さらにそこに日本酒を注ぎながら火をつける。青い炎を滝に見立てているのである。いやあ、大した趣向であるよ。こういうベタさは大阪ならではであろう。ヒレは香ばしく焼かれ、ふぐの出汁もたっぷり出ている。旨いっ。

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 料理は最初に、皮の湯引きが出る。金粉が乗っている。コリコリの食感。美しい緑釉のかかった織部に敷かれているのはてっさ。薄造りの身で葱と辛めの紅葉おろしをくるりんと巻いて食する。ポン酢も徳島のすだちをベースにしているそうで、たいへんに好みの味である。ヒレ酒にはやっぱりてっさだなあと目を細めながら、たちまち平らげる。続いて出されたのは、なんとアレ。こんなの食べて大丈夫なのか?と思いながらも箸が止まらない。意外とあっさり。そしてヒレのスープ。なかなかよい按排の味である。

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 こちらのメインは焼ふぐである。焼き肉のように焼くのである。皿に載ったふぐの身は二種類。遠江という表皮から三枚目の皮と遠江のひとつ内側になる三河という部位を使う。ふぐの部位にこんな乙な名前がついているとは今まで知らなんだ。ふぐには皮が三枚ついているらしい。二番目の皮には身に薄皮がついており身皮と呼ぶそうで、それが転じて三河になったのだという。で、その隣の皮が遠江(とうとうみ)とはなんと洒脱なネーミングであろう。こういう見立ては日本ならではの遊び心であるな。すべての部位を特別なオイルでコーティングしている。直火で焼くと、水分が逃げずぷりりとしたゼラチンたっぷりの旨味が味わえるのだそうだ。それにしても、後が詰まっているからなのか、皿はどんどん運ばれて来る。こちとらの食するペースが早いからいいようなものの、こう矢継ぎ早では息つく暇もない。なので、ヒレ酒をまたしても注文する。しかし、この焼ふぐの味わい、ふぐの概念がかなり変わる。むっちり、もっちり、ぷりり。

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 続いてはおまちかねの白子である。こんがり焼かれて、もうそれだけで中身のとろとろ具合が想像できる。こちらでは出始めの秋口には、白子のお造りも楽しめるそう。白子のお造り。う、う、う。食べてみたい・・・。唐揚げは、あっさり香ばしい。「とげ塩」というふぐの外側についているとげを天日で乾かし、焼いて、特別な塩とブレンドしたスペシャル塩をつけて食べる。さすがに、すみずみまでのこだわりが半端ではない。このあとはてっちりであるが、もうすでにおなかはパンパンである。が、ある程度てっちりをいただかなければ、雑炊の出汁が出ないのである。みんなで頑張る。

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 そして〆の雑炊。ふぐのエキスをたっぷりふくんで、これはコースを平らげたあとの次元の違うお楽しみであろう。幸せである。お腹もぱんぱんである。ぽんっ、と腹鼓を打つ。

 この日二回転するらしく、恐ろしい勢いでコースが出されたのだけが残念である。相棒は、部屋の椅子やじゅうたんにいっぱいしみがついているのが、嫌だと言っていた。圧倒的に年配のおじさま方が接待にも使うことが想像されるので、どうしても汁をこぼしたりすることが多いのであろう(笑)。

 次回は、もう少し遅めの時間にしてもらい、ゆっくりと落ち着いて堪能したい。

 店のホームページによると、一度でもファミリーに連れて行ってもらえば、自動的にファミリーになるのだそうだ。いずれにしても、この店、とらふぐを心から愛する人が集まるエクスクルーシブなファミリー組織であることは間違いない。マーケティング的に見ても、面白い趣向である。

2015-10-09 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

新地「casa M」

 食事をご一緒しましょうとずーっと誘ってくださっていたSさま。が、なかなか互いのスケジュールが合わない。あれやこれやと調整しつつ、年を越してやっと都合が合った。私の誕生日をフェイスブックで見たようで、誕生日もお祝いしましょうというお申し出。素直に有り難く祝っていただくことにした。もちろん私がシャンパンを好きということもご承知である。泡まみれでやりましょうとうれしいメッセージまでいただいた。

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 現地集合である。指定された住所に赴くと、あらら、新地の中にもこんなファンキーな一角があるのね。雑居ビルと雑居ビルの間の路地に突如として出現する赤鳥居。(厳密には赤鳥居に見える鉄柱であるが・・・)そこには、や・き・と・りというファンキーな提灯までぶらさがっている。ほんとうにこの奥にシャンパンを出すような店があるのかしら。おそるおそる足を踏み入れ、突き当たりを左に曲がると、そこにも雑居ビル。そしてめざす店はそのビルの4階にあるのだった。

 ビルの名前を薬師堂ビルという。薬師堂?

