2017-04

銀座鮨「一柳」

 「一柳」は銀座の名店でありながら、当日電話しても意外とすぐ入れるというのが有難い鮨屋である。すでに何度も紹介しているので、詳しくは書かないが、銀座の鮨で当日電話して入れるところなど皆無と言っていいのに、そしてここはいつも行ってみれば満席であるのに、なぜか融通がきくのである。

 なので、突然鮨が食べたくなったときには、躊躇せず電話してみる。時間制限がつくときもあるし、時間調整をしないといけないこともあるけど、十中八九は入れてもらえる有り難い店なのである。

 そして、もうひとつ有り難いのは、ここはいつ来ても、ほぼ同じコンディションの魚が食べられることである。これは店主である一柳さんの姿勢というか流儀である。「いつも同じ状態の魚や鮨をいつでも変わらず出し続ける」このことの難しさは素人であっても容易に想像がつく。

 いくら築地が近くにあろうと、魚の漁獲はそのときの天候や海のコンディションによって左右される。海水温の変化によりプランクトンの量が減ったりすると、今まで獲れていた魚が獲れなくなったりすることもあると聞く。逆に今まで滅多に獲れなかった魚が急に豊漁になったりということもあるらしく、いつも同じクオリティの魚を毎日仕入れるのは至難の技である。取引であるから、当然、毎日コンスタントに買い続けることによる信用も必要だろうし、ときにはハズレのタネしかない日もあろう。もちろんその季節の旬というのもふんだんに用意しながらも、つまみではタコ、カツオ、あん肝、アワビ、ウニはほぼ一年中食べられるし、鮨ではカレイなどの白身、マグロ、イカ、コハダ、穴子なども食べるたびにああいつもの味だと安心するのである。(もちろん、こうした姿勢は一流と呼ばれる鮨屋ではあたりまえのことではあると思う。あるレベルを超えた鮨はほとんどそうだろう)

th_IMG_6168th_IMG_6169th_IMG_6170th_IMG_6171th_IMG_6172

 本日は、厚岸の白魚からスタートである。向こうにはホタルイカ。刺身は鯛であるが、これはお腹のコリコリしたところ。たまらん歯ごたえと脂である。そして鯛の子。これも好物。さすがに鯛の子は季節限定である。とり貝は愛知からやってきた。これも季節によって産地はまちまちであるけれど、いつもしっかり肉厚で甘い上質のものを仕入れている。これはたいてい生きたまま、パンっとまな板に打ち付けられ、その刺激で目の前の皿に置かれてもまだ動いていることが多い。続いて桑名の蛤。こちらで生の蛤が出るときはたいてい桑名産のものである。

th_IMG_6173th_IMG_6174

 紫蘇を巻かれているのは、カレイの縁側をホイル焼きしたもの。カツオは、いつもスペシャルな薬味でいただく。このタレ、瓶詰めにして売ればいいのにといつも思うのだが、これで海鮮サラダとかのドレッシングを作れば旨いに違いない。写真を撮り忘れたが、こちらのタコも絶品である。昔ながらの大根で叩いて柔らかくするという方法を取っているらしく(見たことはないが、大根で叩いているのは見てみたい)、しっとり柔らかい歯ごたえの馬鹿馬な一品である。

th_IMG_6176th_IMG_6177th_IMG_6179th_IMG_6180th_IMG_6181th_IMG_6183

 美しい黄金色のウニは、余市の馬糞。解禁日初日のを仕入れてきたと聞けば、有り難く、塩でちびちびと味わう。水茄子でウニの濃厚さをスッキリさせたら、平貝を海苔で巻いた磯辺焼き。毛蟹をポン酢でいただき、あん肝、アワビと日本酒が進むつまみが続く。至福のひとときである。つまみのフィナーレには金目鯛を焼いたもの。たいそう良い脂がまわってい、舌鼓を打つ。

th_IMG_6184th_IMG_6185th_IMG_6186th_IMG_6188

 そろそろ握りと行きますか。まずは、マコガレイ、シマアジ、イサキ、黒ムツ。ねっとりと甘かったり、コリッと滋味深かったり。それぞれが独特の美味を内包する白身たち。ううむ。鯛やヒラメ以外で、これだけ白身のバリエーションを持たせるなんてさすがであると唸りつつぱくぱくと平らげる。

th_IMG_6190th_IMG_6191th_IMG_6192

 メインはマグロ三銃士。ヅケ、中トロ、大トロだ。本日は日本海で暴れていた子、佐渡方面のマグロである。マグロがいつ来てもちゃんとあるというのが江戸前の大原則であろうけど、本当にいつ食べても旨い。旨すぎる。この仕入れだけでも並大抵のものではないと感心する。だから、どんなにお腹がパンパンで、握りをパスしたいときでも、マグロ三銃士だけはスルーできないのだ。

