2015-09

南森町「宮本」

 「宮本」に関しては全月制覇を目論んでいるので、畢竟この店の登場回数は多くなるだろう。すでに5回目(第2夜第67夜第111夜四回會)である。今回は正月編。といっても、もう松の内は終わっているのだが、そこはやはり日本の季節にとってひとつの節目になる大事な月である。メニューはそれなりに正月の気分に満ちているに違いない。期待感を携え店に向かった。

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 こちらの外観であるが、マンションの一階とは思えないしつらえで、玄関には信楽(たぶん)の大壺にいつも季節の花が投げ込まれている。今月は、南天に松があしらわれ、これは門松を意識してのことだろう。玄関に入る前からその季節のメッセージが感じられるのは、やはり和食の醍醐味である。

 ところで門松をたてない暮らしになって久しいが、今の小学生に聞いたらどれくらい知っているのだろう。宮本のすぐ南側には堀川小学校がある。ここは天神橋商店街という商業地のど真ん中にあるので、父兄の多くは商売に携わっている人も多いであろうから、こういう習慣は親が教えているだろうか。いや、もう門そのものがある家も少なくなっているし、この辺はマンションも多いから、きっと知らない児童の方が多いだろうなと想像する。天満宮も近いし、天神祭のときは神輿も練り歩く土地柄である。教師にとっては日本の文化を教える絶好の地であると思うけど、実際はどの程度教えているんだろう。私がもし教師なら、学校のすぐ北側のお店の玄関に飾っている花を毎月観察してごらんくらいは言うだろう。こういう素晴らしい文化をスルーしてしまうのはあまりにもったいないと思う。

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 さて、正月の宮本である。こちらでいつも楽しみにしているのが秋田の銘酒新政のナンバー6であるが、今回はお正月バージョンがあった。元旦搾り2015。純米の搾りたて生酒である。絵馬もついている。年の瀬から新年にかけて搾った生を元日に出荷するというめでたい酒である。こいつあ、春から縁起がいいわえ〜清冽な生の味わいである。まことに、まっこと、めでたい。

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 先付けは甘鯛の昆布締め。鶴の羽をかたどったこのめでたい皿はどうだ。赤い漆の盃と緑の釉が映えて何とも正月らしい風情に満ち満ちている。昆布締めももともとは正月の料理であろう。いい具合に熟成した甘鯛を生酒で味わう正月絶佳。よい心持ちである。次の一品は、このわたの飯蒸しである。ううむ、このわたとおこわ。相性が素晴らしい。そして真打ちのお椀は、こちらもめでたい扇が描かれたお椀で供される。蓋をあけると、白子のしんじょと筍、そしてどん、とどんこしいたけ。馥郁とした香りを堪能しながら、また一献。なんと美しい色合いであろう。造りは、淡路のハリイカと熊本の平目である。どこまでもねっとりしたイカとこりりと歯切れのよい平目の食感の対比。至福であるなあ。

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 扇面のうつわに重ねられているのは島根からはるばるやってきたもろこである。もちろん子を持っている。文句なしに旨い。この酢の加減がまたよい。酒も進む。お楽しみ八寸は、手前から姫クワイ、カラスミ、湯葉味噌漬け、田作り、黒豆、才巻海老、黒鮑の蒸したの、千社唐、イクラと蛤のみぞれ和えである。今年はちゃんとおせちをいただいていないので、たいへんに嬉しい。ひとつひとつ丁寧につくられてものが少しずつ寄せられた八寸、目にも絢で気分も華やぐ。この吹き寄せのようなアソートの方法は日本の文化そのものであるといつも感心する。

