2016-04

大阪天満「じん田」

 お遣い物の和菓子を買いに阪急百貨店の地下食料品売り場に出向いた。菓子コーナーに行く道すがら、実に魅力的な弁当を売っているコーナーがある。足を止めたのは、美味しそうなうな重弁当を売っている店の前。気になる一品があった。

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 三色巻。

 外側は黄金色に輝く卵、黒い海苔、中は何やら食欲をそそるごはんの茶色、そして中央には紛うことなき鰻がおわす。そう、三色巻とは鰻をタレを染み込ませたごはんで海苔巻きにし、さらに外側を卵焼きで巻いた黄・黒・茶の巻物なのである。

 うな丼と、う巻きを足して、食べやすくしたような三色巻。これを持ち帰り、お昼に食べ、まったくなんて味なんだと感嘆し、店の住所を見てみると、なんとご近所ではないか。店があるのは、天満市場の少し北。創業100年の鰻の老舗である。

 まず鰻はすべて国産。主な産地は徳島と愛知らしいが、産地にこだわるのではなく、その時期に旨い国産、良質で安全な国産ということに重きを置いているらしい。そして、初代が戦時中にもタレ壺を肌身離さなかったという秘伝のタレは継ぎ足され、今も守られているという。その国産の鰻を関西伝統の腹開きにし、紀州備長炭で熟練した職人の手技で焼き上げる。三色巻を食べただけでも、旨いのに、鰻の炭火焼きならどんな口福が待っているのだろう。

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 店になかなか行く機会はなかったのだが、会社で歓迎会を催すこととなり、ごはんの部の一部にこれを出すことにした。他にもご馳走はいろいろあるので、一人二個見当で用意したが、さすがに美味しいだけあってなくなるのは早く、アッという間であった。写真のように、こうして大量を大皿に盛り付けると、もうそれだけで凄いインパクトがある。パーティの一品として、これほど活躍するとは予想もつかなんだ。近々に、天満の店の方も訪ねたい。

2016-04-28 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

大阪新地「斗々屋」

 新プロジェクトの決起大会。俗にいうキックオフのための店がなかなか予約できない。第一候補にも第二候補にも振られ、ご一緒する人のことを考えるとやはりしかるべき和食の店が理想なのだが、ううむどうしようと片っ端から電話をしていたら、ここが運良く取れた。

 誰も行ったことがないし、噂を聞いたこともない。店がある場所と名前に賭けてみた。

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 斗々屋というのである。たまらない名前ではないか。

 ここから真っ先に連想するのは、斗々屋茶碗であろう。斗々屋(ととや)は魚屋とも書き、文字通り魚屋の棚にあったのを利休が見出したとか、堺の商人斗々屋が所持していたのにちなむとも言われている。要は、高麗茶碗の一種で、土肌のざらりとした風合いのあるかなりシブい茶碗である。私は伊羅保とか斗々屋のような、興味のない人から見たらただの汚い茶碗に思えるようなシブい枯れた風情がめっぽう好きなのである。

 店に斗々屋とつけるくらいだから、ここはきっと私好みである。期待を胸に新地に向かった。

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 期待に違わずシブい入口。のれんの上には注連縄がかかっている。竹矢来の風化具合も、時代がかった味わい。屋号の文字も墨跡のような素晴らしさ。中に入ると、飴色に変化した壁面や天井などが無言で迫ってくるような心地。かといって、決して威圧的ではなく、むしろ枯淡の趣がある。

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 初っ端からまいった。いや、日本酒の徳利と猪口である。赤玉の赤絵はけっこう時代ものだし、また猪口がシブいったら。これ、萩だろうな。ご一緒している人もうつわ好きなので、目を細めている。最初に出てきたのは、筍とうど、イカ。きれいな色の木の芽のたれでいただく。そして、花見団子に模した鮨。かぶせてある桜の葉をはずすと、ご覧の可愛らしい手鞠鮨があらわれるという仕立てである。しかもお皿は都をどりの団子皿。うーん、なんとも粋な演出ではないか。都をどりとは、この時期京都にある祗園甲部歌舞練場で催される舞踊公演で、京の春の風物詩になっている。この団子皿、歌舞練場の茶席で出されるもので、色は5色あり記念品として持って帰れるのである。串に刺さった団子がつながった意匠は、歌舞練場の提灯と同じものなので、わかる人にはわかるという趣向。なかなかスノッブなはからいであるが、こういうの決して嫌いではない。

