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萩の宿「常茂恵」

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 初めて萩を旅したのはたしか二十代の終わりの頃、取材の仕事だった。「常茂恵」の前を通った記憶がある。堂々とした門の威風に圧倒され、「いつかはこういうところに臆せず一人で来られるようになりたいな」と思ったことはよく覚えている。そのいつかが、三十何年か後にとうとうやって来たのである。

 萩の街は松本川と橋本川に囲まれた三角州に整然と碁盤目のように通りが配された町で、「常茂恵」はその三角州の東側、松本川沿いにある。橋を渡れば松陰神社や伊藤博文旧宅までそう遠くないロケーションでもある。幕末には、この地から高杉晋作、木戸孝允、伊藤博文、山県有朋など名だたる明治維新の志士たちを輩出したことでも知られる萩。数々の歴史の舞台となっているのに、中央からの客人をもてなす宿泊施設がないということで、大正14年に地元の名士たちが創業者である厚東常吉に相談したことで生まれたのだという。厚東常吉の常という字を取り、「常」も「共に栄え茂り、恵みがあるように」との願いをこめて「常茂恵」と命名されたのだそうだ。昭和天皇が泊まられたという貴賓室まであるまさに萩を代表する名旅館である。

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 夕食までにはまだ少し時間があったので、館内にある展示室に入ってみた。「常茂恵」の揮毫は人間国宝三輪休和の手になるもので、展示室の奥には佐藤栄作の「明治維新胎動の地」という書も掲げられている。その両脇には、「薩長土連合密議之處」の額と坂本龍馬、久坂玄瑞らの名が書かれた額もあり、文字通りこの地が明治維新の胎動の地であったことを物語っている。

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 案内された部屋は庭に面したくつろげる空間で、食事はもちろんこの部屋でいただける。軽くひと風呂浴びて、いよいよお待ちかねの夕食である。前菜は、竹籠に入った海老芝煮、ズッキーニ田楽、紫陽花に見立てた道明寺、姫栄螺の山椒煮、グラスの中には湯葉ととろろが入っている。酒は長門峡谷の純米吟醸。昼間、この本醸造を飲んだので、きりきりした味わいは知っている。純米吟醸だと、うまみがいっそう引き立つ。お造りは、イサキの焼霜、ヒラマサ、真蛸。そしてお椀は枝豆のすり流しの中に水無月が入っている。枝豆のなんともいえない薄緑色に、旨そうな水無月とのコントラストが素晴らしい一品で、すだちの細切りをあしらっているのも何とも涼しげ。もちろん水無月はお菓子ではなく、豆腐でつくっている。時節の一椀である。

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 焚き合わせは長州鳥団子と青瓜び含め煮、焼き物は穴子の一夜干し、強肴は長萩和牛のしゃぶしゃぶ。酢の物に貝柱に黄味酢をかけたもの、そしてごはんという流れであった。どれもていねいに作っていることがわかる料理ばかりで、それだけでも泊まった甲斐があると納得できる。たいそう満足。後はもう一回、風呂に入って、寝るだけである。

 ちなみに長萩和牛とは、萩生まれ萩育ちの黒毛和牛のこと。長い萩と書いて、ちょうしゅうと読ませる。山口県北部の牧場で近隣農家から出荷される麦わらを食べ、堆肥を返すという自然のサイクルが成り立っていて、地域住民の愛情がたっぷりと注がれ育てられた牛肉であるらしい。こういうのも現地でしか味わえない美味と情報であろう。

 また萩に来る機会があれば、ぜひともまた泊まりたい宿である。

2020-04-01 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

萩「すし喜&がんこ菴」

 前乗りも居残りも大好きである。若い頃から、仕事でどこかに行くとなると、万障繰り合わせ、思いっきり繰り合わせ、できるだけ仕事が金曜とか月曜になるよう極力調整し、前後の土日も無駄にはしなかった。おかげで、さまざまな土地を訪れるだけでなくそれなりに深く知ることができ、仕事だけだと巡り会えないような人や場所ともご縁ができた。これはもう私の財産といってもいいのだろうと思う。

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 少し前から文楽にも熱中しており、年に一度山口県の長門市で開催される文楽に去年に引き続きやって来た。去年は長門湯本という温泉町に泊まったこと(第106夜)で、驚くべき懐かしい出会いがあった。今年は、こちらも30年ぶりぐらいになる萩に行くことにし、前から一度泊まってみたかった旅館を予約した。前日は東京都内でイベントに参加してたので、東京から飛行機で山口空港を経由して萩にやって来た。

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 ちょうど昼時である。旅館にいったん荷物を預け、目星をつけておいたお鮨屋さんを予約し向かう。その土地で愛されているであろう地元の鮨屋。入口からして、生活にとけ込んでいるような雰囲気に満ち満ちている。こんにちは。ガラリと戸を開けて、カウンターへ。

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 今日の美味しい魚を適当に刺身で盛り合わせてもらう。白身だけでも四種類という贅沢さ。なにしろ目の前は日本海ですからね。鯛にヒラメに、縁側。マグロとカンパチは脂まみれの状態で口の中ですーっととけてゆく。長門峡という地元の生貯蔵酒をちびちびと飲りながら、天麩羅と茶碗蒸しも言う。寡黙な大将が黙々と魚をさばいて、次々と皿を出してくれる。旅館に泊まっていなければ、夜も絶対に来てみたい、そう思わせる良い気に満ちた店である。握りを食べたくなるのを我慢してお勘定してもらう。まだまだ夜もあるからね。

 店を出てほろ酔い気分でぶらぶら歩く。高杉晋作の誕生地のお屋敷が一般公開されているのでお邪魔する。この辺りはいわゆる萩の城下町で、碁盤の目に区画され、中・下級武士の屋敷が建ち並んでいた場所だという。今でもその町筋がそのまま残っており、白壁やなまこ壁、黒板塀などの町並みを歩くだけでも往時が偲ばれる。

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 ぽつぽつと雨が降って来た。どこかで雨宿りをと喫茶店を探しているうちに、碁盤目から少しはずれ、大きな道に出た。その道沿いに「がんこ菴」という何やら古めかしい蕎麦屋が出現した。鮨屋で炭水化物を食べていないし、蕎麦ぐらいだと入るだろう。迷わずのれんをくぐった。

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 十割そば、細切り。うーむ、魅力的である。細いなら、じゅうぶん食べられるであろう。調子に乗って大海老天盛りそばを注文した。一時間ほど前にも海老天は食しているのだが、私以外は誰もそのことを知らないのだ。堂々と注文する。普通、十割蕎麦といえば、色が黒くて太い田舎蕎麦をイメージするのだが、こちらのは細切りで蕎麦本来の味と香りが引き立つ本格派。あっという間に平らげた。

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 古民家をそのまま蕎麦屋に改装した店内は、気取らない雰囲気。裏の縁側から眺める庭もほどよく手入れされていて落ち着いてくつろげる。NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」はここ萩が舞台となっている。ロケ隊もしばらく滞在したのであろう。出演した俳優さんたちの色紙が壁に貼られていた。

 散策していてこういう店と巡り会うのが、旅の醍醐味。気ままなひとり旅の特権だ。

2019-01-05 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

五反田「グリルエフ」

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 撮影の仕事のときは五反田のビジネスホテルに泊まる。商品のサンプルルームが五反田にあるので、打ち合わせに便利なだけでなく、ロケバスが停まりやすい場所でもあるので、いつの頃からかここになった。私は長くてもせいぜい4日とか5日程度だが、社員によったら一週間から10日ほど滞在ということもあるので、みんな口を揃えてこのホテルがいいと言う。なんで?と聞けば、洗濯乾燥機が部屋についているから、なのだそうだ。うん、確かに夏場の撮影だと、ドロドロに汗をかくし、その日のうちに洗って乾かせられれば、快適に違いない。持って行く着替えだって少なくて済む。ミニキッチンと電子レンジもついているので、ちょっとした食事をつくることもできる。こういうのが現場の声なのだ。

 撮影スタッフはみんな私たちが五反田に泊まっているのを知っているので驚かないが、仕事以外の知り合いに五反田に泊まっているというとけっこうびっくりされる。五反田というファンキーな土地柄のせいなんだろう。たしかに、ホテルのすぐ横に歓楽街があり、客引きの数だって半端じゃない。最初は、うっ、と引いたりしたが、ウロウロしているうちに、飲食店は充実しているし、コンビニも薬局も足裏マッサージも隣にあって深夜まで開いているし、お気に入りのバーも見つけたし、滞在するのにこれほど便利な場所もないのでは、と思うようになった。

 会食の予定がないある日の夕方、今夜はどこで食事しようかと歩いていると、クランクのようになった路地があり、ふらふらと入ってみれば、古色蒼然とした店の看板が目に入った。外から窺うに、どうやら洋食屋であるようだ。こういうときは、勘が働く。絶対に間違いのない佇まい。看板をしばし眺め、意を決してドアを開ける。おお。中もええ感じ。昔から、頑に洋食を作り続けている店の匂いがぷんぷんする。

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 カウンターに案内され、何にしようかとメニューを開けば、美味しそうなものがズラリ。けっこうな品数である。おもいっきり迷うが、初めてであるので、オーソドックスにポタージュスープとチキンサラダ、メインにビーフカツを注文した。大正解!であった。どの料理も、丁寧に誠実につくっていることのわかるしっかりした味で、そんな姿勢でつくるものがまずいわけはないのである。こちらの名物はハヤシライスであるらしく、一人客で常連らしき人たちのほとんどが注文していた。よし、次回はあれを注文するぞ。

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 ハヤシライスにつられ、日をおかず再訪した。もちろん、迷わず注文する。玉ねぎと牛肉、マッシュルーム、それにグリーンピース。さらさらのソース。これが昔ながらの鈍く光る銀色のソースポットにあふれんばかりに入っているのだ。うやうやしく白ごはんの上にかけて、いただく。旨い。じんわりと肉のうまみがソースにとけ込んでいて、玉ねぎの甘みがまたいい塩梅。これは、ランチにもよさそうだ。

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 さらに、気になるメニューでカニクリームコロッケというのがあったので、また後日注文してみたが、この先がきゅっと桃のように尖ったカタチが何とも愛らしく、だけどコロッケの味わいは絶妙とでも言うべき塩加減で、ソースも何にもなしで、これだけで美味しく食べられるようちゃんと計算されている。一人のときは、しばらくは、チキンサラダのミニとカニクリームコロッケ、ライス添えというのが定番になりそうである。

2018-09-28 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

白金鮨「いまむら」

 ほんとうに予約が取れない。東京行きのスケジュールがもっと早くわかっていれば、なんとかなるのだろうけれど、半月前とかではなかなか難しい。何度か振られて、ほぼ一年ぶり、久々の訪問である。今日は会社の仕事仲間と東京在住の仕事仲間の三人。彼らの反応が楽しみである。

 こちらのお鮨は、赤酢と塩を効かせたシャリが特徴で、私が行く鮨の中ではダントツにキリリと尖った味である。エッジが効いているというのか、押しが強いというのか、とにかく独特のシャリに厳選されたネタが合わさって、どこにもない「いまむら流」とでもいうべき個性が光っているのだ。79夜・88夜で攻めてくる鮨と表現したが、その姿勢はまったく変わっていない。

 まずは出羽桜とともにツマミをいただく。こうして写真を並べて見ると、ツマミがいかに充実しているかがよくわかる。コリコリのマコガレイ、柔らかく煮たアワビ、とろとろの茶碗蒸し、絶妙の按排に香ばしく焼いた穴子、これぞ江戸前の仕事という仕上がりの白ミル貝、ねっとり官能的なカツオ、皮のパリパリ加減まで計算したのどぐろ・・・。海鼠釉の唐津のぐい呑に痺れつつ、杯を傾ける。

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 東京在住のS氏が、シャリの酢の具合がすこぶるよいと褒める。今まであまり食べたことのない味わいだと言う。ま、大阪出身の人にとったら、こちらの赤酢の効いたシャリは江戸前の中でもかなり際立つものだと思う。私自身も、もともとは関西の甘めの鮓飯に慣れていた。それが通い出した近所の鮨屋がキリリとした辛めの鮓飯(赤酢は使っていない)を使ってい、次第にそれに慣れるようになってからは、いわゆるザ・江戸前のシャリにも違和感なくなじむことができるようになった。ここのシャリは私も超好みであるので、S氏と共に盛り上がる。

 そしてお待ちかね、いよいよ握りへと突入だ。

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 全部で12カン。第88夜と比べるとよくわかるのだが、基本的な構成はほとんど変わっていない。初っ端はイカ。相変わらず端正な切れ目が入っている。そして金目鯛。今やすっかり定番のネタである。かすごの昆布締めに施された包丁仕事の美しさといったらどうだろう。マグロのヅケ、大トロは安定感のある旨さで、何よりもシャリとの相性は抜群だ。コハダ、ミル貝と続いて、トロたくの巻きが出る。こういうの、箸休めじゃあないけれど、握りの連続の中にちょっと小休止が入るのがなかなかよい感じ。一息ついてリラックスしたらいよいよクライマックスへ。まずはアジ。この艶姿ももうおなじみになってきた。車海老、雲丹、穴子。盤石の安定感をキープしつつ、口中を盛り上げるいまむら三部作。

 いやあ、いつ来ても、基本変わらないということの貴重さをしみじみと味わいつつ、今度はいつ来られるだろうかと手帖を睨む。こういうとき、関西に住んでいるのがうらめしい。

2018-09-23 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

北杜市「ギャラリーTRAX」

 山梨県北杜市というところにやって来た。カタログ撮影のためだが、東京近郊の自然光スタジオはもういろいろ行き尽くしており、いつもと違う新鮮な場所を求めたらこんなに遠くまで来てしまったというわけだ。とはいえ東京から中央自動車道に乗れば2時間半ほど。八王子、大月、山梨、甲府、甲斐を通り過ぎれば北杜市で、じゅうぶん日帰りできるロケーションではある。

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 八ヶ岳南麓。ここに、インテリアデザイナーが保育園を改装してギャラリーにしたという空間がある。もともとあった建物をセンスの良いラスティックな感覚でリノベーションしていて、スタジオとしてはもちろん、イベントやライブにも貸してくれるそうである。伺った日は、奥の空間で現代アーティスとの個展をやっていた。

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 スタジオの予約をするとき、お昼はどうされますか、と聞かれた。ここは、事前にお願いすれば、ランチも作ってくれるというのである。だいたいの人数を伝えておいたが用意されたテーブルを見て驚いた。これはもうちょっとしたレストランのレベルではないか。オーナーの女性とお話すると、80年代にはパートナーの方と大阪でお仕事をされていたのだそうだ。お二人でこちらに移住して来て、ギャラリーを開いてからはけっこうあたりまえのように料理も供して来たのだと言う。どの一品も野菜をふんだんに使った大皿料理で、スタッフ一同おなかいっぱいになるまで食べた。

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 どうですか、このラインナップ。写真いちばん下の右側のように、お皿にめいめいで好きなものを取り分けていただくスタイル。野菜がシャキシャキで味が違うとか、お漬け物も美味しい、持って帰りたいとか、大好評であった。どうもご馳走さまでした。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

中目黒「歩路庵」

 歩路庵。ポジアンと読む。正式な店の名は、ポジティブアンバランス(positive imbalance)というので、今どきの省略をすればポジアンで、それに当て字をしたと考えられる。

 飲み友達のヨシヒコが、地元でちょくちょく行っていた旨い店で、そこのシェフが東京に移住し同じ名前で店を出しているから一回行ってみと言うので、機会を作ってみた。中目黒の駅から歩いてすぐの雑居ビルの二階。この辺のエリアも東京での行動半径の中に余裕で入るので、レパートリーのひとつになればいいなと思ったのだ。

 いや、ここ、いい。

 店内は、オープンキッチンをぐるりとカウンターが取り囲んでいて、料理を作っているのが見える今どきのレイアウトである。魚介類が中心であるが、肉や野菜もしっかり充実していて、和×フレンチ×イタリアンの和洋折衷バトルロワイヤルメニューがなんとも魅力的なのである。

 初めて訪れてからというもの、会社の子と行ったり、昔のクライアント様を誘ってみたり、撮影スタッフと行ったりと、いろんな状況で行く店となった。コースを頼んでも、アラカルトでも、シェフにお願いするといつも臨機応変にメニューを考えてくれるし、肉と魚と両方食べられるので、どちらかが苦手という人を連れて行っても大丈夫なところもいい。

 この日は、昔よく一緒に仕事した人を交え、会社の連中と行くことになった。相手が何が好きだったか確認せずとも、ここなら何でもあるので安心である。とりあえず予算を伝えてコースを考えてもらう。海鮮も大好きということだったので、最初から海鮮のオンパレードである。

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 海ぶどうやもずくと一緒にいただくヒラメ。鯛の焼霜造り。ねっとりしたイカ。こういう三品が出てくるのに、ちゃんとお造り盛り合わせもやってくる。軽く炙った金目鯛、タコ、こちらも皮をパリッとさせたカツオ、マグロにトロ・・・なんとゴージャスな一皿だろう。アジの刺身もやってくるし、牡蠣もおでましになった。もう、海鮮好きにはたまらないこれでもか攻撃である。

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 そして。いくらの上に、大きく立派なぼたんえびを置き、その上にウニを載せた一品。これだけでもたいがい凄いのに、このあとはカニ酢である。シーズンを考えるとトレトレというわけにはいかないけれど、これだって立派なズワイガニだ。

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 この日は鱧しゃぶを用意してくれた。蛤で出汁をとった贅沢なお鍋である。もうおなかが海鮮でいっぱいになるという幸せな時間。しかも、その後にですよ、ステーキも出された。三切れとはいえ、これはこれでしっかりとボリュームがある。

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 最後にデザートのようなきれいな顔をして、焼き寿司がやってきた。どうです、このビジュアル。これはのどぐろ丸ごとを捌いて、鮨にして、皿に並べて焼いた一品。こちらの名物なんであるが、焼かれることによって酢飯とネタが不思議になじんで、酸味がまろやかになる。おなかパンパンなのに、これなら食べられるというのもいかにもデザートのようである。

 この後、すぐに別の機会でまた伺った。こちらも、だいたい同じようなラインナップとなったが、女の子ばかりのグループだったので、全体に少なめでお願いし、焼き寿司も半身にしてもらい、かわりに茶そばのペペロンチーニ風というのをもらった。

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 面子によっていかようにも組み立ててもらえる(もちろん、自分でも組み立てられるが、シェフにゆだねたほうがダンゼンよい)創作キュイジーヌ。東京ばかり行かずに、家の近所にある店にも一度は顔を出してみたい。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪北新地「万卯」

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 囀り。さえずりと読む。口篇に舌と書くこともある。

 大阪名物、くじらの舌である。いわゆる関東炊き(かんとだき)の種のひとつで、就職したての頃同僚が梅田の食道街にある関東炊きの名店で、これを食らうと息巻いていたことをよく覚えている。当時からその店は繁盛しており、はじめて食したさえずりというもの、さほど旨いとは思わなかったのは、私の舌がまだ子供だったからに相違ない。

 こちらの店は、北新地で今や一大勢力となっている加賀万グループのひとつ。茶懐石をメインとする日本料理、割烹、湯豆腐、天麩羅、鮨・・・。いわゆる和食というもののすべてが北新地のど真ん中のビルすべてに詰まっている。すでに懐石料理のかが万(第5夜)は早々と紹介したが、春海バカラや永楽善五郎などの素晴らしいうつわで供される茶懐石は見事であった。

 だからおでんとはいえ、かなり高級バージョンである。(あ、すでに何度かは来ている。不思議な縁があって、クライアント様以外にもこちらの店長と親しいという人とも一緒にお邪魔しているし)メニューから食べたいものを注文するというシステムはおなじみのおでんスタイルではあるが、一品一品、シブいうつわに入れられ、たっぷりの出汁と一緒に出されるのである。

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 まずは、突き出し。茄子の煮浸しにもろこ。続いてお造りの盛り合わせ。そうして、看板メニューの囀りの登場である。見るからに滋味あふれる出汁の中に、囀りが浮かんでいる。刻み葱がたっぷりと散らされていて、まず一口。ううむ。こんなに旨い具合に柔らかいところとこりこりしたところを共存させる按排はさすがにプロの仕事である。普通ではなかなかこうはいくまいと思ふ。唸りながらも気がつくと出汁もきれいに飲み干している。

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 豆腐の上にはとろろ昆布がたっぷりかかってい、こちらの出汁もずずっと飲み干す。蓋物がやってきた。中身はフカヒレである。こってりしたあんかけの中にひそんでいるトロトロに煮込まれたフカヒレ。何だろうな、この食材って。そのものに味があるわけじゃないのに、美味なる液体の中にひとたび投入されればうまみを吸収しつつ、なじんでその存在を主張する。ショウガが効いたあんもきれいにいただく。ロールキャベツもこちらでは必ずいただく一品。よく煮込まれたトマトと一緒にフハフハ言いながら食す。厚揚げと菜っ葉の炊いたんも、おでんといえばおでんの一種か。王道の卵、ひろうず、間違いのない盤石さ。鱧の梅肉のせも考えてみれば、出汁で炊いたらおでんと言ってもいいのかもしれない。そして、えびの団子。それぞれ出汁が美味しいので、すべて飲んでいるうちに、おなかもいっぱいになってきた。

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 シメには、小さなおにぎりをいただく。これ、いろんな味を小さく握ったひと口サイズなので、もう無理と思いながらも入るのである。あいまにお漬け物をほうりこみ、しじみ汁をいただいて、ああもうおなかぽんぽん。このおでん、ミシュランの星がついている。星つきのおでん屋さんって、たぶんそうそうあるまい。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

横浜「勝烈庵」

横浜で撮影の仕事である。たいていは午前中に終わるので、ランチは昼時の混雑が始まる前におめあての店に入れることが多い。そして、たいていは中華料理に行くことが多い。ほぼ90%の確率である。

ところがこの日に限っては、いつもの中華エリアに行くには少し時間がかかる場所での撮影だったので、ここにやってきた。とんかつにはあまり食指が動かぬのであるが、ここは店に入った途端気分が上がった。

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まず、看板の文字が良い。どことなく、民藝の匂いがする。で、中に入るといきなり棟方志功の『無事』という扁額が掲げられているではないか。どうやら民藝大好きな店のようであるのだ。調べてみると、こちらの先々代が濱田庄司の窯を訪ねた際、宿泊した旅籠に飾られていた棟方志功の作品に感銘を受け、その縁で濱田庄司が棟方志功を紹介してくれることとなり、以来交流を深めたというのである。こちらの店名も、もちろん看板の文字も、棟方志功の手になるのであった。民藝の匂いがするって、いや、モノホンのバリバリの民藝なのであった。どうもすみません。

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各自メインは勝烈定食というヒレかつ定食にする。それにみんなで少しずつつまめるようシーフード串揚げというのも注文する。創業以来の味を受け継ぐ秘伝のソースをたっぷりとかけ、かぶりつく。サクサクの衣と程よく揚がった豚肉とのワイルドなマッチング。勝に烈という意味も字面もはげしい文字を選んで組み合わせいるだけあって、勢いのある味わいである。ソースが美味しいので、大盛りのキャベツもどんどん入る。定食にはシジミ汁もついており、こちらも特製の黒味噌が使われている。あっという間に完食した。

たまには、ガツンと、トンカツ。というのも、なかなかよいもんだ。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

福山「メゾン・ドゥ・シェフ」

待ち合わせは、広島県福山市。尾道へは何度か行ったが、福山は初めてである。高校が岡山県倉敷市にあり、当時実家が福山の子たちも多かったので、地名自体にはなじみはある。が、考えてみれば一度も行ったことがないのに今回気づいた。なので、ちょうどいい。夜の食事をするレストランに集合で、その後みんなで福山に一泊し、明日は鞆の浦あたりを観光して夕方解散であるという。こういうイベントでもないと、福山に来ることなんてない。

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午後6時に「ビストロ・メゾン・ドゥ・シェフ」というフランス料理店に集合である。時間きっかりに店の前に立ち、ドアを開けると、ものすごい音が耳に飛び込んできた。いや、これは音というのではなく、ノイズという種類のものだろう。おばちゃん連中が口々に騒ぎ立てている凄まじいノイズ。店内にはわんわんとその雑音がハウリングしている。思わず、周りを見渡すが、他に客はいない。貸切だと聞いて、ホッと胸をなでおろす。

いや、とにかく、おばちゃん連中が集まると喧しいのなんのって、いやほんま、これ、ほとんど公害である。貸切にした幹事の良識は評価してあげなくては。こんなの貸切じゃなかったら、どんなに迷惑であろう。しかし、貸切とはいえ、この騒音を聞きつつ料理をつくるシェフや給仕する人もたまったものではないなと同情する。