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 さて、まわりは黒漆、中央は溜塗にリズミカルなラインを入れたこの素晴らしいうつわ。はて、何が乗っていたのか。すっかり失念してしまっている。写真を撮り忘れるほど美味しいものだったに違いない・・・チェンジした日本酒は山形天童の山形正宗。この辛口具合はたまらない。手前の見込みに鐵と描かれたぐいのみは、私のお気に入り作家さんの作品。いろいろ浮気をしても何杯目かの日本酒のときには、結局これを手にとってしまう。古染付のうつわには、海老と湯葉、ほうれん草の炊合せ。お出汁はもちろんずずいと飲み干す。渋い唐津らしきうつわに入っているのは、富山の白海老とラディッシュ。ううむ。絶妙な味わいである。そして、阿蘇の赤牛のごはん。これも、迂闊にも取り忘れてしまった・・・デザートは苺とポンカンのゼリー。ブルーのガラス器が涼しげである。そして女将お手製のわらび餅とお薄をいただいて、正月のご馳走は終わった。

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 改めてもう一度、床を拝見する。お軸は「松風四山より来る」である。本日の心づくしをすべてありがたくいただいて、心のなかで深々とアタマを下げる。いつも丁寧な素晴らしい仕事をありがとう、宮本さん。

2015-09-25 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

学芸大学「チニャーレ」

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 学芸大学にすっごく美味しいイタリアンがあるの。一度行きましょう。ここ数年仕事を一緒にしているスタイリストのナカちゃんがいつも熱っぽく語る店。店自体がすごく狭いので入れる人数に制限があるうえ、めっぽう旨いらしいので予約を取るのが非常に困難なのだという。そして、何年か前、やっと予約が取れ出向いたのだが、さすがに噂に違わず素晴らしい料理の数々であった。こんな店が家の近所にあったらもうほとんど入り浸り状態になるであろうクオリティで、近くに住んでいるナカちゃんが羨ましいなと心底思った。

 その後、何度も予約にチャレンジして、2回ほど伺った。ところが、シェフの腕前をほしいと思う人はやはりちゃんといるもので、品川あたりにできる大きな店のディレクションをするとか、こちらをたたんでそっちに行ってしまうとか、いろいろな噂を聞いた。その準備のため、店を閉めている日も多いという。ナカちゃん情報によると、直接シェフに電話してOKな日を確認してからでないと行けなくなってしまったのである。しかし、これくらいのことであきらめたりはしない。何度も日程を調整しつつ、やっと久方ぶりにお邪魔することができたのである。

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 こちらの店はカウンター5席のみである。かなりぎゅうぎゅうになって座る。花が活けられたカウンターにはキャンドルが飾られ、所狭しと野菜や果物、生パスタなども置いてあり、壁面の棚にはグラスや旅の本が無造作に並んでいる。シェフがたまたま彼氏で、その彼氏のアパートのキッチンに遊びに来ている。そんな感じの隠れ家然としたコージーなインテリアなのである。そのうえ女性率がきわめて高く、わいわいやっているうちに仲良くなってしまう。いつだったか、私のことを知っているという女性がいて、私も見覚えのある顔だったので、誰だったかしらといろいろ思い出していたら、ここ数年ハマっているブティックに勤めている人だった。そういう偶然もある。実に楽しい。

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 その日のおすすめは黒板に書いてある。いろいろ料理の内容を教えてもらいながら、注文していく。今夜は、まずは青森産平目と鯛のカルパッチョからスタートである。ぷりぷりである。またこの付け合せの野菜が美味しいのである。空豆、菜の花、小さなクワイ。すでに皿の中には春が満ちている。二皿目はのれそれのアヒージョ。大好きなのれそれがオイルの中にたっぷりと閉じ込められている。ワインは「MOLIN」2012 LUGANA CaMaiol。すっきりしたアロマの辛口である。続いてはホワイトアスパラのソテー、カルボナーラ仕立て。たっぷりのパルミジャーノがかかっている。これをすっきり辛口で流し込む。ううむ。まっことシェフは天才である。シンプルなのに奥深い味。卵好きを唸らせるカルボナーラ仕立てとは。参る。参りまする。そして、黒板に書いているときから気になっていた毛蟹のセビーチェ。セビーチェとは魚介類のマリネで、柑橘系の果汁を絞っていただく一品。イタリアではなくペルーの郷土料理であるらしいが、ここは東京目黒区。北海道の毛蟹なんだから、もう日本のイタリアンになっている。それに、付け合せにわらびを持ってくるというセンスに唸る。で、本日のメインは、和牛のイチボステーキにした。この美しい立方体。カリカリのポテトチップスが肉の食感に軽快なオノマトペをプラスしてくれる。普段あまり赤を飲まない私も、これにはブルゴーニュの赤を合わせてしまう。

