2016-01

大阪本町「時分時」

 出張で東京から岡島さん(第142夜参照)がやってくる。一泊するので食事をということになった。上方にはお江戸に負けない鮨や京都にも引けをとらない浪花懐石というのがある。いろいろ考えていたというのに、「粉モン」が食べたいというではないか。どうも、東京の人間は、大阪に来たら粉モンを食べなければいけないと思っているフシがある。いや、わかるよ。わかるんだけど、粉モンってお好み焼きとかたこ焼きのことでしょ。せっかくのお客様を粉モンでというのは、どうも心地が悪い。それに、東京の人間は、大阪の人間はしょっちゅう粉モンを食べていると思っているようでもある。うどん県ならわかる。毎日は大げさでも、週に2〜3回はうどんを食べる。だが、大阪に住んでいるという人が、普通そんなには粉モンは食べない。たしかに、関西生まれ育ちの友人たちの家には必ずお好み焼を焼くためのホットプレートとたこ焼き器があるというから、まあ月に何回かは家で楽しんではいるのだろう。だが、それは普段のシーンであって、けっしてとくべつなものではない。

 粉モンかあ・・・

 そして、はた、と思い出す。あそこがある。あそことは「時分時」である。だが、超人気店ゆえに予約は取りにくい。が、ちょっと遅目のスタートでなんとかカウンターが取れた。

 食いしん坊どうしである。うふふ。

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 まずは、ふわふわのエビパンにクリームソースを乗せた一品。バゲットを鉄板で焼くという発想が素晴らしい。そしておすすめの串焼きをアソートしてもらう。美味しいものを少しずつというのがよい。椎茸フォワグラバター。塩リードヴォー。サーモンイクラ・・・。この彩りといい、盛り付けのセンスといい、期待が高まるひと皿である。

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 明石の活けダコは、酒盗ソースをつけていただく。いやあ、さすがに東京にはこれ、ないでしょう。地の利ならではのご馳走である。穴子を軽く炙ったのは海苔をくるりんと巻いて食べる。真ん中のスティック状になったのは、明太子を干したのである。こういう素材と素材の合わせ技が凄いのよねえ。やはり普段からいろんな食材を食べて、知って、研究して、合わせてみて。ご主人の並々ならぬ探究心が伝わってくる一品である。淡路の玉ねぎは、中がとろとろになっている。このナチュラルな甘みといったら、もうほんま、あきまへん。私って野菜が好きだったのねと、錯覚する旨さ。

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 さて、これは何でしょう。

 あれです。トンペイ焼き。

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 とん平焼きとも、豚平焼きとも書くけれど、これは東京にはきっとないのだろう。案の定、岡島さんも食べたことないというので、注文する。しかし、これは、私が今まで知っているトンペイ焼きではないのである。まず、この高さ。上質のとんかつにするようなお肉を使っている。そのまわりを絶妙にくるんだふわふわの玉子。いや、今までトンペイ焼きって、さほど興味なかったのであるが、これを食べるといけない。こんなに美味しいものだったのかと唸るのである。豚さんの後は、牛さんである。淡路牛のカイノミステーキは塩と金山寺味噌をつけて食べるのだ。カリッと焼いたにんにくがまたこたえられない香ばしさ。

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 〆は二品。もやしそばはここの名物である。最後はどうしたって豚玉を食べないといけないので、こちらには海老を入れてもらう。あまりの旨さに、しまった少なめじゃなくちゃんと一人前作ってもらえばよかったと後悔・・。そして真打ちの豚玉である。ホットケーキのように角が立っている豚玉。神戸のバーでお好み焼き談義になると、決まって大阪の縁が切り立ったお好み焼きなんぞ食べられたもんではないと(第32夜参照)槍玉に挙げられる「あの縁の切り立ったホットケーキのような」お好み焼きである。これが絶品なんである。焼き方の技術だとは思うが、生地にキャベツがほどよくなじんでさくさく、ふわふわ。生粋の神戸の人には悪いけど、私はこういう大阪のお好み焼も大好きである。もちろん岡島さんも大阪流粉モン鉄板焼きをたいそう楽しんでくれたのは言うまでもない。