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そのうえ、全員がおしゃべりに夢中で、料理をゆっくりと味わうどころではない。心からシェフに同情しつつ、まずは前菜に手をつける。マグロ、サーモン、アボカドのサラダ。もうひと皿は、生ハムと葉野菜のサラダ。ブラッドオレンジの甘酸っぱさが、生ハムの塩加減を引き立てる。フォワグラのステーキは、可愛らしいピーターコーンと。魚介の皿は、貝柱と白身に色鮮やかな二種類のソース。メインは、ミディアムレア状態が見た目にも美しいローストビーフ。びっくりしたのは食事である。そういえば、パンが出ていないなと思っていたのだが、シメの食事はなんと炊き込みごはんと若布とお揚げのお味噌汁。うん、いいよ。こういうの。ごはんにはうまい具合におこげも混じってる。デザートは、クレマカタラーナ風のプディング。

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こちらのシェフは、大阪、広島、東京で修行した後、子供時代を過ごした福山で独立開業。地元の素材をストレートに生かすことで、フランス料理の計算された味と多くの先輩方から学んだ味を伝えることを目指しているという。今、地方都市でこういったUターンやIターンで頑張っている店が増えている。良い傾向だと思う。

シェフ、とっても美味しかったですよ。うるさくて、ごめんなさい。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪本町「時分時」

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今宵は、大阪の国立文楽劇場で催される文楽鑑賞教室へ初心者2名を連れて行く。鑑賞教室と名前が付いているのは、演目の前に三味線や太夫、人形遣いの人たちがそれぞれをわかりやすく教えてくれる解説付きだからで、そのせいかなかなか人気が高い。二晩ほどは夜6時半から始まる「社会人のための文楽入門」という日があり、仕事が終わってから余裕で観に行けるのだ。演目は、近松門左衛門の名作「曽根崎心中」である。これは何度観ても(聞いても)良いし、初心者でもわかりやすい名作中の名作である。終演は9時少し前なので、夕食は少し我慢して終演後に行くことにする。

さて、どこに行こうか。9時過ぎというのは微妙な時間である。いろいろ考えていて、思い出した。第200夜で東京からのお客様を連れてったら、たいそう喜ばれたあのお店。あそこがいい。あの人気店なら2回転目に入れるかも。予約の電話をかけたら、すんなり9時半ぐらいなら、と取れた。

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まずは、磯自慢で乾杯する。今夜の「曽根崎心中」についての感想をいろいろ言い立てる。なにしろ、最前列のかぶりつきである。クライマックスの心中シーンなど、目の前で観たので、そうとうに感情移入し、泣かされたのである。なんでお初徳兵衛は心中という方法しか選べなかったのだろうか。そういう時代だったから?身分制度というものの中にがんじがらめにされていたからか?好き勝手な解釈をあれこれ言いつつ、酒の肴にする。

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ぷりぷりの海老のサラダに、おすすめの串焼きからスタートである。この貝柱の上につぶつぶの畑のキャビアとんぶりを乗せた一品、椎茸フォワグラバターも相変わらずの悪魔のような旨さ。たまらず、二杯目の日本酒黒龍を所望する。サラダでも食べているのに、またぷりぷりの海老を串焼きでかぶりつく。とろけるような脂が入った牛肉は、口に入れた途端すーっと溶けていく。田楽風の一品は、もちもちの生麩。外側の香ばしさがたまらない。

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海苔をくるりん巻いて食べる軽く炙った穴子。山芋とアボガドのソテー。カイノミステーキ&ガーリックのソテー。淡路の玉ねぎのステーキ。これを純米の冩楽と一緒に食す。ああ、もうどの一品も素材の旨さと調理法が見事にマッチしていて、もういくらでも食べられそうだ。

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今日は三人いるので、シメの炭水化物は三種類。まずは、そばめし。これは関東の人にはほとんどなじみがないと思うので説明しておくが、焼きそばをごはんと同じ長さぐらいに鉄板の上で刻み、焼き飯状にしたものである。もともと神戸発祥と聞くが、たしかに神戸の下町のお好み焼き屋のメニューではおなじみのものである。しかしこうやって、クオリティの高い牛肉などを具にしてしまうと、B級のそばめしも立派な一品である。お次は、もやしそば。シャキシャキのもやしと白髪葱をたっぷり盛ったい一品。そして、ここに来て食べないわけにいかないのが、豚玉である。この垂直にすっくと立った厚みを見よ。

やっぱり三人ぐらいで来るといろいろ食べられるし、シメの炭水化物がこんなにも充実する。また、すぐに来たい。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

二期倶楽部「ラブリーズ」

今年も「山のシューレ」の季節になった。一昨年、昨年と参加したので、当然のように今年も申し込む。ただし、今年はどう調整しても月曜は休めないので、一泊だけである。

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二期倶楽部で一泊しかしないのなら、夕食はメインダイニング「ラブリーズ」でフレンチを楽しむというのが王道のコースであろう。意気揚々と予約をしたが、なぜかフレンチではなく和食の店に変わったという。180度の転換である。なんでそういうことになったのか聞く機会がなかったのだが、フレンチをサーブしているときと空間のインテリアは基本変わってはいない。

料理はメインを三種類の中から選べるプリフィクス。日本酒のリストが大変充実しているのと、やはり和食であるなら私は日本酒派なので、喜々としてリストを眺める。栃木の地酒がずらり。どれも飲んだことのないものばかりで胸が高鳴る。で、まずはメニューのいちばん上にある小山の若駒酒造の若駒。絶滅しかけた酒米「亀の尾」で作った無濾過生原酒で、何と精米歩合が80%という贅沢な酒である。

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これを前菜である、冷湯葉茶碗蒸しと平目の昆布締めと一緒に飲る。茶碗蒸しの雲丹の上には、いくらととんぶりが仲良く並んでい、出汁の風味がみずみずしいジュレとともにふるふるの卵をすくう。そこに、生原酒の清冽を流し込み、さらに紫蘇や大葉、山椒の和のスパイスをまとった昆布締めを口中に放り込み、さらなる甘露で後を追う。八寸らしき五種盛りは、左上から無花果の胡麻酢かけ、冬瓜、伽羅蕗、新じゃがいもの唐揚げ、鮎の塩焼き。続いて出てきたのは、蛤のスープと鰻と新牛蒡の炊き込みご飯である。料理が進んだところで選んだのは、宇都宮の井上清吉商店の澤姫ひとごこち 斗瓶囲いのおりがらみ、純米大吟醸である。かごに盛られているのは、手前は高原野菜の天ぷら、向こうには筍の山椒煮焼き。メインは、栃木和牛のサーロインしゃぶしゃぶ風をチョイスした。澤姫をおかわりしつつ、ちびちびと飲りながら、しゃぶしゃぶ風の柔らかな和牛をいただく。

冷蔵して飲む繊細なタイプが増えてきて、ワイングラスで飲むスタイルがすっかり定着しつつある日本酒。それはそれで悪くはないけれど、私はやはり徳利と盃で楽しみたい派である。贅沢を言うなら、その土地で焼かれた杯やぐい呑にその土地の地酒を注ぎ、ためつすがめつ眺めながら、さすり撫で回しつつ、ちびちびと飲みながら至福の時間を過ごす。そういうのが理想ではあるが、ワイングラスを傾けつつ飲るのもラブリーズならではの体験ではある。

二期倶楽部では、ずっと前からあたりまえのように栃木県産の食材を使っていて、それはここラブリーズでも、もうひとつのレストランでも洗練された地産地消スタイルを楽しめるのであるが、ラブリーズが和食になったおかげで今度は地酒まで楽しめるようになったのは、僥倖と言えよう。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

二期倶楽部「バー ラジオ」

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 ちょうど一年前にもこのバー(第94夜)を紹介した。チーフソムリエの金子さんにいろいろなお酒のことを教えてもらいながら、ときおり伝説の尾崎さんの話を伺うという至福の時間。

 ところが、今年はなんとその伝説のご本人がカウンターに立つのだというではないか。タイトルは、『バー・ラジオ 尾崎浩司の時』。メニューもスペシャルな3日間限定のものである。

 たとえば、シングルモルトスコッチのところには、『伝統ある蒸溜所のカスクから、インディペンデントボトラーのモダニズムを味わう』とある。愛好家の間で熱狂的に支持されているインディペンデントボトラーズ(独立瓶詰業者)によるスペシャルな熟成によって、ラフロイグもボウモアも新たな味わいを生み出されるらしいのである。うーん、これは是が非でも飲んでみたい。極上のシングルモルトがショット2000円からというのは、かなりお値打ち価格であろう。ブランデーの部には『シングルヴィンテージのコニャックが放つ芳醇な香り 19世紀のパリを逍遥する』とある。プリントされているメニューを眺めるだけで、心地よく酔いそうになるラインアップだ。なかでも『一生に一度であるかの極希少 山のシューレの思い出に』というLHERAUDレロー家のグランド・シャンパーニュ1836年などは本当に一口だけでも飲んでみたいという誘惑にかられる。が、すでに日本酒がかなり入っている。

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 それよりもなによりも、伝説のバーテンダー尾崎さんである。シングルモルトもコニャックもたまらなく魅惑ではあるが、ここはやはりマティーニを飲まなければいけないだろう。さっそく注文し、尾崎さんの手元を凝視する。ジンとドライベルモットをミキシンググラスに注ぎ、鮮やかな手つきでステアする。カクテルグラスに注ぎ、オレンジビターで香りをつけたら、オリーブをそっと入れる。すーっと目の前に置かれたグラスをゆっくりと持ち、口をつけてみる。ひと口含むと、透明の液体がエレガントに香る。きりりと冷えて、ほどよくドライ。つくる所作から含めて惚れ惚れする出来栄えと美味しさである。

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 そして、カクテルの旨さ以上にうっとりするのは、カウンターに立っておられる美しい佇まいや、若いバーテンダーに所作やダンドリについて嫌味なく指示するその采配ぶりである。カウンターに座っている客が帰った後、席を移動したい客がいるときは、何をまっさきにすべきなのか。見えるところでして良い所作と、見えないところですべき動作。バーテンダーとしての振る舞いをこれほど美しく伝授している場面を見たことがない。若いバーテンダーにとっては、一生の宝物になるような指南であろう。いろいろなご経験を積まれてきたようであるが、所作の美しさは茶道を嗜んでいるところから来ているのかもしれない。ご自分でも、ずいぶん役に立っているとおっしゃっていたし、何より「もてなす」という行為を洗練させるために茶道を極めようとされるなんて只者ではない。

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 カウンターには、大きなガラスの花器が置かれ、中にはみずみずしいミントやバジルが入っている。二期倶楽部の中で採れたハーブで、これをふんだんに使ったモヒートも作っていただくことにする。気前よくミントを入れた夏らしい一杯。これをマティーニのチェイサーにしつつ、尾崎さんの素敵なお話を聞く。

 最高の、山のシューレの夜がふけていく。

2018-09-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪老松町「匠味」

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 住所こそ西天満であるが、御堂筋はさんだ向こうはネオン燦めく北新地である。店は老松通りが新御堂筋と交差する角に位置している。新地ほどハードルが高くなく、むしろ御堂筋はさんで東側の老松通りに属しているというだけで民度がググッと上がる感じがする。同心から一気に、表舞台へ進出したという按配である。

 ここはもともと我がオフィスの隣にあって、何度か行ってけっこうレベルの高い旨い料理を出すことがわかったので、社員の歓送迎会や忘年会のときにケータリングを頼むのに大変重宝していた(第158夜)。引っ越ししたとて、その味には変わりはないはずだ。店内は前の店と比べると一気に広くなり、カウンターはもちろん、テーブルも、仕切りのついた小上がりもあって、いろんな使い方ができるようになっている。メニューは基本そんなに変わってはいないけど、今日は京都からの客人を連れているの、コースを頼んでみることにする。

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 こちらは日本酒が充実している。まずは玉川Ice Breakerというペンギンの親子が描かれた涼しげなラベルの純米吟醸。丹後久美浜にある酒蔵である。これ、なんとロックで飲むことを推奨している無濾過生原酒で、氷の溶け具合によって味が微妙に変わるのを楽しめるらしいのだ。日本酒に合わせるように、イカの塩辛、炙った肝、牡蠣と三種の肴を出してくれる。旨い、旨いと目を細めながら酒を飲んでいたら、次に出たのはイカのしんじょのお椀。また、この出汁が本格的なお味なの。

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 続いてワタリガニの身をほぐしたのが出たので、ネクスト日本酒をお願いする。今度のは日本の夏という名で、昼間、日本の夏を老松の「夏柑糖」で楽しんだと思ったら、夜は日本酒で日本の夏を堪能するという偶然。こういう重なりは実に愉快である。ラベルのイラストも郷愁を誘う出来栄え。作り手は、長野の伝統の蔵、明鏡止水。スーッと気持ちの良い喉越しで、ついグビグビと飲んでしまう。

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 お造り盛り合わせも、見るからにゴージャスである。イワシに、マグロに、鯛、イカ、雲丹、カンパチ、甘海老、伊勢海老・・・。刺身のてんこ盛りである。これを宮城・石巻の墨廼江・純辛という酒でいく。南部杜氏の技を駆使した個性的な酒で知られる石巻の酒蔵で、爽快な切れ味のある夏専用の酒である。

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 野菜の炊き合わせも、本格的なお味。茄子、金時草、冬瓜、湯葉、蓮根・・・たっぷり出汁を含んで滋味深い味わいである。焼魚は、鰆の西京漬である。王道というか、覇道というか、正統的な間違いのない旨さである。そうとうほろ酔いになってきたところで、シメの食事をいただく。またこの炊き込み御飯の美味しいこと。

 昼間、京都「老松」の名物菓子をいただき、夜は大阪の老松通りで和食を食べる。夏みかんにの甘酸っぱさに日本の夏を実感し、明鏡止水の日本の夏に酔いしれる。老松〜日本の夏〜つながりの一日であった。こういう偶然がつながっていく感覚、長く生きているとけっこう頻繁に起こるのである。それにしても、この店、なかなか居心地が良い。隣にあったときより、かえって気軽に入りやすいし、また、ちょくちょく来よう。

2017-08-26 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

京都老松の「夏柑糖」

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 京都から客人がやってきた。

 手土産は、なんと老松の「夏柑糖」である。関西で茶を嗜むものとして老松という名を聞けば、とうてい心おだやかではいられない。裏千家でも御用達の老舗であるし、何度か訪れた大徳寺での献茶式とかそのあと開かれる茶席でいただいたお菓子は美味なだけでなく、ある種の風格のようなものがあったと記憶している。なにしろ、正式な店名を有職菓子御調進所 老松 というのである。朝廷の儀式に使われるようなお菓子を作ってきた名店なのである。

 箱を開けると、大ぶりの夏みかんがごろりと横たわっている。凄いインパクトである。それに夏みかんというのが、昨今では珍しい。もともとはこのお菓子、夏みかんの果実に少しの砂糖と寒天で、上七軒のお客様たちのために作っていたものだったとか。ところが、昭和50年以降、グレープフルーツが自由化され、夏みかんも甘夏に作付け転換され、次第に姿を消していったことから、原産地である萩のみかん農家に依頼し、種の保存と品物の確保に努めてきたのだという。今では、和歌山の農家にも依頼し、甘夏からまた夏みかんを育てる協力農家も増え、「夏柑糖」は作り続けられているのだそうだ。

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 早速箱から取り出し、皿に載せてはみたが、夏みかんが大きすぎて、どうも収まりが悪い。上のふたを取ると、中はぷるんぷるんの寒天がきっしりと詰まっている。美味しそう。これを包丁でスパッと二等分し、別の皿に持ってみた。うん、白い皿より、こういう少し枯れた色あいの皿の方が夏みかんの色が鮮やかに映える。

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 スプーンですくい、ふるふるの寒天を口に運ぶ。すうっと口の中で溶けていくその感触。ゼリーとは違うやさしい口どけ。夏みかんの果汁が口の中にほとばしる。ああ、夏だ。夏休みの甘酸っぱい味だ。子供の頃、おばあちゃんと一緒に食べた懐かしい味の記憶がよみがえってくる。昔は、むいた夏みかんに砂糖をつけて食べたっけ。幼ごころが喚起される忘れ難い美味しさ。

 この「夏柑糖」、毎年4月1日に製造を開始する。その年の夏みかんの取れ高によって、終了時期はまちまちであるらしいので、毎年夏まであるかどうかはわからないのだとか。来年は、早めに予約して、ぜひとも何度かたのしみたいものである。

 ごちそうさまでした。

2017-07-21 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

気仙沼「あさひ鮨」

 猫友、ISIS友である裕美さんが仙台に行ったら、あさひ鮨に行けという。おすすめの鮨なのだそうで、仙台滞在中ずーっとアタマのどこかに「あ・さ・ひ・鮨」というワードが点滅していた。鮨好きだもの、そりゃあそうだ。場所は、仙台駅構内すし通りの中にあるという。帰りの便が夕方なので、そんなにゆっくりはできないし、まだおなかは空いてはいないのだが、おすすめの店に行かずして何としよう。どうせ、仙台駅から空港に行くのだし。

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 ところが、すし通りは牛タン通りの奥にあり、区画が渾然一体となっている。それに牛タン通りの店は店先で旨そうな匂いを漂わせており、これではせっかくの鮨の口が、牛タンの口になってしまわないかと心配になる。匂いテロって、強烈だもんな。しかし、脳裏に点滅している「あ・さ・ひ・鮨」というワードのおかげで、牛タン店をやり過ごし、目的の店に入ることができた。

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 まだ、握りを食べるにはちと早い。が、鮨のよさというのは、食べたいものだけ好きなように注文できるそのフレキシビリティにある。まずは、日本酒だ。なんと、一昨日の夜、いわさきで教えてもらった綿屋があるではないか。早速注文する。お兄さんが気前よくなみなみと注いでくれ、あ、そこまででいいですと制止するタイミングを失った。余談であるが、私は升にコップを入れあふれさせるほど注ぐあのスタイルが好きではない。普通のコップよりたくさん入っていますよとのアピールだろうけど、別にそんなものはいらないし、飲みにくいし、口を升に近づける姿勢があまりきれいではないからね。だから、たいていコップが一杯になる直前で止めてもらう。ま、この日はなみなみをありがたくいただいた。刺し身はおすすめネタを盛り合わせにしてもらう。鯛、イカ、鯵、マグロ、アワビ、タコ、子持ち昆布、玉子。これを一切れつまんでは、綿屋できゅっと流しこむ。ああ、至福。

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 最後に穴子の天ぷらで〆た。握りを何カンかもらうという選択肢もあったのだが、なぜかたまらなく天ぷらが食べたくなったのだ。時間にして30分弱。この後、仙台空港に向かうので、後ろ髪引かれながら勘定してもらった。

 裕美さん、今度はちゃんとした時間に来て、ちゃんと握りも食べるので。あ、ほやも次回はチャレンジしてみよう。
 

2017-06-30 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

仙台牛タンの店「喜助」

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 民藝協会全国大会二日目。午前中は被災地を訪ねた。宮城県は津波の被害だけで阪神淡路震災を上回る犠牲者を出したという。仙台郊外には、仙台平野と呼ばれる平坦な田園地帯が広がっており、その沿岸部にあった主な集落が被害にあった。自らも津波で流されたというガイドさんが語る話には災害時の教訓がいっぱい詰まっており、阪神大震災のことも思い出しつつ、他人事ではなく真剣に耳を傾けた。流された家々の跡地はそのままになっており、いかに津波被害が凄まじかったかを想像させる。荒浜という地区では、小さな鳥居がポツンと残されてい、そのすぐ隣には観音様が立っていた。この光景の中にいるだけで、胸の奥の方がヒリヒリとし、視界がにじむ。現地に行かないと感じられないことはたくさんあるのだと改めて思う。日和山という小さな山には、津波で流されてしまった閖上湊神社と富主姫神社が祀られてい、鎮魂の場となっている。小高いこの山のてっぺんから、被災地一帯が見渡せる。ポールに黄色いハンカチをつけているのが目についた。これはこのエリアを行政が居住禁止に指定したことに対し、今まで通り住み続けたいと願う住民の意思表示なのだそうだ。将来的にこの地域が本当に住むのに安全なのかどうかは私にはわからないが、神戸でも被災した自分たちの家に帰りたい、住み続けたいという人は多かった。誰にとっても、自分の家のある場所がいちばん落ち着いてくつろげる居場所なのである。行政とうまく話し合いで解決すれば良いなと願う。

 被災地を後にし、仙台市内へと向かう。バスの中はいささか重苦しい空気が流れていたが、昼食の説明が始まると少し和んだ雰囲気になった。本日は仙台の民藝協会の方々のイチ押しの牛タンを食べに行くそうである。

 仙台といえば牛タンとよく言われるが、私はまだこの地では食べたことがない。初・牛タンである。おすすめの店は、喜助という。創業は昭和50年。厳選した牛タンの中でも吟味した部位を選んで、職人が一枚ずつ手振りで塩を振り、丁寧に味付けをするのだそうだ。それを冷蔵室でじっくり熟成させ、牛タン本来の旨味を閉じ込め、炭火で一気に焼く。ということを、たっぷりと説明していただき、おなかがすいてきた。期待が高まる。

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 最初にやってきたのは、たんとうふ。熱々の絹ごし豆腐の上に、タン先のコリコリした部分をミンチにし秘伝のたれで味付けした餡がかかっている。あっさりした豆腐がタンの魔法で、酒の肴になりそうな一品になっている。牛タン厚焼き卵は、牛タンスモークのチップを巻き込んだ一品。喜助と押された焼印が、いかにも旨そう感を盛り上げている。わかめの彩りサラダは、南三陸町歌津の肉厚のわかめがたっぷり乗っている。シコシコのフレッシュな食感である。わかめもここいらでいいのが穫れるのだな。

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 いよいよ、メインの牛タンがやってきた。コリッと小気味よい食感なのに、噛みしめるとじゅわ〜ん肉汁があふれる口福。これがみんなを夢中にしている牛たんの魅力なのねと納得。つけあわせにはおしんこ。こちらのおしんこは、大根ではなく胡瓜の浅漬けで、シャキシャキの食感である。ごはんは、白米に大麦をブレンドしたいわゆる麦めしである。上にはたっぷりの青森産山芋のとろろがかかっている。牛タンと交互にこのとろろめしを食べながら、ときどきおしんこを口中に放り込む。さらに、青唐辛子を特製味噌に漬け込んだ味噌南蛮で変化をつける。またたくまに完食である。最後にコラーゲンたっぷりのテールスープをいただいたが、これがまたコクがあるのにすっきりしていて、美味しいこと。なるほど、これは充分満足できるご馳走である。

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 なんで仙台で牛タンなのかを少し調べてみた。話は戦後まで遡る。当時は焼鳥屋が多かったのだが、「他の店にないものを出したい」と考えたある料理人がたまたま洋食のタンシチューを食べ、これだ!とタンを焼くことを思いついた。あるいは、余ったタンを使ってみないかと相談され、試しに焼いてみたら美味しいので、それが定着したとか、微妙にディテールは違うけれど、まあおおむねそういうことであるらしい。けっして牛タンの産地だったからというわけでない名物。町おこしが成功した宇都宮の餃子とか富士宮の焼きそばとか、気がつけば普段の暮らしのなかになじんでいるご当地名物はけっこう多い。いいね、こういうの。近所にあったら、しょっちゅう通うだろう。

2017-06-22 | Posted in 未分類, 千夜千食 | Comments Closed 

 

仙台「いわさき」

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 日本民藝協会の全国大会が仙台で開催される。今年のメインイベントは日本民藝館の深澤直人館長と日本民藝館展に入選した工人(民藝では作家さんのことをこう呼ぶ)との対談「手仕事の国・東北の未来」で、これはぜひとも聞いてみたいと早速申し込むことにした。

 全国大会は土日なので、金曜の夜から仙台前乗りである。ちょうど仙台へ行くならこのお店がいいよとの情報も震災以降東北の仕事が増えたという三浦さんから教えてもらっていた。

 仙台は十年ほど前に一度足を踏み入れた程度で、震災以降ははじめてである。日曜には仙台近郊の震災地区をまわるツアーにも参加する予定になっている。会社を少し早めに出て、空港に向かう。飛行機で1時間と15分、あっという間に到着だ。ホテルにチェックインする頃にはすっかり夜の帳が降りていた。仙台の夜。しかも金曜日。そんなになじみのない街の夜というのは、なんだか妙にドキドキする。どんな顛末になるのかしらんという期待感もある。何より、よく知らない土地を歩くというのが無性に好きな性分なのだ。目指すは青葉区国分町。仙台で夜、と言えば、国分町であるらしい。稲荷小路とか虎屋横丁など、風情あるネーミングの路地が縦横に走り、東北一の歓楽街であるそうな。賑わっているエリアは一見、仙台なのか、どこなのかわからないくらい似通ってはいるのだが、呼び込みのお兄さんのしゃべっている言葉の訛りが今まで知っているのとはちょっと違う。なじみのないイントネーション。いいぞ、いいぞ。めざす店は、雑居ビルの中にある。