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大満足であるが、ここに来てパスタを食べないわけにはいかないので、雲丹のペペロンチーノを。ふふふ。これをペペロンチーノって言うのだろうかねえ。盛り沢山雲丹のパスタ、でいいのではないだろうか。それほど贅沢な雲丹の嵐である。当然、馬鹿馬である。パスタを堪能したら、どうしてリゾットも食べたくなって、空豆、菜の花、トマト、ゴルゴンゾーラのリゾットを注文した。春のエキスで炊いたお米。香りも、味わいも、鮮烈である。

 このレベルであるから、これからイタリアンレストランを経営しようかという人が目をつけるのは当然であろう。だけど、カウンター越しに料理の相談をし、調理する姿を見ながら手際のよさに驚き、出来上がった料理を食べてその旨さに仰天する。そんなライブな感覚は、やはりこの規模だからこそ楽しめる特別なエンターテイメントだと思う。できれば、いつまでもここでお店をやってほしいな、と願うのは私だけではないだろう。次はいつ来られるかな。後ろ髪を引かれながら、店を後にした。

2015-09-17 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

苦楽園「はた田」

 恒例のお誕生会である。前回は芦屋川の和食(第18夜)に連れてってもらった。今回は苦楽園なのだという。楽しみだな。

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 その店は、阪急神戸線夙川で甲陽線に乗り換え、苦楽園を降りた高級住宅街の中に突如として出現する。店の構えはあくまでさりげないのだが、灯りの演出といい、入り口のしつらえといい、気配そのものに凛とした研ぎ澄まされたものが漂っており、旨い料理を出す店であることは容易に想像できる。

 友人が予約を入れたとき、招待者の職業を問われたそうである。何故かと聞き返せば、同業の方同士重ならないようにという配慮だったという。プライベートであるし、悪企みをするわけでなし、重なったとしてもまったく問題はない。しかし、どれくらいの範囲で同業とするのだろうな。金融関係なら、大雑把に金融全般なのか。もっと細かく分けているのか。銀行同士は避けるとしても銀行と信用金庫は同席できるのか。街金と郵便局はありなのか。いろいろ考えると面白い。どういう基準で線引きしているのか機会があれば聞いてみたいと思う。

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 さて、本題。最初に出されたのは意表を突くひと品。この白いのは甘鯛と白子のグラタンである。和食好きを標榜しながらも、実はけっこうグラタンが好きなのである。白子とホワイトソース。多層な白に魅惑的な焦げ目のついた香ばしい味わい。これは、馬鹿馬である。第一投は、和食という期待を嬉しく裏切る変化球である。ガツンと一発。こういうので来られると、一気に引き寄せられますな。第二投も出された瞬間、え?何?というひと皿。アワビとブロッコリーを山椒と粒マスタードで和え、そこにどんこ椎茸を加え、銀杏の素揚げを添えている。はじめていただく組み合わせである。これもなかなかイケるのである。日本酒は農口。能登杜氏四天王である農口氏がつくる酒であるが、私はこの旨さを北陸で知った。(第127夜)。なかなか手に入らないと聞いているので、誕生日に出会えるとは運がいい。メインのお椀は、ズワイガニのしんじょ。茶懐石で出されるようなシンプルな黒漆のお椀にさりげなく入れられている。変化球二投が来て、やっと本気でストライクを取りに来たという感じである。スコーン、とど真ん中。しかもきわめて正統で、端正な味である。