 そう、この西側には薬師堂がある。創建は、なんと推古元年(593年)。聖徳太子による四天王寺創建時に建立され「なにわの守護」とされたという由緒あるお堂で、堂島という地名も実はここから来ているのだそうだ。堂島が拓けてからは「堂島のお大師さん」と呼ばれ、人々の信仰も厚かったようである。そのお堂、元々は旧毎日新聞社(今の堂島アバンザの場所)にあったようだが、今の薬師堂ビルのすぐ南側に移され、平成11年に堂島アバンザが完成したとき、再び元あった場所にモダンな建物となって戻ってきた。お堂には薬師如来像や弘法大師像などが安置されているのだそうだ。いやあ、知らなんだ。

 本題に戻ろう。

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 なんとSさまはスペシャルなシャンパンを用意してくれていた。「ローラン・ペリエ グラン・シエクル1990」である。シャンパン好きなら目を細めるエレガントな辛口。おまけに凄いボックスに入っている。しかし、Sさま、今日はたくさん飲むのだからと、最初のボトルは、「コント・ド・ラモット」である。これはこれで美味しいのであるが、少しずつクオリティをグレードアップしていくというダンドリであるな。なんと剛毅なお方、ありがたや。

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 そのシャンパンに合わせて出されたのは、卵の上にオシュトラキャビア、そそてトーストの上に乗せたフォワグラテリーヌ。上にはソーテルヌのジュレが乗っている。卵好きとしては、ダブル責めである。鶏の卵とチョウザメの卵。海と山の幸の幸せな融合である。続いては、足赤海老が刺さったクリームポタージュ。甲殻のエキスをゼリーにしている逸品。たまりません。濃厚な海の香りをシャンパンのまろやかな泡が優雅に包みこんでいく。目を細め、ただただ唸りながら味わう。続いての一品はマグロのタルタルであるが、上に乗っているのはアボカドをアイス仕立てにし、それを削ったもの。まわりに添えられているのはワサビ菜である。ねっとりしたタルタルにシャキッとした冷たいアボガドが、立体的な旨さを生み出す。なんて素敵なマリアージュ。

 ここまでで、1本空いたので、いよいよグラン・シエクルを開ける。

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 で、牡蠣の食べ比べである。伊勢の浦村の牡蠣はスモークオイルをたらしていただく。パスタに入っている牡蠣は五島列島のである。同じ牡蠣でも、産地によって、調理のしかたによって、まったく別の料理になって、お楽しみがダブルになるという趣向。こういうのは近頃の志の高い料理人に共通しており、鮨やイタリアンでもこういうチャレンジをする料理人を知っている。コースが平板ではなく立体的になり、ぐぐっと奥行きが出る。料理もアートであるのだなと実感するひとときである。

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 メイン一品目は、サゴシのソテー。塩加減が絶妙で、これがまたシャンパンによく合う。そして、サゴシの下には、浅蜊のリゾットが隠れているのである。二品目は美濃ポークのロースト。あっさりしているのに、丹精こめて育てられた豚特有の旨味がある。またたくまにグラン・シエクルが空いてしまう。ふう。なんてこった。しかたがないので、「ギィ・シャルルマーニュ」をグラスでいただく。至高のブラン・ドゥ・ブランである。デザートはチョコレートムースとココアのアイスクリーム。

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 泡は酔う。気持ちを心地よく蕩けさせてくれる。もうメインあたりから、呂律がまわらなくなっている。が、それはそれでいいのである。幸福である。口福でもある。Sさま、ありがとう。本当に泡まみれの夜でした。

 それはそれとして、今度新地に来たら、酔っ払ってしまわないよう薬師如来さまにお参りして行こう。

2015-10-02 | Posted in 千夜千食Comments Closed