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 季節料理いわさきとある。こんばんは、とのれんをくぐると、カウンターと奥には個室。さっそくカウンターに座って、本日のおすすめのコースというのをお願いする。あ、その前に、まずはおすすめの日本酒をいただかなくては。セレクトしたのは、綿屋(わたや)という宮城のお酒。名前のようにふわりと柔らかで端正で、けっこう好みの味わいである。これはいいものを教えてもらった。先付けに出されたアスパラガスのすり流しにもよく合う。そしてこのすり流し、中にウニのジュレが隠されているのだ。ふふ。初っ端から、いい感じで驚かせてくれる。この店はアタリ!かも。

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 色鮮やかな色絵の皿に載っているのはコハダのにぎり鮨。あれ、お鮨屋さんに来たんだっけ、と錯覚しそうになるうれしいサプライズである。しっかり脂が乗ったふっくらしたコハダをキュッと酢でシメてい、おまけに左は包丁の切れ目が鮮やかで、右は編み込みと、見た目も食感も微妙に違うようにこしらえている。こういうの、ちょっとした遊び心だよな。いいぞ、いいぞ。

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 コハダに興奮しているとメインがやってきた。わくわくしながらお椀をあけると、茄子とぐじが仲良く鎮座。お出汁には蓴菜が入っている。ううむ、このお出汁なかなか旨いぞ。関西風の滋味がある。お造りは、スモークしたカツオ。軽く塩を振ってちょんと乗った辛子で食べる。カツオのきれいな赤が色絵の皿に映えること。おぬし、計算づくだな。お造り第二弾は、仙台の鯛とアオリイカ。今度は色をおさえたうつわなので、鯛の桜色とイカの白がさりげなく引き立っている。日本酒も第二弾、日高見にする。これも東北の酒ですこぶる飲みやすい美酒である。

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 焼き物は、鱧と空豆。鱧はカリッと白焼きにされてい、手だれの料理人の手にかかるとこうも手懐けられるのかといった風情。尖った主張をせず、コースの流れの中に焼き物としてほどよく収まっている。空豆には黒ゴマで目をつけているので、カエルくんに見えてしまい思わずくすりと笑う。ふふ。シブい志野のうつわには、七ヶ浜のアワビ、毛蟹、白ズイキが盛られている。松島湾で穫れるアワビは磯の豊富な海藻を食べて育つので、味が濃厚になり、旨みがぎっしり詰まるそうである。噛みしめると、磯の香りが口中に広がっていく。たしかに、忘れ難い旨さである。お肉は、岩手と宮城との県境にある栗原で大事に育てられた漢方牛。漢方と名づけられているとあって、14種類の漢方薬やハーブなどを食べて育った牛なんだそう。なんと融点が23℃前後と低いので、口に入れた瞬間にすーっと溶けていくのである。

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 シメにシャコがいやというほど入った炊き込みごはんをいただいた。お味噌汁にはたっぷりと海藻が入っていて、ああ仙台に来ているのだなとしみじみ実感する。

 七ヶ浜、栗原など、関西にいると耳慣れない地名であるが、仙台近辺の産地の素材を実にうまく使って、素晴らしい一品に仕上げている。すぐ近くに松島湾という良好な漁場があるせいで、仙台の海の幸のレベルもすこぶる高い。何より、震災後、漁場が落ち着きを取り戻し、以前と変わらない安定した漁獲量が確保されているのだとしたら、これほど喜ばしいことはない。

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 ご主人におすすめのバーを聞き、一杯だけのつもりで飲みに立ち寄った。The Bar an。キャンベルタウンのスプリングバンクが充実しており、普段めったに飲まないのでチャレンジすることにした。アイラモルトの磯の香りとはまた違う、潮の香りのするシングルモルト。杯を重ねつつ、いつかウィスキーの蒸溜所を訪ねる旅がしたいなと妄想する。

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 国分町の夜は更けていく。

2017-06-09 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

西麻布「レ・ビノム」

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 ここは10年くらい前にちょくちょく行った店である。料理人が変わったのか、経営が変わったのか、はたまたメニューのシステムが変わったのかはわからないけれど、少し前に行ったら様子が変わっていた。前は、もっと自由度があって、たしかワインは何を選んでも同一価格であったように思うが、それもかなり前の記憶である。とにかく、パリのビストロのような(5回くらいしか行ったことはないが)カジュアルかつ洗練された雰囲気がたまらなく心地よかった。

 季節になるとエゾシカとかイノシシとかを出すので、ひそかに「エゾシカ会」なるものを作り(一年しか機能しなかったが・・・)食べあさった年もあるし、イノシシのカレーに夢中になったこともある。たいていすぐ満席になり、おおいに賑わい、いつぞやは某高名料理評論家のお姿を拝見したこともあった。

 場所は西麻布交差点の近く。ちょっと一本裏手に入ったところにあるロケーションが隠れ家っぽくて、なかなかよろしい。しかも、テーブルとテーブルの間隔がくっつきすぎじゃない?と思うくらい狭いところもパリのビストロのような(5回くらいしか行ったことはないが)風情で、客同士の会話やグラスを合わせたり、ナイフやフォークが皿に当たる音が混じり合ったなんとも言えないさんざめきが日本離れしていたのであった。

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 今回の訪問はかなり久しぶりである。テーブルの間隔とか配置が微妙に変わっていることに気づく。お味の方はどうだろう。とりあえず、ワインはシャンパンでずーっと行くことにし、ルイ・ロデレールをボトルでお願いする。

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 ミネストローネを軽くいただいて、ツナサラダ。と言ってもこれは分厚いカツオを大胆にザクザク切ったものをソースで和えた一品である。魚好きにはこたえられない出し方だ。カツオ、ほとんど生状態である。鯛のポワレは、皮がこんがりパリパリ。皮をどのように処理するかで魚の味わいは格段に変わるし、皮もご馳走の一部なんだよなあと感心しながら美味しくいただく。付け合わせはアスパラソバージュ。アスパラと名前がついていはいるが、つくしが伸びたような形状をしており、茎の部分は心地よい歯触りとぬめりがあってなかなかうまい新種の野菜である。

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 メインは鴨とトリュフ。ありそうでない組み合わせかも、と思いながら鴨にかぶりつく。グリルした人参や牛蒡のシャクシャクした食感と、鴨の濃密な肉感とのギャップをトリュフの香りが巧みに繋いでくれるという感じ。ソースで食べない鴨、意外と好きかも。シメはホタルイカとトマトのカッペリーニ。お味は申し分ない。冷製パスタがそろそろ気持ちよくいただける季節になってきたな。

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 この日はデザートをパスして、もう一軒ハシゴした。連れてってもらったのは、天現寺交差点そばのワインバー。そう、あのケンゾーエステイト直営のバーである。バーと言っても、こちらではワインに合うちゃんとした食事も提供しているらしいのだが、なんと言っても普段ボトルでしか飲めないプレミアムワインがグラスでいただけるのである。紫鈴と書いてrindoと読むあの赤ワインは、このところ鮨や和食のカウンターなどでもよく見かけるので気にはなっていた。

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 この店、正式にはケンゾーエステイト・テイスティングルームと言う。フラッグシップワインrindoだけでなく、6種類のプレミアムワインをテイスティングできるのだ。ゆったりした空間にはナパ・ヴァレーの雄大な葡萄畑や醸造所の写真が飾られ、風格のあるホテルのダイニングルームのような雰囲気が漂う。すでに都内に二店舗、大阪にも出店していると聞いた。テイスティングしたのはrindoではなく、aiという赤。漢字では藍と書く。藍染めの藍が紫よりもより深く鮮やかであるように、まろやかで繊細なカベルネ・ソーヴィニヨンである。普段赤を飲まない私でも、これは旨いとしみじみ思った。まあ、グラスのお値段も当然それなりではあったけど。

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 シャンパン、赤ワインをゆっくり楽しんですっかりできあがった夜、シメに(?)どこぞのバルとかカフェによってアフォガートを食していることが写真を見て判明した。最初の食事でデザートをパスしているので、深夜とはいえこれはこれでまあ良しとしよう。

2017-05-22 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

銀座鮨「一柳」

 「一柳」は銀座の名店でありながら、当日電話しても意外とすぐ入れるというのが有難い鮨屋である。すでに何度も紹介しているので、詳しくは書かないが、銀座の鮨で当日電話して入れるところなど皆無と言っていいのに、そしてここはいつも行ってみれば満席であるのに、なぜか融通がきくのである。

 なので、突然鮨が食べたくなったときには、躊躇せず電話してみる。時間制限がつくときもあるし、時間調整をしないといけないこともあるけど、十中八九は入れてもらえる有り難い店なのである。

 そして、もうひとつ有り難いのは、ここはいつ来ても、ほぼ同じコンディションの魚が食べられることである。これは店主である一柳さんの姿勢というか流儀である。「いつも同じ状態の魚や鮨をいつでも変わらず出し続ける」このことの難しさは素人であっても容易に想像がつく。

 いくら築地が近くにあろうと、魚の漁獲はそのときの天候や海のコンディションによって左右される。海水温の変化によりプランクトンの量が減ったりすると、今まで獲れていた魚が獲れなくなったりすることもあると聞く。逆に今まで滅多に獲れなかった魚が急に豊漁になったりということもあるらしく、いつも同じクオリティの魚を毎日仕入れるのは至難の技である。取引であるから、当然、毎日コンスタントに買い続けることによる信用も必要だろうし、ときにはハズレのタネしかない日もあろう。もちろんその季節の旬というのもふんだんに用意しながらも、つまみではタコ、カツオ、あん肝、アワビ、ウニはほぼ一年中食べられるし、鮨ではカレイなどの白身、マグロ、イカ、コハダ、穴子なども食べるたびにああいつもの味だと安心するのである。(もちろん、こうした姿勢は一流と呼ばれる鮨屋ではあたりまえのことではあると思う。あるレベルを超えた鮨はほとんどそうだろう)

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 本日は、厚岸の白魚からスタートである。向こうにはホタルイカ。刺身は鯛であるが、これはお腹のコリコリしたところ。たまらん歯ごたえと脂である。そして鯛の子。これも好物。さすがに鯛の子は季節限定である。とり貝は愛知からやってきた。これも季節によって産地はまちまちであるけれど、いつもしっかり肉厚で甘い上質のものを仕入れている。これはたいてい生きたまま、パンっとまな板に打ち付けられ、その刺激で目の前の皿に置かれてもまだ動いていることが多い。続いて桑名の蛤。こちらで生の蛤が出るときはたいてい桑名産のものである。

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 紫蘇を巻かれているのは、カレイの縁側をホイル焼きしたもの。カツオは、いつもスペシャルな薬味でいただく。このタレ、瓶詰めにして売ればいいのにといつも思うのだが、これで海鮮サラダとかのドレッシングを作れば旨いに違いない。写真を撮り忘れたが、こちらのタコも絶品である。昔ながらの大根で叩いて柔らかくするという方法を取っているらしく(見たことはないが、大根で叩いているのは見てみたい)、しっとり柔らかい歯ごたえの馬鹿馬な一品である。

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 美しい黄金色のウニは、余市の馬糞。解禁日初日のを仕入れてきたと聞けば、有り難く、塩でちびちびと味わう。水茄子でウニの濃厚さをスッキリさせたら、平貝を海苔で巻いた磯辺焼き。毛蟹をポン酢でいただき、あん肝、アワビと日本酒が進むつまみが続く。至福のひとときである。つまみのフィナーレには金目鯛を焼いたもの。たいそう良い脂がまわってい、舌鼓を打つ。

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 そろそろ握りと行きますか。まずは、マコガレイ、シマアジ、イサキ、黒ムツ。ねっとりと甘かったり、コリッと滋味深かったり。それぞれが独特の美味を内包する白身たち。ううむ。鯛やヒラメ以外で、これだけ白身のバリエーションを持たせるなんてさすがであると唸りつつぱくぱくと平らげる。

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 メインはマグロ三銃士。ヅケ、中トロ、大トロだ。本日は日本海で暴れていた子、佐渡方面のマグロである。マグロがいつ来てもちゃんとあるというのが江戸前の大原則であろうけど、本当にいつ食べても旨い。旨すぎる。この仕入れだけでも並大抵のものではないと感心する。だから、どんなにお腹がパンパンで、握りをパスしたいときでも、マグロ三銃士だけはスルーできないのだ。

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 マグロの後はアオリイカ、コハダ、キスの昆布締め、アジ、カスゴと来て、これも絶対いつも食べたい穴子である。そして、シメはやっぱりトロタクじゃないと終われないので、半分だけ巻いてもらう。ああ、今日もよく食べた。ちゃっと食べるのがいいなどと言いながら、居心地がいいのでずいぶんと長居してしまった。まあ、いいか。

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2017-04-18 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

いつもの白金「モレスク」

 平均すると東京出張が月3~4回。そのうち半分くらいが、泊まりであるので、モレスクへは最低でも月1回は通っていることになろうか。あればいつも注文してしまうお気に入りのメニューもあるのだが、前菜もメインも季節に応じて少しずつ変わるのでいつも目が離せない。

 ある日見つけたのが、このラディッキオを使った一品。以前、油面のイタリアン(第89夜)で食し、そのシャキシャキの食感とほろ苦く酸っぱい味にノックアウトされたので、“ラディッキオ”というワードに反応し、一も二もなく飛びついた。

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 が、その前に、冷製グリーンピースのポタージュとコンソメのカクテルスープをいただく。これはなんと、二層になったスープで、下のコンソメはゼリー状になって、上のポタージュとの食感の違いを楽しむのである。ひとつで二度美味しいうれしいお料理。むふふ、の旨さである。

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 そうしてお待ちかね、ラディッキオとヤリイカのサラダ、アンチョビソースがやってきた。ラディッキオとイカという取り合わせ、ちょっと意外に思うのだが、この異業種をアンチョビソースがうまくまとめ上げ、こたえられない独特の美味を生んでいる。苦味と旨みのマリアージュとでも言おうか。ラディッキオのほろ苦酸っぱさに、アンチョビソースをまとったイカの濃厚さがからんでで絶妙なマッチングなんである。

 ラディッキオ。あまり野菜を積極的に食べない私を虜にした野菜。ワインレッドと白のコントラストが綺麗なゴージャスなルックス。キク科の植物で、チコリやエンダイブの仲間なんだそう。そうか、私自分であんまり買わないけど、チコリも好きだもんな、とひとり納得。それに、なんとカリウムはキャベツの1.5倍。抗酸化作用にも優れているらしい。そしてシーフードとの相性もいいらしいのだ。なるほどねえ。

 ラディッキオの原産地はイタリア。最近ではアメリカやチリからも輸入されているらしいし、日本でも栽培されているらしい。なのに、家の近所のイカリスーパーや阪急オアシスではお目にかかったことがない。まだローカルには出回っていないということか。阪急とか大丸の地下なら置いてるんだろうか。ま、わざわざ探して調理するほど、まだ時間的なゆとりがないので、食べたいときはここに来ればいいんだけどね。

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 ラディッキオと一緒に頼んだのは、タコとカブのガーリックマリネ。こちらも、なかなかのお味である。メインは、タンドリーチキン。タンドリーなど店内をどう探したってないのに、これはどう見たってタンドリーチキンなんである。ナイフを入れると小気味良くスッと入る。やっぱりタンドリーチキンである。シェフにどうやって作ったのか聞いてみると、事前にヨーグルトに漬け込んでおくのだという。ふーん、それだけの手間でこうも美味しくなるなんてね。付け合せもな〜んにもなしでパクパク平らげた。

 ラディッキオ、そしてタンドリーチキン。いまのところ、最強のペアである。

番外編

 珍しく炭水化物を抜いたものだから、なんだかもう一軒行ってもいいような気になっている。普通の人間ならこれでじゅうぶんなんだろうけど、私はやっぱり視床下部がイカれ気味。今夜はチョロリではなく、恵比寿のソウルバー。もちろん、ちゃんとソウルを聞きにいくところなんですが、ときたま、深夜にここのスペシャルな白いアレを食べに来る。巷(モレスク関係者のみであるが)では「白いの」で通じる。白いのとは、チョリソーと玉子のマカロニグラタンである。白いのはホワイトソースから来ているのだが、これが何というか懐かしい昭和の味で、ゆで玉子がゴロゴロ入った禁断の旨さなのである。深夜に食べる高カロリーなひと品。いけないことはわかっている。わかっているから余計旨いのである。馬鹿馬。

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2017-04-10 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

神戸ステーキ「みやす」

 世の中にはなんでこんなに肉好きが多いのだろう。テレビなどを見ていても、やたら「肉!肉!」と喧しいし、グルメ番組では出演者が肉ガッツリとか肉汁(この場合、ニクジュウではなくニクジルと発音している、いやですね)たっぷりとか興奮気味に叫んでいる。焼肉が大好物という人もまわりにはけっこう多い。

 おまけに本場に住んでいるので、ステーキや焼肉の名店はそこらじゅうにある。いいですねえ、神戸だと美味しいお肉があってと言われることもけっこう多い。だけど、日常的に神戸牛などほとんど食べないし、第一そんなに気軽に買えるほどスーパーなどには出回っていない。行くところに行かないと市民であってもさほど身近なものではないのだ。

 とはいえ神戸在住もけっこう長いので、何度かは神戸牛というのをそれなりに味わってはいる。いちばん印象的で今もなお鮮明な記憶が残っている店といえば、名店「麤皮(あらがわ)」である。大昔、アメックスのポイント特典でこちらのディナーがあったのだ。お二人様ステーキフルコースをゲットするのに相当な元手がかかったと記憶しているが、とにかく夢のようにゴージャスでリッチなステーキとシチュエーションであった。もう、10年くらいはステーキは食べなくたっていいや(大げさではない!)と思えるくらいの濃厚さで、給仕してくれた人も映画「ティファニーで朝食を」に出てくる粋な店員のような渋い紳士で、手厚くもてなしてくれた。ステーキの思い出はもうあれでじゅうぶんなのである。

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 ところが今回、会食のお相手が神戸牛をご所望になったので、実に何年かぶりのステーキを食べに行く事とと相成った。こちらの店もステーキの老舗として神戸ではその名が轟いている。ただ、「え、こんなところにお店があるの?」というくらい立地がファンキーなのである。店は淡路交通というタクシー会社のビルの二階にあり、場所をちゃんと知らないと、素通りしてしまうかもしれないくらいの構えである。知ってる人にだけウェルカムという知る人ぞ知る感。まあ、店を知っているので、脇の階段をトントンと上がって、入店するがね。

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 ヘレのコースを選択した。まずは季節の前菜盛り合わせ。ザワークラウト状になったキャベツのコロンとしたのでお口をさっぱりさせ、茹でたホワイトアスパラガスを食す。スープは見るからにおいしそうなポタージュ。こういうの大昔連れてってもらったホテルのディナーでよく出たっけ。小麦粉をしっかり炒めたホワイトソースの正統的な味がする。シャキシャキのサラダが出た後、いよいよメインのステーキである。できるだけ、レアレアでとリクエストした。

 こちらは最高級紀州産の備長炭を使って直火で焼き上げるのがウリで、創業当時(昭和35年)から変わらない調理法を守っている。セレクトする肉は、三田の清冽な水を飲み、麦や米を主に食べて育った三歳の雌牛を熟成させたもの。分厚く切った熟成牛を炭火の高温で焼き上げ、肉の旨みを凝縮させることで、切ると香ばしく、しっとり肉汁の旨みが溢れる味わいになるのだそうだ。これ、「チャコールブロイル」と呼ばれる方法らしく、最も肉の味を引き出せる備長炭での炙りなのであある。さらに、炭の上に滴った肉の脂から立ち上る煙を肉にまとわりつかせることで、肉は独特の薫香をまとい旨みの成分が肉の中でかけ合わさり、余分な脂も程よく抜け凝縮された肉の美味さとなるのである。

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 やってきたステーキは、一瞬真っ黒な塊に見えるのだが、これこそが煙と薫香をまとった美味さの塊である。ナイフを入れると、すーっと心地よく切れ、中はご覧の通りレアレアの真っ赤っか。しっとり柔らかな口当たりの中に、肉の旨みがたっぷり凝縮されてい、そのうえ肉汁の香ばしいことと言ったら!ヒレとは言いながらも、さすがにいい肉は濃厚である。半分ほど食したところで、もういいやという気になってきた。あかん、あかん。久しぶりの極上の神戸牛である。ゆっくりと時間をかけて、己を叱咤激励しつつ全て平らげた。

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 デザートは昔懐かしいアップルパイを。あ、バニラアイスをのせてください。と、我儘を言う。アップルパイ・ア・ラ・モードである。ステーキを完食するのがしんどくとも、デザートは別腹である。

 神戸牛のステーキは旨い。プロの手によって吟味された素材を、こだわりの焼き加減でいただくとほんまに馬鹿馬である。だけど、それでも。こんなに濃厚なのをいただくと、次は5年後ぐらいでじゅうぶんである。その機会があれば、だが。

2017-04-03 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

南森町「すし芳」

 前夜も南森町であった。会社の近所に名店がある幸せを噛みしめながら、今宵は鮨の暖簾をくぐる。ご存知、すし芳である。

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 本日はいきなり日本酒からスタートである。特別純米・喜久酔。これを美しいバカラのグラスに気前よくなみなみと注いでくれる。白い器に入っているのは、生しらす。喜久酔も、しらすも、静岡産。そう、産地つながりである。そしてイワシ。しらすは大人になるとイワシになるのである。静岡から今度は成長の物語が始まるのである。ううむ。

 一筋縄ではいかない鮨屋であることはよくわかっている。いつの頃からか、こうしたネタの編集がなされはじめ、気づけば毎回新鮮な連続ワザに唸らされるのであるが、今夜はスタートから走っている。

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 お次は雲丹の競演だ。向こうに見えるのは由良のムラサキウニを巻いたもの、手前の備前に入っているのはもずくである。ここで山丹正宗という愛媛の酒が出される。 松山三井という米で作っているので、ラベルにはMiiとある。最近の日本酒、ネーミングもラベルも一昔前とは比べものにならないくらい頑張っている。ムラサキウニの風味をMiiで流したら、手のひらにポンと置かれたのは唐津の赤ウニの握り。このふっくら具合たまりませんな。赤ウニは淡路の由良のが最上と思っていたけど、唐津のもなかなかどうして良い具合。それに、これあべこべに挑戦しているわけね。あえて、由良のウニのセレクトをムラサキにする。天邪鬼な遊びではないか。

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 マイセンに入っている液体は知多半島のアサリのスープ。軍艦巻きの中にもアサリ。いやん、アサリのエキスたっぷりのスープの美味しいことと言ったら。考えてみれば、アサリは生ではなく熱を通してはじめてアサリ本来の力を発揮する。酒蒸しとかボンゴレとかも旨いもんねえ。

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 アサリを食べながらにんまりしていたら、大将がカウンターの中で何やら楽しげに作業している。おお、カツオをヅケにしているではないか。それをうつわに盛って上から大和芋をすりおろしたものに辛味大根の絞り汁を混ぜたものをかける。またこのちょっといびつな白磁が好い。大和芋の白とカツオのねっとりとした生きのよい色との対比がなんともいえずアーティスティック。芸術点満点をあげたい完成度である。カツオは千葉勝浦からやってきたのだそう。合わせる酒は和歌山海南市の紀土である。もちろん海南市で捕れるカツオも有名であるので、そこで作られた酒が合わないわけはないのである。タタキはまずは握りでいただいて、もうひとつは塩をパラリと降ってそのままがぶり。

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 続いては、長崎の白イカの造り。一週間寝かせたのと三日寝かせたのを食べ比べるという趣向、辛味大根と生姜でいただく。巻きは、白イカの耳と袴の部分を巻いて。白イカというのはいわゆる剣先イカのことだが、寝かせたものはねっとりと旨みを増し、濃厚な甘みである。このサワラと見紛う立派な切り身はアジである。小浜のアジに泥酢をかけたもの。そしてアジの握り。よおく脂の乗ったアジの旨さは、別格ともいうべき味わいである。

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 ここいらでトマトでひとやすみ。左は徳島産、右は熊本産。あたりまえといえばあたりまえだけど、トマトも産地別で微妙に味が違う。食べ比べつつお口をスッキリさせた後は、穴子をパリリと焼いたのに、ワサビをつけたのと握りにしたもの。そろそろフィニッシュに向かう感じかな。と思いきや、丹後のトリ貝二種。向こう側のは軽く炙って、手前の微塵唐草のうつわにはひもと酢味噌。これを根知男山という長野と新潟の県境にある酒蔵の酒で飲る。手前のグラスは、トゥールダルジャンがバカラにオーダーしたグラスなんだって。いい気分でちびちびやってたら、出してくれたのは宮城の渡り蟹に岩塩を添えたもの。これも絶品。手巻きの中身は渡り蟹の内子。この美しいオレンジ色を見よ。たまらず、日本酒のおかわりを。これは近江の七本鎗。魯山人が愛した酒としても知られている。

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 シブい備前に入っているのはシマエビのアタマ。これをちびちび七本鎗で楽しんだら、才巻海老の握り、そしてシマエビを冷凍して四角に整形したカルパッチョ。海老もまさかここまで解体され、茹でられたり、凍らされたりするとは想像もつくまい。