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 お造りは古伊万里のような白磁の皿に盛られた松川鰈とヨコワ。鰈の肝、短冊に切られた山芋と芽葱も添えられている。この盛りつけもたいそう美しいし、色もきちんと計算されている。黒のお椀の深遠から、白の開かれた端正へ。ちゃんと美しい流れがある。お造り、もうひと皿はアオリイカと雲丹。こちらも白と雲丹の色の対比が鮮やかである。どの味も文句のつけようがない。旨い。

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 続いての皿は、タコとセロリのジュレがけ。菜の花と子持ち昆布。蕗の薹の天ぷらに厚焼き卵。まだ1月であるが、来る春を待ち望むかのような皿である。季節の先取り。これが和食であり、日本の文化なのである。まだまだ寒い季節だからこそ、やがて来るであろう春の気配に恋焦がれる。そこにまだないものの面影を感じる。日本の想像力とはかくも豊かなのである。美しい緑の織部には、笹がれいの若狭焼き。骨やしっぽはパリパリのせんべい状態になっている。若狭焼というのは、もともとはぐじ(甘鯛)などのうろこの細かな魚をうろこがついたまま焼くのをいうらしく、この笹かれいにも軽くうろこが残っている。軽く一夜干ししているのであろう笹かれいのほどよい塩気と絶妙な焼き加減が織りなす若狭の名物。あますことなく、きれいにいただいた。焼き穴子と大根、水菜とお揚げを炊いたので口中を爽やかにした後は、からすみ茶漬けである。賽の目に切られたからすみにあられ、海苔がすでに景色になっている。これをずずいと頂戴して、デザートの伊予柑ゼリーを楽しんだ。

 変化球を織り交ぜながらの堂々たる完投ぶり。すべてちゃんとミスすることなく受け止めた。こういう組み立ては、やはり和食でしかできない遊びであろう。まず季節がある。素材がある。そして、主題がある。その枠組みの上に、どんな「図」を載せるかは料理人の裁量であろう。そして、洋の素材や方法を使ったとしても、和食という確固たる「地」の上では、その軸はちっとも揺るがないのである。

 日本に生まれて、関西に住めて、ほんとうによかった。

2015-09-09 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

四十萬谷本舗「かぶら寿し」

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 金沢を訪れるのは春から新緑にかけてが多かった。ゴールデンウィーク後半に二泊ぐらいの予定でサッとサンダーバードに乗る。この季節はこの季節で、カレイや岩牡蠣、アジやイカも美味しいし、4月解禁の白エビや甘エビ、ガスエビなどもある。それはそれで、北陸でしかいただけない海の幸ではあったので、冬の金沢は意識の中からずっと抜け落ちていた。

 魚好きとしては、不覚としか言いようがない。蟹と言えば、関西では松葉や越前までで、加能蟹のことは思いも及ばなかったし、ましてや寒ブリのことなど想像もしなかったのである。寒ブリは関西でも流通しているので、じゅうぶんそれで満足していたのである。

 今回、松岡正剛師匠のおかげで冬の金沢に来ることができ、地元で食べる寒ブリの旨さを知ってしまった。そして、かぶら寿しがかくも私の味覚のストライクゾーンにハマるとは。表面に糀がついているし、若狭のへしこの類いであるとずっと思っていたのである(へしことは鯖の塩漬けをさらに糠で漬ける保存食。けっこう塩辛いのであまり好みではない)。ところが、はじめて、食べたかぶら寿しは、端正で上品なかぶらにねっとりしたブリの脂がからむ、極上の味わいではないか。端麗と濃厚。清楚な白と婀娜っぽい桜色。端正と華麗。かりりとまったり。山と海の幸の、まさしく幸せなまでの調和である。