2016-01-29 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

伊勢丹にある「銀座 天一」

 伊勢丹が悪魔のデパートであることは先刻承知である。わかってはいるがここの品揃えやプレゼンテーションのしかたは大いに勉強になる。いつもリサーチを兼ねてという大義名分を持ちつつ行くのだが、ゴージャスな雰囲気にいつも舞い上がってしまう。そして、つい衝動買いしてしまったりするのであるが、やはりここはそういうファッションヴィクティムを出してなんぼのデパートであろう。とくに充実しているのは、シューズ売場で、早くからニューヨークのバーグドルフ・グッドマンやサックス・フィフス・アヴェニューにならい、ブランドを超えた靴売り場を展開している。あまり公言していないが、実は無類の靴好き、靴フェチである。真っ赤なシャルル・ジョルダンをただ所有しておくためだけに買ったこともあるし、ニューヨークで爆発し靴だけで十足以上買って帰ったこともある。気に入ったデザインの色違いを買うなどすっかりあたりまえの行為になっている。そうでなくとも、履きやすく美しい靴を発見したときは、履く前からこれを履きつぶしてしまったときにどれだけ困るだろうかとうと妙にあせってしまい、同じものを二足買うことだってあるくらいである。

 この日も靴売り場をうろうろした後、大好きな三階で春物を執拗に物色した。ここのリ・スタイルという売場の編集はエッジが効いてて面白いものがそろっているし、ちょうどアディダスとハイクとのコラボの世界先行販売などもやっていたので、つい試着したりしながら遊んでしまったのである。そのうえ、普段あまり行かない呉服売場まで上がったので相当くたびれてしまい、無性にお腹が空いてきた。ううむ、どうしよう。7階をうろうろしていたら、なんと喫煙スペースがあるのを発見した。立派なオープンエアになっていて、すこぶる爽快である。気持よく喫煙しながら、さて夕飯はどうしようと思案していたら、目の前に天ぷら屋があるではないか。

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 東京に頻繁に出張するようになった頃、江戸前の天ぷらは憧れであった。大昔神戸北野にお可川という天ぷらの店があり、当時のこととて滅多には行けなかったが、たいそう風情のある古いお屋敷で、天ぷらを揚げるカウンターからは神戸の夜景が見渡せた。デザートはわざわざ洋風の応接間に移動しいただく。天ぷらの旨さもさることながら、場を替えるというとくべつなシチュエーションにドキドキしたものである。ところが、あるとき店は忽然と消え、以来関西ではほとんど天ぷらを食べに行く機会がなくなってしまった。東京では、山の上ホテルの天ぷらや、天松、みかわ、名人の是山居、からさわなどにも行ったが、どうも鮨ほど気軽には行けない気分がある。が、ここはデパートの中。銀座の老舗らしいが、カウンターが空いていたので、すぐさま席につく。

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 さてと。日本酒の冷たいのをいただきながら、天ぷらを待つ。まずは海老である。天ぷらを食べるようになって知ったのだが、江戸前ではこの小さめの車海老のことを才巻海老と呼ぶ。昔から江戸前のものが最上とされ、10センチ以下くらいの大きさの方が身が柔らかく旨いとされてきたのだそうだ。大きけりゃあよいというものでもないところが、なんとなく江戸っ子らしい感覚である(と思う)。カラッと揚げられた海老は、中がほんのり透明で半生の状態である。揚げの技術だよなと感心しつつ、かぶりつく。お次はきす。これは天つゆをたっぷりつけて。ぷっくりと肥えたしいたけは、海老のすり身を内側に抱えている。半分は塩レモンで、残り半分は天つゆで。次なる一品は、蟹である。え?と驚くほど立派な毛蟹である。こちらも塩と天つゆ両方で楽しむ。

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 アスパラガスもさくさく。天ぷらを食べるたびに思うのだが、天ぷらにするとどうしてこんなに野菜をおいしく感じるのだろう。この長細く黒いのは、雲丹を海苔で巻いたもの。うふふ。茄子もさっくりみずみずしい。小さな魚は鮎である。鮎の天ぷら、たまらんなあ。酒が進む。季節は春であるので、こごみも揚げられる。爽やかな苦味。春の息吹。山菜など普段好んで食べないのに、天ぷらだといくらでも食べられそうな気分になってくる。スパっと半分に切られた帆立は、うっすらと中が生である。青唐でいったん気持ちも舌も落ち着かせて。