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 最後に、宮城の塩釜で捕れたマグロのトロ鉄火を巻いてもらう。ちびちび飲っていたつもりなのに、けっこう飲んでいてヘロヘロにできあがっている。いい感じである。本日も華麗なる編集テクニックを堪能した。大将、変態度にますますの磨きがかかっている。

2017-03-01 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪南森町「宮本」

 ああ、よかった。5月はかぶっていない。初めてである。いや、別に月がかぶっても、何度でも来たいのだが、全月制覇と言っている以上、いずれは目標をクリアしなければいけない。

 そう、おなじみ「宮本」である。

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 連休明けたてのほやほや。しかし、5月といえば端午の節句である。お軸は想像通り兜を描いたものであった。清楚な白い花はぼたん。香合は七宝つなぎ。連休の間台湾で遊び呆けており、彼の地は暑いので季節も何もぐちゃぐちゃだったけど、ちゃんとここには日本の季節があった。

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 先付けはうすい豆腐。うすい豆を裏ごしし葛で固めた豆腐に淡路の雲丹がのっている。うすい豆というのはエンドウのことで、関西では豆ごはんにもよく使われる食材である。黒の盆の上で、金をあしらった切子の器に豆の緑が映える一品だ。黒の折敷が透け、隣には朱赤の盃もあり、色彩の対比まで計算されているという気がする。煮物椀は徳島の鱧。こちらもふたを開けるとふわりと上品な香りが立ちのぼる。漆黒の椀に鱧の白、緑のキヌサヤとすだち、梅肉の赤。嗅覚と視覚にガツンと来る心憎い演出である。

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お造りは、明石の鯛にカツオのたたき。鯛はコリコリ、カツオはねっとり。

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 本日は新政の亜麻猫という日本酒からスタートした。なんてたってネーミングがいい。猫がついているもんね。しかもスパークリング酒だ。ラベルの解説によれば、この亜麻猫を搾る際に荒漉ししたもろみを加え瓶詰めし、一定期間やや暖かいところに置いておくと、生きた酵母の力で発砲感が得られるのだそう。この瓶内二次発酵の調整の難しさが、気難しい猫そのものなのでこのネーミングになったのだとか。気難しい猫、大好きである。続いても新政のカラーシリーズ、通称ラピス。定番中の定番である。新政は、とにかくすべての酒のネーミングが秀逸だし、ラベルもセンスがよい。もちろん酒が旨いことはいうまでもない。なにしろ、六号酵母を採取した蔵元である。蔵の方針にも筋が通っているというか、明確なポリシーがある。そこも含めてファンである。

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 焼き物は淡路の油目。アブラメというぐらいであるから、白身なのによい脂がしっかり乗っており、これがたまらん旨さなのである。酒は刈穂の種月という純米大吟醸を合わせる。新政と同じ秋田の酒で、亜麻猫が猫っぽいテイストなら、こちらはガツンと男らしい味わいで、油目のアブラをどうどう、とうまい具合に馴らしてくれる。

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 いい気分になってきた。出されたのは、ちまきと柏の葉っぱでくるんだお鮨である。またしても季節が端午の節句であることを思い出す。葉の緑が目にみずみずしい。八寸がまた豪華である。鯨のベーコンと水菜を炊いたもの、しゃぶしゃぶのお肉、生のコノコ、琵琶湖のアユ・・・エトセトラ。たまらず、新しい日本酒を注文する。善知鳥と書いて、うとうと読む。こちらは青森の酒で善知鳥とは海鳥の一種であるらしい。この酒蔵は田酒とか喜久泉という銘柄も出していると聞き、どちらも飲んだことがあったのでなんだか妙に安心する。海の幸、山の幸をつつきながら、旨酒をちびちびと飲る。至福のひとときである。なんだろうな、この心地。フレンチやイタリアンでは、こうはいかない。もちろん洋食にだって堪えられない美味はいっぱいあるのだが、畳の上に座って、素性のわかっている食材をきちんと真面目に作った日本酒でいただくことの贅沢さ。この感覚を味わうことこそが、和食の醍醐味だ。

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 渋い染付が出てきた。蓋には道光庚子年製古染附と書かれている。清の道光時代の庚子(かのえね)を調べると1840年。アヘン戦争の年である。伊万里では、明や清の時代の染付を忠実に写し、年製の文字まで丁寧に描いたというから、これはそれだろうか(ご主人に聞き忘れた)。呉須の色も美しく、連続する文様が丁寧に描かれた上手物である。蓋を開けると、中にはホタテと人参、ごぼう、キクラゲの入った飛竜頭(ひろうず)。たっぷり出汁を含んで、滋味もたっぷり。余談であるが、関西では飛竜頭(ひろうず)と呼ぶこれを、関東ではがんもどきと言うと知ったのは大人になってからだ。それも小説だかエッセイだか書物で目に触れた。(同じようなものにちくわぶがある。最初は誤植かと思っていたが、あるとき竹輪麩と漢字で書いてあるのを見て、竹輪とは違うことがわかった)

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 白磁の器に盛られているのは、毛蟹の身を三つ葉や芹、みょうがと和えたもの。お酒は富翁の純米大吟醸。伏見の酒である。馥郁と香る。このデキャンタのような瓶がまたたまらなく素晴らしい。酒の余韻を楽しみつつ、そろそろ食事である。炊きあがったばかりのご飯はどうしてこんなに美味しいのだろうといつも思うが、絶妙な焼き具合の鱒がご飯のうまさに拍車をかける。

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 フルーツのジュレがけ、女将さん手作りのわらび餅をいただいた後、お薄をいただき、5月のお楽しみを堪能した。宮本の大将は、名人に近づきつつあるな。

2017-02-10 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

六甲ピッツェリア「カルモ」

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 飲食店不毛の地六甲駅前。第206夜で紹介した焼き鳥屋さんが彗星のように現れたと思ったら、今度はそのすぐ小道をはさんで3軒隣にピッツェリアがオープンした。

 ピッツェリア。言わずと知れたピザ屋さんである。ピザかあ。そういえば、長い間ピザを食べていない。そもそも食べる機会がなかなかないのである。ところが、会社の近所に窯焼きピッツェリアができ、社員が美味しいというので出かけたところ、たいそうクオリティが高かった。なので、月に一度くらいはランチの選択肢にピザも入ることになった。そうしたら、今度は家の近所にピッツェリアができたのである。

 興味津々。問題はいつ行くか、である。そうこうしているうちに、近所の天皇バーで行ったという人がちらほら現れ、なかなか美味しいという評判である。こうなったら、もう居ても立ってもいられない。飲み友達の由利ちゃんを誘って、出かけることにする。

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 白でまとめられたセンスのいいエントランス。奥には大きな石窯が見える。入口脇には小さなテーブルがあって、後は石窯までまっすぐ続くカウンター。あの超ローカルかつファンキーだった鮨屋がこんな洒落た空間になるなんてね。驚きである。

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 カウンターの真ん中あたりに陣取って、まずはメニューを物色。前菜、窯焼き料理、生ハムもある。ピザだけでなく、ちゃんとスターターからいろいろ楽しめる構成である。これはいいじゃん。まずは、辛口の白で乾杯。さてと、今日はふたりだから、じゃんじゃん注文できる。前菜には、濃厚レバーパテと揚げチーズニョッキを。うん、どちらもなかなか旨く、ワインが進む。またたくまにぱくぱく平らげる。窯焼き料理も何か言おう。と、メニューの中に懐かしのラザニアを発見した。ラザニアは大昔大好きでよく食べたのだが、最近はとんとお目にかからない。手間がかかるからかしら。だけど、ピザ窯で焼くラザニアは、熱々で絶対に美味しいに決まってる。さっそく注文する。すると由利ちゃんが、野菜も食べないと、というので、野菜の窯焼きバーニャカウダソースも頼む。ピザ窯がラザニアも野菜も、短時間で美味しくしてくれるのである。

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 生ハムもいろいろ種類がある。パルマ産14ヶ月熟成の生ハムや、鴨の生ハムというのもある。お値段もすごくリーズナブルなんである。何種類か頼んでランブルスコと一緒に食す。

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 真打ちのピザは、マルゲリータとしらすマリナーラというのを注文する。薪をくべ400度の高温で一気に焼くピザは、外側はカリッと香ばしく、中はもちっと小麦粉の風味が生きた味。こんな美味しいものがたったの1分半で焼きあがるのだ。オーナーは、「焼きたての熱々だから美味しいんですよ」と謙遜するけど、いやあ、これは粉の配合といい、寝かせといい、綿密な下ごしらえあっての美味だろう。

 お休みの日の地元で夕食を何にしようというときの選択肢にピザが加わった。この店ができなければ、ピザが選択肢に入ることはきっとなかったろう。そう思うと、ずーっとこの地で頑張り続けて欲しいと願う。

 後日。

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 先日頼んだランブルスコ、甘口しかなかったので辛口も入れてねと頼んでおいたら、さっそく仕入れてくれていた。こういうの、うれしいじゃない。生の水牛モッツァレラときのこのマリネ、生サラミ&生ハムでさっそくランブルスコをぐびぐび。余った生ハムは、ビスマルクという卵入りピザに乗せてもらって、二度楽しんだ。ピザは、シンプルにマルゲリータでしょ、という人が多いけど、私は卵好きなので、いつもさんざん迷った挙句、ビスマルクを注文してしまうのである。

2016-11-15 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

朝ごはん「永和豆漿大王」

 すっかり台湾に魅了されてしまった。骨抜きにされたと言ってもよい。台北、日月潭、台中。5泊6日の駆け足の旅では、どの地にも未練がたっぷり残る。後ろ髪引かれながら帰国日を迎えた。フライトは12時15分発。桃園空港には11時前に着けばいいので、逆算して遅くとも10時にはタクシーに乗ることにする。ということは、早起きすれば10時まで台北を堪能できるのだ。せめて最後の朝ごはんぐらいは、台北の喧騒の中で食したい。なので、さっさと身支度し、街歩きに出かける。

 台中から台北に戻り夜遅くチェックインしたのは台北のメインステーション、台北車站から歩いてすぐのホテルである。夜はほとんどウロウロできなかったので、今後のためにも多少なりとも土地勘をつけておきたい。台北車站の北側を足早に通り過ぎ、角を右に曲がって歩くと、付近はどうやらオフィス街のようである。ビルとビルが立ち並ぶ通りの軒には朝ごはんを売る店がけっこうある。みんなひっきりなしにバイクや自転車で乗りつけ、朝ごはんを店先で食べたり、テイクアウトしている。そうそう、こういうところで朝ごはんを食べてみたかった。と思いつつ歩いていると、一軒の店が目についた。店の人ほとんどが若い女性ばかりで、あふれんばかりの活気に満ちている。

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 よし、ここにしよう。メニューを物色しつつ、まずは豆漿を注文する。長い揚げパンは油条であるな。あれを豆醤につけて食べると良さそうであるが・・・。目の前で焼いている蛋餅らしきものも美味しそう。さんざん悩み、その、蛋餅とゴマのついたパンのようなものを指差し注文する。

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豆漿はほんとに身体が洗われるような清々しい味である。蛋餅は葱と卵をくるんだ台湾式クレープのような感じ。しっとりした味わいである。ゴマのついたのは、焼餅でこちらも中に卵が入っていが、食感はパリパリ。豆醤とかわりばんこに食べて、最後の朝ごはんとした。

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 営業時間と書かれた看板を見ると、朝の6時から開け昼過ぎには閉める朝ごはん専門店である。ま、ランチのために利用する人もいるだろうけど、こんな店が普通に町中にある台湾の食環境は実にうらやましい。

 初台湾の旅。食に関して言えば、一軒たりともハズレがなかった。多くの人がリピーターとなり足繁く通う理由は、やっぱり台湾の食にあるのだな。

2016-11-08 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台中フレンチ「Le Moût」

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 「世界のベストレストラン50」というのがある。毎年、ジャーナリストや食の批評家、シェフなどその道の専門家たちが美味しいと思うレストランを選び出すランキングで、かなり信頼度が高いものであるらしい。第137夜で訪れた大阪新地のカハラも2013年度の「アジアのベストレストラン50」にランクインしたと聞き、ちょうど台湾に行くので現地でランクインしている店はないかと調べていたら、一軒だけあった。それがここ「Le Moût」である。美貌の女性シェフがやっている。ぞくぞくするな。早速、メールで予約すると、迅速に返事が返ってきた。OKであるという。

 日月潭で一泊して次の日台中まで送ってもらい、夕刻フレンチをいただいて遅めの新幹線で台北まで帰る。うむ、完璧なスケジュールである。昼間は、台中観光で時間をつぶせばいいし。

 まずは、孔子廟や金ぴかの布袋さんがいる寶覺禅寺などを巡り、その後、Le Moutのあるエリアまで移動する。国立台湾美術館というのがあったのでここを見学しつつ時間をつぶすことにしたのだが、なかなかどうしてすごい規模の美術館である。文字を組み合わせる映像インスタレーションに見入り、自分の似顔絵なんぞをその場で描いて貼るコーナーでしばし遊んだ。美術館の正面には美術園道というアートパークウェイがあり、散策しながら彫刻などのアートに触れられる。どうやら、台中はアートのレベルの高い街であるらしく、伊東豊雄や安藤忠雄の設計した歌劇院や美術館もあると聞いた。

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 そろそろ予約した時間が近づいてきたので、住所を頼りに店を探すのだが、ここは台中の路地。どこを探しても洒落たフレンチがあるようなエリアはない。道を行きつ戻りつ、何度か現地の人に尋ねつつ歩いているとマンションが立ち並ぶ一角があった。その角に白っぽいモダンな建物が見える。あそこだ。間違いない。

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 案内を請うて一歩足を踏み入れると、そこはまるで別世界であった。隅から隅までずずいと立派なグランメゾン。給仕してくれる男の子も綺麗な英語を話す(私よりずっと上手い)。まずは、グラスでシャンパンをいただいて、じっくりとメニューを眺める。ひときわ興味深いコースを発見した。なんと、日本酒の黒龍とのコラボレーションコースである。時令賞味(Seasonal Taste)×日本黒龍酒造。なんで黒龍が、と聞けば、黒龍の社長さんがここをお気に入りで、その縁ですべての料理に黒龍の酒を合わせるというペアリングが実現したそうだ。黒龍は好きな酒である。値段は少々張るが、こういうのも出会いである。

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 まずは下酒菜であるアペリティフ。小さなコロッケ状のものと、レンゲでサーブされるタルトのようなもの。口に入れた瞬間、濃厚にとろけ、たったひと口でノックアウトされる。バターもシンプルなのとハーブやガーリックは入ったものがサーブされる。お待ちかねのひと皿めはスイートシュリンプ。海老をテリーヌ状にしたものに気前よくキャビアが乗っている。そこに、ビスクソースをたっぷりと注ぐ。ペアリングは、特選吟醸の黒龍。いやさ、まったりした海老とキャビアの競演に、黒龍のしっかりした吟醸香がからんで、こりゃああきまへんな。至福のひと皿である。続いては、雲丹のタルト。アンズダケというキノコやアンゼリカというフキがその下に潜んでいる。手前は貝柱である。これには、お燗した本醸造を合わせるとあったが、冷やにしてもらう。冷やは枡に入れられサーブされる。いいねえ、この景色。フレンチのお皿の向こう側に、枡が置いてあるなんて。食の異業種交流。お次はハリバットのコンフィ。ハリバットとはオヒョウである。が、中国語では比目魚と書いてあるので、ヒラメかもしれない。これに、イクラをトッピングした泡ソースがかけられ、人参のピュレも添えられている。すっと軽く、しかし後にはかすかな濃厚さが舌に残る。絶妙な塩加減というか、いや、これは泡ソースに秘密がありそうだ。黒龍大吟醸をペアリングする。白ワインよりもしかすると白身魚には日本酒よく合うかもしれないと思いつつ、グビグビ飲んでいると、給仕してくれている男の子がサービスでまた注いでくれる。うふ。

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 ブラックトリュフがたっぷりかかったひと皿は、ニョッキの上に鶏の胸肉が乗っている。どちらもコンソメで茹でられてい、するりと喉を通って行く。旨い。ヤムヤム。見るからに美味しそうなソースのかかった皿がやってきた。ここからは限定の大吟醸「龍」である。スプーンでソースの下をすくうと、中にはカラスミがまぶされアワビゴロゴロのリゾットが隠れている。驚きの連続のような皿の連打。唸る。そして、ほくそ笑む。すると、立派なトレイに乗せられたナイフコレクションがやってくる。メインのためのナイフを選ぶのである。粋なプレゼンテーションである。いちばん上のライヨールを選ぶ。メインは、極黒牛板腱・Wagyu Flat Iron。和牛はこんなところまでやってくるのだ。シシリアンピスタチオの緑のソースとオックステールと骨髄エキスがたっぷりのソース、両方で味わう極上ステーキ。上に乗っているのはビーツである。ライヨールがすっと心地よく肉に入っていく。

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 デザートには嵐山春桜という風雅な名がついている。ピンクのグラデーションが皿に舞う。カプチーノとプチフールをいただいて、夢のような時間は終わった。台中でいただくフレンチと日本酒のコラボレーション。台・仏・日の三国連盟である。料理のジャンルにとらわれるなんてつまらないじゃない。シェフのそんなメッセージが伝わってくるような独創ととびきりのセンスが生きたコースであった。

 台中に、「Le Moût」あり。いいよ、ここ。

2016-10-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

日月潭「涵碧樓の夕食」

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 アマン。

 その魅惑の響きは、いまも色褪せてはいない。恋い焦がれ、大昔一度だけアマンに滞在したことがある。当時、頻繁にニューヨークを旅していたのでマイレージがかなりたまっており、ファーストクラスに乗ってバンコックへ行けることがわかったのである。無料とはいえ、ファーストクラスに乗っての旅なので、ホテルは奮発してバンコクはオリエンタル、プーケットはアマンプリを予約した。アマンプリはいちばん最初にできたアマンリゾートで、すべてのアマンのベーシック。当時は、一部屋につき4人ほどのスタッフが専属で面倒を見てくれるという噂があり、ヴィラ風のコテージから電話をすれば、床下に潜んでいたのではないかと疑うほど瞬時にスタッフが現れると言われていた。(さすがにそれはなかった。床下には誰もいなかった・笑)

 そのアマン系列と聞けば、これはもう否が応でも期待は高まる。
 
 台湾新幹線、高鐵の台中駅に降り立つと、ザ・ラルーと車体に書かれたシャトルバスが迎えに来ている。これは事前に送迎(有料)を頼んでおくのだが、台中から日月潭まではかなり距離があり、車で約一時間半ほどかかる。台湾の中部から南部にかけて島の中央には標高の高い山々が連なる山脈が走り、最高峰は言わずと知れた新高山である。正式には玉山というのだが、これは3952メートルで富士山より高い。だから新高山とその名を(明治天皇より)賜ったのだろうけど、日月潭はこの山脈の真ん中あたりに位置する台灣一美しいと言われる湖である。何と言っても名前がいい。丸い日潭と三日月形の月潭が合わさって日月潭。この地を訪れた清朝の将軍が、湖面に浮かぶ島を眺めつつ「北側は日輪の如し、南側は月輪の如し」と語ったことからつけられたという。

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 シャトルバスはいつのまにか山中に分け入り、あたりには濃密な霧というか霞のようなものが漂っている。そういえばこのへんは高級茶葉の産地でもある。高地で朝晩の寒暖差があって、この霧のような霞のような天候はきっとよい茶葉を育てるのには適しているのだろうと思っているうちに、急にあたりが観光地然としてきた。いよいよ日月潭である。賑やかな通りから少し外れた坂を登り切ったところが涵碧樓・ザ・ラルーだ。端正かつモダンな木組みが印象的なエントランス。うん、これは期待できそうだ。

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 ロビーでくつろがせてくれながら、チェックインするというスタイル。お大尽になった気分である。目の前は日月潭。さらに部屋に通され歓声をあげる。左に寝室、右がリビングのスイートで、広々としたテラスももちろん日月潭に面している。インテリアのテイストもシックなモダンテイストで、ギラギラしてなくほどよく落ち着いているのがいい。早速旅装をとき、館内を探索する。図書館を兼ねたラウンジには、日本の作家の本も何冊か置いてある。一階にはプールと、お茶を飲みながらくつろげる東屋のようなティールームがある。プールは向こう側が湖に落ちていくように設計されているアマンおなじみのあのスタイルである。小雨がちらついているので、プールサイドには誰もいない。こういうときは、部屋のテラスでゆっくりくつろぎながら本を読むに限る。

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 ゆっくり流れる時間。ときおり湖面を眺めつつ、また本の世界に入る。そうこうしているうちに、少しずつ夕刻の気配があたりを包み込み、湖に墨絵のような影を落とし始めた。

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 食事の前に少しだけ近隣を散歩してみた。蒋介石の別荘だった建物は涵碧樓といい、ホテルのすぐ隣の敷地に保存されている。元々は日本統治時代に日本人が建てたもので、今は記念館のような施設になっている。裏手に回ると蒋介石の散歩道だったという遊歩道もあるのだが、残念なことに閉鎖されていた。ぶらりと一周して、食事に向かう。

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 こちらのチャイニーズレストランの名前は湖光軒という。夕食は宿泊とセットになったプランなので、おまかせである。テーブルに案内され、すでに置かれているメニューに目を通す。酒のリストがかなり充実しているのだが、そのほとんどがボトルである。中華なので紹興酒を飲みたいのだが、600mlのボトルしかない。ううむ、ワインならなんとかなりそうだけど、と悩むが、まあ飲めるだろう。十年ものの紹興酒、ラルーのロゴが入った立派なオリジナルボトルである。これをちびちび飲りながら、まずは湖光迎賓風味盤、オードブルである。ねっとり濃厚そうなからすみの切り口にクラクラするが、ま、後はくらげの酢の物などでとりたててスペシャルなものがあるわけではない。上湯清炒鮮干貝は貝柱の炒め物。これはたいそう美味で、大好きなイクラも添えられていたので、うはうはと平らげる。涵碧郷蘇小排骨はスペアリブの煮込みである。紹興酒がぐいぐい進む。ただ、下に敷かれているそうめんはいただけなかったな。ま、そうめんとビーフンのハーフのような細麺ではあったが。蒜茸金瓜蒸龍蝦はにんにくとかぼちゃ、伊勢海老の蒸し物。といっても食材のメインは立派な伊勢海老である。養身四賓鳥雛は烏骨鶏と黒にんにくのスープだ。醤油ベースのこっくりした深い味わい。烏骨鶏はとろとろに煮こまれてい、旨いのでスープと紹興酒を交互に飲むという暴挙に出る。うふふ。瑤柱鮮採田園蕗は貝柱と野菜であるが、まず丸々と肥えたしいたけと青菜を煮たもの、そして貝柱や海老などの海鮮と野菜を炒めたものが別々に出された。ぷるぷるした白いのはこんにゃく状のもので、素材を問い質すのを忘れてしまった。最後はそしてフルーツの盛り合わせとデザートである。満腹ではあるが、あまり中華を堪能したという気にはならない。盛り付けなどはフレンチのようであり、上品で、味付けもあっさりしていたせいだろうか。いや、けっして悪くはないのである。むしろ、ラルーという桃源郷のようなロケーションに滞在することをトータルで考えれば、夕食も含めてこれはこれでひとつの洗練されたスタイルなのであろう。

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 時間が許せば、日月潭をクルーズしたかったのだが、夕景も早朝の幻想的な風景もラルーのテラスから堪能した。今度は、せめて二泊はして、ゆっくり滞在したいものである。

2016-09-29 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北車站「臺鐵雛腿便當」

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意外と「鉄」なのさ。

 もしかして私って鉄? そう気づいたのはごく最近のことである。いわゆる業界での呼び方でいうなら「乗り鉄」に分類されるであろうか。確かに、東京出張のときはダンゼン新幹線派である。飛行機で行くことは滅多にない。国鉄、もといJRに乗るのが大好きである。なんでだろうと思いを馳せれば、それはやはり幼心を喚起するからであろう。以前、JR東西線が開通したとき、わざわざ休みの日に乗りに行った。車内には明らかに乗車することだけを目的にした乗り鉄たちがいたが、その中でひときわ興味深いおじさんがいた。平静を装ってはいるが、駅に着くたびにウキウキとする心を抑えきれず、それがめまぐるしく動く目線や口元のほころび方に如実に表れているのである。ああ、おじさん、今童心にかえってる。わかる、わかるよ。私だって、本当は子供のように窓に向かって座りたい。駅ごとに降りて写真を撮りたい。でもって、はしゃぎたい。だけど、外側は大人なので、いちおう平然さを保つ。その外と内のアイダで揺れる心持ちを楽しむのが、大人の「乗り鉄」の味だろうと思う。

 さて、台湾の鉄道である。台湾中部にある日月潭というところに行くので、台湾の新幹線「高鐵」というのに乗って台中へと向かう。高鐵は正式には台湾高速鉄路といい、台北から高雄までノンストップなら一時間半で結ぶ。最高速度は300キロというから、東海道新幹線より速いのだ。しかも車両は700系を改良したもので、システムもほぼ一緒、ほとんど日本の新幹線なのである。