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 団子皿で盛り上がっていると、今度は粒雲丹が出される。これをちびちび舐めながら、酒もちびちび。すると即座に釧路の雲丹もやってくる。続いてお造りがもう一品。龍が描かれた赤絵に乗っているのは、目板鰈の縁側、鯛、赤貝、ハリイカ、たいらぎである。いやん、海の幸三連発、いいねいいね。

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 メインのお椀はぐじと筍である。ぐじ(甘鯛のことを関西、とりわけ京ではこう呼ぶ)の旬は秋だと思っていたけれど、これはこれで脂がのっている。たいそう、よい按配である。ひと息ついたところで、春キャベツとホタルイカを酢味噌で和えたもの、そして海そうめんもずくが出される。いいよね、こういう酢の物。ホッとする。

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 焼き物はキンキ。もうほんとにこの魚ったら、なんでこんなに美味しいのだろう。気持よくほろりと骨離れがよく、それでいてむっちりと官能的な味わい。魚好きなので、ひたすら黙々と箸をすすめる。焼き物は何種類かの中から選べ、向かいの人はアワビをセレクト。これも美味しそうである。

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〆の食事は、筍ごはん。麦藁手の茶碗に、おこげの色が映える。これも、視覚効果を計算しての演出だろうかと思うほどの美しさ。

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 相客と何度も、「いやあ、この店いいね」「シブいですね」と話する。奇をてらわない、高いクオリティの正統派料理。それを、押し付けがましくもなく、主張するわけでもなく、実にさりげなく、きわめて淡々と供している。ご主人はこの道何十年といった雰囲気を醸し出している。きっと店を開いたときから、こういうスタイルでずーっとやられているのだろう。大阪新地のシブい懐石。うん、いい店を見つけたもんだ。また、ぜひ。

2016-04-25 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

両口屋是清「をちこち」

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 両口屋是清といえば、「をちこち」である。昔、飲み友達だった山ちゃんが、名古屋に出張に行くから土産にをちこちを買ってくるぞおと連呼していたことを思い出す。彼は茶人でもあったので、をちこちの旨さについて大いに語っていた。それよりもずっと前にはコマーシャルで「を〜ちこ〜ち」と歌っていたのもよく憶えている。それに、何と言っても遠近と書いて、「をちこち」と読むのだと学んだのは両口屋是清さんのおかげである。

 万葉集にも「をちこち」は出てくる。

 『〜ももしきの 大宮人も をちこちに しじにしあれば 見るごとに あやにともしみ 玉鬘〜』これは聖武天皇が神亀二年夏、吉野の離宮に行幸した際に笠朝臣金村が詠んだ歌の一部である。大伴坂上郎女が詠んだ相聞歌 『真玉付く をちこちかねて言はいへど 逢ひて後こそ 悔いにはありと言へ』の中にも登場する。

 をちこちとは遠近であり、あちこちでもあり、彼方此方であり、つまりはhere とthereでもあるのだ。なんと含蓄のある美しい言葉であろう。うっとりするほど典雅でもある。

 両口屋是清は、寛永十一年創業。三百八十年の歴史を誇る名古屋の老舗である。銘菓「をちこち」は、はるかな山々の風情をイメージして名づけられたのだという。たしかに見るからに上品な風情である。真ん中に挟まれているのは羊羹に見えるが、これは大納言小豆を使った粒餡村雨である。そのまわりには白村雨、外側にもそぼろ状になった村雨餡。そう、「をちこち」とは村雨を五層にした贅沢な菓子なのである。

 村雨をご存知ない方に説明しよう。村雨とは、小豆と米粉と砂糖で作られた蒸し菓子(だいたいは棹物になっている)で、「をちこち」の外側のようにそぼろ状のつぶつぶ感があるのが特徴。生餡に米粉と砂糖を混ぜ、蒸すことで、この独特の形状になるのだという。村雨とは、にわか雨、通り雨、驟雨をさすが、そぼろになったつぶつぶをぱらぱらと降る雨に見立てたネーミングの妙には唸らされる。もともと和菓子の見立て力というものそうとう凄く、アタマに浮かぶのだけでも、時雨とか、鹿の子、錦玉、金鍔、洲濱、八ツ橋、落雁などなど枚挙にいとまがない。「をちこち」の真ん中は粒餡、白いのと外側はこし餡である。少しずつ村雨の状態を変えることで遠近を表現しているのかと気づくと、これはなるほどと膝を打つ絶妙な計算である。美しく凛とした五層構造でありながら、口あたりはほろほろっとやさしいところが昔から大好きで、世に言う(私の中だけかもしれないけれど・・・)村雨御三家はすべて試して、一等好きなのがこちらの「をちこち」なのである。