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 いよいよ穴子である。ああ、たまらん。鮨のときだって、どんなにおなかパンパンでも穴子だけは食べるのである。天ぷらでも当然である。これを食べないことには、天ぷらを食べたことにはならないのである。穴子の後は、めごち、イカ。海鮮ものオンパレードでフィナーレを迎える。多店舗展開しているこのクラスの老舗であれば、どこで食べてもネタのクオリティは安定しているだろう。後は揚げる技術であるが、天ぷらの場合は揚げたてをすぐ食べられるので何の問題もない。

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 最後の食事は、天丼か天茶を選ぶ。迷わず、天茶。昔の関西では天茶になじみが薄く、長い間一度お江戸で食べてみたいと思っていた恋焦がれている一品である。だから何が何でも天茶を食べる。笑。小柱のかき揚げをごはんの上に乗せ、お茶(店によっては出汁)をかけ、さらさらといただく。小柱も関西ではあまりなじみのないネタである。最近でこそ使う店も増えているが、これも当初は珍しかった。

 そして圧倒的に江戸前と関西の天ぷらが違うのは、油である。関西では、綿実油を使うのが一般的だが、江戸前はごま油を使う。これが大きな違いで、慣れない最初こそ重く感じたものだが、今ではカラッと揚がった中に感じる香ばしさが逆に心地よい。久々の江戸前天ぷら。たまには良いな。

2016-01-26 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

白金高輪「酒肆ガランス」

 白金「モレスク」のオーナー福島さんが、昨年いっぱいで店に立つのはやめるという。ええ〜、なんで〜と聞けば、「モレスク」はナンバー2の前田くんにまかせて、今年からは白金高輪に移転する別の店の助っ人に行くのだと言う。いつもの店で会えないのは寂しいが、まあここだって白金界隈。行こうと思えばいつでも行ける。

 そう思っていながら年が明けたが、なかなか行くチャンスがなかった。が、ある日ふと思いつき、訪ねることにした。店は移転したオー・ギャマン・ド・トキオ(第155夜)があった場所である。

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 ロケーションを知っているとはいえ、新しい店に行くのはやはりドキドキする。店の名前は、「酒肆ガランス」という。酒肆というのは「しゅし」と読む。文字通り酒を飲ませる店という意味だが、さかのぼればこれは中国に端を発するようである。かの地ではなんと紀元前には米の酒が流通しており、春秋戦国時代にはすでに居酒屋のようなものが出現しているのである。唐の時代には、庶民向けの居酒屋ができ、これを「酒肆(しゅし)」とか「酒楼(しゅろう)」、「酒家(しゅか)」などと呼んでいたのだそうだ。

 で、調べてみたら、李白の漢詩にも出てくる言葉であった。

金陵酒肆留別 李白

白門柳花滿店香

吳壓酒喚客嘗

金陵子弟來相送

欲行不行各盡觴

請君問取東流水

 金陵酒肆とある。李白といえば唐の時代の詩人。その時代すでに居酒屋というものが庶民にも親しまれていたことがわかる。そういう非常に古い呼び名である酒肆に、フランス語で茜色という意味を持つガランスという言葉をくっつけているところに、店主の並々ならぬネーミングセンスを感じてしまう。これは料理もおおいに期待できそうである。メニューを見ると意表を突く構成になっている。前菜・野菜・串・揚げ物・温菜・ステーキ・炭水化物・デザートという分類で、フムスやファラフェルがあるかと思えば釜石珍味セットがあり、ガスパチョの隣にはインド風サラダ、サルサピカンテと合鴨のつくねが並んでいる。和洋中だけでなく、中近東、インド、メキシコまで網羅した実に多彩なフュージョン料理である。

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 福島さんが「やっぱり蟻でしょ」というので、蟻(擬黒多刺蟻)とアマランサス入りグリッシーニを注文する。擬黒多刺蟻はクロアリと読む。立派な食用である。滋養強壮に効くらしい。おまけにアマランサスも昨今の雑穀ブームで注目されている。それにしても、こうまで蟻をまぶされると、やはり「ぎょえ〜」と戸惑うことは間違いない。目をつぶってグリッシーニをカリカリするのだが、なんだか口の中が蟻でジョリジョリするのである。別に大好物になるような味ではない。あくまでネタとしていただく(笑)。