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 まずは錦城楼のコースでいただき、ハッとした。近江町の魚屋さんでもその旨さを確認し、帰る直前のおでんやさんで念を押した。金沢駅で帰りのサンダーバードを待ちながら、名店街をうろうろしていると、目の前にかぶら寿しを売っている店があった。四十萬谷本舗。うん、名前からして旨そうではないか。 このかぶら寿し。馴れすしの一種で、もともとは北陸地方の保存食であった。四十萬谷本舗のホームページによると、藩政後期に「宮の腰というところの漁師が豊漁と安全を祈って正月の儀式のご馳走として、輪切りにしたかぶらにブリの切り身をさはみ麹で漬け込んだものを出しお互い味を競った」とも「前田の殿様が深谷温泉へ湯治に来られたときの料理のひとつとして出された」とも諸説はいろいろあるようだ。「金沢市史」には宝暦7年(1757)頃、年賀の客を饗応する料理として「なまこ、このわた、かぶら鮓」という記録も残っているのだそうだ。この三つは、今だってたいそうなご馳走である。海の幸に恵まれている土地でないと、そうそう食べられないものばかりである。

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 さっそく自分用と天皇バー用に買って帰った。舌の肥えた天皇バーのマスターも、常連のみなさんも、おおいに喜んでくれたことは言うまでもない。

2015-09-08 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

金沢おでん「大関」

 「かにめん」。

 ううむ、初めて聞く単語である。「かにめん」の「かに」は、どう考えても蟹であろう。めんとは、何か。金沢では、カニ漁が解禁になると香箱カニの殻に、カニから取り出した身や内子、みそをきれいに詰め直し、蒸し、それをおでんのネタとするのである。つまり、「めん」は面ということなのだ。

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 ハイパー企業塾の金沢合宿をいろいろお世話くださった方から幹事のW氏が仕入れた貴重な情報である。鮨はもちろん旨いに決っているのだが、金沢に来たらおでんもおすすめですよというサジェッションがあったのだと言う。そこで、塾終了後、まだ電車の時間があるという有志の面々と後帰りの連中で連れ立って、教えてもらった「大関」という居酒屋に繰り出した。が、しかし、予約でいっぱいで入れない。しかたなく、別の店に入ったのだが、ふっふ、私はまだ次の日夕方までは時間がある。5時から開くと聞いたので、翌日帰る直前に寄ってみた。

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 ひとりだったので、すぐさまカウンターに座ることができた。この手の居酒屋にひとりで来ることはほとんどない。もしかしたら、初めてかもしれない。メニューを見ると、ここはおでんも出すが、海鮮もどっさりあるではないか。寒ブリの食べ納めとばかりあるかどうか聞いてみると、がんどならあるという。かんどはブリの小さいのである。注文する。かぶら寿しも当然ある。注文する。あらら、鱈の白子もあるじゃない。注文する。お酒は何にしようかな。「すみません、日本酒は何がありますか」と聞けば、女将さんらしき人が、「ウチは大関しか置いてません」というではないか。そして、ハタと気づく。店の名前が「大関」なのだ。そりゃあ、大関しか置いてないわな・・・。ようがす。大関、上等だ。こういう店で飲む大関、それはそれで悪くない。

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 さてと、海鮮ものを注文した後、おでんがぐつぐついってるコーナーに見に行き、噂の「かにめん」を発見した。センターで鎮座している大きな丸いのは車麩である。その車麩の向こうに、「かにめん」がいる。左手前にも隠れてる。それにしても金沢のおでん、見た目がド派手で楽しいな。バイ貝も有名らしいし、銀杏が入っているのも珍しい。いろいろ悩んだ挙句、「かにめん」、豆腐、牛筋、平天を注文した。「かにめん」はさすがにスペシャル価格でたしか1200円くらいだったと記憶している。おでんとしては高いが、香箱蟹だと思えばリーズナブルともいえる。お味はというと、ううむ、身と内子、みそが渾然一体とおでんだしで煮こまれており、カニの高貴な香りは消えているのだが、おでんだしのファンキーかつ庶民的な味わいにカニがなじんでこれはこれで美味である。お箸で詰められた身を少しずつ殻からほぐしながら食するのである。合間に大関。またかにめん。で、大関、の繰り返しである。