 ちなみに御三家のあとふたつは、京にある。鶴屋吉信の「京観世」と俵屋吉富の「雲龍」である。「京観世」はうずまき状にぐるぐると小倉餡と村雨を巻いたもので、こちらも観世水に見立てて京観世と名づけられているし、「雲龍」は巻き方を少し変形にすることで雲に乗る龍の姿を表現している。どちらのネーミングも秀逸であるだけでなく、それぞれの老舗の看板商品となっている。

 名古屋駅で久しぶりにもとめた「をちこち」。家に戻ってさっそく少し切った。抹茶を切らしていたので、煎茶を濃く淹れいただいた。村雨は口のなかで、ほろほろと溶けた。

2016-04-21 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

名古屋「あつた蓬萊軒」

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 仕事柄、東京日帰り出張というのがちょくちょくある。時間に余裕のあるときは、東京で食事して帰ることも多いのだが、この日、突然に、無性に、鰻が、それもひつまぶしが食べたくなった。そういえば、昔、名古屋で食べたひつまぶしはやはり美味しかったよなあと思い出す。思い出したとなると、もうアタマからその映像が離れない。ご丁寧に匂いの記憶までついている。

 そうなると、もういてもたってもいられなくなり、スマホで名古屋の松坂屋の営業時間を調べる。営業時間は22時まで、ラストオーダーは21時。時刻は18時過ぎ。今だったら、楽勝で行ける。よし、決行だ。結構だ。

 名古屋で途中下車となると、品川から名古屋まではあっという間である。勝手知ったる名古屋駅を飛ぶように走ってタクシーをつかまえ、一路松坂屋へ。たしか、あそこの「あつた蓬萊軒」はけっこう並ぶんだよなあと逸る気持ちをなだめながら、それでも小走りで向かう。すると、意外にすいており、あっけなくスッと席に案内された。

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 ふっふっふ。急に気が大きくなってきた。酒だ、酒だ。春の宵である。純米国盛というのをぬる燗にしてもらう。で、う巻きを注文する。鰻が食べたくて来ているが、卵は別腹である。ついでにきも焼も言う。忘れてはいけないので、一緒にひつまぶしも注文する。よしと。これで、心置きなく、ゆっくりできる。

 う巻きやきも焼をアテに国盛をちびちび楽しもうと思っていたら、いきなり女のコがひつまぶしを持ってくる。えっ。なんで今なの。思わず、「あのね、まだお酒飲んでるから、もう少し後に持ってきてくださるとうれしいんだけど・・・」とお願いする。うーん。お酒や肴を注文しているのだから、いつお持ちしましょうかのひと言があってもよさそうなものだ。居酒屋じゃないんだし。それよか、隣に座っているおじさん、ひつまぶし注文したよ。(と、心の中でつぶやく)私の予想では、私用に運んで来たひつまぶしをいったん引っ込め、それなりの時間を置いてそれを隣のおじさんに持って行くのだろうなと思っていた。それなら、合理的だし、誰も損しない。ところがである。あろうことか、その女のコ。私のひつまぶしを、何の躊躇もせず、隣のおじさんのところに置いたのである。いや、たしかに、私の分のひつまぶしが最終的に隣のおじさんに出されるとしてもだよ。それは見えないところでやらないといけない。隣の人用に出されたひつまぶしを、後にしてと言われたからと言って、じゃあ、これお隣さんに、はないだろう。おじさんにはすべてのやりとりが聞こえているのだ。いくら手を付けていないといっても、気は悪い。私がおじさんだったら、「あ、それじゃ、それ私がもらいます」と言うかもしれないけど。

 こういうのには配慮というものが必要であろう。ちょっとした機転さえあれば、店も、隣のおじさんも、聞いている私だって、気持ちよくなれるのに。隣のおじさんは、何も気にせず、置かれたひつまぶしを食べている。「すみませんね。こちらのが行ったみたいで」と言うと、「いやいや」と実におおらか。心のなかでアタマを下げる。

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 そうこうしているうち、お酒も残り少なくなったので、改めてひつまぶしをお願いする。小さなお櫃に、ぎっしりと鰻の蒲焼きが隙間なく並べられている。うんうん、これを食べたくてわざわざ途中下車したのだよ。まずは、見た目を楽しむ。ひつまぶしという名称は、ここあつた蓬莱軒の登録商標であるらしい。名前の由来で有力なのは次のふたつ。ひとつは、お櫃のごはんに鰻の蒲焼きをまぶしているからという説。もうひとつは、関西での鰻の呼び名まむしからなまったという説。前者のほうが、なんとなく気分ではあるな。

 食べ方は基本は好きなように食べてもちろんいいのだが、店は次のような食べ方を推奨している。まず。お櫃のごはんに、十字ですじを入れ、四等分する。一膳目。四分の一を茶碗によそい、鰻ごはんとしてまずは味わう。二膳目。四分の一をよそい、薬味のネギ、わさび、海苔などをかけて食べる。三膳目。また四分の一をよそい、薬味を盛り出汁をかけ、うな茶漬けにする。四膳目。いちばんお好みの方法で食べる。

 食べ方のスタイルを少しずつ変えるというだけで、鰻ごはんを食べる行為ががぜんエンターテイメント性を帯びる。ひつまぶしは、ひとりでも遊べるその典型のようなものだと思う。私がいちばん好きなのは三膳目に推奨されているうな茶漬け。なので、二膳目の途中から出汁をかけて食べる。三膳目も四膳目もうな茶漬け。ふふふ。

 あつた蓬莱軒の本店は、熱田神宮の門前町にある。この地は東海道の陸と海の分岐点であると同時に、東海道からだけでなく、美濃路、佐屋街道からも交通と文化の集まる場所で、江戸時代には東海道五十三次の四十一番目の宿場町として東海道随一の賑わいを見せていたそうな。創業は明治六年。当初は料亭としてスタートし、出前が多かったため、大きなお櫃に数名分の鰻丼を入れるようになり、それが今のひつまぶしのカタチへと発展した。備長炭で香ばしく焼いた鰻に、140年継ぎ足しているという秘伝のタレがからんだひつまぶしは、間違いなく名物といえるだろう。

 松坂屋店にしか行ったことがないので、いつかは熱田神宮参拝に帰りに本店にも行ってみたいと思う。

2016-04-15 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

六甲道「磯料理 魚とし」

 磯料理と聞くだけで、わくわく心躍る魚好き。なにしろ「磯」である。魚でもなく、活魚でもなく、海鮮でもなく、「磯」とエリア名をつけているのに好感が持てる。釣りをする人なら磯釣りとかでおなじみだろうが、そもそも磯という言葉自体が私にとっては非日常。だけれど、美味しい魚が磯で釣れることはわかっているので、何か妙に食いしん坊の琴線に触れるのである。

 調べてみると、ひとくちに磯と言ってもかなり広範囲で、細かい磯用語があるのには正直驚いた。シモリ、ワンド、ワレ、ハエ、ハナレ、ハナ、サラシ、ハケ、グリ、チョボ、コジ、ハケ・・・・ちんぷんかんぷんであるが、どんなものにも専門用語が細かくあるという発見が面白い。たしかに、私の好きな歌舞伎や文楽、うつわや着物だって専門用語だらけで、知らない人にとっては私が磯用語を聞くようなものだろう。

 そんな磯料理の店である。ここは、一時ウォーキングに熱中していたとき、家の近所を歩き回っていて発見した。外から中の様子がほとんど見えないので、超地元の人のための居酒屋かしらんと思っていたのだが、あるとき「あまから手帖」の神戸特集に紹介されていたのである。魚料理が非常に充実しているとあった。店主も元魚屋であるという。これは行かねばなるまいて。

 予約当日。意気揚々と店に入る。左にカウンター、右にはテーブル。カウンター真ん中に陣取ってメニューを見ると、本日のおすすめ天然魚とあり、ズラリ魚のオンパレードである。さすがは磯料理。しかも、書かれているのは料理名ではなく、素材名と調理法のみ。