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 刻限はそろそろ昼。台湾の駅弁はなかなか秀逸と聞いた。これはぜひとも買わなくちゃ。台北駅に赴くと、あったあった、臺鐵夢工場という看板。若い女性が販売している。排骨、素食、八角排骨、雛腿、宜蘭風味・・・うーん、迷うなあ。もう一軒、臺鐵便當本舗というのもある。こちらは行列ができている。が、なんだかファストフード店のようなカウンターで大量生産の匂いがする。内容がそんなに変わらないのだとすれば、夢工場の可愛らしいお姉さんから買いたい。これは、まあ、気分の問題ではあるけれど・・・。

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 臺鐵雛腿便當 100元というのを手にいよいよ高鐵に乗り込む。台北から台中へ向かうので、サウスバウンドプラットフォームに降り立つ。南下月台とある。月台、なんとも風情のある言葉ではないか。その昔、月を愛でるのにつくった台のことをそう呼んだらしい。今でも、宮殿のバルコニーは月台というらしい。こういう典雅な言葉の由来があるなんて、さすがに四千年の歴史を誇る中国文化圏であるなと感心する。

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 旅の必読書「街道をゆく」の「台湾紀行」を手に携え、出発である。余談であるが、司馬遼太郎が紀行文を書いた場所に赴いたときは、帰ってから必ず「街道をゆく」を読むことにしている。かつて、上海や韓国の慶尚北道を旅した後に読んだら、旅先で疑問に思ったことの答えがすべて書いてあり、旅の追体験としてこれほど贅沢なことはないと強く思ったからである。予定では、「台湾紀行」も帰ってから読むつもりであったが、今回ばかりは待ちきれず読みながらの旅である。(ところが、期待は少しはずれ、紀行でありながら人との縁の話が中心である。これはこれでもちろん面白いのではあるが・・・)

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 高鐵の商務車(グリーン車)は、お茶とスイーツをサービスしてくれる。もちろん便當のためにお茶を所望、そして便當をあける。真ん中に鎮座しているのは、鶏の腿肉。煮込んだものをローストしている。その横には煮染められた卵。ごはんの上には煮たキャベツが敷かれ、緑のはシャキシャキの葉野菜。漬物も隠れている。手前と向こうの茶色いのは豆包(ドウバオ)という湯葉のようなもの。日本でいうお揚げの感覚である。これもたっぷり味が染みていて、旨いのだ。おまけにごはんは、ほかほか。炊きたてのごはんをよそって、素材を乗せただけともいえるシンプルな便當であるが、それが何とも言えず旨いのである。市場の食堂で食べた朝ごはん(第226夜)に通じる素朴さと、余計な味が一切ついていない潔さ。そして、心のこもった(そう感じた)シンプルの貴さ。

 臺鐵便當、これはハマりますな。

2016-08-31 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北・小吃「秀蘭小吃」

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 小吃というのは、台湾式の軽食をさす。吃は日本語では吃音という言葉ぐらいでしか馴染みがないので戸惑うのだが、中国語では食べるという意味になるらしい。軽く食べるから、小吃。シャオチーと読む。日本でいうとうどん屋とか蕎麦屋のたぐいかな。

 ところがこの店はうどん屋や蕎麦屋以上に、立派であった。店構えも、レストランのそれである。この日は市場で朝ごはんをしこたま食べた後、MRTに乗って北投で温泉に入り、それから夕日が美しいという淡水に出かけた。けっこう歩いたのと、淡水でちょこちょこ買い食いをしたので、夕方までお腹はもったが、台北に帰る頃にはそれなりに空腹になっていた。

 ガイドブックにひときわ食欲をそそる一品があった。白菜獅子頭。そう、第222夜の麺屋さんで、気になっていた白菜獅子頭麺の鍋バージョンである。白菜のお鍋で巨大な肉団子が入っている。これを出すのが「秀蘭・小吃」である。店があるのは永康街。マンゴーかき氷を食べたあたりである。すでに土地勘はある。住所を頼りにまっすぐ目指す。

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 すでに8時を回っていたので、スムーズに席に案内される。圧倒的に家族連ればかりである。こちらにもちゃんと日本語メニューが用意されている。件の白菜獅子頭は、獅子頭の数を指定できるとあったので、一頭だけお願いする。鍋仕立てだもんな。食べきれなかったら悪いしな。と、ブツブツ言いながらも、獅子一頭だけというのがどうもひっかかる。一頭だけだから、他のものも何か頼もう。ガイドブックには、旨そうな鶏も載っている。鶏は好物であるので指差し注文する。うん、まあ、これぐらいだったら、なんとか食べられそうだ。

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 やってきた白菜獅子頭。白菜と肉団子の土鍋煮である。団子の大きさを見て、やっぱり一頭で我慢してよかったと思う。巨大な団子なのだ。さすがに獅子頭という名がつけられているだけのことはある。箸で割ると、中はほんのりしたピンク色。ひき肉はみっしり詰まっているのに、軽く、柔らかく、ジューシーで、やさしい味がする。混ぜもののほとんどない、正真正銘の豚の肉団子。ううむ、こんな旨いの久しぶりに食べた。具は白菜だけというシンプルな潔さが非常によろしい。この白菜がまた絶妙にくたっとしているので、鍋いっぱいに入っていてもどんどん胃におさまっていく。スープはあっさりしつつ、ほんのり醤油味。まったくクドくなく、こちらもすーっと胃に入る。

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 蒸し鶏は、しっとりと鶏の滋味が感じられるいい按配に蒸されている。蒸した後、ちょっと冷たくしているのが、鶏の皮まわりのゼラチン質にぷるんとした食感を生んでいる。骨のまわりのお肉がまた美味しいのよね。あっと言う間に、獅子頭も鶏もぺろり、である。

 ここは、30年以上続く、正統派の上海料理。中国江蘇省からやってきた先代からの味を受け継いで、家庭料理を作り続けている。料理人は女性ばかりだそうだ。そのせいかどうかはわからないけど、こちらの腹具合にそっと寄り添ってくれるような、素直で、やさしい味だった。

 しっかり店の名前と場所をアタマに入れた。また、次回の旅にも来たい優秀シャオチー。

2016-08-19 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

朝ごはん「豆腐捲と抄手」

 台湾は朝ごはんもいいと言う。ホテルのブッフェをパスして、地元の市場を探検することにした。ホテルのエントランスから、すぐ左に曲がり、信号を渡った向こう側に光復市場という看板が見えている。チェックインしたときから気になっていたのだが、ホテルサイドの近代的なエリアと対照的にそこはいかにもオールド台湾とでも言うべきレトロな風情が漂っている。

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 素食包子というキャベツの入った野菜まんが有名な店の前でしばし悩むが、テイクアウト専門のようで食べる場所がどこにもない。さすがに、立ち食いはちょっと恥ずかしい。しばらく歩くと、周家豆腐捲という赤い看板の店があった。イートインできる。豆腐捲というのもヘルシーな感じがするし。よっしゃ、ここに決めよう。

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 テーブルに座るとすかさず日本語メニューを持ってきてくれる。こういうのはほんま有難い。看板商品というおすすめに従って、豆腐捲と豆漿(とうじゃん)を注文する。豆漿は豆乳を飲みやすくした台湾の定番ドリンク。朝ごはんには欠かせないらしく、いろいろ具を入れても美味しいらしいのだが、まずは素直にストレートで飲むことにした。日本の豆乳ほど濃くなく、さっぱりして飲みやすいが、そこはかとなく豆乳の風味は残っている。こんなの毎日飲んだら、健康になるよなあと少々羨ましく思う。豆腐捲にかぶりつく。わあ、なんてやさしい味なんだろう。パリッときつね色の焦げ目がついた皮の中には、炒めた豆腐、キャベツ、卵、春雨がぎっしり詰まってる。薄めの塩味の加減が、素朴でまたよい。なんだろうな、この味の感覚。たとえていうなら、おばあちゃんが作ってくれたような懐かしさに満ちている。こういうの、長らく忘れていたような気がする。

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 雪菜を包んだまんじゅうにもチャレンジしたかったが、せっかくなのでもう一軒くらい回りたい。湧き出る食欲を抑えつつ、また市場を物色する。光復市場はさほど広くはないので、歩いているうちに裏手の方へ出た。目の前に一軒の店がある。脚のきれいな若い女の子が店先で麺や餃子らしきものを茹でている。うん、ここは絶対美味しい。そんな根拠のない確信を持つ。勘である。温州鮮饂飩と看板には書かれている。席に座って、メニューを指差す。麻醤鮮肉紅油抄手。麻醤というのはわかる。鮮肉はきっと豚のことだろう。紅油は辣油、抄手はワンタンのことと見当をつけた。運ばれてきたのは予想通り、ワンタンである。上に豚肉のミンチを巨大な団子状にしたものが載ってい、醤油と辣油がかかっている。店内の棚にはお惣菜を乗せた小皿もあったので、美味しそうな色に染まった卵と高野豆腐のようなものと、胡瓜の漬物風の二品をとった。

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 大正解である。

 麻醤鮮肉紅油抄手が運ばれてきたとき、一瞬くどいかなと思ったが、つるりと気持ちよく食べられる。合間に胡瓜を口に放り込むとちょうどいい案配である。そして、卵と豆腐の煮しめがまた最高なのである。なにしろ、色がいい。出汁をたっぷり吸ったこの何とも言えない色を見よ。ずどんと質量のある豆腐をしっかり水抜きしたようなものを煮しめているので、ほんと、みっしりと中身が詰まってい、弾力もある。出汁も見た目の色ほど濃くなく、噛むと口中に滋味が広がっていく。 

 唸りながら、完食した。台式ブレックファスト。ホテルで食べるなんてもったいない。

2016-08-09 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北・士林夜市「麺線」

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 故宮博物院への最寄の駅はMRTの士林である。故宮の帰りに、ちょっとだけ寄ってみようと思っていたので、帰りは一目散に士林夜市を目指す。「故宮晶華(前夜参照)」で腹いっぱい食べなかったのはこのためである。

 台湾には外食文化が根付いている。手頃な価格でそれなりに美味しいものが食べられる小吃(台湾式の軽食)と呼ばれる軽食店や屋台などが非常に多く、街中が気軽なダイニングテーブルのようなものである(非常にうらやましい環境だ)。外食すること前提でキッチンが付いていないアパートも結構あるのだそうだ。

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 士林夜市は台湾最大の規模で、当然観光地でもあるので、さほど日常性はないにしても、家族連れやグループが多い。ま、欧米人が少ないので、見た目には地元の人なのか、観光客なのかがわからないのであるが。しかし、圧倒的な規模の屋台エリアである。通りの両側には飲食店もあるにはあるが、その店先や路地にはびっしりと屋台がひしめき合い、看板の灯りが妖しく発光し、食欲という本能をダイレクトにずんずん刺激してくるのである。言うなれば、カジュアルな食の一大テーマパーク。猥雑で、ファンキーで、老若男女がうごめいている空間だ。中国人の食に対する並々ならぬ執着とパワーを感じて、少々たじたじとなる。

 規模はここの何百分の一ぐらいであろうけど、神戸元町にも南京町という中華街があって、メインストリート(1本しかないけれど)の店先にもずらりと屋台が立ち並んでいる。阪神淡路大震災の後、彼らがいち早く屋台を出し営業を開始したと聞いたときは、そのパワフルさに脱帽したことを思い出す。南京町といっても、神戸は台湾出身者も多く、人気のある有名店には台湾料理も多い。その南京町を思い出しつつ、士林の夜市をそぞろ歩く。

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 せっかくだからシメの麺類ぐらいは夜市で食べようと、いろいろ店を物色しているのだが、予備知識がないのでなかなかここだ!という決めてに欠ける。ここは長年生きてきた勘に頼るしかないと思いつつ、なおもうろうろしているうちに、とある店先、麺線という看板を揚げている屋台が目に付いた。客が屋台横のテーブルにぎゅうぎゅう座りつつ、麺を啜っている。何やら、旨そうな予感もする。早速、テーブルの端っこに陣取って、麺線というのを指差し注文する。

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 見た目はほどんどそうめんである。長さは、そうめんの半分ぐらい。そうめんときしめんが混じっているような微妙に不揃いな感じは、いかにもの手打ち感満載である。それがこってりあんかけ風スープの中にみっしり詰まっている。ふと、「蝟集」という言葉を思い出した。麺が蝟集しているのである・・・。てっぺんに乗っているのは、なにやらようわからんがホルモン系のようである。そこにパクチーがぱらり。

 ううむ。旨そうにも見えるが、どんな味かが想像しにくい未知の感じもする。おそるおそる、ずずっとスープを啜ってみると、とろみのある醤油味。しっかりとニンニクが効いている。ホルモン系のブツは、豚の大腸であるらしい。嫌ではない。見た目のハードさよりはずっと柔らかく、そんなに臭みもない。が、正直、私の食のレパートリーの中にホルモンがないので、うまいのか不味いのか、そして豚の大腸がホルモン界でどのような位置付けなのかはわからない。麺は柔らかいが、ふにゃふにゃではない。とろみのあるスープと一緒に、啜るとちょうどいい感じなのであろう。

 地元の人たちは実に美味そうに啜っている。きっと彼らには慣れ親しんだ味なんだろうなと思いつつ、頑張って完食する。

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 身体がすっかりあったまり、汗もかいたので、冷たいデザートでも食べようかとまた周辺をうろつく。発見したのは、行列が並んでいる豆花の店。豆花(トウファ)とは台湾ではポピュラーな豆乳デザートで、絹ごし豆腐のような食感。これに甘く煮た小豆や緑豆、タピオカ、芋頭などをトッピングしてシロップをかけるのである。店の名は、傳統豆花。傳統とついているだけで、なんだか妙に信用できるような気がするから、我ながら現金である・・・・。言葉が通じないので、適当に指差したら、豆花らしきものは来たには来たが、氷がかかっている。これは氷豆花か?暑かったので、それはそれで美味しかったのではあるが。

 後日、よく行く鮨屋の大将としゃべっていたら、彼も最近台湾に行ったそうで、夜市も行くには行ったけど、「あれは、別に行かなくてもいいところですよね」と言う。「日本で別に屋台行かないのに、台湾に行ったからってわざわざ夜市で食べるのはねえ」なるほど、一理ある。まあ、ちょっとビールとおつまみ程度に串焼きをかじるとか、デザートだけ食べに行くとか、そんなにすべて屋台で賄わなくたって、町にはカジュアルな食堂がいっぱいあるもんな。

 夜市は台湾の人たちの食に対する飽くなきパワーを感じに行くとこなんだろう。

2016-08-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北・故宮博物院「故宮晶華」

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 台北の故宮博物院へ行くのは長年の悲願であった。いや、台湾に長らく興味がなかったのだから、悲願といえば嘘になる。かれこれ20年ほど前に初めて北京に行ったのは、映画「ラストエンペラー」を観て、舞台となった紫禁城を実際にこの目で見たくなったからである。その紫禁城の中にある故宮博物院のスケールにはびっくりしたのであるが、中国通に言わせると台湾にある故宮博物院の方が質量ともに圧倒的に良いという。しかし、台湾にさほど興味もなかったから、いつか行けるといいな程度に思っていた。

 台湾に行くことが決まり、当然故宮博物院のことを思い出す。蒋介石が持ち出したというお宝をこの眼で観なくては。ランチで牛肉麺(第222夜)を食べ、デザートにマンゴーかき氷(第223夜)を食べた後は、一路故宮へ。

 北京の故宮博物院は紫禁城の中にあり、紫禁城そのものを見学しつつ、ついでに美術品も鑑賞するという設えになっているが(私が行ったときは展示状態が良いとは言えなかった)、台北の方はちゃんとした立派な美術館としてその体をなしている。こちらでの人気ナンバーワンは、「白菜」と「角煮」である。とにかく、それらを展示している一角だけが異常な混みようである。日本人のおばちゃん団体などは、「白菜」さえ観たら後はもういいとさえ言っているのが聞こえる。

 そんなにみんな「白菜」が観たいのか。

 いや、そんなにみんな観たいのなら、私も観るだけは観てみよう。とはいえ、実際の「白菜」ってかなり小さく、黒山の人だかりをかき分けてはみたものの、そんなにじっくりは観られない。それより、玉や象牙、翡翠などに超絶技巧を施した工芸品の凄いこと。根津か白鶴でしか観たことのない青銅器は、さすがに本場ものは圧巻で見事としか言いようがない。焼き物も、隋から清までそれぞれの時代の名品が揃っており、乾隆帝時代のもののツーマッチ具合に「あっぱれ」と叫びそうになる。

 ここは、歴代中国王朝の美への執念のようなものに圧倒される空間である。作った人、作らせた人も凄いが、こんなものを5万箱も大陸から運ばせた人の執着をも感じる尋常ならぬコレクションである。

 その尋常ならざる背景を意識するからなのか、半日近くいると妙に疲れるのである。いや、どこでも美術館に半日もいると疲れるのかもしれないが、なんだか美疲れというのか、中国美術の過剰な装飾や濃密さにことのほか酔うのである。

 ならば、それを丸ごと食らいに行くか。

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 そう、「白菜」と「角煮」を食べに行くのである。敷地内の「故宮晶華」というレストランでそれらは供される。そろそろ夕刻である。レストラン入り口では、提灯で誘導してくれる。粋なはからいである。英語名は、シルク・プレイス・アット・ナショナル・パレス・ニュージアムだ。ニューヨークにあってもおかしくないようなモダンな建築である。

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 席に案内され、メニューを開くと、ちゃんと英語と日本語に対応している。大変によろしい。目当ての白菜は、故宮國賓経典~国立故宮博物院クラシック~と銘打って、威風堂々「翠玉白菜」とある。隣には、肉形石もある。まずは、このふたつを注文し、それだけではいささか淋しいので、ホタテとブロッコリーの炒め物も頼む。

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 やがて、うやうやしく運ばれてきた白菜は、メニューの写真の通り、故宮の至宝「翠玉白菜」を模した一品である。まあ、最初から分かっていたが、笑ってしまう。本家に忠実に白菜を巻いて作っているその遊び心と、それを分かってあえて注文しているこちらの酔狂との、なんというか妙な馴れ合いというか、分かっちゃいるけどやめられない的なお約束というか・・・。料理そのものの正体は、ただの白菜のスープ煮ホタテ風味である。まあ、格別に美味しいわけではない。悪くはないが。

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 続いての肉形石も、まあただの豚の角煮である。肉形石そっくりといえばそっくりではあるが、それがどないしたん?というものである。まあ、故宮初心者で、多少なりともいちびりであれば、こういう注文をしてしまうのだろう。我ながら良いカモである。

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 まあそれでも、ビールを一杯飲んで、故宮の至宝ふたつを食らい、ホタテとブロッコリーの炒め物を平らげ、レストランを後にした。

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 幻想的にライトアップされている夜の故宮を眺めていたら、またあの濃密さを思い出し、そんなに飲んでいないはずなのに本当にくらくらしてきた。

2016-07-04 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北・かき氷「芒果皇帝」

 「かき氷」なのである。台湾に行ったら、ゼッタイに食べて帰らないといけないらしいのである。いや、誰かに言われたわけではない。ガイドブックにそう書いてあるのである。特に、「かき氷」と「小籠包」は食べないといけないとある。

 ランチに「紅焼半筋半肉麺(前夜参照)」を食べたので、デザートにかき氷はちょうどいい。ガイドブックによれば、かき氷の店がいろいろありそうなのは永康街とある。早速、地下鉄を乗り継いで東門という駅を目指す。駅から地上に上がるエスカレーター横の壁面にはかき氷の店の広告が続いており、これはもう食べずになんとするという気にさせる。

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 しかし天邪鬼であるので、その広告の店にそのまま誘導されるのはなんだか癪である。永康街を物色しつつ、うん、ここにしようと入ったのは別の店である。「芒果皇帝」、マンゴーキングという店である。店内を見渡せば、みんなかき氷をシェアしてる。うーん、たしかにかなり巨大である。店頭の大きなメニューの中に、ちと小ぶりのかき氷を発見した。店の名前がそのままついている。

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 「芒果皇帝」その下には日本語でマンゴー皇帝かき氷とある。よし、これだ。

 レジの置いてある入り口で、注文しお金を払う。番号を打った紙を渡され、席について待っていると呼び出されるというシステムである。5分ほどで呼び出され、いよいよマンゴー皇帝かき氷とご対面。

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 細かな氷の上に、けっこうな大きさの果肉がゴロゴロ入ってい、練乳とマンゴーピュレがたっぷりとかかっている。その上にはさらにマンゴーアイスクリームが鎮座。こりゃあ、食べでがありそうだ。まずはひと口。かき氷はとても薄く、舌の上でスーッと溶ける繊細さ。そこに濃密なマンゴーの果肉と練乳、ピュレが混ざり合う。これは美味しい、うん、馬鹿馬である。

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 雪のように繊細な、まさしく“ひとひら”の雪のような氷である。漢字で雪花氷と表記しているが、雪花とはうまく名付けたものである。いくら小さいとはいえ、それなりの量がある。一人で全部食べきれるか心配だったが、そこは雪のような氷である。すうーっと心地よく喉を通っていく。

 それにしてもかき氷なんて何十年ぶりだろう。昔食べたかき氷のあのじゃりじゃりした氷の感触をイメージしていたから、見事にその想像は裏切られた。あれから何十年も経っているのだ。マシンの進化は著しい。かき氷がジャンクなおやつから、立派なスイーツに格上げされたのもうなづける。ま、あのじゃりじゃりの氷に、もっとシロップかけてくれればいいのに、と思いながら食べたかき氷も懐かしのスイーツではあるけれど。家でもかき氷機を買って、ガリガリ削って、カルピスの原液をかけた。今となっては、古き良き昭和の思い出だ。

2016-07-01 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北・牛肉麺「十三香」

 台湾グルメはいろいろあろうけど、昨夜(第221夜参照)はフカヒレ責めにあったので(自分で責められに行ったんだけどね)、本日のお昼はあっさり行こう。ホテルのすぐ裏側には台北101というランドマークがあるのだが、これが今の台北を象徴するような近未来的なタワーで少し前まで東洋一の高さだったらしい。その近くに、四四南村というレトロな元軍人村を保存しているエリアがあるというのでまずはそれを見に行くことにする。

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 ここは戦後に中国大陸から渡ってきた軍人たちが住んでいたそうで、今は文化財として保護されているのだそうだ。昔ながらのエリアをいまどきの感覚でリノベーションしたカフェや雑貨屋には、若い人たちが群がっている。台湾版懐古趣味である。日本の町屋をリノベーションした施設に人が集まってくるのと一緒で、往時の建物の雰囲気や生活スタイルが若い人だけでなくかつて経験した人にも新鮮に映るのだろう。なにより、こういった昔の建物を壊してしまうと、もう二度と同じようなものは建築されないだろうから、今となっては貴重な文化財である。平屋が連なる屋根からは台北101が見え、こういう新旧があっけらかんと共存しているのが、台北のモザイク的な魅力なんだろうなと思う。

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 四四南村のさらに奥は呉興街という入り組んだ路地が連なる空間で、歩いているだけで妙に楽しく、迷路に迷い込んだような感覚になる。小さな公園や店先では、近隣の人や犬たちがくつろいでいる。煙草をうまそうに吸っているおじいさんなどを発見すると、私もベンチの端っこに座り、へらへらと一緒の空間で煙草を吸わせてもらう。そんな道草を楽しみながら、ぶらぶら歩く。朝ごはん抜きだったので、さすがにお腹がすいてきた。地図上ではもう少し南の方に、麺が美味しいという店がある。直線距離では八百メートルぐらいなのだが、歩いても歩いてもたどりつかない。が、歯をくいしばって、とにかく歩く、歩く。やがて崇徳街という大きな通りに出た。ここから和平東路という幹線道路をひたすら西へ。朝から歩きっぱなしでさすがにへとへとであるが、ようやく目的の店の看板が見えてきた。

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 店内はガラガラである。冷たいビールを飲みたいのを我慢し、まずは席に陣取る。手渡されたののはメニュー表である。麺の種類が羅列してあり、値段もその横に書いてある。食べたいものを選んでテーブルに備え付けてある鉛筆でチェックを入れたら注文完了というシステムである。これはいい。非常にわかりやすく、指差しよりずっと確実であるな。

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 しかし、漢字の判読にたいへん苦労する。台湾は中国本土と違って繁体字なので、ほとんどの漢字が読めるのであるが、それにしても、これだけ種類があると・・・ううむ。こういうときは、自分の勘に頼る。食べてみたいのは、台湾名物の牛肉麺。

 さんざん迷った挙句、「紅焼半筋半肉麺」というのをセレクトした。予測では、牛スジと牛肉が半分ずつ乗った麺であろう。牛肉麺は台湾では非常にポピュラーであると聞いた。紅焼の他に麻辣と清椒とついた牛肉麺もあったが、字面から想像するにどちらも辛いに違いない。紅焼はよくわからないけど、まあ、なんとかなるだろう。あくまでも勘であるが。