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 フムスは、ひよこ豆ベースのニンニクの効いたペーストで、チャパティにつけていただく中東の定番料理。美味しい上に低カロリーで健康にもよいとあって、近頃いろんなところで目にするメニューである。昨今は豆ラバーという人種もいるようで、ひよこ豆の人気はかなり高いと聞く。私はそんなに豆ラバーではないのだが、これを食べるとわかるような気がする。ほっこりやさしくて、滋味がある。続いての前菜は、才巻海老の紹興酒漬け。ねっとりした悪魔のような味である。ここまでの三品ですでにイタリアとトルコと中国と三ヶ国を旅しているような気分にしてくれる。

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 じゃことキャベツのサラダはアボガドオイルドレッシングで食す。じゃこのカリカリとキャベツのパリパリ、その上に海苔がかかった一品。いったん日本に帰国した感じ・笑。 ケークサレで小休止。甘いパウンドケーキに見えるけど、ブロッコリーやきのこの入った塩味のケーキ。が、これはフランス生まれである。せっかく帰国したのに、またフランスに行ってしまう。そうこうしていると福島さんがキッチンに立ち、何やら手早く切ってジャーッと炒めている。で、出てきたのがトマトや胡瓜の炒め物。これがなかなか美味しいの。パリのカフェで小洒落た塩ケーキを食べていたかと思うと、今度は兄貴が手早くつくるプライベートキッチンにお邪魔している気にさせてくれる。

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 さて、メインはどうしよう。メニューの三番目にある串という分類が気になるので、このコーナーから串を一本ずつ頼んでみる。まずはエビのソテー ロメスコソースサルサ・ピカンテ。今度はスペイン気分。ぴりっと辛いソースがエビによく合いますな。次にやって来たのは、手前から合鴨のつくね、豚カシラのソテーサルサメヒカーナ、牛タンにキュウリの白バルサミコソース。ううむ、ここでも日本とメキシコとイタリアが同居した三国同盟である。〆は裏メニューのカレー。たっぷりのキャベツというのがフィニッシュにカレーを食べる罪悪感をヘルシーというキーワードで誤摩化してくれる。

 店は、キッチンをぐるりとカウンターが囲むレイアウト。調理しているのがしっかり見えるから、他のカウンターの人が注文した美味しそうなのを「アレ何?」と聞くこともできるし、 何より素材を切ったり、炒めたりする音がダイレクトに視床下部を刺激しすこぶる楽しい。そこに、客が乾杯する音やカトラリーが皿にあたる音、楽しげな会話や笑い声が加わり、店全体がさんざめき独特の空気を作っている。メニューも国籍やジャンルにこだわることなく、美味しくて面白そうなものをセレクトしているので、自分でいかようにもコーディネイトできる愉快さがある。ファッションや雑貨のセレクトショップはたくさんあるのに、食のセレクトショップってあまり見かけなかったがここにあった。スタンスとしては居酒屋であるから、お腹をすかせてたらふく食べるのも、軽くつまんで酒をメインにするのも、二軒目の〆に使うのも、自分の好きなスタイルで自由自在に楽しめそうだ。
 

2016-01-19 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

新幹線アイスクリーム

 一年のうち三十回くらいは新幹線で東京大阪間を往復している。700系のぞみがどんどん進化するので、今は新大阪から品川まで2時間15分で着いてしまう。たいていはひとりであるのでパソコンを開き、仕事をしていることが多い。そうでなければ、このブログを書いている。かつてイシス編集学校で師範代をしていた頃は、けっこう車内で指南したものだ。いずれにしても、ひとりにしてくれるこの空間と時間は得難く、かっこうのsohoのような場になっている。疲れると車窓の風景を眺め、のんびりする。

 ある日、上りの新幹線が京都を過ぎ、関ヶ原を超え、大垣にさしかかろうとするまさに直前に、心が洗われるような景色を発見した。杭瀬川である。はじめてこの川を見たとき、黒澤明の「夢」という映画に出てくる水車のある村のシーンを連想した。川に沿う土手の柔らかさ、流れる水の豊かさ、まわりの田園に美しい影を落とす木々の伸びやかさ。それは、まさしく夢に描く桃源郷のような田園の風景として鮮やかな残像を脳裏に結んだ。以来、関ヶ原あたりにさしかかるとそわそわするのである。今は河岸工事で南側の眺めはかなり変わってしまったけれど、それでも遠くに見える川辺の風情は今もしみじみと夢のようである。大阪を出るのが夕方になってしまうと、ああ今日は杭瀬川が見られないと落胆してしまう。それほど愛している風景なのだ。

 もちろん好きな場所はここだけではない。晴れた日の浜名湖の景色、とくに夕景は幻想的だし、何度見ても富士山の姿は神々しく、凛として気高い。東海道新幹線はけっこう曲がりくねっているので、下りに乗って左側(大阪に向かって左側のA席)の車窓に目を凝らしていると、一箇所だけ左の窓の後方から富士山が見えることがあるのだそうだ。俗にいう「左富士」。静岡駅を過ぎ安倍川の鉄橋を渡り、左に大きくカーブする瞬間。わずか数十秒のことだというが、私はまだ遭遇したことはない。時間、天候、それに運というものが三拍子そろった幸せな人だけが見ることのできる絶景だ。

 たった2時間15分の旅ではあるが、仕事は捗るわ、絶景は楽しめるわ、何度乗っても飽きることのないのが東海道新幹線の魅力であると思う。

 そのうえ。

 駅弁は積んである種類に限界があるのだが、新幹線スイーツというのが侮れないのである。クッキーも美味しいのであるが、今回ご紹介したいのはアイスクリームである。もともと、私の中では新幹線スイーツといえばアイスクリームと相場が決まっていて、これは大昔学生だった頃に端を発する。その当時、若い小娘だった私(笑)は、新幹線で隣に座ったおじさまによく声をかけられたものだった。もちろんどこへ行くの、どこまで帰るの、大学生か、などと会話するだけであるのだが、そのおじさまの80%くらいがアイスクリームを買ってくださるのである。ずーっと、新幹線=おじさん=アイスクリームという三角の構図が頭の中には出来上がっていた。この習慣がヌケないので、今でも駅弁のあとにちょっと甘いものでも、というときにはたいていはアイスクリームをいただくのである。条件反射のようなものである。通常売っているのはスジャータのプレミアム系アイスクリームであるのだが、ときたま凄いのが隠れている。

 だだちゃ豆アイスクリーム。これは、そんな一品である。

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 最初、え、東北新幹線に間違って乗ってしまったか、と思ったけれど、ホームも車体もまるっきり違うのでそんなことはない(笑)。これは期間限定なのである。鶴岡のだだちゃ豆アイスクリーム。いかにも美味しそうである。そしてそんなに食べ慣れていない、が、だだちゃ豆が美味しいということはそれなりに知っている。わくわくしながら、ひと匙。これはもう隅から隅までず、ずいとだだちゃ豆でできている。う、旨い。やさしく上品な甘さの中に、ほっこりなごむ豆の味。前世が豆だったことをしっかり残した豆々しい食感。舌の上ですーっと溶けながらも、小気味良く後を引く豆の繊維質。癖になりそうな、実に美味なる冷菓であった。なめるというより、さくさくと食べる感覚。

 「だだちゃ」とは枝豆のことである。鶴岡ではお父さんという意味をこめ、だだちゃと呼ぶのだそうだ。(そうだったのか!)そして旬はごくごくわずかであるらしいのだ。たしかに、これ以降一度も東海道新幹線では遭遇できてない。が、去年12月の押し迫りつつある頃には、みかんのアイスクリームというのにも出会った。これも、オレンジシャーベットなどの代物ではなく、みかん、いや蜜柑の果汁がたっぷり入った実に濃厚な静岡&神奈川のアイスクリームであった。あ、もっと思い出した。4月には苺のアイスクリームもあったのである。

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 新幹線で楽しむご当地シリーズのアイスクリーム。普段は、バニラと抹茶しかないのだが、もっともっとバリエーションをそろえてほしい。

2016-01-06 | Posted in 千夜千食Comments Closed