th_IMG_6194th_IMG_6196th_IMG_6197th_IMG_6198th_IMG_6199th_IMG_6200

 マグロの後はアオリイカ、コハダ、キスの昆布締め、アジ、カスゴと来て、これも絶対いつも食べたい穴子である。そして、シメはやっぱりトロタクじゃないと終われないので、半分だけ巻いてもらう。ああ、今日もよく食べた。ちゃっと食べるのがいいなどと言いながら、居心地がいいのでずいぶんと長居してしまった。まあ、いいか。

th_IMG_6201

2017-04-18 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

いつもの白金「モレスク」

 平均すると東京出張が月3~4回。そのうち半分くらいが、泊まりであるので、モレスクへは最低でも月1回は通っていることになろうか。あればいつも注文してしまうお気に入りのメニューもあるのだが、前菜もメインも季節に応じて少しずつ変わるのでいつも目が離せない。

 ある日見つけたのが、このラディッキオを使った一品。以前、油面のイタリアン(第89夜)で食し、そのシャキシャキの食感とほろ苦く酸っぱい味にノックアウトされたので、“ラディッキオ”というワードに反応し、一も二もなく飛びついた。

th_IMG_6139

 が、その前に、冷製グリーンピースのポタージュとコンソメのカクテルスープをいただく。これはなんと、二層になったスープで、下のコンソメはゼリー状になって、上のポタージュとの食感の違いを楽しむのである。ひとつで二度美味しいうれしいお料理。むふふ、の旨さである。

th_IMG_6141th_IMG_6140

 そうしてお待ちかね、ラディッキオとヤリイカのサラダ、アンチョビソースがやってきた。ラディッキオとイカという取り合わせ、ちょっと意外に思うのだが、この異業種をアンチョビソースがうまくまとめ上げ、こたえられない独特の美味を生んでいる。苦味と旨みのマリアージュとでも言おうか。ラディッキオのほろ苦酸っぱさに、アンチョビソースをまとったイカの濃厚さがからんでで絶妙なマッチングなんである。

 ラディッキオ。あまり野菜を積極的に食べない私を虜にした野菜。ワインレッドと白のコントラストが綺麗なゴージャスなルックス。キク科の植物で、チコリやエンダイブの仲間なんだそう。そうか、私自分であんまり買わないけど、チコリも好きだもんな、とひとり納得。それに、なんとカリウムはキャベツの1.5倍。抗酸化作用にも優れているらしい。そしてシーフードとの相性もいいらしいのだ。なるほどねえ。

 ラディッキオの原産地はイタリア。最近ではアメリカやチリからも輸入されているらしいし、日本でも栽培されているらしい。なのに、家の近所のイカリスーパーや阪急オアシスではお目にかかったことがない。まだローカルには出回っていないということか。阪急とか大丸の地下なら置いてるんだろうか。ま、わざわざ探して調理するほど、まだ時間的なゆとりがないので、食べたいときはここに来ればいいんだけどね。

th_IMG_6143th_IMG_6144

 ラディッキオと一緒に頼んだのは、タコとカブのガーリックマリネ。こちらも、なかなかのお味である。メインは、タンドリーチキン。タンドリーなど店内をどう探したってないのに、これはどう見たってタンドリーチキンなんである。ナイフを入れると小気味良くスッと入る。やっぱりタンドリーチキンである。シェフにどうやって作ったのか聞いてみると、事前にヨーグルトに漬け込んでおくのだという。ふーん、それだけの手間でこうも美味しくなるなんてね。付け合せもな〜んにもなしでパクパク平らげた。

 ラディッキオ、そしてタンドリーチキン。いまのところ、最強のペアである。

番外編

 珍しく炭水化物を抜いたものだから、なんだかもう一軒行ってもいいような気になっている。普通の人間ならこれでじゅうぶんなんだろうけど、私はやっぱり視床下部がイカれ気味。今夜はチョロリではなく、恵比寿のソウルバー。もちろん、ちゃんとソウルを聞きにいくところなんですが、ときたま、深夜にここのスペシャルな白いアレを食べに来る。巷(モレスク関係者のみであるが)では「白いの」で通じる。白いのとは、チョリソーと玉子のマカロニグラタンである。白いのはホワイトソースから来ているのだが、これが何というか懐かしい昭和の味で、ゆで玉子がゴロゴロ入った禁断の旨さなのである。深夜に食べる高カロリーなひと品。いけないことはわかっている。わかっているから余計旨いのである。馬鹿馬。

th_IMG_6147th_IMG_6148

2017-04-10 | Posted in 千夜千食Comments Closed 

 