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 やってきた麺には案の定牛スジと牛肉が入っている。ひと口スープを飲むと、醤油ベースの中に心地よい辛みがある。かすかに香るのは八角の風味。悪くないね。牛スジはよく煮込まれてい、トロトロ直前の絶妙な食感である。麺は細め。これがまた、スープと相性良く食べやすいのである。かつて北京や上海で食べた麺が私にとってはことごとくハズレだったので(とくに紫禁城の前にある店で食べた麺はひどかった・・・コシがなくふにゃふにゃで失望したことは今でもよく覚えているし、それが、なあんだ、本場の麺ってこんなものなのかという気持ちにもつながっている)、正直台湾であってもそんなに期待はしていなかったのだが、こういう麺なら話は違う。細麺ながら、それなりにコシもあり、辛めのスープにもよくなじむ。

 ドカンと一発で満足する日本のラーメンタイプではないが、適度におなかがすいたとき、お昼ごはんとしてサッと食べる。で、また昼から一生懸命に働いているうちに夕餉の時間になり、気がつけば良い具合におなががすいている。そんな胃に負担を感じさせない麺である。

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 いかんと思いつつ、スープも半分以上飲み干したのだから、うまい麺である。しかし。気づかなかったが、テーブルには「白菜獅子頭麺」のPOPが置いてあり、これはこれで美味そうである。写真から想像するに、獅子頭というのは肉団子であるらしく、たっぷりの白菜も添えられている。絶対こっちの方が好みである。「紅焼半筋半肉麺」を完食したばかりである。さすがにもう一杯は無理であるので、次回は獅子頭にチャレンジしようと固く誓った(笑)。

2016-06-27 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台北「頂上魚翅燕窩」

 九份の夜景を堪能し、そろそろ帰ろうかとバス停に向かうと雨がぱらぱら降ってきた。バス停の前には長蛇の列。いや、大蛇の列である。とてもじゃないけど一、二台くらいのバスじゃあ全員が乗れそうにない。台北まで立ったままのぎゅうぎゅう詰めなんて想像するだけでも目眩がしそう。なのでタクシーを探す。雨が降っているので争奪戦である。何台もに断られるが、そこは年の功で食い下がり値段交渉をする。瑞芳まで500元と言う。高い。じゃあ台北へは?と聞けば1000元で行くと言う。台北から瑞芳まで台鐡で小一時間もかかっているから、1000元という価格設定は妙にリーズナブルに感じる。もともと相場もわからないし、雨はどんどん本降りになってくる。日本円にすれば4000円少しである。よし、乗る。金はこんなときにこそ使うのだ。

 漢字表記にしたホテルの名をポストイットに書き、運転手に見せる。頷いた運転手は恐ろしい勢いでタクシーを走らせ、瞬く間に高速に乗り、猛スピードで台北を目指す。いやん、怖い。しかし、それを中国語で伝えられないのがもどかしい・・・。が、そのおかげで30分ほどでホテルに着いた。

 まだ8時過ぎである。九份でお茶を飲み、名物スイーツ芋圓もちゃっかり食べているので、さほど空腹ではないが、初台湾の夜である。ガイドブックをぱらぱらめくっているとフカヒレ専門店に目が止まった。フカヒレでは台湾随一の店とある。しかも頂上という名前だ。ううむ。別にフカヒレそんなに好きじゃないけど、なんだか面白そうではないか。電話してみると一人でもOKというので、速攻タクシーに乗った。頂上作戦、開始である。

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 その店がそうであることは遠くからもわかった。なにしろ、燦然と輝いているのである。店の名は正式には頂上魚翅燕窩専売店という。英語ではゴールデントップ・レストランである。ゴールデントップというある意味ストレートかつファンキーなネーミングを選択した感覚がベタで良いではないか。しかもスーパーのようなガタイの良い男性が外で睨みを利かせている。一人で入店しようとすると訝しげに誰何されたが、予約していると告げると途端に満面の笑みになる。

 何組かの客はいるにはいるが、けっこう店内はガラガラである。夕食の時間としては少し遅めなのだろうが、少し不安になる。インテリアも、ちょっと悪趣味なファミリーレストランのようである。本当にここで台湾ナンバーワンのフカヒレが食べられるんだろうか。大丈夫か?

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 メニューを見るとフカヒレの(單)というのがある。想像するにこれは一人前であろう。3950元。タクシーで九份まで二往復できる。しかし、せっかく来たのであるから、名物を食べないわけにはいかないだろう。酒は全てボトルらしいので、台湾ビールをまずは注文。「台湾啤酒」という銘柄は、すっきりと軽く、亜熱帯の台湾にはふさわしいと思える清涼さである。九份から忙しなく帰ってきた身体にすーっと染み渡る。そういえば沖縄で飲んだオリオンビールも爽やかで旨かった。暑いところで作るビールは、やはりその土地にふさわしい味わいになる。

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 ビールでリフレッシュした後、頂上フカヒレの(單)、それに頂上チャーハンを注文する。待っているあいだ、店内を観察していると少し様子がおかしいのに気づいた。妙にざわざわしているし、何やら従業員がわらわらと客席に出てくるのである。そのうち、思い思いの客席に座って食事(賄い飯)を始めたのである。さすがにこれにはびっくりする。ここって、高級店じゃないの?普通、厨房とか見えないところで食べるんじゃないの?唖然としている間にも、彼らは悠然と食べている。凄いな。マネージャーとか支配人クラスも混じってるんだろうか。さすがは、ゴールデントップ。

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 そうこうしているうちに、直径25センチほどの土鍋がやってきた。頂上フカヒレ(單)である。フカヒレの姿は見えず、まるで別府温泉の坊主地獄のようにぐつぐつ煮えている。香菜をぱらりとかけてレンゲですくうと、鍋の中はフカヒレだらけである。しかも、ヒレの姿のまま入っている。これ、姿煮ではないか!ふうふうしながらまずはひと口熱いのを行ってみる。ううむ、フカヒレの塊を、歯でコリコリさせながら噛んでみる。ヒレの一本一本がしっかり立っていて、プチプチ弾ける感触。それがしっかり出汁の効いたとろみのあるスープに絡んで、馬鹿馬である。だいたいレンゲひとすくいに通常日本で食べるフカヒレスープの三倍くらいフカヒレが入っている。いやあ、これは値打ちがあるわ。汗をかきながら、フカヒレをふうふうすくい、ときどきビールで舌を冷まし、またフカヒレ。

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 すくっても、すくっても、フカヒレ。
 これでもか、これでもかと、フカヒレ。
 フカヒレ、マトリョーシカ状態である。

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 頂上チャーハンもやってきた。米粒はねっとりして、ほとんどおこわ状態である。大きなシイタケがでんと乗っており、細かく刻んだ貝柱(だと思う)の繊維が混じっている。これもしっかりシイタケや貝柱の出汁がきいており、すこぶるうまいのである。フカヒレスープを飲んで、チャーハンをひと口、またフカヒレスープ。そして、はた、と気づく。チャーハンにフカヒレスープをかけると旨いのではないか。そう。さすがにすくっても、すくってもフカヒレ攻撃にこちらの戦意が萎えかけ始めた頃である。むっちりおこわ状態のチャーハンに、フカヒレスープをかけ、口に入れた瞬間に、フカヒレの新次元な美味しさが生まれた。いやん、フカヒレスープも、チャーハンも、こんなの一人じゃ絶対無理と思ったのに、もういくらでも食べられるじゃないのん。

 もう、野戦状態である。チャーハンをよそっては、じゃぶじゃぶスープをかける。ガツガツ、食らう。あの高級食材を、飯場めしのようにたらふく食べるなんともファンキーな状況。ええやん、こういうの。眠っていた野生が目覚める。獰猛になる。最後の最後の一滴まできれいに飲み干し、大量と思えたチャーハンもひと粒も残さず、完食した。いやあ、期待以上であった。一生分のフカヒレを食べたという感じがする。もう10年くらいフカヒレ、食べなくったっていいや。

 頂上作戦、コンプリート。重畳至極。

2016-06-20 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台湾九份「九份茶坊」

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 どちらかと言うと日本茶派だ。普段飲んでいるペットボトルは「綾鷹」か「伊右衛門」、あるいは「生茶」。週末に淹れるのは一保堂の「芳泉」という煎茶で、時間に余裕があれば玉露を楽しんだりもする。「鶴齢」とか太っ腹の時は「天下一」(めったに買えないけど)だ。もちろん、抹茶も気が向けば点てることもある。これもだいたいは一保堂で煎茶と一緒に買う。お茶の先生が稽古場で使っているのは、三丘園の「豊昔」。紅茶は、「マルコポーロ」というのを缶で買っているが、あまり飲まないので、たいていそのまま古くなってしまう。中国茶は今となっては皆無である。

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 いや、20年ほど前一度だけハマったことがある。大昔上海に行ったとき、江蘇省宜興(ぎこう)で作られる紫砂茶壺がどうしてもほしくていくつか買ってきたことはある。紫砂茶壺とは江蘇省で採れる土(これを紫砂という)を使った茶器で、独特の色をしている。が、このときも、茶というよりは茶器にハマっただけで、買った当初は珍しさも手伝い烏龍茶などを淹れてはみたものの、結局使いこなせず、ほとんど茶を淹れることもなく茶壺はキャビネットの中に鎮座している。

 だから、台湾といえば台湾茶と聞いても、ふーんという感じであった。それがである。九份を訪れ、むくむくと台湾茶への興味が再燃してきたのである。

 九份は台北を訪れる観光客の定番人気となっている観光地だ。台湾北部の山間にあり、日本統治時代には金鉱山として栄華を極めたらしいが、やがて金や石炭の生産量が減り続け、1971年には閉山、しばらく衰退の時代があったという。それが1989年に侯孝賢監督の映画「非情都市」のロケ地となったことで再び注目されるようになり、さらに宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」はこの地で着想を得たという噂(スタジオジブリは公式に否定しているらしい・・)が広まって、台湾人だけでなく日本人にも人気の場所となっている。

 瑞芳(前夜参照)からタクシーに乗り10分ほど。ここだと降ろされた場所から少し歩くと急勾配の細い階段があった。たしかガイドブックではもっと緩やかな道が紹介されていたはずと思うが、しんどい思いをして登ればそれはそれでお楽しみも待っているだろう。しかし、階段を登り続けるなんて普段あまりしないので、途中何度も休憩してしまう。ひーひー言いながらやっと提灯が連なる小径に出た。

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 狭い階段に赤い提灯を掲げた店が軒を連ねた独特の景観である。レトロというのか、異次元というのか。たしかに「千と千尋の神隠し」を彷彿とさせる空間が広がっている。下世話なのに、幻想的。猥雑なのに、神秘的。これは、マニア(何の?)にはたまらないだろうな。ここは夜景が素晴らしいのだそうである。提灯に明かりが灯されるまでにはまだ少し時間がある。うろうろしていて気になる茶藝館を見つけた。「九份茶坊」というのであるが、外に並んでいる人がいるくらい繁盛している。インテリアもかなり洗練されていて、ここで夕刻まで過ごすことにする。

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 どうせなら夜景が見えるテラス席をとリクエストする。席があくまで中をいろいろ見せてもらうことにした。入り口はお茶や茶器を売っている販売コーナーで、整然とセンス良く茶葉が並んでいる。奥は喫茶空間になっていて、階段を下りていくとギャラリーのように茶器がずらりと展示してあり、その奥でもお茶が飲める。左奥には作家ものの茶器などを販売する本格的なギャラリーもある。うーん。ここ凄いなと心のなかでつぶやきながら、テラス席に着いた。

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 注文を聞きに来たのでメニューを見せてもらい、阿里山の金萱というお茶にした。金萱茶は何度か飲んだことがあり親しみがあったのと本物のミルクのような香りを試してみたかったからである。やがて白い茶器が盆の上に乗せられ運ばれてきた。茶葉はくるくると丸まっている。茶葉を入れた急須へ目の前でシュンシュンと湯気を立てている薬缶から熱湯を注ぐ。待つこと1分。湯のみに注がれた水色は、淡い黄色である。ふわっと柔らかな香りが立ち上ってきた。そっと口をつける。やさしくほのかなミルクの香りと、ほんのりとした甘みの後に、柔らかいのにぐーっと奥行きのある滋味が舌に残る。これはうまいわ。上手く淹れられた玉露にも引けを取らない美味しさである。しかも、三煎でも四煎でも楽しめるという。一緒にやってきたのはこちらのオリジナルのパイナップルケーキ。今まで食べた(と言っても全て台湾土産で食べたものだけど)もので旨いというのに出会ったことがなかったので、これにもびっくりした。

 パイナップルケーキをつまんで、二煎、三煎めをゆっくりと楽しむ。金萱茶の香りは少しずつ薄まっては行くのだが、独特のミルクのような甘い香りは鼻腔にまとわりついている。これ、「回甘(フェイカン)」と呼ぶらしく、厳密には舌の付け根に残る香りの余韻を言う。阿里山は台湾の中部にある高山で、阿里山金萱茶は土の質がよく一日の最高気温と最低気温の差が大きい海抜1500メートルくらいのところで栽培されているため、甘味を含んだ強い清涼感が茶葉にしっかりと凝縮されるのだそうだ。こういうのを清香というのだろうか。文字通り、清々しい気持ちになる。

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 やがて、少しずつ日が傾き、テラスから見えるすぐ下の坂にある茶藝館の提灯(ランタンと言うべきか)が灯り始めると、あたりは一瞬にして幻想的で妖しい雰囲気に満たされる。この赤い色にやられるんだな、みんなきっと。一度しか観たことがないけれど、たしか「千と千尋の神隠し」の映像もどこか奇々怪々な異次元の象徴として赤い灯りを効果的に使っていたのではないか。みな、その残像を現実の九份という町に重ね、そこにある赤い灯とともにそのイメージを脳裏で増幅させているのだろう。たしかにここは人を呼び寄せてしまう隠微な魅惑に満ちている。

◎追記

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 金萱茶も素晴らしかったが、茶器があまりによくできていたので、さっそくワンセット買って帰った。木の盆まで一式同じものを買ったので、後は淹れ方の技術だけであるが、中国茶は日本茶ほど温度に厳密ではないし、茶碗に注ぐ頃にはほどよい温度になっているので、まあ初心者でも手軽である。茶葉は、台北の王徳傳という店で見つけた。阿里山金萱茶はさすがにそんなに安くはないが、「九份茶房」を再現するために、小さな缶を買って帰った。こちらの店は赤い茶缶が目印で、その色に惹かれてつい入ってしまい、ああそうか、まだアタマの中にあの赤いランタンが灯っているのかと納得してしまった。赤い残像のインパクトはあまりにも強い。

2016-06-14 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

台湾瑞芳「阿霞龍鳳腿」

 台湾、である。

 初・台湾だ。意外だとよく言われるのだが、どうしてだか今まで機会も、興味もさほどなかった。以前一緒に仕事をしていたT君が、台湾が大好きでしょっちゅう行っていたことはよく知っていたが、彼を魅了している台湾の魅力を聞いたことすらなかった。今となっては迂闊としかいいようがない。

 そもそもは、ゴールデンウィークがいつもより休みの重なりが多く、久しぶりにどこか旅したいと思ったことがきっかけで、それでも当初は鳥取から島根にかけての旅を計画していたのだが、泊まりたかった宿が取れず、それなら沖縄でも行こうかとホテルを調べればべらぼうに高く、こんなに払うんだったら海外に行けるではないかと思ったのである。そして、沖縄の少し先には台湾があることに気づき、JALで航空券の値段を調べると意外とリーズナブルであったのである。その上、ハイアットのゴールドパスポートのポイントを使えば、台北のグランドハイアット二泊分が無料になることも後押ししてくれた。

 いろんな偶然と思いつきが重なり、ついに決行と相成ったのである。

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 昼前に台北に着き、ホテルで旅装を解き、まずは初観光らしく、九份へ行こうと思い立った。ガイドブックによると最寄りの駅は瑞芳で、そこまでは台鐵(台湾鉄路管理局の略称)のローカル線で約50分、そこから九份へはバスもあるし、タクシーでも10分くらいとあった。ホテルからてくてく歩き地下鉄MRTに乗り、台北で下車。隣接している台鐵の台北駅で切符を買い、瑞芳をめざす。

 何を隠そう。私は、けっこう乗り鉄なのである。台鐵のローカル線(正式には區間車という)は古めかしさが絶妙な按配で、子供のときに乗った予讃線とか高徳線を思わせる郷愁を誘う佇まいである。列車は、台北の街の中を縫って走り、やがて郊外に出ると懐かしさを感じさせる風景が車窓に広がった。子供のように窓に向かって膝座りしたくなる衝動を何度となく抑えつつ、こういう状況を体験するだけで台湾に来た値打ちがあったと心の中で快哉を叫ぶ。

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 瑞芳到着。九份行きのバスを探そうと駅前に降り立つと、真正面に「待ってました〜」とでも言いたくなるような屋台が立ち並んでいる。その奥にはちょっとした市場も見える。これは行かずにはおられんだろうて。

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 屋台の中にひときわ繁盛している店があった。行列が凄い。何を売っているのかよくわからないけど、こんなに並んでいるのだから旨いものに違いない。こういう勘はいいのだ。時間もたっぷりある。並びながら看板を見ると、「阿霞龍鳳腿」とある。腿はわかる。阿霞はうーん、わからない。龍鳳は何かの肉であろうけど見当もつかない。たぶん、鶏か鴨の腿をどうこうしたものであろうと推量する。

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 しかし列は遅々として進まない。ひっきりなしにバイクで乗り付け、大きなビニール袋を受け取り去って行く人が多いせいである。あれは予約しているのだな。ううむ、「阿霞龍鳳腿」いったい何なんだろう。30分は並んだ。少しずつ列は進み、ようやく屋台の中で作業しているのが見え始めた。正面には山になった鶏だか魚だかわからないパテ状の物体。その中には刻んだキャベツや人参のようなものが見え隠れしている。それを適量とって網脂でくるくる巻き、串を刺し、油が入った鍋の中に投入する。きつね色に揚がったものは、見るからにぷりぷりして、旨そうである。屋台の柱には、新聞記事や台湾の有名人らしき人が推薦している雑誌記事も貼ってあった。期待が高まる。

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 いよいよ順番が来た。とりあえず、そのぷりぷりを指でさし、「サン」と3本指を立てる。1本10元。日本円にして40円程度である。さて、この熱々をどこで食べよう。椅子はまわりにはない。仕方ないので、バイクや自転車を停めてある店の軒先で、おそるおそる熱々にかぶりつく。ぱりり、と皮がはじける。わ〜お。なんだ、これ。台湾風さつま揚げの出来たて。馬鹿馬ではないか。ぷりぷりの弾力である。網脂で巻いているのを見て、ぎとぎとかもと少し心配していたが、からりと揚がっている。おばちゃんが上からかけてくれた特製のたれがまた旨い。パテ状のものはたぶん魚のすり身であろう。キャベツや人参がほんのり甘く、素朴でやさしい味わい。揚げ物なのにくどくなく、3本はあっという間であった。

 屋台にしてこのレベル。懐かしい風情の列車にごとごと揺られ、到着した町で食べたのは昔おばあちゃんが作ってくれたおやつを彷彿とさせるようなやさしく、あたたかい味。これで、私は一気に台湾にハマってしまったのである。

 後日談。

 台鐵のガイドブックにこの店が載っていた。瑞芳駅前の「阿霞龍鳳腿」。龍鳳腿は、このへんの漁村でよく作られている郷土料理で、新鮮な魚のすり身に、キャベツ、人参、タマネギなどを刻み、豚肉も少々混ぜ、豚の網脂で巻いたものを弱火でゆっくり揚げる。見た目がチキンレッグのようなので、龍鳳という名がついたのだそうだ。現地では知らない人がいないくらいの超有名店であるらしい。阿霞というのは店主の名前であった。

2016-06-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

越後六日町「龍言」

 週末は、松岡正剛師匠が主宰する未詳倶楽部で栃木の草津温泉に行く。土曜の昼過ぎに、草津の温泉旅館にて集合である。金曜まで東京で仕事だったので、移動は東京からである。上越新幹線に乗り、高崎でローカル線に乗り換える。時間によっては上野からノンストップで行ける特急草津というのもある。所要時間は2時間半である。ううむ、けっこう時間がかかる。時刻表とにらめっこしながら、ふとある考えが頭をよぎる。

 何も、東京に泊まらなくても、草津温泉へ前乗りすればいいではないか。

 さっそく近隣の良さそうな宿をいろいろ探すのだが、どうもぐっと来るところがない。別に草津でなくても、朝移動する時間はじゅうぶんにある。少し範囲を広げて調べていると、越後六日町にある「龍言」という宿がヒットした。名前だけはよく知っている宿である。

 10年ほど前、おつきあいのある呉服屋さんが、新潟にとてもよい宿があり、とくに冬は庭にかまくらを作ってくれ、そこで食事したり酒が飲めるから、と熱烈に誘うのである。なかなか予約も取りにくいので、ぜひともとご一緒しましょうと言うのである。こういうお誘いに乗ってしまうと、悪いと思い着物を買ってしまうはめになるので、もちろん行かなかったが、ネットで調べてみた「龍言」はたしかに魅力的だった。

 場所は越後湯沢から在来線に乗り換え、20分ほど。さほど時間はかからない。翌日も越後湯沢から高崎まで新幹線で行ける。これはなかなか良さそうだ。電話してみると、まだ大丈夫というので予約した。

 週があけると、次の週末はゴールデンウィークである。今年は東京も関西も桜の満開のタイミングがほぼ同時で、その上東京では満開の桜の翌日に季節外れの雪が降り、大騒ぎ、大はしゃぎよなったのが記憶に新しい。4月下旬ともなれば気持ちはもう新緑の季節へと向かっていたのだが、上越新幹線に乗っていて愕然としてしまった。

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 越後湯沢の手前のトンネルを抜けると、そこはまだ雪景色。関西の人間にとっては、信じられない光景だったのである。いや、日本の地形も気候も頭ではわかっている。桜の開花情報だって南から北まで上がって行くことも理解はしている。だが、実際にリアルに目にするとやはりびっくりするのである。トンネルひとつで風景が一変する。新幹線によって東京までの時間は短縮できたであろうが、ここの気候はやはり新潟なのである。この落差をなんとかして埋めたいと切望したのが田中角栄で、地元で圧倒的支持を受けた理由は上越新幹線に乗ってトンネルを越えただけでもよくわかる。

 越後湯沢から在来線のほくほく線というのに乗り換え、20分ほどすると六日町である。宿の人がシャトルバスで迎えに来てくれる。ほどなく「龍言」に到着した。

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 堂々たる庄屋屋敷の体である。

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 この広大な宿、本日の客はどうやら数人のようである。ゴールデンウィーク直前だもんな、ほとんど貸し切り状態。うひょひょ。部屋は二間続きで、囲炉裏もあるし、掘りごたつもおいてある。このへんの豪農の家に泊めてもらっているような感覚である。

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 夕食の前にひと風呂浴びるとするか。露天風呂も貸し切り状態である。鍵をしめ、好きなだけ泳げるではないか。(温泉に行くと必ず泳いでしまう悲しい性・・・いや、バタフライとかじゃなく、静かに平泳ぎですけどね・・・)露天風呂は鄙びた風情の岩風呂で屋根はついてはいるが、宿の奥の木立からその奥の山まで見渡せる気持ちのよい空間である。空気がこもらないので、隠し持って来た煙草をこっそり一服。悪いな、私。温泉は好きなのだが。普段から早風呂なので、出たり入ったりを繰り返しているとだんだん飽きてきて、30分の貸し切り時間を持て余す。

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 露天風呂からの帰り道、図書コーナーのような休憩スペースがあったので一休みする。予期はしていたが、田中角栄関連本が何冊か置いてあった。やはり、このへんの人にとっては神様のような存在なんだろうな。親が子へ、子から孫へと語り継がれる越後の偉人。(私も小さいとき栗林公園の前に建っている三木武吉の銅像の前で、三木さんの偉業をさんざん祖母から聞かされた)たしかに上越新幹線のおかげで、私もこんなに気軽に越後に来られたわけだし。感謝。

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 食事の前に八海山泉ビールというのを飲む。ご存知八海山が作っているビールである。苦味の少ないやさしい味わい。風呂上がりの身体に染み渡っていく。

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 さてと。運ばれてきた御膳、見た目は昔ながらの旅館の夕食然としているが、とりたてて特徴というものがない。まあ、そういう場所なのかもしれないが、名物はなんだろう。給仕してくれた女の子に聞いてみると、郷土料理であるのっぺい汁というのをすすめられる。これは大根やにんじん、蓮根、絹さや、お揚げなどが入ったお汁で、かすかに醤油の風味がする。が、はっきり言って関西の人間には少々ハードであった。で、宿自慢の魚の炭火焼きを。じっくり焼かれた鮎はさすがに旨い。まあ別に料理目当てできたわけでもないので、こういうときはおとなしく味わう。ただ、最後に米どころのこはんを期待していたのだが、筍ごはんだった。もちろん季節のものだからそれはそれで美味しかったけれど、せっかくだから南魚沼産コシヒカリというものを銀シャリで味わいたかったというのはこちらの勝手なわがままか。どうも私の料理への期待度と実際の料理の方向性に微妙なズレがあった。まあ関西の舌と新潟の舌が違うということなのか、それとも季節が悪かったか。