長崎  ノドグロ 炙り
富山  白エビ
石川  神馬草 ボイル
徳島  石鯛
山口  剣先イカ 刺身
高知  金目鯛 刺身
淡路  太刀魚 刺身
長崎  宝石ハタ 刺身
長崎  赤ハタ 刺身
長崎  スジアラ 刺身
北海道 キンキ 炙り
北海道 ウニ
三陸  あわび 刺身
長崎  アコウ
長崎  ブリ
淡路  黒メバル
淡路  真鯖
愛媛  マナガツオ
淡路  イイダコ 煮つけ
石川  キアラ
淡路  あいなめ
大分  本鮪頭肉 ネギトロ
島根  岩ガキ 刺身
徳島  イラ 炙り
徳島  キツネ鯛
鹿児島 歯ガツオ 刺身
長崎  ヒゲ鯛
長崎  姫鯛 刺身
徳島  イトヨリ 刺身
淡路  甘手ガレイ 刺身
明石  あなご

 どうです。このラインナップ。なんと31種類。キアラとかイラとかキツネ鯛なんて、初耳である。名前のヨコに炙りとか刺身とあるのは、その状態で食べるのをすすめているのだが、煮ても焼いても食えるものばかり。気になる魚を店主に聞いて、どう食べるのがよいか相談できるなんて、なんと贅沢な店なのだろう。唸る。いや、ほんま唸る。

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 メニュー以外にも目の前に美味しそうな鉢がある。なので、まずはイイダコの煮つけを頼んだのだが、どうですこの立派なこと。頭の中にぎっしりつまったイイ。もうこれだけで、ここはいい店だと確信できるクオリティ。少し肌寒い日だったので、酒はぬる燗。地元の小料理屋のカウンターで、目の前の海で捕れたイイダコをつつきながら、リタイアしたら、週一くらいでこういう生活をしたいと妄想しながら、酒をちびちび。いや、ぐびぐびか。

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 刺身はノドグロは食べたいと宣言し、後は今日の活きのいいの(ま、全部だろうけど)で食べたことないのもリクエストして、盛り合わせにしてもらう。魚って、きっと全国の磯の数だけ夥しい種類があるのだろうし、呼び方だって違うと思うが、それでも初めての魚を食べるのは新鮮な気持ちになる。刺身に合わせて、おすすめの日本酒もセレクトしてもらう。新政の美山錦、やまユという純米。木桶仕込みのうるわしい香味。これをワイングラスでいただくという趣向。いいねえ。青いラベルは業界で青やまユと呼ばれているそうだ。(白やまユとか、緑やまユなんてのもあるらしい・・・)

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 メインは、キンキの煮付け。これはもうメニューを見たときから決めていた。煮付けの王者。いや女王か。煮付けはやはり赤魚系に限る。いや、カレイも好きだけどね。しかも、これ、タグ付きである。北海道網走。釣キンキで活〆とある。こんなに自慢げにタグがつくと、なんだかうれしいな。そして、また大将の味付けの上手いこと。醤油と砂糖の甘辛バランス、いやあ、気に入ったぞ。ほっこりした身がきもちよく取れていく快感。ほっこりを口にすれば、ほろほろと溶けていく愉悦。きれいにきれいに骨までしゃぶって、猫またぎの女になる。

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 さてと。キンキでよしておけばよいのに、デザートに穴子の天ぷらを頼んでしまう。いやさ、穴子も好物なんだけど、たまには豪快にぴちぴちを天ぷらにしてもらうのいいではないか。しかし、この量だ。またしても、おなかぱんぱんになったのは言うまでもない。

 こちらは、美形若衆兄弟とお母さんによる完全家族経営。お兄さんが調理を、弟さんが酒をセレクトしてくれる。働き者で、頼もしくて、その上美形のこんな息子たちがいてお母さん幸せ者だよなあと、心の中でかなり羨ましく思う。老後の楽しみのためにも取っておきたい店である。

2016-04-13 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

神戸三宮「やす桜」

 年に一度ほど金沢を訪れていると、自然となじみの店ができる。ま、ほとんど鮨と天ぷら、後はうつわの店や雑貨屋さんであるが、ここ「bar quinase」(第73夜)も夜に必ず立ち寄りたい店である。去年だったか、神戸が好きでよく行くという話を聞いたので、おすすめの鉄板焼きを紹介したことがある。その後伺ったときに、鉄板焼きどうだった?と聞けば、たまたま神戸に行ったときはその店が休みだったようで、偶然街をブラブラしていたときに巡り着いた串揚げの店がなかなかよかったと言うではないか。しかも、店主は金沢出身。(正確には石川県出身だったかもしれない)金沢から神戸に旅して、たまたま行った先の店主が金沢出身。そうそうあることでもないだろう。その、実に不思議な縁がつながって教えてもらったのが、ここである。

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 神戸の店を金沢の人に教えてもらう。なかなか面白い。ファンキーではないか。いや、ほんま、こういうの好きよ。これも縁というものであろう。店があるのは北野坂。懐かしいな。大昔の遊び場だ。若い頃はこのへんでぶいぶい言わせたものである(笑)。

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 串揚げというもの、学生時代の彼氏とよく行った(三宮になかなかの名店があった、もうとっくにないけど)ぐらいで、その後はそうそう縁がない。なので、これをご縁に通いたいとも思い、予約を取った。エントランス、ええ感じである。旨そうな気配に満ちている。表記は串揚げではなく、「串あげ」。おまかせを頼むと、最初に菜の花の湯葉あえ、ホタルイカの酢味噌あえが出る。酒は手取川の純米辛口。これは新酒第一号で「冬」バージョン。さすがに石川出身のご主人らしく手取川のスペシャルなのがある。うっすら濁ったみずみずしい新酒は、串あげに合いそうだ。

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 目の前に並べられたのは四種類の調味料。右から竹炭塩、海苔塩、醤油、信州駒ヶ岳のソース。お好みでお好きなのをどうぞという趣向である。最初の四角いのは桜えび入り手作りはんぺん。ほう。はんぺんねえ。これ、旨いぞ。続いて、岸和田の筍に空豆。これは塩だな。筍はサクッと心地よく、空豆はしっとりしながらほくほくである。お次ぎは、鯛の親子揚げ。なんで親子?と聞けば、左は白子、右が身だから。そりゃそうだ。正真正銘の親子である。揚げ方がまたちょうどよく、どれも旨いではないか。

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 たまらず次の日本酒を所望する。おすすめは富成喜の純米吟醸かすみ生原酒。神力、無加圧槽しぼりである。契約栽培米である神力米を全量使い、小袋で絞った原酒のまんま。もうあの袋の端っこから滴り落ちたしづくそのもの。米の滋味を感じながら、ちびちび味わう。串あげは、帆立。中は半生。たまらない。みずみずしいグリーンはズッキーニの木の芽のせとアスパラ。ぴちぴちのトマトを丸ごといただいて、ふぐと車海老。そしてちびちびと言いながら、実のところはぐびぐびやっちゃったらしく、次なる酒は再び手取川。今度は新酒第二号の「春」である。

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 しいたけ、れんこん。桜鱒に神戸牛&白ネギ。変わったところではマッシュルームにペコリーノをかけたのが出て、これも旨い。すずきのタルタルソース乗せも、たいへんによろしい。そして、今度は秋鹿純米生。なんでこんなに酒が進むのか考えてみると、あつあつの串あげをはふはふ食べるときに、どうも日本酒で流し込んでいるようなのである。いや、いちいち認識してないけれど、どうもそうらしい。なんだ、そりゃあ。これぞ追い水、いや追い酒か。苦笑する。

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 次の三角の塊はなにか忘れてしまったけれど、その後、穴子が出て、あれ、また最後がわからない。それにしても、食べながらよく飲んだ。しかも、写真を見る限り、プラスしてリクエストしたのは神戸牛&白ネギとすずきのタルタルソースである。神戸牛&白ネギがあまりに旨かったのできっとリピートしたのだな。

 たまには串あげもいいな。次回金沢に行ったなら、bar quinaseに報告に行かなくちゃ。

2016-04-08 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

大阪南森町「宮本」

 181夜で宮本の全月制覇を目論んでいると書いたが、千夜千食登場六回目にして四回會と月がかぶってしまった。まあ、それはそれでいいのだが、まだ経験していない月がたくさんあるのがちと気にかかる・・・。

 今回は素敵なお取引先様をご案内するので、先方の都合と予約が取れる日が最優先である。

 一週間ほど前だったが、珍しくすんなり予約が取れた。こういうのもタイミングである。月がかぶろうと、一年経つとそれはそれでまた進化しているに違いないし、贅沢を言えばここは週一で通いたいくらいの店である(通えないけど・・・)。

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 さてと。先付けのうつわには見覚えがある。うつわそのものが、ハマグリを開いたカタチになっている。初っ端から、春満開である。季節と素材とうつわの三重奏。こういうのは絶対日本料理以外ではできない芸当である。もっというと、そこに料理人の感覚と食べ手の感性が呼応するというのが理想であろう。まさしく、ここは茶懐石のカタチをぐぐっとカジュアルにした場なのである。さてと。料理はは飯蛸にかたくりと菜の花のおひたしに胡麻だれを添えたもの。頭の部分にぎっしりつまった卵がよい具合に蒸されていてたまらなく色っぽい風情で光っている。春だよなあ。当然、明石の飯蛸であろう。お酒は東洋美人のおりがらみを、スペシャルなデキャンタに入れてもらう。年に一度しか出荷しないという限定の乳白色の旨酒、蔵元は萩の澄川酒造。

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 お椀の蓋を開けると、ふわっと春の香りが立ち上った。はまぐりのお椀である。貝の季節だ。蓬豆腐とわらびも入っている。いつもの澄んだお出汁と違い貝のときは乳白色であるが、この中にはまぐりのエキスがたっぷりと満ちているのだ。はまぐりのうつわではまぐりを予感させておいて、期待に違わず即座にはまぐりを出す。擬から、すっと本物へ。こういう連打大好きだ。

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 お造りは、淡路の鯛、ハリイカ。これをお醤油、塩、スペシャルな酢でいただくのである。鯛は焼き霜づくり。サッと皮にだけ火を通すと、鯛がよりねっとり旨みを増すのである。ハリイカもにとにとの歯ごたえ。(にとにとは私の造語オノマトペアである)この食感は、にとにと以外ないだろう。に・と・に・と。酒は鶴齢の特別純米。こちらのデキャンタもなんともいえない優美なカタチである。

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 メインは、阿蘇の赤牛のヘレをさっとローストしたものと、真魚鰹の塩焼きに花わさびを添えたもの。肉と魚の共演である。赤牛は昨今のブームであるが、神戸牛に代表される霜降りではなく、きれいな赤身なので、牛肉本来の味を楽しめる。私ぐらいの歳になるとサシの入ったリッチな牛肉は、ツーマッチすぎてしんどいのである。とくに和食でいただくのなら、赤牛はちょうどいい。魚と一緒に出されても違和感がない。真魚鰹も大好物。この手の白身でいうと、私は真魚鰹一番、鰆が二番である。

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 八寸は可愛らしい朱のお重に入って出される。蓋をあけると、わあ、と思わず歓声があがる彩り。自家製バチコ、桜肉、ホタルイカ、才巻海老、百合根饅頭、鯛の子、スナップエンドウ、、だし巻き・・・。それぞれの食感も調理法も色合いも微妙に違っていながら、お重のなかでひとつの季節を演出する。自家製バチコの旨さと言ったら・・・たまらず、松の司の大吟醸をお供にする。また、小シブいデキャンタ。これはバカラのアンティークである。黒泡の酢の物をいただいた後は、黒メバルのみぞれ煮である。わらびのみずみずしい緑が季節を感じさせてくれる。

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 シメのごはんは、氷魚ごはん。氷魚というのは、しらすに似ているが鮎の稚魚である。琵琶湖でしか取れない貴重な名物だ。これをふきの苦味と共に味わう春の一品。

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 まもなく四月を迎える三月の終わりではあるが、カウンターのヨコの上にある長押のような小さな空間には、可愛らしいお雛様が並べられていた。すぐには気がつかない場所に置いてあるのが、弥生の名残ということか。そうして、すべての断片がひとつのテーマに収斂していくことに気づく。お雛様にはまぐり、可愛いお重、氷魚にみぞれ。そして・・・しまった。今回は入り口近くの席だったため。お軸を拝見するのを忘れてしまうという大失態。最後のピースがぴたり、と嵌まる気持ちよさを実感したかったのに・・・これで、また来年三月も来ないといけない。

2016-04-06 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

神戸六甲道「アドマン」

 玉子が死ぬほど好き〜と天皇バーでしつこく叫んでいたら、六甲道でお店をやっているマダムが教えてくれた。あそこの玉子サンドイッチはなかなか美味しいと。素早く脳内メモしたのは言うまでもない。

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 とある週末、午前中美容院に行った帰りに寄ってみた。場所は、JR六甲道の少し北西。宮前商店街の中にある。入り口には昔ながらの看板。サンドイッチ&コーヒー アドマンとある。「アドマン」のロゴの書体が妙に懐かしい。文字そのまんまの意味だったら、アドマンとは広告マンのことである。ご主人が元広告業界だったのかしらんと思いながら、店内に入る。中はごくごく普通の喫茶店の雰囲気である。店主らしき人は、年配のご夫婦。メニューにもおもいっきり年季が入ってる。アドマンは、AD MAN ではなく、A DEMAINであった。フランス語で「またあした」という意味らしい。

 メニューを開くと、ズラリサンドイッチのメニューが並んでい、一瞬迷ってしまうのだが、気を取り直す。玉子サンドを食べに来たのである。だが、玉子のサンドイッチだけでも4種類もある。フライエッグサンド、ハムエッグサンド、チーズエッグサンド、ベーコンエッグサンド。教えてくれた人のおすすめは、ベーコンエッグサンドだったので迷わずそれを注文する。あ、ちなみにメニューには、サンドイッチではなく、サンドウィッチと書かれている。これも店主のこだわりなんだろう。

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 運ばれてきたベーコンエッグサンドは、ひと目見ただけで旨いに違いないと思える佇まいである。たっぷりの玉子とベーコン。しかも、玉子は厚焼き玉子とゆで玉子を刻んだものがダブルで入っているのだ。薄切りの食パンの中に、パンパンに幸せな玉子色が詰まっている。ひと口食べると、厚焼き玉子の豊かなボリュームに、刻んだ玉子の細かな食感が合わさり、身悶えするくらい旨いのである。これぞ、微妙に食感の違う玉子の豊かなデュエットである。ほどよい塩気の効いたベーコンの量もちょうどいい。無心で食べる。あっという間に完食である。

 こんな店があっただなんて。食べている間にも、次から次へとご近所の常連さんらしき人が入ってくる。みんな顔見知りのようで、おしゃべりを楽しんでいる。メニューを改めて見ると、ランチもあるし、デザートに食べてみたいパフェやサンデーもある。昔ながらのきちんとした手順をふんで、ひとつひとつのメニューを誠実につくっている店である。当分は、このベーコンエッグサンドばかり食べるのだろうけど、いずれ他のサンドイッチやランチにもチャレンジしたいと思う。

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 すっかり気をよくし、ぶらぶらと阪急六甲まで歩く。そこで、はた、と思い出したスイーツの店。あることは前から知っていたのだが、なかなか行けなかったボンボンロケットというお店。この時間ならまだきっと開いているはず。ボンボンロケットとは、クリームサンディーズを売っている店で、要はバターサンドである。ただし、ここのはかなりこだわっていて、玉子たっぷりのサブレにバターの風味豊かなクリームをサンドしており、クリームの種類が20くらいあるのである。すでに夕方が近づいていたので、人気のフレーバーは売り切れであったが、オレンジ、ピスタチオ、チーズケーキを試しに買ってみた。さくさくのサブレとふわっと軽いクリームのコンビネーションはなかなか美味しく、こりゃあ悪くない。

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 パッケージやショッピングバッグも素敵で、ちょっとしたギフトにもいいなと思うセンスのよさ。ロゴ入りのマグやバッグ、Tシャツなども店内で販売していたが、箱好きとしてはギフトボックスにかなり萌えた。保存が要冷蔵なので、そんなに遠くまで持っていけないのがちょっと残念。だが、ご近所でしか食べられないということは、自分のためのスイーツとしては申し分ない。

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 普段あまり地元でゆっくりできないのだが、さすがに六甲はまだまだ知らない名店がいっぱいあるのだろう。少しずつ、時間をつくって探検したい。

2016-04-04 | Posted in 千夜千食Comments Closed