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 こんな贅沢なおでんダネがあるなんて、ほんと知らなんだ。ま、想像するに、冬のあいだ茹でガニやカニ酢ばっかりじゃ飽きるので、ちょっとおでんに放り込んでみたらこれはこれでなかなか旨いやないか・・・てなとこから生まれたんだろうか。香箱ガニを一生懸命ほじほじするのは手間もかかるし、面倒くさい。それがあらかじめほぐされ殻に詰められた「かにめん」は、寒い冬にはこたえられないご馳走だろうと思う。

 そして、旅先の居酒屋で、その土地でしか食べられないものをそこの地酒できゅっと飲る。(今回は大関であるが・・・)今まで、さすがにひとりで居酒屋へはよう行かんかったが、もう大丈夫である。こういうのに味をしめると、旅も、普段も、もっともっと楽しくなりそうだ。

2015-09-02 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

近江町市場の「お昼ごはん」

 ハイパー企業塾合宿の集合時間は昼過ぎ。ちょうどお昼を食べての参加ということだったので、前乗り組で誘い合わせランチを食べにいくこととなった。集合は、駅前の日航ホテル。近江町市場は歩いて5分ほどである。冬のオンシーズンの金沢に来て、サクッとランチというシチュエーションで近江町市場に行かないわけにはいかないだろう。行くのは観光客ばかりとも言われるが、よいではないか。駅から近い中心地にこんな魅惑的な市場があるのである。冬の海の幸がここにはてんこ盛りなのである。

 近江町と書いて、地元では「おみちょ」と言うらしい。すでに元禄時代には今の原型ができ、文化年間には金沢の台所として賑わったという。その歴史は290年というから、江戸時代から金沢の胃袋を支えてきた堂々たる市場である。海鮮、海産はもちろん、鮨屋や丼屋、青果や加工品など約185店舗が軒を並べ、観光客でいつも賑わっている。

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 適当な店にふらっと入って、サクッと海鮮丼をいただいた。寒ブリ、甘エビ、雲丹、蟹・・・。ちゃんとまっとうに美味しい味である。白海老の天ぷらというのもみんなでシェアした。これはこれで、じゅうぶん北陸の海の幸を堪能したという気分にしてくれる。なので、岡島さんと後帰りでもう一泊した次の日もやってきた。この後は帰るだけなので、ちょっと腰を据え、食べたいものをじゃんじゃん注文する。

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 寒ブリのお造り。ノドグロのお造りに焼き物。そしてかぶら寿し。今回感動したベスト3を全部注文した。それらをまだ午前中から熱燗と一緒に食すシアワセといったら!たぶん目の前の市場で売っているものを無造作に捌いてシンプルに出しているだけだろうけど、新鮮このうえない。名だたる鮨や割烹店が仕入れているものとは質は違うであろうが、こういう市場でわしわし食べる魚も実に捨てがたいと思う。

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 食後に市場をうろうろした。丸々太った寒ブリが、一本20,000円で売られている。食後なのに、これを捌いて食べたらどんなに美味しかろうと思う。よっぽど担いで帰ろうか、いや、適当に捌いてもらい保冷ボックスに入れれば持って帰れるな、とけっこう真剣に悩んだ。天皇バーに持って行きマスターに刺身にしてもらい、ついでに飲み仲間がいればみんなで食べられる。カマは煮付けにして、刺身で食べきれないのは醤油につけて次の日に焼いて・・・いろいろ妄想はふくらんだが、天皇バーが休みということもあり、ひとりでは食べきれないと断念した。が、こうしてあらためて写真を見ると、この太り具合はたまりませんな。来年のお楽しみにとっとこうと思う。うん、絶対。 

2015-09-01 | Posted in 千夜千食Comments Closed