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 料理に関してはまったくもって個人の好き好きだと思うので、こういうこともあろう。私に合ってないだけかもしれないし。何より、それ以外の部分にこの宿の魅力がある。建物の多くは近隣の古民家を移築したもので、玄関横にはその象徴のような約250年前の武家屋敷を活かした幽鳥の間がある。豪壮とでもいうべき平屋が連なる独特の風情は、それを味わうためだけに一泊する価値があろう。庭園に面した露天風呂や土蔵造りの大浴場など、風呂も素晴らしい。かまくらの季節などに訪れると、きっとこの宿本来の魅力をたっぷり味わえるのだろうと思う。

2016-05-24 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

恵比寿「ラ・ベイエ」

 白トリュフ。白きくらげ。白子筍(第216夜参照)。白甘鯛。白桃。白金豚。食材に「白」という色がつくだけで、とたんに有り難みが増す。白アスパラガスもそんなひとつである。

 私が子供の頃はむろんグリーンアスパラガスもまだなく、アスパラガスといえば缶詰と相場が決まっていた。当時は缶詰といえどもけっこう高級品で、しかし独特の香りが強烈で、その割に食感がふにゃふにゃでさほど美味しいとは感じなかったが、ホテルなどでハムサラダに缶詰のアスパラガスが入っていると珍しさも手伝ってかよく食べた。

 そのうちに生のグリーンアスパラガスが出回るようになり、アスパラガスがこんなシャキシャキした野菜であったことに驚いたものである。そして、ここに来て生の白アスパラガスが登場したのである。白アスパラガスは、葉緑素を作らないよう陽の光をあてずに栽培することで白くなる。グリーンアスパラガスと品種が違うわけではなく、育て方が異なるのだそうだ。出回りだした頃は、圧倒的にヨーロッパ産が多かったが、さすがに日本の農業は優秀で、またたくまに国産のレベルの高い白アスパラガスがメジャーになった。何と言っても野菜は採れたての新鮮なものであればあるほどいい。

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 東京日帰り出張で、比較的仕事に余裕のあるときは、この店にサッと寄って、混む前に注文して、チャッと食べて、8時半くらいの新幹線に乗って帰る。この日も、店のオープンと同時にカウンターに座り、黒板メニューを見ると、白アスパラのムニエル生ハム添えというのが目に飛び込んできた。早速注文する。白アスパラが見えないくらい生ハムが乗っており、白菜、卵を刻んだものが散らされている。溶かしバターのソースをからめてその上に生ハムをのっけてかぷっと食べる。最初はシャキシャキしているのに、口の中でむにゅ〜と柔らかくなるこの食感、緑のではこうはいかない。卵好きであるのでオランディーズソース(あのエッグベネディクトにかかってるヤツね)をかけるのも大好きである。お次はイサキとブロッコリーの温サラダ。イサキがカリカリにソテーされて、これもこたえられない美味しさ。ブロッコリーはイサキの下にたっぷりと隠れている。

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三品めは、こちらの名物塩ウニとじゃがいものガレットである。今日はスペシャルで生しらすバージョン。こちらのお店に初めて来るなら、絶対外せないのがこのガレットである。スライスしたじゃがいもに塩ウニをからめ、セルクルに入れカリカリに焼く一品。桜えびの季節は桜えびのジャリジャリ具合がまた絶妙なのだが、生しらすの柔らかな食感もこのガレットにはよく合っている。また塩ウニの独特の味が、じゃがいもにメリハリの効いたを添えるのだ。いや、風見さんは天才だわ。

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 ここいらでやめとけばいいのに、やっぱりパスタを食べないと収まらない。で、スモークサーモンと菜の花のペンネ、トマトソースである。旨いのはいうまでもない。

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 そして、パスタを食べただけでもよくないのに、調子に乗ってデザートまで注文してしまう。しかし、前にも書いたが(第78夜)こちらのモンブランは絶品なのである。スポンジケーキをサイコロ状に切り、そこにアマレットを垂らし、その上に生クリーム、さらにたっぷりの栗のピュレを乗せてくれるのである。栗のピュレには栗のつぶつぶした食感が残っており、なめらかな生クリームとの微妙なテイストの違いがこたえられない至福の時間を生み出してくれるのだ。

 ああ、今日も幸せな心地。あとは新幹線で爆睡するだけだ。

2016-05-19 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

京都祗園「千ひろ」

 筍をしみじみ美味しいと思うようになったのは、ごく最近である。若竹煮を筆頭に、土佐煮や筍のお吸い物などをいただくと、春の滋味が五臓六腑にしみわたる。ふきやうど、わらびなどの山菜や、わけぎのぬた、あるいは卯の花など、若い時分には年寄りくさいと敬遠していたものが無性に好きになるのは、やはり年を重ねたせいかもしれない。

 卯月の京。とっておきの筍をいただいた。いつもの店である。

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 まずはアスパラと菜の花の黄身酢がけ。上にはお出汁のジュレが乗っている。目の覚めるような緑に生命力漲る卵の黄色。自然の色というものの強さに目を瞠る。普段積極的に野菜を食べないのに、こういう一品だとがぜん前のめりになるのが我ながら可笑しい。続いては琵琶湖の鮎。この清楚で気品のある姿といったらどうだろう。琵琶湖産と聞くだけで、有り難みを感じるのがスノッブかしらん。この皿にもみずみずしい緑のいんげんが春を演出している。続いて、鯛の白子のポン酢仕立て。春の鯛のふくふくした命をいただく口福。

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 お待ちかねの小皿アソート。左からサヨリのカラスミ和え、鯛の白味噌漬けを軽く炙ったもの、鯛の子ゼリー寄せ、一寸豆、真ん中はホタルイカをたたいたものである。こちらは、これも楽しみで、酒飲みにはうれしい肴オンパレードである。菊姫のぬる燗をちびちび飲りながら、少しずつ旨肴をついばむ。お造りは、鯛に赤貝、マグロである。いつものようにお醤油だけでなく、細く切った塩昆布も出る。鯛などはお醤油より、ダンゼン塩昆布で食べたほうが旨い。

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 そして本日のメインの登場である。お椀の蓋には扇と短冊。蓋をあけると、ふわりと春の香気が立ち上った。蓋の裏には蒔絵の竹林が、お椀の中にはたっぷりの筍としんじょ。この香りと柔らかさは尋常ではない。これ、大原野の朝掘りで白子筍というらしい。大原野のある京都洛西地域の山林には、テンコと呼ばれる白い粘土質の土壌があり、炭酸カルシウムやミネラルなど栄養分が豊富に含まれ、最上の筍が育つのだという。しかも穂先が土からほとんど出ていない状態で掘るので、ほとんど陽を浴びていない。真っ白で繊維質が細かく柔らかいのはそういう育ちであるからなのだ。まさしくこれは筍界の深窓のご令嬢。季節も4月のほんのわずかなときしか出まわらないのだそうだ。こんなに厚切りなのに、びっくりするほど柔らかい歯ごたえなのである。こういうのを、妙味というのだろうか。

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 筍の余韻まだ冷めやらぬ間に、今度は小さなお椀。蓋をあけると、小さな雲丹丼である。天草の赤雲丹。ため息が出る。こんな贅沢を貪っていいいのかという後ろめたい気持ちになりながらも、心のなかで(せっかくだから、いいのだ)と思いながらいただく雲丹の旨さよ。

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 さ、後半戦だ。藍のうつわに入っているのは、小浜の桜鱒。ほろりと上品な身離れ。これも絶品である。おまけに、うつわは竹虎。これ、真ん中に虎が描かれているのだ。実に楽しい。白いのは湯葉をすり下ろしたもので、中には焼きバナナ。フルーツをうまく湯葉と組み合せるのは、千ひろさんところの得意技である。季節によって、桃やぶどうなどを使われるが、本日はバナナなんである。魚はめひかり。名前の通り、目に尋常ではない力を感じたので、アタマからがぶりとやる。揚げ物は、富山の白海老のかき揚げである。すだちをキュッと搾って、塩でいただく。

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 最後にもう一度、白子筍のごはんが登場。すでに満腹であったが、こんなものを出されては食べないわけにはいかない。人が手をかけた自然のやさしさから生まれた、しみじみと優雅な味わい。いやさ、こんなの知ってしまうと、この先困ってしまうではないか。

 さすがは、京都の名店。垂涎ものの仕入れルートを持っている。

◎追記

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 三月に続いてまたこの店に来れたのは、海老様のおかげである。南座での特別舞踊公演。幕間には、立礼の茶席が出ていたので、桜を模したきんとんとお薄で一服。この日は、先斗町ご連中の総見であった。食事どきまで時間があったので、先斗町をぶらり。舞妓さんの後ろ姿があまりに可愛らしくて、後ろから写真を撮らせてもらう。芸妓さんの後ろ姿は、やっぱり粋。

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2016-05-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪天満「じん田」

 お遣い物の和菓子を買いに阪急百貨店の地下食料品売り場に出向いた。菓子コーナーに行く道すがら、実に魅力的な弁当を売っているコーナーがある。足を止めたのは、美味しそうなうな重弁当を売っている店の前。気になる一品があった。

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 三色巻。

 外側は黄金色に輝く卵、黒い海苔、中は何やら食欲をそそるごはんの茶色、そして中央には紛うことなき鰻がおわす。そう、三色巻とは鰻をタレを染み込ませたごはんで海苔巻きにし、さらに外側を卵焼きで巻いた黄・黒・茶の巻物なのである。

 うな丼と、う巻きを足して、食べやすくしたような三色巻。これを持ち帰り、お昼に食べ、まったくなんて味なんだと感嘆し、店の住所を見てみると、なんとご近所ではないか。店があるのは、天満市場の少し北。創業100年の鰻の老舗である。

 まず鰻はすべて国産。主な産地は徳島と愛知らしいが、産地にこだわるのではなく、その時期に旨い国産、良質で安全な国産ということに重きを置いているらしい。そして、初代が戦時中にもタレ壺を肌身離さなかったという秘伝のタレは継ぎ足され、今も守られているという。その国産の鰻を関西伝統の腹開きにし、紀州備長炭で熟練した職人の手技で焼き上げる。三色巻を食べただけでも、旨いのに、鰻の炭火焼きならどんな口福が待っているのだろう。

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 店になかなか行く機会はなかったのだが、会社で歓迎会を催すこととなり、ごはんの部の一部にこれを出すことにした。他にもご馳走はいろいろあるので、一人二個見当で用意したが、さすがに美味しいだけあってなくなるのは早く、アッという間であった。写真のように、こうして大量を大皿に盛り付けると、もうそれだけで凄いインパクトがある。パーティの一品として、これほど活躍するとは予想もつかなんだ。近々に、天満の店の方も訪ねたい。

2016-04-28 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪新地「斗々屋」

 新プロジェクトの決起大会。俗にいうキックオフのための店がなかなか予約できない。第一候補にも第二候補にも振られ、ご一緒する人のことを考えるとやはりしかるべき和食の店が理想なのだが、ううむどうしようと片っ端から電話をしていたら、ここが運良く取れた。

 誰も行ったことがないし、噂を聞いたこともない。店がある場所と名前に賭けてみた。

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 斗々屋というのである。たまらない名前ではないか。

 ここから真っ先に連想するのは、斗々屋茶碗であろう。斗々屋(ととや)は魚屋とも書き、文字通り魚屋の棚にあったのを利休が見出したとか、堺の商人斗々屋が所持していたのにちなむとも言われている。要は、高麗茶碗の一種で、土肌のざらりとした風合いのあるかなりシブい茶碗である。私は伊羅保とか斗々屋のような、興味のない人から見たらただの汚い茶碗に思えるようなシブい枯れた風情がめっぽう好きなのである。

 店に斗々屋とつけるくらいだから、ここはきっと私好みである。期待を胸に新地に向かった。

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 期待に違わずシブい入口。のれんの上には注連縄がかかっている。竹矢来の風化具合も、時代がかった味わい。屋号の文字も墨跡のような素晴らしさ。中に入ると、飴色に変化した壁面や天井などが無言で迫ってくるような心地。かといって、決して威圧的ではなく、むしろ枯淡の趣がある。

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 初っ端からまいった。いや、日本酒の徳利と猪口である。赤玉の赤絵はけっこう時代ものだし、また猪口がシブいったら。これ、萩だろうな。ご一緒している人もうつわ好きなので、目を細めている。最初に出てきたのは、筍とうど、イカ。きれいな色の木の芽のたれでいただく。そして、花見団子に模した鮨。かぶせてある桜の葉をはずすと、ご覧の可愛らしい手鞠鮨があらわれるという仕立てである。しかもお皿は都をどりの団子皿。うーん、なんとも粋な演出ではないか。都をどりとは、この時期京都にある祗園甲部歌舞練場で催される舞踊公演で、京の春の風物詩になっている。この団子皿、歌舞練場の茶席で出されるもので、色は5色あり記念品として持って帰れるのである。串に刺さった団子がつながった意匠は、歌舞練場の提灯と同じものなので、わかる人にはわかるという趣向。なかなかスノッブなはからいであるが、こういうの決して嫌いではない。

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 団子皿で盛り上がっていると、今度は粒雲丹が出される。これをちびちび舐めながら、酒もちびちび。すると即座に釧路の雲丹もやってくる。続いてお造りがもう一品。龍が描かれた赤絵に乗っているのは、目板鰈の縁側、鯛、赤貝、ハリイカ、たいらぎである。いやん、海の幸三連発、いいねいいね。

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 メインのお椀はぐじと筍である。ぐじ(甘鯛のことを関西、とりわけ京ではこう呼ぶ)の旬は秋だと思っていたけれど、これはこれで脂がのっている。たいそう、よい按配である。ひと息ついたところで、春キャベツとホタルイカを酢味噌で和えたもの、そして海そうめんもずくが出される。いいよね、こういう酢の物。ホッとする。

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 焼き物はキンキ。もうほんとにこの魚ったら、なんでこんなに美味しいのだろう。気持よくほろりと骨離れがよく、それでいてむっちりと官能的な味わい。魚好きなので、ひたすら黙々と箸をすすめる。焼き物は何種類かの中から選べ、向かいの人はアワビをセレクト。これも美味しそうである。

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〆の食事は、筍ごはん。麦藁手の茶碗に、おこげの色が映える。これも、視覚効果を計算しての演出だろうかと思うほどの美しさ。

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 相客と何度も、「いやあ、この店いいね」「シブいですね」と話する。奇をてらわない、高いクオリティの正統派料理。それを、押し付けがましくもなく、主張するわけでもなく、実にさりげなく、きわめて淡々と供している。ご主人はこの道何十年といった雰囲気を醸し出している。きっと店を開いたときから、こういうスタイルでずーっとやられているのだろう。大阪新地のシブい懐石。うん、いい店を見つけたもんだ。また、ぜひ。

2016-04-25 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

両口屋是清「をちこち」

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 両口屋是清といえば、「をちこち」である。昔、飲み友達だった山ちゃんが、名古屋に出張に行くから土産にをちこちを買ってくるぞおと連呼していたことを思い出す。彼は茶人でもあったので、をちこちの旨さについて大いに語っていた。それよりもずっと前にはコマーシャルで「を〜ちこ〜ち」と歌っていたのもよく憶えている。それに、何と言っても遠近と書いて、「をちこち」と読むのだと学んだのは両口屋是清さんのおかげである。

 万葉集にも「をちこち」は出てくる。

 『〜ももしきの 大宮人も をちこちに しじにしあれば 見るごとに あやにともしみ 玉鬘〜』これは聖武天皇が神亀二年夏、吉野の離宮に行幸した際に笠朝臣金村が詠んだ歌の一部である。大伴坂上郎女が詠んだ相聞歌 『真玉付く をちこちかねて言はいへど 逢ひて後こそ 悔いにはありと言へ』の中にも登場する。

 をちこちとは遠近であり、あちこちでもあり、彼方此方であり、つまりはhere とthereでもあるのだ。なんと含蓄のある美しい言葉であろう。うっとりするほど典雅でもある。

 両口屋是清は、寛永十一年創業。三百八十年の歴史を誇る名古屋の老舗である。銘菓「をちこち」は、はるかな山々の風情をイメージして名づけられたのだという。たしかに見るからに上品な風情である。真ん中に挟まれているのは羊羹に見えるが、これは大納言小豆を使った粒餡村雨である。そのまわりには白村雨、外側にもそぼろ状になった村雨餡。そう、「をちこち」とは村雨を五層にした贅沢な菓子なのである。

 村雨をご存知ない方に説明しよう。村雨とは、小豆と米粉と砂糖で作られた蒸し菓子(だいたいは棹物になっている)で、「をちこち」の外側のようにそぼろ状のつぶつぶ感があるのが特徴。生餡に米粉と砂糖を混ぜ、蒸すことで、この独特の形状になるのだという。村雨とは、にわか雨、通り雨、驟雨をさすが、そぼろになったつぶつぶをぱらぱらと降る雨に見立てたネーミングの妙には唸らされる。もともと和菓子の見立て力というものそうとう凄く、アタマに浮かぶのだけでも、時雨とか、鹿の子、錦玉、金鍔、洲濱、八ツ橋、落雁などなど枚挙にいとまがない。「をちこち」の真ん中は粒餡、白いのと外側はこし餡である。少しずつ村雨の状態を変えることで遠近を表現しているのかと気づくと、これはなるほどと膝を打つ絶妙な計算である。美しく凛とした五層構造でありながら、口あたりはほろほろっとやさしいところが昔から大好きで、世に言う(私の中だけかもしれないけれど・・・)村雨御三家はすべて試して、一等好きなのがこちらの「をちこち」なのである。

 ちなみに御三家のあとふたつは、京にある。鶴屋吉信の「京観世」と俵屋吉富の「雲龍」である。「京観世」はうずまき状にぐるぐると小倉餡と村雨を巻いたもので、こちらも観世水に見立てて京観世と名づけられているし、「雲龍」は巻き方を少し変形にすることで雲に乗る龍の姿を表現している。どちらのネーミングも秀逸であるだけでなく、それぞれの老舗の看板商品となっている。

 名古屋駅で久しぶりにもとめた「をちこち」。家に戻ってさっそく少し切った。抹茶を切らしていたので、煎茶を濃く淹れいただいた。村雨は口のなかで、ほろほろと溶けた。

2016-04-21 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

名古屋「あつた蓬萊軒」

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 仕事柄、東京日帰り出張というのがちょくちょくある。時間に余裕のあるときは、東京で食事して帰ることも多いのだが、この日、突然に、無性に、鰻が、それもひつまぶしが食べたくなった。そういえば、昔、名古屋で食べたひつまぶしはやはり美味しかったよなあと思い出す。思い出したとなると、もうアタマからその映像が離れない。ご丁寧に匂いの記憶までついている。

 そうなると、もういてもたってもいられなくなり、スマホで名古屋の松坂屋の営業時間を調べる。営業時間は22時まで、ラストオーダーは21時。時刻は18時過ぎ。今だったら、楽勝で行ける。よし、決行だ。結構だ。

 名古屋で途中下車となると、品川から名古屋まではあっという間である。勝手知ったる名古屋駅を飛ぶように走ってタクシーをつかまえ、一路松坂屋へ。たしか、あそこの「あつた蓬萊軒」はけっこう並ぶんだよなあと逸る気持ちをなだめながら、それでも小走りで向かう。すると、意外にすいており、あっけなくスッと席に案内された。

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 ふっふっふ。急に気が大きくなってきた。酒だ、酒だ。春の宵である。純米国盛というのをぬる燗にしてもらう。で、う巻きを注文する。鰻が食べたくて来ているが、卵は別腹である。ついでにきも焼も言う。忘れてはいけないので、一緒にひつまぶしも注文する。よしと。これで、心置きなく、ゆっくりできる。

 う巻きやきも焼をアテに国盛をちびちび楽しもうと思っていたら、いきなり女のコがひつまぶしを持ってくる。えっ。なんで今なの。思わず、「あのね、まだお酒飲んでるから、もう少し後に持ってきてくださるとうれしいんだけど・・・」とお願いする。うーん。お酒や肴を注文しているのだから、いつお持ちしましょうかのひと言があってもよさそうなものだ。居酒屋じゃないんだし。それよか、隣に座っているおじさん、ひつまぶし注文したよ。(と、心の中でつぶやく)私の予想では、私用に運んで来たひつまぶしをいったん引っ込め、それなりの時間を置いてそれを隣のおじさんに持って行くのだろうなと思っていた。それなら、合理的だし、誰も損しない。ところがである。あろうことか、その女のコ。私のひつまぶしを、何の躊躇もせず、隣のおじさんのところに置いたのである。いや、たしかに、私の分のひつまぶしが最終的に隣のおじさんに出されるとしてもだよ。それは見えないところでやらないといけない。隣の人用に出されたひつまぶしを、後にしてと言われたからと言って、じゃあ、これお隣さんに、はないだろう。おじさんにはすべてのやりとりが聞こえているのだ。いくら手を付けていないといっても、気は悪い。私がおじさんだったら、「あ、それじゃ、それ私がもらいます」と言うかもしれないけど。

 こういうのには配慮というものが必要であろう。ちょっとした機転さえあれば、店も、隣のおじさんも、聞いている私だって、気持ちよくなれるのに。隣のおじさんは、何も気にせず、置かれたひつまぶしを食べている。「すみませんね。こちらのが行ったみたいで」と言うと、「いやいや」と実におおらか。心のなかでアタマを下げる。

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 そうこうしているうち、お酒も残り少なくなったので、改めてひつまぶしをお願いする。小さなお櫃に、ぎっしりと鰻の蒲焼きが隙間なく並べられている。うんうん、これを食べたくてわざわざ途中下車したのだよ。まずは、見た目を楽しむ。ひつまぶしという名称は、ここあつた蓬莱軒の登録商標であるらしい。名前の由来で有力なのは次のふたつ。ひとつは、お櫃のごはんに鰻の蒲焼きをまぶしているからという説。もうひとつは、関西での鰻の呼び名まむしからなまったという説。前者のほうが、なんとなく気分ではあるな。

 食べ方は基本は好きなように食べてもちろんいいのだが、店は次のような食べ方を推奨している。まず。お櫃のごはんに、十字ですじを入れ、四等分する。一膳目。四分の一を茶碗によそい、鰻ごはんとしてまずは味わう。二膳目。四分の一をよそい、薬味のネギ、わさび、海苔などをかけて食べる。三膳目。また四分の一をよそい、薬味を盛り出汁をかけ、うな茶漬けにする。四膳目。いちばんお好みの方法で食べる。

 食べ方のスタイルを少しずつ変えるというだけで、鰻ごはんを食べる行為ががぜんエンターテイメント性を帯びる。ひつまぶしは、ひとりでも遊べるその典型のようなものだと思う。私がいちばん好きなのは三膳目に推奨されているうな茶漬け。なので、二膳目の途中から出汁をかけて食べる。三膳目も四膳目もうな茶漬け。ふふふ。

 あつた蓬莱軒の本店は、熱田神宮の門前町にある。この地は東海道の陸と海の分岐点であると同時に、東海道からだけでなく、美濃路、佐屋街道からも交通と文化の集まる場所で、江戸時代には東海道五十三次の四十一番目の宿場町として東海道随一の賑わいを見せていたそうな。創業は明治六年。当初は料亭としてスタートし、出前が多かったため、大きなお櫃に数名分の鰻丼を入れるようになり、それが今のひつまぶしのカタチへと発展した。備長炭で香ばしく焼いた鰻に、140年継ぎ足しているという秘伝のタレがからんだひつまぶしは、間違いなく名物といえるだろう。

 松坂屋店にしか行ったことがないので、いつかは熱田神宮参拝に帰りに本店にも行ってみたいと思う。

2016-04-15 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

六甲道「磯料理 魚とし」

 磯料理と聞くだけで、わくわく心躍る魚好き。なにしろ「磯」である。魚でもなく、活魚でもなく、海鮮でもなく、「磯」とエリア名をつけているのに好感が持てる。釣りをする人なら磯釣りとかでおなじみだろうが、そもそも磯という言葉自体が私にとっては非日常。だけれど、美味しい魚が磯で釣れることはわかっているので、何か妙に食いしん坊の琴線に触れるのである。

 調べてみると、ひとくちに磯と言ってもかなり広範囲で、細かい磯用語があるのには正直驚いた。シモリ、ワンド、ワレ、ハエ、ハナレ、ハナ、サラシ、ハケ、グリ、チョボ、コジ、ハケ・・・・ちんぷんかんぷんであるが、どんなものにも専門用語が細かくあるという発見が面白い。たしかに、私の好きな歌舞伎や文楽、うつわや着物だって専門用語だらけで、知らない人にとっては私が磯用語を聞くようなものだろう。