神戸ステーキ「みやす」

 世の中にはなんでこんなに肉好きが多いのだろう。テレビなどを見ていても、やたら「肉!肉!」と喧しいし、グルメ番組では出演者が肉ガッツリとか肉汁(この場合、ニクジュウではなくニクジルと発音している、いやですね)たっぷりとか興奮気味に叫んでいる。焼肉が大好物という人もまわりにはけっこう多い。

 おまけに本場に住んでいるので、ステーキや焼肉の名店はそこらじゅうにある。いいですねえ、神戸だと美味しいお肉があってと言われることもけっこう多い。だけど、日常的に神戸牛などほとんど食べないし、第一そんなに気軽に買えるほどスーパーなどには出回っていない。行くところに行かないと市民であってもさほど身近なものではないのだ。

 とはいえ神戸在住もけっこう長いので、何度かは神戸牛というのをそれなりに味わってはいる。いちばん印象的で今もなお鮮明な記憶が残っている店といえば、名店「麤皮(あらがわ)」である。大昔、アメックスのポイント特典でこちらのディナーがあったのだ。お二人様ステーキフルコースをゲットするのに相当な元手がかかったと記憶しているが、とにかく夢のようにゴージャスでリッチなステーキとシチュエーションであった。もう、10年くらいはステーキは食べなくたっていいや(大げさではない!)と思えるくらいの濃厚さで、給仕してくれた人も映画「ティファニーで朝食を」に出てくる粋な店員のような渋い紳士で、手厚くもてなしてくれた。ステーキの思い出はもうあれでじゅうぶんなのである。

th_IMG_6107th_IMG_6111

 ところが今回、会食のお相手が神戸牛をご所望になったので、実に何年かぶりのステーキを食べに行く事とと相成った。こちらの店もステーキの老舗として神戸ではその名が轟いている。ただ、「え、こんなところにお店があるの?」というくらい立地がファンキーなのである。店は淡路交通というタクシー会社のビルの二階にあり、場所をちゃんと知らないと、素通りしてしまうかもしれないくらいの構えである。知ってる人にだけウェルカムという知る人ぞ知る感。まあ、店を知っているので、脇の階段をトントンと上がって、入店するがね。

th_IMG_6113th_IMG_6114th_IMG_6116th_IMG_6117th_IMG_6118th_IMG_6121

 ヘレのコースを選択した。まずは季節の前菜盛り合わせ。ザワークラウト状になったキャベツのコロンとしたのでお口をさっぱりさせ、茹でたホワイトアスパラガスを食す。スープは見るからにおいしそうなポタージュ。こういうの大昔連れてってもらったホテルのディナーでよく出たっけ。小麦粉をしっかり炒めたホワイトソースの正統的な味がする。シャキシャキのサラダが出た後、いよいよメインのステーキである。できるだけ、レアレアでとリクエストした。

 こちらは最高級紀州産の備長炭を使って直火で焼き上げるのがウリで、創業当時(昭和35年)から変わらない調理法を守っている。セレクトする肉は、三田の清冽な水を飲み、麦や米を主に食べて育った三歳の雌牛を熟成させたもの。分厚く切った熟成牛を炭火の高温で焼き上げ、肉の旨みを凝縮させることで、切ると香ばしく、しっとり肉汁の旨みが溢れる味わいになるのだそうだ。これ、「チャコールブロイル」と呼ばれる方法らしく、最も肉の味を引き出せる備長炭での炙りなのであある。さらに、炭の上に滴った肉の脂から立ち上る煙を肉にまとわりつかせることで、肉は独特の薫香をまとい旨みの成分が肉の中でかけ合わさり、余分な脂も程よく抜け凝縮された肉の美味さとなるのである。

th_IMG_6123th_IMG_6126

 やってきたステーキは、一瞬真っ黒な塊に見えるのだが、これこそが煙と薫香をまとった美味さの塊である。ナイフを入れると、すーっと心地よく切れ、中はご覧の通りレアレアの真っ赤っか。しっとり柔らかな口当たりの中に、肉の旨みがたっぷり凝縮されてい、そのうえ肉汁の香ばしいことと言ったら!ヒレとは言いながらも、さすがにいい肉は濃厚である。半分ほど食したところで、もういいやという気になってきた。あかん、あかん。久しぶりの極上の神戸牛である。ゆっくりと時間をかけて、己を叱咤激励しつつ全て平らげた。

th_IMG_6129th_IMG_6130

 デザートは昔懐かしいアップルパイを。あ、バニラアイスをのせてください。と、我儘を言う。アップルパイ・ア・ラ・モードである。ステーキを完食するのがしんどくとも、デザートは別腹である。

 神戸牛のステーキは旨い。プロの手によって吟味された素材を、こだわりの焼き加減でいただくとほんまに馬鹿馬である。だけど、それでも。こんなに濃厚なのをいただくと、次は5年後ぐらいでじゅうぶんである。その機会があれば、だが。

2017-04-03 | Posted in 千夜千食Comments Closed