 そんな磯料理の店である。ここは、一時ウォーキングに熱中していたとき、家の近所を歩き回っていて発見した。外から中の様子がほとんど見えないので、超地元の人のための居酒屋かしらんと思っていたのだが、あるとき「あまから手帖」の神戸特集に紹介されていたのである。魚料理が非常に充実しているとあった。店主も元魚屋であるという。これは行かねばなるまいて。

 予約当日。意気揚々と店に入る。左にカウンター、右にはテーブル。カウンター真ん中に陣取ってメニューを見ると、本日のおすすめ天然魚とあり、ズラリ魚のオンパレードである。さすがは磯料理。しかも、書かれているのは料理名ではなく、素材名と調理法のみ。

長崎  ノドグロ 炙り
富山  白エビ
石川  神馬草 ボイル
徳島  石鯛
山口  剣先イカ 刺身
高知  金目鯛 刺身
淡路  太刀魚 刺身
長崎  宝石ハタ 刺身
長崎  赤ハタ 刺身
長崎  スジアラ 刺身
北海道 キンキ 炙り
北海道 ウニ
三陸  あわび 刺身
長崎  アコウ
長崎  ブリ
淡路  黒メバル
淡路  真鯖
愛媛  マナガツオ
淡路  イイダコ 煮つけ
石川  キアラ
淡路  あいなめ
大分  本鮪頭肉 ネギトロ
島根  岩ガキ 刺身
徳島  イラ 炙り
徳島  キツネ鯛
鹿児島 歯ガツオ 刺身
長崎  ヒゲ鯛
長崎  姫鯛 刺身
徳島  イトヨリ 刺身
淡路  甘手ガレイ 刺身
明石  あなご

 どうです。このラインナップ。なんと31種類。キアラとかイラとかキツネ鯛なんて、初耳である。名前のヨコに炙りとか刺身とあるのは、その状態で食べるのをすすめているのだが、煮ても焼いても食えるものばかり。気になる魚を店主に聞いて、どう食べるのがよいか相談できるなんて、なんと贅沢な店なのだろう。唸る。いや、ほんま唸る。

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 メニュー以外にも目の前に美味しそうな鉢がある。なので、まずはイイダコの煮つけを頼んだのだが、どうですこの立派なこと。頭の中にぎっしりつまったイイ。もうこれだけで、ここはいい店だと確信できるクオリティ。少し肌寒い日だったので、酒はぬる燗。地元の小料理屋のカウンターで、目の前の海で捕れたイイダコをつつきながら、リタイアしたら、週一くらいでこういう生活をしたいと妄想しながら、酒をちびちび。いや、ぐびぐびか。

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 刺身はノドグロは食べたいと宣言し、後は今日の活きのいいの(ま、全部だろうけど)で食べたことないのもリクエストして、盛り合わせにしてもらう。魚って、きっと全国の磯の数だけ夥しい種類があるのだろうし、呼び方だって違うと思うが、それでも初めての魚を食べるのは新鮮な気持ちになる。刺身に合わせて、おすすめの日本酒もセレクトしてもらう。新政の美山錦、やまユという純米。木桶仕込みのうるわしい香味。これをワイングラスでいただくという趣向。いいねえ。青いラベルは業界で青やまユと呼ばれているそうだ。(白やまユとか、緑やまユなんてのもあるらしい・・・)

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 メインは、キンキの煮付け。これはもうメニューを見たときから決めていた。煮付けの王者。いや女王か。煮付けはやはり赤魚系に限る。いや、カレイも好きだけどね。しかも、これ、タグ付きである。北海道網走。釣キンキで活〆とある。こんなに自慢げにタグがつくと、なんだかうれしいな。そして、また大将の味付けの上手いこと。醤油と砂糖の甘辛バランス、いやあ、気に入ったぞ。ほっこりした身がきもちよく取れていく快感。ほっこりを口にすれば、ほろほろと溶けていく愉悦。きれいにきれいに骨までしゃぶって、猫またぎの女になる。

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 さてと。キンキでよしておけばよいのに、デザートに穴子の天ぷらを頼んでしまう。いやさ、穴子も好物なんだけど、たまには豪快にぴちぴちを天ぷらにしてもらうのいいではないか。しかし、この量だ。またしても、おなかぱんぱんになったのは言うまでもない。

 こちらは、美形若衆兄弟とお母さんによる完全家族経営。お兄さんが調理を、弟さんが酒をセレクトしてくれる。働き者で、頼もしくて、その上美形のこんな息子たちがいてお母さん幸せ者だよなあと、心の中でかなり羨ましく思う。老後の楽しみのためにも取っておきたい店である。

2016-04-13 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

神戸三宮「やす桜」

 年に一度ほど金沢を訪れていると、自然となじみの店ができる。ま、ほとんど鮨と天ぷら、後はうつわの店や雑貨屋さんであるが、ここ「bar quinase」(第73夜)も夜に必ず立ち寄りたい店である。去年だったか、神戸が好きでよく行くという話を聞いたので、おすすめの鉄板焼きを紹介したことがある。その後伺ったときに、鉄板焼きどうだった?と聞けば、たまたま神戸に行ったときはその店が休みだったようで、偶然街をブラブラしていたときに巡り着いた串揚げの店がなかなかよかったと言うではないか。しかも、店主は金沢出身。(正確には石川県出身だったかもしれない)金沢から神戸に旅して、たまたま行った先の店主が金沢出身。そうそうあることでもないだろう。その、実に不思議な縁がつながって教えてもらったのが、ここである。

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 神戸の店を金沢の人に教えてもらう。なかなか面白い。ファンキーではないか。いや、ほんま、こういうの好きよ。これも縁というものであろう。店があるのは北野坂。懐かしいな。大昔の遊び場だ。若い頃はこのへんでぶいぶい言わせたものである(笑)。

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 串揚げというもの、学生時代の彼氏とよく行った(三宮になかなかの名店があった、もうとっくにないけど)ぐらいで、その後はそうそう縁がない。なので、これをご縁に通いたいとも思い、予約を取った。エントランス、ええ感じである。旨そうな気配に満ちている。表記は串揚げではなく、「串あげ」。おまかせを頼むと、最初に菜の花の湯葉あえ、ホタルイカの酢味噌あえが出る。酒は手取川の純米辛口。これは新酒第一号で「冬」バージョン。さすがに石川出身のご主人らしく手取川のスペシャルなのがある。うっすら濁ったみずみずしい新酒は、串あげに合いそうだ。

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 目の前に並べられたのは四種類の調味料。右から竹炭塩、海苔塩、醤油、信州駒ヶ岳のソース。お好みでお好きなのをどうぞという趣向である。最初の四角いのは桜えび入り手作りはんぺん。ほう。はんぺんねえ。これ、旨いぞ。続いて、岸和田の筍に空豆。これは塩だな。筍はサクッと心地よく、空豆はしっとりしながらほくほくである。お次ぎは、鯛の親子揚げ。なんで親子?と聞けば、左は白子、右が身だから。そりゃそうだ。正真正銘の親子である。揚げ方がまたちょうどよく、どれも旨いではないか。

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 たまらず次の日本酒を所望する。おすすめは富成喜の純米吟醸かすみ生原酒。神力、無加圧槽しぼりである。契約栽培米である神力米を全量使い、小袋で絞った原酒のまんま。もうあの袋の端っこから滴り落ちたしづくそのもの。米の滋味を感じながら、ちびちび味わう。串あげは、帆立。中は半生。たまらない。みずみずしいグリーンはズッキーニの木の芽のせとアスパラ。ぴちぴちのトマトを丸ごといただいて、ふぐと車海老。そしてちびちびと言いながら、実のところはぐびぐびやっちゃったらしく、次なる酒は再び手取川。今度は新酒第二号の「春」である。

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 しいたけ、れんこん。桜鱒に神戸牛&白ネギ。変わったところではマッシュルームにペコリーノをかけたのが出て、これも旨い。すずきのタルタルソース乗せも、たいへんによろしい。そして、今度は秋鹿純米生。なんでこんなに酒が進むのか考えてみると、あつあつの串あげをはふはふ食べるときに、どうも日本酒で流し込んでいるようなのである。いや、いちいち認識してないけれど、どうもそうらしい。なんだ、そりゃあ。これぞ追い水、いや追い酒か。苦笑する。

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 次の三角の塊はなにか忘れてしまったけれど、その後、穴子が出て、あれ、また最後がわからない。それにしても、食べながらよく飲んだ。しかも、写真を見る限り、プラスしてリクエストしたのは神戸牛&白ネギとすずきのタルタルソースである。神戸牛&白ネギがあまりに旨かったのできっとリピートしたのだな。

 たまには串あげもいいな。次回金沢に行ったなら、bar quinaseに報告に行かなくちゃ。

2016-04-08 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪南森町「宮本」

 181夜で宮本の全月制覇を目論んでいると書いたが、千夜千食登場六回目にして四回會と月がかぶってしまった。まあ、それはそれでいいのだが、まだ経験していない月がたくさんあるのがちと気にかかる・・・。

 今回は素敵なお取引先様をご案内するので、先方の都合と予約が取れる日が最優先である。

 一週間ほど前だったが、珍しくすんなり予約が取れた。こういうのもタイミングである。月がかぶろうと、一年経つとそれはそれでまた進化しているに違いないし、贅沢を言えばここは週一で通いたいくらいの店である(通えないけど・・・)。

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 さてと。先付けのうつわには見覚えがある。うつわそのものが、ハマグリを開いたカタチになっている。初っ端から、春満開である。季節と素材とうつわの三重奏。こういうのは絶対日本料理以外ではできない芸当である。もっというと、そこに料理人の感覚と食べ手の感性が呼応するというのが理想であろう。まさしく、ここは茶懐石のカタチをぐぐっとカジュアルにした場なのである。さてと。料理はは飯蛸にかたくりと菜の花のおひたしに胡麻だれを添えたもの。頭の部分にぎっしりつまった卵がよい具合に蒸されていてたまらなく色っぽい風情で光っている。春だよなあ。当然、明石の飯蛸であろう。お酒は東洋美人のおりがらみを、スペシャルなデキャンタに入れてもらう。年に一度しか出荷しないという限定の乳白色の旨酒、蔵元は萩の澄川酒造。

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 お椀の蓋を開けると、ふわっと春の香りが立ち上った。はまぐりのお椀である。貝の季節だ。蓬豆腐とわらびも入っている。いつもの澄んだお出汁と違い貝のときは乳白色であるが、この中にはまぐりのエキスがたっぷりと満ちているのだ。はまぐりのうつわではまぐりを予感させておいて、期待に違わず即座にはまぐりを出す。擬から、すっと本物へ。こういう連打大好きだ。

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 お造りは、淡路の鯛、ハリイカ。これをお醤油、塩、スペシャルな酢でいただくのである。鯛は焼き霜づくり。サッと皮にだけ火を通すと、鯛がよりねっとり旨みを増すのである。ハリイカもにとにとの歯ごたえ。(にとにとは私の造語オノマトペアである)この食感は、にとにと以外ないだろう。に・と・に・と。酒は鶴齢の特別純米。こちらのデキャンタもなんともいえない優美なカタチである。

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 メインは、阿蘇の赤牛のヘレをさっとローストしたものと、真魚鰹の塩焼きに花わさびを添えたもの。肉と魚の共演である。赤牛は昨今のブームであるが、神戸牛に代表される霜降りではなく、きれいな赤身なので、牛肉本来の味を楽しめる。私ぐらいの歳になるとサシの入ったリッチな牛肉は、ツーマッチすぎてしんどいのである。とくに和食でいただくのなら、赤牛はちょうどいい。魚と一緒に出されても違和感がない。真魚鰹も大好物。この手の白身でいうと、私は真魚鰹一番、鰆が二番である。

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 八寸は可愛らしい朱のお重に入って出される。蓋をあけると、わあ、と思わず歓声があがる彩り。自家製バチコ、桜肉、ホタルイカ、才巻海老、百合根饅頭、鯛の子、スナップエンドウ、、だし巻き・・・。それぞれの食感も調理法も色合いも微妙に違っていながら、お重のなかでひとつの季節を演出する。自家製バチコの旨さと言ったら・・・たまらず、松の司の大吟醸をお供にする。また、小シブいデキャンタ。これはバカラのアンティークである。黒泡の酢の物をいただいた後は、黒メバルのみぞれ煮である。わらびのみずみずしい緑が季節を感じさせてくれる。

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 シメのごはんは、氷魚ごはん。氷魚というのは、しらすに似ているが鮎の稚魚である。琵琶湖でしか取れない貴重な名物だ。これをふきの苦味と共に味わう春の一品。

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 まもなく四月を迎える三月の終わりではあるが、カウンターのヨコの上にある長押のような小さな空間には、可愛らしいお雛様が並べられていた。すぐには気がつかない場所に置いてあるのが、弥生の名残ということか。そうして、すべての断片がひとつのテーマに収斂していくことに気づく。お雛様にはまぐり、可愛いお重、氷魚にみぞれ。そして・・・しまった。今回は入り口近くの席だったため。お軸を拝見するのを忘れてしまうという大失態。最後のピースがぴたり、と嵌まる気持ちよさを実感したかったのに・・・これで、また来年三月も来ないといけない。

2016-04-06 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

神戸六甲道「アドマン」

 玉子が死ぬほど好き〜と天皇バーでしつこく叫んでいたら、六甲道でお店をやっているマダムが教えてくれた。あそこの玉子サンドイッチはなかなか美味しいと。素早く脳内メモしたのは言うまでもない。

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 とある週末、午前中美容院に行った帰りに寄ってみた。場所は、JR六甲道の少し北西。宮前商店街の中にある。入り口には昔ながらの看板。サンドイッチ&コーヒー アドマンとある。「アドマン」のロゴの書体が妙に懐かしい。文字そのまんまの意味だったら、アドマンとは広告マンのことである。ご主人が元広告業界だったのかしらんと思いながら、店内に入る。中はごくごく普通の喫茶店の雰囲気である。店主らしき人は、年配のご夫婦。メニューにもおもいっきり年季が入ってる。アドマンは、AD MAN ではなく、A DEMAINであった。フランス語で「またあした」という意味らしい。

 メニューを開くと、ズラリサンドイッチのメニューが並んでい、一瞬迷ってしまうのだが、気を取り直す。玉子サンドを食べに来たのである。だが、玉子のサンドイッチだけでも4種類もある。フライエッグサンド、ハムエッグサンド、チーズエッグサンド、ベーコンエッグサンド。教えてくれた人のおすすめは、ベーコンエッグサンドだったので迷わずそれを注文する。あ、ちなみにメニューには、サンドイッチではなく、サンドウィッチと書かれている。これも店主のこだわりなんだろう。

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 運ばれてきたベーコンエッグサンドは、ひと目見ただけで旨いに違いないと思える佇まいである。たっぷりの玉子とベーコン。しかも、玉子は厚焼き玉子とゆで玉子を刻んだものがダブルで入っているのだ。薄切りの食パンの中に、パンパンに幸せな玉子色が詰まっている。ひと口食べると、厚焼き玉子の豊かなボリュームに、刻んだ玉子の細かな食感が合わさり、身悶えするくらい旨いのである。これぞ、微妙に食感の違う玉子の豊かなデュエットである。ほどよい塩気の効いたベーコンの量もちょうどいい。無心で食べる。あっという間に完食である。

 こんな店があっただなんて。食べている間にも、次から次へとご近所の常連さんらしき人が入ってくる。みんな顔見知りのようで、おしゃべりを楽しんでいる。メニューを改めて見ると、ランチもあるし、デザートに食べてみたいパフェやサンデーもある。昔ながらのきちんとした手順をふんで、ひとつひとつのメニューを誠実につくっている店である。当分は、このベーコンエッグサンドばかり食べるのだろうけど、いずれ他のサンドイッチやランチにもチャレンジしたいと思う。

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 すっかり気をよくし、ぶらぶらと阪急六甲まで歩く。そこで、はた、と思い出したスイーツの店。あることは前から知っていたのだが、なかなか行けなかったボンボンロケットというお店。この時間ならまだきっと開いているはず。ボンボンロケットとは、クリームサンディーズを売っている店で、要はバターサンドである。ただし、ここのはかなりこだわっていて、玉子たっぷりのサブレにバターの風味豊かなクリームをサンドしており、クリームの種類が20くらいあるのである。すでに夕方が近づいていたので、人気のフレーバーは売り切れであったが、オレンジ、ピスタチオ、チーズケーキを試しに買ってみた。さくさくのサブレとふわっと軽いクリームのコンビネーションはなかなか美味しく、こりゃあ悪くない。

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 パッケージやショッピングバッグも素敵で、ちょっとしたギフトにもいいなと思うセンスのよさ。ロゴ入りのマグやバッグ、Tシャツなども店内で販売していたが、箱好きとしてはギフトボックスにかなり萌えた。保存が要冷蔵なので、そんなに遠くまで持っていけないのがちょっと残念。だが、ご近所でしか食べられないということは、自分のためのスイーツとしては申し分ない。

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 普段あまり地元でゆっくりできないのだが、さすがに六甲はまだまだ知らない名店がいっぱいあるのだろう。少しずつ、時間をつくって探検したい。

2016-04-04 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪新地「キュニエット」

 連れて行くのは30代と40代。和食の堅苦しい雰囲気ではないし、居酒屋では物足りない。うーんどうしよう、どこ行こう。思いついたのは、新町か新地のイタリアン。でもなあ、新町は帰りがちょっと不便。新地はこの時間、同伴が多そうだなあ。5名くらいで食事となるといつも困ってしまう。カウンターでは店にも迷惑がかかるし・・・で、思い出したのである。

 10年ほど前はちょくちょく行っていたのだけど、しばらく足が遠のいていたあのお店。思い起こせば、社員の女のコも連れて行ったし、プチ同窓会もしたし、遅めの時間にけっこう飲んで食べたこともある。店はこじんまりしていて、テーブルも5人だったらちょうどいい。当時はシェフとソムリエの二人体制で、サービスはソムリエの人が仕切っていた。サジェスチョンが明快でどのワインも間違いなかったし、シェフはスペシャルでパスタをお願いしても快く応じてくれていたことも思い出す。現在はソムリエ(後にオーナーだったと聞いた)が近所に新しい店を開いたので、シェフが新たにオーナーとなり続けているのだそうだ。前もってコースを予約しておいた。

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 ひと皿めは、飯蛸の赤ワイン煮。2月から3月にかけての明石の飯蛸は、頭の部分に卵をぎっしり抱えて絶品になる。これがまるでお米のようなカタチであることから、飯蛸と呼ばれているのだ。子供の頃からの大好物のひとつで、祖母は飯持ちと呼んでいた。煮るともっちりした独特の味わいになる。これを、フレンチ仕立てでいただけるとは思っていなかった。赤ワインと煮込むのも悪くない。

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 四角い皿には、鯛、ホタルイカ、剣先イカと、ホワイトアスパラや赤カブ、ルッコラなどの野菜がきれいに盛りつけられている。まるでソースを塗っているように皿にあしらわれた銀の模様と、ソースも含めた盛りつけのバランスがとてもよい。近頃のフレンチやイタリアンの流行のひとつに野菜のこれでもか攻撃があるが、これぐらいの量が私にはちょうどよいのだ。ホワイトアスパラの美味しいこと。お次は、帆立のムース。足赤海老と菜の花がのっている。ソースには海老の濃厚なエキスが入ってい、ムースの端正さに華やかさを加えている。こういうひと皿をいただくと、フレンチって足し算の妙というか、和食とは次元の違う組み立てだなと思う。いろんな素材を足していき、そこにソースを加えて完成する料理。総合力とかハーモニーを大事にする感覚、オーケストラみたいなものかしらん。

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 この時点でシャンパンが空いてしまったので(写真は撮り忘れる)、白をグラスでいただく。ボルドーのムート・ル・ビアンというビオワイン。有機栽培でブドウを生産し、野性酵母のみで醸造しているのだそうだ。リンゴやバニラの香りがしながらも、口に含むとしっかり丸みがある。四皿目のフォワグラのキャベツ包みにも、軽やかに合う。私は断然白ワイン派である。

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 ハッとするほど鮮やかな緑のソースの上の魅惑的な赤は、金目鯛。ころんと塊でほぐれる白身には、上品な脂がのっている。金目鯛、ほんとうは煮付けにしたり、軽く炙ったお刺身でいただくのが好きなのだが、こういう仕立てにしても金目鯛の美味はちゃんと感じられるというのが、この魚の素晴らしいところである。素材がよければ、どんな調理法でもOKということやね。メインは、鹿とフォワグラのパイ包み。フォワグラを鹿肉でくるんで、そのまた外側をパイで包むという三重奏。鹿と鵞鳥というどちらかと言えばワイルドな素材を、パイでワンクッション置いてお上品に仕立てた一品。ぱりぱり、さくさくの奥に、濃厚なしっとりを隠してる。ううむ、シェフはなかなか手だれであるなあ。デザートは濃厚バニラアイスクリームにたっぷりのベリーソースとマカロン。メインのパワフルなあと味を、甘味と酸味で和らげる。やっぱりフレンチって、デザートまで食べて完成する流れなんだと納得するコースであった。

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 旨いだけではない。ひと皿ひと皿誠実につくっているのがわかるフレンチ。女のコたちもたいそう喜んでくれた。気取らない雰囲気の中で、こういう本格的な美味をいただける店はなかなか得難い。

2016-03-15 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

六甲焼き鳥「よしおか」

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 阪急六甲駅で降り、改札をまっすぐ出て二階通路をそのまま道なりに山側へ曲がってゆくと、ちょうど駅前の古くからあるビルの真ん前に出る。六段ほどある階段を降りた真正面には、実にさまざまな店が現れた。いちばん最近はたこ焼き屋さん、その前はたい焼き屋さんだった。花屋のこともあったし、不動産屋だったこともある。はて、その前はなんだったかはもう思い出せない。とにかく続かないのだ。阪急神戸線駅前の一等地であるのにもかかわらずだ。

 阪急六甲の山側は、六甲山系の鶴甲山(標高327メートルあった)の周囲を切り開き、30万平方メートルの宅地と30万平方メートルの公園や緑地帯をつくったことから発展した。高度経済成長期には鶴甲団地はサラリーマンの憧れだったようだが、今ではすっかり老朽化している。ただ神戸淡路大震災のときも阪急から上はほとんど家屋の倒壊もなく、鶴甲のへんは何事もなかったというから、地盤も含め街自体は成熟しているし、何と言っても六甲山のお膝元だから住環境も申し分ない。マンションもどんどん建設され住人も増えているし、神戸大学や松蔭女子大などの大学もある。だから、駅前の飲食店がもっと充実してもいいはずなのに、ほんとうに数えるほどしか店がないのである。

 震災で被害が甚大だったJR六甲道近辺(歩いて8分ほど)が再開発され、飲食店がかなり充実しているので、そちらで充分ということなのかもしれないが、そちらの賑わいとは対照的に阪急六甲界隈はいつも何となく寂しい・・・。

 ある日、またたこ焼き屋さんが消えたんだ・・・と切ない気持ちでいると、改装工事が始まった。外観に木をあしらい、内装にも時間をかけている。こりゃあ、和食系か。これだけこだわっているということはそれなりの店だな・・・いろいろ近隣で聞き込みをすると、どうやら焼き鳥の店らしいということがわかった。やがてオープンしたのだが、店が終わるのはけっこう早い。私が阪急六甲駅に降り立つ時間には、もう店じまいしているので流行っているのかどうか勝手がわからない。そのうち新しくできた焼き鳥はまあまあイケるという噂が伝わってきた。定休日は木曜なので、土日に行けるではないか。さっそく天皇バーの面々繰り出すことにした。

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 入るとカウンターがあり、奥には個室もあるようだ。出入り口が別の完全個室もあって、こちらは密談にももってこいの空間である。はじめてなので、カウンターに座る。食べたいものをまずはそれぞれが注文し、それを全員で1本ずつもらう。4人で行ったので、ズラリ並ぶと圧巻である。せせり、かわ、とりはらみ、こころ、ずり、ささみ、手羽・・・。こちらの焼き鳥はずっしり大きく、ボリュームがあって、食べごたえがある。たたきも、白肝も、ベーコン巻きも、ちゃんと旨い。今日は、焼き鳥を食べたい!という日にはうってつけの店である。それでいて、個人がやっているので、丁寧に仕事しているのがわかる。悪くない。いや、いいじゃないか。

 平日の夜の様子はあまりわからないが、土日の夜はなかなか予約が取りにくいと聞く。この雰囲気と味とボリュームなら、家族が日曜日に気軽に食事するのにもいいし、若いものどうしでちょっと一杯という場合でも入りやすいだろうし、奥のテーブルでグループでわいわいというのもよさそうだ。

 喫煙も可能ということで、4人のうち3人が食後に煙草を吸った。ほどなくして、完全禁煙になりましたという看板が表に出た。きっとあの日の私たちのせいである。煙草の煙と焼き鳥の煙は質が違う。申し訳ないことをした。

追記

 平成28年になってから、かしわの水炊きもメニューに加わった。水炊き(小鍋)1,800円。かしわ水炊きコース(お一人様)3,000円から。焼き鳥コース(お一人様)3,000円から。リーズナブルである。

2016-03-08 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed