Author Archive

新地鮨「黒杉」

 もう、十年ぐらいになろうか。新地で新進気鋭の鮨があると聞いた。店主はまだ若く、二回転めには新地の名店のシェフたちが集まってくるという噂もあった。鮨好きとしては行かねばなるまい。だが、そうそう新地に通っているわけではないので、そうしょっちゅうは行けない。それでも、クライアント様や、仕事のパートナー、懇意にしている鮨職人や友人、社員と、いろんな人を連れて行った。ここしばらくは足が遠のいていたのだが、久しぶりに訪ねることにした。

th_IMG_1168th_IMG_1171th_IMG_1172th_IMG_1173th_IMG_1175

 まだ少し肌寒いので日本酒をぬる燗にしてもらう。初っ端はトマトである。三島のうつわにぽんと盛って、塩をぱらり。まずはこれで口中をすっきりさせる。ツマミ第一弾は、田辺の初鰹。春、黒潮に乗って太平洋岸を北上する元気のいいやつ。生と表面を炙ったの、それを北海道の行者にんにく醤油と淡路の新玉ねぎのぽん酢の二種類で楽しむ。明石の鯛は、さすがにコリッと小気味良く、淡路の平目はねっとり旨みをたたえている。この店が好きな理由はいろいろあるが、ツマミの付け合せにワカメを出してくれるのがうれしい。大根よりダンゼンワカメだ。

th_IMG_1178th_IMG_1179th_IMG_1180

 ぬる燗が終わったのでそろそろ冷酒にする。ここも、近頃の例に漏れず、日本酒をというとネタに合わせて大将がセレクトしてくれる。で、なんと大好きな三千盛の純米大吟醸である。ミチ(三千盛のことを勝手にこう呼んでいる)は本醸造でもけっこう鮨に合うのだが、純米で大吟とくればキリッとした辛口がまろやかになり、たしかに旨い。そのミチにまた合うのが鹿児島の筍と桑名の蛤。いいよね、こういう一品。尊王攘夷派と佐幕派が、仲良く皿の上で交わってる。さて、この茶色い物体は何でしょう。あん肝ではありません。なんとこれは、エイ肝をルイベにしてスライスしたもの。味の系統は似ているけど、舌の上に乗せると体温でルイベが柔らかく溶けていく。それをさらにミチで流し込む。至福、ですな。

th_IMG_1181th_IMG_1182th_IMG_1183th_IMG_1185

 串は、うなぎの塩焼き。黒杉名物である。うなぎを串にぐるぐる巻いて、炙って、塩をパラパラっと振った香ばしい一品。赤玉のうつわには子持ち昆布とクラゲ、胡瓜の酢の物。うなぎの脂をひとまずなだめる感じ。洒落たスクエアなガラス器に入っているのは、甘海老の紹興酒漬け。とろとろの食感の中にそこはかとなく香る紹興酒。塩ブリをお椀に仕立てたものをいただいて、めくるめくツマミの連打が終わる。

 どうでしょう、このツマミの流れ。素材のセレクトはきわめて正統的なんだけど、出し方に緩急があるのがよい。順番の妙というものかね。初鰹は少しクセのある薬味で出しておいて、白身を二種。で、筍&蛤の煮物。エイ肝、うなぎと濃厚なものの後に酢の物。最後は、甘海老、塩ブリ。たいへんけっこうである。

th_IMG_1186th_IMG_1187th_IMG_1188th_IMG_1190th_IMG_1191

 さ、後半戦である。再びスタートは鰹から。これはヅケにしている。フレッシュな初鰹が、ねっとり醤油をまとって衣替え。続いてはコハダ。しっかり仕事のされた江戸前の味わい。ここからは奥播磨の大吟で攻める。トロになりかけているマグロは宮崎からやってきた。日向灘も黒潮が北上しているのだ。近海物はさすがに旨い。にやにやする。この巻き巻きしているのは鯖である。軽く昆布で〆た鯖を手巻きにしているのである。うふふ、手巻きを出されると楽しいな。カウンターの向こうから、「はい」とか「ほい」てな感じで手渡されるとそれだけで、大将との間がぐっと近くなる。鮨屋の間合い。とてもよい。

th_IMG_1192th_IMG_1193th_FullSizeRenderth_IMG_1195th_IMG_1198th_IMG_1200th_IMG_1201th_IMG_1203

 続いてはイカ。ねっとりに、どっきり。しっとりに、うっとり。今日の雲丹は北海道の馬糞である。陶器のスプーンで口に運ぶ。こってりしているのに、すっきりとした後口。馬鹿馬。合間に味噌ソープをいただいて、濃厚さを洗い流した後は鯛の昆布締め。ツマミでもいただいた明石の鯛が、身悶えしているように妖艶に変化している。さすがはアミノ酸のパワー。そして、もう一度手を出してと言われ、素直に手を出すと小柱を刻んだ小ぶりの握りが手のひらに乗せられる。ゴマがかかっていて、見るからに美味しそう。いや、実際、旨いのだが。そして玉子。ていねいにじっくりと焼かれた逸品である。そして煮穴子。甘いツメを塗ったものと塩でいただく二種類で〆る。

 この黒杉、夏には移転(2015年7月にすでに移転)するそうである。引っ越し先は新地に突如出現する新しいビルディング、新ダイビル。そこに4店だけ選ばれた店が入るのだそうだが、なんとその一店になるそうだ。これは楽しみ。落ち着いた頃、また行ってみよう。

2016-03-04 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

新地おでん「とみ乃家」

 あらためて写真を見て、ほんとうに無茶苦茶な注文のしかただと反省。いや、私が注文したわけではない。クライアント筋のおじさまや若いのも交えての会食。みんながそれぞれ好きなものを注文した結果なのであるが、それなりの店でこういう雑食をしてはいけないとつくづく思った。まるっきり、居酒屋状態である。

 こちらはおでんで有名な新地まん卯の系列店である。カウンターもテーブルも掘りごたつ式になっているので、くつろぎながら食事が楽しめる。基本は好きなおでんネタを注文し、一品づつ上品に盛りつけられた小皿で出汁とともにいただく。

th_IMG_1139th_IMG_1157th_IMG_1141

 先付けとして最初に出されたのは、折敷の上に並べられた小皿。ホタルイカとわけぎのぬた、湯葉、いんげん、あんこうの肝。志野の向付に入っているのは、平目の昆布締め。特別純米の極上吉乃川をちびちびとやりながら、いただく。いい按配である。

th_IMG_1144th_IMG_1146

 続いて出てきたのは、すっぽん鍋である。コラーゲンたっぷりのすっぽんを贅沢にも葱だけでいただく一品。すっぽんというのはほんまに凄い。単一の素材でこれだけパワフルに漲るエキスを出せるのだ。すっぽんには、コラーゲンだけでなく、必須アミノ酸、リノール酸、ビタミンB群はもちろんのこと鉄やカルシウムなどが含まれてい、昔から滋養強壮に効くと言われてきた。そのうえ血液をサラサラにしてくれ、美肌に効果があるともいう。だが何といってもすっぽんの最大の魅力は、健康と美容に素晴らしい効能がありながらとびきり旨いということだろう。力強いエキスのパワー。こっくりしながらもキレのある澄んだスープ。これが漢方薬のような味だったら、すっぽんの値打ちは半減するだろう。出汁だけでも死ぬほど旨い。いや、ほんま。

th_FullSizeRenderth_IMG_1149

 ところがである。ここから暴走が始まるのである。すっぽんだけでもうじゅうぶんなご馳走であるのに、若いのと一緒だとこんなんじゃ全然足りないのである。おじさまも気を使ってか、すき焼きを注文してくださる。しかし、普通すっぽん鍋を食べた後に、すき焼きなんぞ食べるかね。と、思いながらも、自分にあてがわれた小皿(もちろん卵が割られている)につい肉を入れてしまう。新地の名店であるから、当然上等の牛肉を使っておりさすがにとろけるような旨さである。日本酒で一服していると、せっかくだからおでんも行こうという話になる。

th_IMG_1153th_IMG_1155th_IMG_1156

 おでん。いいですね。まずはロールキャベツ。はじめておでんにこういう洋モノを入れたのは誰なんだろうね。邪道だのなんだのいう人もいるけど、普通に美味しいのよね。餃子なんてのもあって、これもつるりと小気味良く喉を通っていく。そして半熟の卵。卵好きであるから、ついこれは積極的に注文してしまった。

th_トップ

 〆は名物のさえずりである。さえずりとは、クジラの舌を乾燥させたもので、関西でおでんといえばさえずりと同義語であるくらい、メジャーかつ高級タネとされている。ここのは、しっかり戻したさえずりにたっぷり出汁を含ませた一品で、口に入れると独特の弾力がありながら、出汁がじゅわ〜んと滲み出るのである。ああ、幸せ。

th_IMG_1158

 これでお開きねと思っていると、おじさまがシメに近くの蕎麦屋から出前を取るという。ええ〜、まだ食べるの〜(いやね、別に全然入るんだけど、こういう場では私はそんなに欲張らない)ま、ざるそばぐらいだったら、食べられるか。というわけで、ざるそばをずずっとすすって、お開きとなった。

 炭水化物が最後の蕎麦だけなので、さほど満腹感があるわけではない。だけど、すっぽん、すき焼き、おでん、そばという異種混合の仕立てに気持ちがすっかりおなかいっぱいになった夜だった。あかんね、こういうところに集団でくるのは。今度は、すっぽん&おでんを、ゆっくり落ち着いて味わいに来たいな。

2016-03-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

京都祗園「千ひろ」

th_IMG_1098th_IMG_1108

 3月の京都。南座の花形歌舞伎を観にやってきた。梅もほころび、桃もその可憐な色とかたちを見せてくれる時期である。桜にはまだ少し早いせいか、観光客もさほど気にならない。

 正月の浅草花形歌舞伎に続いて、若手が古典歌舞伎にチャレンジする。座長尾上松也を筆頭に、坂東巳之助、中村歌昇、中村種之助、中村隼人、尾上右近、中村米吉と若手花形がずらりと勢揃い。夜の部の目玉はなんといっても弁天娘女男白波。その弁天小僧を松也が演じる。

 この演目、当代随一の役者は何と言っても尾上菊五郎である。胸のすくような啖呵と鯔背な所作。だいぶ前に観た市川段四郎とのコンビが私の中では最上である。その菊五郎の当たり役を菊五郎劇団の一員である松也が演じるのである。大抜擢である。舞台は若さゆえの未熟さや拙さを吹き飛ばすほどの真摯さを感じるもので、やはり大先輩方をの演技を小さな頃から傍で観てきた人たちは若手とはいえ、その芸をしっかりと継承しているなと感じ入る出来栄えだった。惜しむらくは、声。喉をつぶしていたそうで、それだけが残念であった。巳之助の南郷力丸もなかなか良く、10年後、20年後のこのコンビをまた観たいと思った。

 すっかり良い気分で終演後は祗園のいつもの店へ。夜の部はスタートが三時半で、二幕だけだったので、終演後ゆったりと食事もできるというのがいい。(だいたい歌舞伎は長すぎる。終演後に食事というと、まともなものにはありつけない)

th_IMG_1119

 まずは、アスパラガスの黄身酢がけ。黄身酢、大好きである。黄身というだけあって、たっぷりと卵が入っている。アスパラのイキイキとしたグリーンに、黄身酢の鮮やかイエロー、付け合せのにんじんレッド。この美しい色を皿の藍と白が引き立てるという趣向である。菱型のうつわだからこそ、この色とバランスが映える。丸皿でも角皿でもこうはいかないだろう。すべては、計算の上に成り立っている。

th_IMG_1120th_IMG_1121th_IMG_1122

 続いては白バイ貝。この立派な姿を見てください。軽く塩を振られたその味は、もう小気味良いくらいにコリコリである。ぬる燗にしてもらった菊姫と最高の相性である。春は貝の季節やもんなあと心の中で目を細めながら、ゆったりと味わう。そして毎回楽しみなのがこの一品。いちばん上はかずのこの粕漬け、時計回りに鯛の肝のゼリー寄せ、ホタルイカをたたいたの、自家製カラスミ、鯛の白味噌漬を炙ったもの。まさしく酒の肴のアソートなんである。漆の大きなお盆に、こだわりの小皿と凝った肴。ほんとうの酒飲みなら、これだけで一升はいけるくらいの(笑)大盤振る舞いである。本日の造りは鯛、トロ、イカに雲丹をまぶした三種。トロの下には、山芋をすり下ろしたのが隠れてい、これをトロにからめながら、岩海苔を乗せて食べるのが楽しいのである。手前の塩昆布は細く刻んであり、鯛はこれでいただくのも乙なんである。

th_FullSizeRender

 お椀のふたをあけると、そこは金の梅林。これは鶯宿梅(おうしゅくばい)と言う。村上天皇の時代、清涼殿の梅が枯れたので紀貫之の娘の家の梅を移し植えたら、その梅の枝に「勅なれば いともかしこし うぐひすの 宿はと問はば いかが答へむ」という歌が結んであり、これに深く感じ入った村上天皇が梅の木を返したという故事にちなんでいる。なんとも風雅な話であるし、きっぱり拒否するのではなく、鶯の宿が変わってしまうことに託して相手に考えさせるという意味では、実にあっぱれな日本ならではの方法である。ゆかしい文の力。ペンは剣よりも強し。この見事な鶯宿梅の蒔絵を施したお椀の中には、蟹しんじょとよもぎ麩、わらび。お椀のなかに早春が満ちている。

th_IMG_1124th_IMG_1125th_IMG_1126th_IMG_1127

 そして。本日の度肝を抜かれた一品。このわたのお鮨。そう、全面このわた。ええ、雲丹を乗せたお鮨というのは時折ありますよ。それすらかなりの贅沢だというのに、このわただなんて、ああた、もう身悶えするほどぶっ飛んでおりまする。しかも、この量。ほんとうの酒飲みなら、これだけで一升はいけるくらいの(笑)大盤振る舞いである。今度は白甘鯛の酒焼きである。京でぐじと呼ばれる甘鯛のなかでも、最上がこの白甘鯛である。滅多に穫れないと聞くが、そこはさすが祇園の名店である。ちゃんとルートがあるのだろうなと頷きながら、淡白な中に濃厚な脂が乗った旬の味を噛み締める。馬鹿馬である。さっきから美味かつ珍味のオンパレードなので、ここいらでちょいと小休止。レッドグローブに湯葉のすり流しをかけたひと皿。レッドグローブとは皮ごと食べられるブドウ。爽やかな酸味と甘みを、湯葉の滋味がまろやかに包み込む。こういう和洋折衷のスタイルも、この店の特徴だ。ご主人の編集力は並大抵ではない。かき揚げは、山菜と小海老。レモンをきゅっと絞って、さくさくいただく。

th_IMG_1128th_IMG_1129

 そして、そして。最後にまたすごいのが出た。蟹の身をていねいにほぐし、かにみそをかけた一品。蟹は間人蟹である。解禁シーズンはとうに終わってはいるが、さすがにたいへん美味ではあった。〆に豆ごはんとお味噌汁をいただいて、早春のコースをたっぷり堪能した。

 花形歌舞伎と早春の懐石。片や真摯でみずみずしく、片や手だれで洗練されている。経験の差はあるにしても、真剣にやっているものだけが人を深く感動させるのだとしみじみ思いなした夜だった。

2016-02-24 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪天満宮「彩肴鮮々」

th_IMG_1069

 丹ちゃんが、食事に誘ってくれた。うれしいなあ。

 丹ちゃんは、元同僚で今はデザイン会社をやっている。
 丹ちゃんは、こいつはできると思った数少ないデザイナーである。
 丹ちゃんは、クライアントをはじめとする女性陣にかなり人気がある。
 丹ちゃんは、寡黙であるけれどその大きな目ですべてを語る。

 そんな丹ちゃんが、たまには飲みに行きましょうと誘ってくれたのである。場所も僕の行きつけの店でどうですかと言うではないか。10年ほど前、久しぶりに一緒に仕事をして、その夜東京で飲みに行った。そこで、私にすすめられるまま飲んだ日本酒に開眼したのである。以来、けっこうな日本酒党になっているらしい。

 さて、当日。丹ちゃんから電話がかかってきて、わかりにくいから、一号線渡ったところで待ってますという。その場所に向かっていると、赤信号の向こうに、通行人の邪魔にならぬよう控えめに丹ちゃんが佇んでいるのが見えた。いやん、なんだか、不倫の関係みたい。会社の近くで待ち合わせるなんてドキドキするわん・・・てなことを妄想しながら、丹ちゃんに店まで連れてってもらう。

 彩肴鮮々。あら、鯛やヒラメの舞い踊る感じ。いかにも美味しそうだわ。彩肴と書いてさいじと読む。彩りたっぷりの肴ってことかな。その後の鮮々というのがよいではないか。秀逸なネーミングである。丹ちゃん、ここシブいやん。

 そしてメニューを見た瞬間に改めて確信する。刺身だけでも凄いのだ。五島の九絵。富山のホタルイカ、徳島の黒鮑、知多のたいらぎ、坂越のセルガキ、尾鷲の鯖きずし・・・。どうです、このラインナップ。煮魚、焼き魚の部には、九絵はもちろんであるが、淡路のオコゼ、兵庫の黒メバル・・・。大好物だらけである。しかも、日本酒は黒龍がある。超・好みの店である。丹ちゃん、ここまじええやん。

th_IMG_1078th_IMG_1072th_IMG_1081

 まずは九絵を注文する。どうです、この端正かつ優美な姿。薄造りに、芽ネギをくるりんと巻いてポン酢で食べる。うん、たまらんな。フグ、九絵、アラの御三家の中でも、九絵はめったに食べられない(アラも去年の冬、博多で初めて食したが・・・)。そんなに海の中にうじゃうじゃいる魚でもなさそうだし、獲れても高級店や専門店にまず行くのだろうな。(10年ほど前、九絵専門店に連れてってもらったとき、その美味しさに感動したけれど、そうしょっちゅう出会える魚ではない)黒龍の吟醸垂れ口と合わせる。垂れ口とは、搾った酒がちょろちょろと垂れるその口のことである。たいらぎも追加で頼む。いい感じのコリコリ具合。貝柱はダンゼンたいらぎが好きである。正式には平貝(タイラガイ)というらしいが、関西ではたいらぎと呼ぶ。帆立よりずっと旨い。

th_IMG_1079th_IMG_1082

 黒龍の後は、上喜元の純米吟醸。まっこと、上機嫌になるわ。この旨そうなのは、焼きたけのこである。醤油をつけ焦がさず上手に焼いている。ほくほくかつ、シャキシャキだ。醤油の香ばしさといったらどうだろう。この間、丹ちゃんとは「美味しい」くらいしか会話を交わしていないのだが、そこは古いつきあい、多くを語らずともちゃんと意思は通じている。そのうえ、今日は僕がおごりますから、などとうれしいことを言ってくれるではないか。

th_IMG_1084th_IMG_1086th_IMG_1087th_IMG_1088

 よおし、じゃんじゃん注文しようっと。と、メニューを見ていると、フグ白子入りの茶碗蒸しを発見してしまう。白子は白子でもフグを使うというのが贅沢であるな。丹ちゃん、これ頼んでいいと聞けば、目でうんと言う。ついでに、オコゼの唐揚げと季節の魚とタラの芽の天ぷらもオーダーする。オコゼって、やっぱり唐揚げよね。骨まで全部バリバリと平らげる。日本酒は、純米大吟醸の三十六人衆。山形の華やかな酒である。天ぷらは、刺身でもいけそうなホタルイカを惜しげもなく使っており、店主の心意気に感動する。どの品も間違いのない美味しさで、文字通り彩魚鮮々であった。

 丹ちゃんは、わりとここで飲むことが多いのだそうだ。いい店である。大人になったな。

 この後、仕事仲間と別の店で合流したのだが、あいかわらず丹ちゃんはほとんどしゃべらなかった。後日クライアントの女性が、丹ちゃんとはひと言もしゃべっていないのに、すごくたくさん話したような不思議な気がしますと言ってきた。そう、そうなんだ。丹ちゃんって、そういう傍にいてくれるだけで心なごませてくれる稀有な人なんだ。丹ちゃん、今度は私のおごりでまた行こうね。

2016-02-12 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

キヨスク「タマゴロウ」

 ゆでたまごと国鉄。冷凍みかんと国鉄。なんと郷愁を誘う取り合わせであろう。大昔、鉄道のお供といえば、駅弁以外じゃあ、だいたいこのふたつと相場が決まっていた。ゆでたまごも冷凍みかんも別にそうたいして美味かった記憶はないのだが、車内で食べるという行為そのものが子供心にわくわくするほど背徳的であった。だいたい、昔の人は人前でそうそうものを食べるなんてことはしなかった。それが、長距離の車内でなら許されるのである。当時のこととて、お茶がないと喉がつまりそうになるくらい固茹でのたまごではあったが、外側にまぶしてある塩をつけながら食べた記憶は鮮明に残っている。

IMG_1066

 あるとき、JR大阪駅のキヨスクで、この塩たまごを発見した。何の変哲もない網に入ったたまご2個。塩はまぶされていない。なんだか妙に懐かしくなって、つい買ってみた。殻を割り、口に運ぶと、ほどよい塩気。しかもたまごは半熟。

 なに、これ?馬鹿馬ではないか。

 2個入りというのがまた痺れる。軽めのお昼、あるいは食欲旺盛な日のおやつ。ときには朝ご飯がわりに。食べれば食べるほどクセになるシンプルかつ深い味わい。

 たかがたまごと言うなかれ。身の回りの食材で、これほどシンプルにいのちのパワーを感じさせてくれる食べ物があるだろうか。鶏のいのちそのものの貴い滋味。それが海の恵みの塩と合わさると、どんなご馳走もかなわない深みをくれる。この味はいったいどうやってつくっているのだろう。だって、塩たまごでありながら、どこにも塩の形跡がないのである。不思議も不思議、摩訶不思議なたまごである。

 調べてみると。

 タマゴロウは、中日本株式会社という会社の看板商品であった。会社があるのは愛知県豊橋市。鶏卵加工の製造を核としながら、鶏卵の販売、たまご関係の施設の経営など、「たまごひと筋」の会社であるらしいのだ。ホームページによると、ここで使っているたまごは、特定提携養鶏場の恵まれた環境で育てられた健康な鶏からうまれたたまごを最新鋭の設備と徹底した衛生管理で供給しているとある。もちろん提携養鶏場はすべて名前も場所も明らかになっている。

 このホームページを見たとき、たまご好きとして中日本さんに頭が下がるような思いがした。小さなたまごであるが、これほどたまごに情熱を傾けている会社があるなんて。しかも、ホームページには「たまごのがっこう」というのがあり、豊橋には専門の施設がある。新鮮な朝採りたまごを使ったカスタードクリームでつくる王様のシュークリームは、見ているだけで涎が出そうに美味しそうだし、名物のふわもこロールケーキもいっぺん食べてみたいと思わせる幸せな佇まい。ぱぱ&ままガーデンという施設では、たまごのお惣菜や加工品を販売しているらしい。できたてのたまごサラダをパンの中に好きなだけつめ放題できる「たまごサラダつめ放題パン(¥300)」というのは、たまご好きには悪魔のように魅力的な商品であろう。

 タマゴロウ。たまごへの愛情たっぷりの会社がつくった塩たまご。絶品である。

2016-02-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪本町「時分時」

 出張で東京から岡島さん(第142夜参照)がやってくる。一泊するので食事をということになった。上方にはお江戸に負けない鮨や京都にも引けをとらない浪花懐石というのがある。いろいろ考えていたというのに、「粉モン」が食べたいというではないか。どうも、東京の人間は、大阪に来たら粉モンを食べなければいけないと思っているフシがある。いや、わかるよ。わかるんだけど、粉モンってお好み焼きとかたこ焼きのことでしょ。せっかくのお客様を粉モンでというのは、どうも心地が悪い。それに、東京の人間は、大阪の人間はしょっちゅう粉モンを食べていると思っているようでもある。うどん県ならわかる。毎日は大げさでも、週に2〜3回はうどんを食べる。だが、大阪に住んでいるという人が、普通そんなには粉モンは食べない。たしかに、関西生まれ育ちの友人たちの家には必ずお好み焼を焼くためのホットプレートとたこ焼き器があるというから、まあ月に何回かは家で楽しんではいるのだろう。だが、それは普段のシーンであって、けっしてとくべつなものではない。

 粉モンかあ・・・

 そして、はた、と思い出す。あそこがある。あそことは「時分時」である。だが、超人気店ゆえに予約は取りにくい。が、ちょっと遅目のスタートでなんとかカウンターが取れた。

 食いしん坊どうしである。うふふ。

th_IMG_1028th_IMG_1030

 まずは、ふわふわのエビパンにクリームソースを乗せた一品。バゲットを鉄板で焼くという発想が素晴らしい。そしておすすめの串焼きをアソートしてもらう。美味しいものを少しずつというのがよい。椎茸フォワグラバター。塩リードヴォー。サーモンイクラ・・・。この彩りといい、盛り付けのセンスといい、期待が高まるひと皿である。

th_IMG_1031th_IMG_1033th_IMG_1034

 明石の活けダコは、酒盗ソースをつけていただく。いやあ、さすがに東京にはこれ、ないでしょう。地の利ならではのご馳走である。穴子を軽く炙ったのは海苔をくるりんと巻いて食べる。真ん中のスティック状になったのは、明太子を干したのである。こういう素材と素材の合わせ技が凄いのよねえ。やはり普段からいろんな食材を食べて、知って、研究して、合わせてみて。ご主人の並々ならぬ探究心が伝わってくる一品である。淡路の玉ねぎは、中がとろとろになっている。このナチュラルな甘みといったら、もうほんま、あきまへん。私って野菜が好きだったのねと、錯覚する旨さ。

th_IMG_1035

 さて、これは何でしょう。

 あれです。トンペイ焼き。

th_IMG_1036

 とん平焼きとも、豚平焼きとも書くけれど、これは東京にはきっとないのだろう。案の定、岡島さんも食べたことないというので、注文する。しかし、これは、私が今まで知っているトンペイ焼きではないのである。まず、この高さ。上質のとんかつにするようなお肉を使っている。そのまわりを絶妙にくるんだふわふわの玉子。いや、今までトンペイ焼きって、さほど興味なかったのであるが、これを食べるといけない。こんなに美味しいものだったのかと唸るのである。豚さんの後は、牛さんである。淡路牛のカイノミステーキは塩と金山寺味噌をつけて食べるのだ。カリッと焼いたにんにくがまたこたえられない香ばしさ。

th_IMG_1039th_IMG_1040

 〆は二品。もやしそばはここの名物である。最後はどうしたって豚玉を食べないといけないので、こちらには海老を入れてもらう。あまりの旨さに、しまった少なめじゃなくちゃんと一人前作ってもらえばよかったと後悔・・。そして真打ちの豚玉である。ホットケーキのように角が立っている豚玉。神戸のバーでお好み焼き談義になると、決まって大阪の縁が切り立ったお好み焼きなんぞ食べられたもんではないと(第32夜参照)槍玉に挙げられる「あの縁の切り立ったホットケーキのような」お好み焼きである。これが絶品なんである。焼き方の技術だとは思うが、生地にキャベツがほどよくなじんでさくさく、ふわふわ。生粋の神戸の人には悪いけど、私はこういう大阪のお好み焼も大好きである。もちろん岡島さんも大阪流粉モン鉄板焼きをたいそう楽しんでくれたのは言うまでもない。

2016-01-29 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

伊勢丹にある「銀座 天一」

 伊勢丹が悪魔のデパートであることは先刻承知である。わかってはいるがここの品揃えやプレゼンテーションのしかたは大いに勉強になる。いつもリサーチを兼ねてという大義名分を持ちつつ行くのだが、ゴージャスな雰囲気にいつも舞い上がってしまう。そして、つい衝動買いしてしまったりするのであるが、やはりここはそういうファッションヴィクティムを出してなんぼのデパートであろう。とくに充実しているのは、シューズ売場で、早くからニューヨークのバーグドルフ・グッドマンやサックス・フィフス・アヴェニューにならい、ブランドを超えた靴売り場を展開している。あまり公言していないが、実は無類の靴好き、靴フェチである。真っ赤なシャルル・ジョルダンをただ所有しておくためだけに買ったこともあるし、ニューヨークで爆発し靴だけで十足以上買って帰ったこともある。気に入ったデザインの色違いを買うなどすっかりあたりまえの行為になっている。そうでなくとも、履きやすく美しい靴を発見したときは、履く前からこれを履きつぶしてしまったときにどれだけ困るだろうかとうと妙にあせってしまい、同じものを二足買うことだってあるくらいである。

 この日も靴売り場をうろうろした後、大好きな三階で春物を執拗に物色した。ここのリ・スタイルという売場の編集はエッジが効いてて面白いものがそろっているし、ちょうどアディダスとハイクとのコラボの世界先行販売などもやっていたので、つい試着したりしながら遊んでしまったのである。そのうえ、普段あまり行かない呉服売場まで上がったので相当くたびれてしまい、無性にお腹が空いてきた。ううむ、どうしよう。7階をうろうろしていたら、なんと喫煙スペースがあるのを発見した。立派なオープンエアになっていて、すこぶる爽快である。気持よく喫煙しながら、さて夕飯はどうしようと思案していたら、目の前に天ぷら屋があるではないか。

th_IMG_0897

 東京に頻繁に出張するようになった頃、江戸前の天ぷらは憧れであった。大昔神戸北野にお可川という天ぷらの店があり、当時のこととて滅多には行けなかったが、たいそう風情のある古いお屋敷で、天ぷらを揚げるカウンターからは神戸の夜景が見渡せた。デザートはわざわざ洋風の応接間に移動しいただく。天ぷらの旨さもさることながら、場を替えるというとくべつなシチュエーションにドキドキしたものである。ところが、あるとき店は忽然と消え、以来関西ではほとんど天ぷらを食べに行く機会がなくなってしまった。東京では、山の上ホテルの天ぷらや、天松、みかわ、名人の是山居、からさわなどにも行ったが、どうも鮨ほど気軽には行けない気分がある。が、ここはデパートの中。銀座の老舗らしいが、カウンターが空いていたので、すぐさま席につく。

th_IMG_0868th_IMG_0869th_FullSizeRenderth_IMG_0871th_FullSizeRender[1]th_IMG_0875

 さてと。日本酒の冷たいのをいただきながら、天ぷらを待つ。まずは海老である。天ぷらを食べるようになって知ったのだが、江戸前ではこの小さめの車海老のことを才巻海老と呼ぶ。昔から江戸前のものが最上とされ、10センチ以下くらいの大きさの方が身が柔らかく旨いとされてきたのだそうだ。大きけりゃあよいというものでもないところが、なんとなく江戸っ子らしい感覚である(と思う)。カラッと揚げられた海老は、中がほんのり透明で半生の状態である。揚げの技術だよなと感心しつつ、かぶりつく。お次はきす。これは天つゆをたっぷりつけて。ぷっくりと肥えたしいたけは、海老のすり身を内側に抱えている。半分は塩レモンで、残り半分は天つゆで。次なる一品は、蟹である。え?と驚くほど立派な毛蟹である。こちらも塩と天つゆ両方で楽しむ。

th_IMG_0878th_IMG_0880th_IMG_0881th_IMG_0882th_IMG_0883th_IMG_0884

 アスパラガスもさくさく。天ぷらを食べるたびに思うのだが、天ぷらにするとどうしてこんなに野菜をおいしく感じるのだろう。この長細く黒いのは、雲丹を海苔で巻いたもの。うふふ。茄子もさっくりみずみずしい。小さな魚は鮎である。鮎の天ぷら、たまらんなあ。酒が進む。季節は春であるので、こごみも揚げられる。爽やかな苦味。春の息吹。山菜など普段好んで食べないのに、天ぷらだといくらでも食べられそうな気分になってくる。スパっと半分に切られた帆立は、うっすらと中が生である。青唐でいったん気持ちも舌も落ち着かせて。

th_IMG_0885th_IMG_0886th_IMG_0887

 いよいよ穴子である。ああ、たまらん。鮨のときだって、どんなにおなかパンパンでも穴子だけは食べるのである。天ぷらでも当然である。これを食べないことには、天ぷらを食べたことにはならないのである。穴子の後は、めごち、イカ。海鮮ものオンパレードでフィナーレを迎える。多店舗展開しているこのクラスの老舗であれば、どこで食べてもネタのクオリティは安定しているだろう。後は揚げる技術であるが、天ぷらの場合は揚げたてをすぐ食べられるので何の問題もない。

th_IMG_0900

 最後の食事は、天丼か天茶を選ぶ。迷わず、天茶。昔の関西では天茶になじみが薄く、長い間一度お江戸で食べてみたいと思っていた恋焦がれている一品である。だから何が何でも天茶を食べる。笑。小柱のかき揚げをごはんの上に乗せ、お茶(店によっては出汁)をかけ、さらさらといただく。小柱も関西ではあまりなじみのないネタである。最近でこそ使う店も増えているが、これも当初は珍しかった。

 そして圧倒的に江戸前と関西の天ぷらが違うのは、油である。関西では、綿実油を使うのが一般的だが、江戸前はごま油を使う。これが大きな違いで、慣れない最初こそ重く感じたものだが、今ではカラッと揚がった中に感じる香ばしさが逆に心地よい。久々の江戸前天ぷら。たまには良いな。

2016-01-26 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

白金高輪「酒肆ガランス」

 白金「モレスク」のオーナー福島さんが、昨年いっぱいで店に立つのはやめるという。ええ〜、なんで〜と聞けば、「モレスク」はナンバー2の前田くんにまかせて、今年からは白金高輪に移転する別の店の助っ人に行くのだと言う。いつもの店で会えないのは寂しいが、まあここだって白金界隈。行こうと思えばいつでも行ける。

 そう思っていながら年が明けたが、なかなか行くチャンスがなかった。が、ある日ふと思いつき、訪ねることにした。店は移転したオー・ギャマン・ド・トキオ(第155夜)があった場所である。

th_IMG_0665

 ロケーションを知っているとはいえ、新しい店に行くのはやはりドキドキする。店の名前は、「酒肆ガランス」という。酒肆というのは「しゅし」と読む。文字通り酒を飲ませる店という意味だが、さかのぼればこれは中国に端を発するようである。かの地ではなんと紀元前には米の酒が流通しており、春秋戦国時代にはすでに居酒屋のようなものが出現しているのである。唐の時代には、庶民向けの居酒屋ができ、これを「酒肆(しゅし)」とか「酒楼(しゅろう)」、「酒家(しゅか)」などと呼んでいたのだそうだ。

 で、調べてみたら、李白の漢詩にも出てくる言葉であった。

金陵酒肆留別 李白

白門柳花滿店香

吳壓酒喚客嘗

金陵子弟來相送

欲行不行各盡觴

請君問取東流水

 金陵酒肆とある。李白といえば唐の時代の詩人。その時代すでに居酒屋というものが庶民にも親しまれていたことがわかる。そういう非常に古い呼び名である酒肆に、フランス語で茜色という意味を持つガランスという言葉をくっつけているところに、店主の並々ならぬネーミングセンスを感じてしまう。これは料理もおおいに期待できそうである。メニューを見ると意表を突く構成になっている。前菜・野菜・串・揚げ物・温菜・ステーキ・炭水化物・デザートという分類で、フムスやファラフェルがあるかと思えば釜石珍味セットがあり、ガスパチョの隣にはインド風サラダ、サルサピカンテと合鴨のつくねが並んでいる。和洋中だけでなく、中近東、インド、メキシコまで網羅した実に多彩なフュージョン料理である。

th_IMG_0669th_IMG_0670

 福島さんが「やっぱり蟻でしょ」というので、蟻(擬黒多刺蟻)とアマランサス入りグリッシーニを注文する。擬黒多刺蟻はクロアリと読む。立派な食用である。滋養強壮に効くらしい。おまけにアマランサスも昨今の雑穀ブームで注目されている。それにしても、こうまで蟻をまぶされると、やはり「ぎょえ〜」と戸惑うことは間違いない。目をつぶってグリッシーニをカリカリするのだが、なんだか口の中が蟻でジョリジョリするのである。別に大好物になるような味ではない。あくまでネタとしていただく(笑)。

th_IMG_0668th_IMG_0673

 フムスは、ひよこ豆ベースのニンニクの効いたペーストで、チャパティにつけていただく中東の定番料理。美味しい上に低カロリーで健康にもよいとあって、近頃いろんなところで目にするメニューである。昨今は豆ラバーという人種もいるようで、ひよこ豆の人気はかなり高いと聞く。私はそんなに豆ラバーではないのだが、これを食べるとわかるような気がする。ほっこりやさしくて、滋味がある。続いての前菜は、才巻海老の紹興酒漬け。ねっとりした悪魔のような味である。ここまでの三品ですでにイタリアとトルコと中国と三ヶ国を旅しているような気分にしてくれる。

th_IMG_0674th_IMG_0675th_IMG_0676

 じゃことキャベツのサラダはアボガドオイルドレッシングで食す。じゃこのカリカリとキャベツのパリパリ、その上に海苔がかかった一品。いったん日本に帰国した感じ・笑。 ケークサレで小休止。甘いパウンドケーキに見えるけど、ブロッコリーやきのこの入った塩味のケーキ。が、これはフランス生まれである。せっかく帰国したのに、またフランスに行ってしまう。そうこうしていると福島さんがキッチンに立ち、何やら手早く切ってジャーッと炒めている。で、出てきたのがトマトや胡瓜の炒め物。これがなかなか美味しいの。パリのカフェで小洒落た塩ケーキを食べていたかと思うと、今度は兄貴が手早くつくるプライベートキッチンにお邪魔している気にさせてくれる。

th_IMG_0677th_IMG_0678th_IMG_0679

 さて、メインはどうしよう。メニューの三番目にある串という分類が気になるので、このコーナーから串を一本ずつ頼んでみる。まずはエビのソテー ロメスコソースサルサ・ピカンテ。今度はスペイン気分。ぴりっと辛いソースがエビによく合いますな。次にやって来たのは、手前から合鴨のつくね、豚カシラのソテーサルサメヒカーナ、牛タンにキュウリの白バルサミコソース。ううむ、ここでも日本とメキシコとイタリアが同居した三国同盟である。〆は裏メニューのカレー。たっぷりのキャベツというのがフィニッシュにカレーを食べる罪悪感をヘルシーというキーワードで誤摩化してくれる。

 店は、キッチンをぐるりとカウンターが囲むレイアウト。調理しているのがしっかり見えるから、他のカウンターの人が注文した美味しそうなのを「アレ何?」と聞くこともできるし、 何より素材を切ったり、炒めたりする音がダイレクトに視床下部を刺激しすこぶる楽しい。そこに、客が乾杯する音やカトラリーが皿にあたる音、楽しげな会話や笑い声が加わり、店全体がさんざめき独特の空気を作っている。メニューも国籍やジャンルにこだわることなく、美味しくて面白そうなものをセレクトしているので、自分でいかようにもコーディネイトできる愉快さがある。ファッションや雑貨のセレクトショップはたくさんあるのに、食のセレクトショップってあまり見かけなかったがここにあった。スタンスとしては居酒屋であるから、お腹をすかせてたらふく食べるのも、軽くつまんで酒をメインにするのも、二軒目の〆に使うのも、自分の好きなスタイルで自由自在に楽しめそうだ。
 

2016-01-19 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

新幹線アイスクリーム

 一年のうち三十回くらいは新幹線で東京大阪間を往復している。700系のぞみがどんどん進化するので、今は新大阪から品川まで2時間15分で着いてしまう。たいていはひとりであるのでパソコンを開き、仕事をしていることが多い。そうでなければ、このブログを書いている。かつてイシス編集学校で師範代をしていた頃は、けっこう車内で指南したものだ。いずれにしても、ひとりにしてくれるこの空間と時間は得難く、かっこうのsohoのような場になっている。疲れると車窓の風景を眺め、のんびりする。

 ある日、上りの新幹線が京都を過ぎ、関ヶ原を超え、大垣にさしかかろうとするまさに直前に、心が洗われるような景色を発見した。杭瀬川である。はじめてこの川を見たとき、黒澤明の「夢」という映画に出てくる水車のある村のシーンを連想した。川に沿う土手の柔らかさ、流れる水の豊かさ、まわりの田園に美しい影を落とす木々の伸びやかさ。それは、まさしく夢に描く桃源郷のような田園の風景として鮮やかな残像を脳裏に結んだ。以来、関ヶ原あたりにさしかかるとそわそわするのである。今は河岸工事で南側の眺めはかなり変わってしまったけれど、それでも遠くに見える川辺の風情は今もしみじみと夢のようである。大阪を出るのが夕方になってしまうと、ああ今日は杭瀬川が見られないと落胆してしまう。それほど愛している風景なのだ。

 もちろん好きな場所はここだけではない。晴れた日の浜名湖の景色、とくに夕景は幻想的だし、何度見ても富士山の姿は神々しく、凛として気高い。東海道新幹線はけっこう曲がりくねっているので、下りに乗って左側(大阪に向かって左側のA席)の車窓に目を凝らしていると、一箇所だけ左の窓の後方から富士山が見えることがあるのだそうだ。俗にいう「左富士」。静岡駅を過ぎ安倍川の鉄橋を渡り、左に大きくカーブする瞬間。わずか数十秒のことだというが、私はまだ遭遇したことはない。時間、天候、それに運というものが三拍子そろった幸せな人だけが見ることのできる絶景だ。

 たった2時間15分の旅ではあるが、仕事は捗るわ、絶景は楽しめるわ、何度乗っても飽きることのないのが東海道新幹線の魅力であると思う。

 そのうえ。

 駅弁は積んである種類に限界があるのだが、新幹線スイーツというのが侮れないのである。クッキーも美味しいのであるが、今回ご紹介したいのはアイスクリームである。もともと、私の中では新幹線スイーツといえばアイスクリームと相場が決まっていて、これは大昔学生だった頃に端を発する。その当時、若い小娘だった私(笑)は、新幹線で隣に座ったおじさまによく声をかけられたものだった。もちろんどこへ行くの、どこまで帰るの、大学生か、などと会話するだけであるのだが、そのおじさまの80%くらいがアイスクリームを買ってくださるのである。ずーっと、新幹線=おじさん=アイスクリームという三角の構図が頭の中には出来上がっていた。この習慣がヌケないので、今でも駅弁のあとにちょっと甘いものでも、というときにはたいていはアイスクリームをいただくのである。条件反射のようなものである。通常売っているのはスジャータのプレミアム系アイスクリームであるのだが、ときたま凄いのが隠れている。

 だだちゃ豆アイスクリーム。これは、そんな一品である。

th_IMG_0990th_IMG_0991

 最初、え、東北新幹線に間違って乗ってしまったか、と思ったけれど、ホームも車体もまるっきり違うのでそんなことはない(笑)。これは期間限定なのである。鶴岡のだだちゃ豆アイスクリーム。いかにも美味しそうである。そしてそんなに食べ慣れていない、が、だだちゃ豆が美味しいということはそれなりに知っている。わくわくしながら、ひと匙。これはもう隅から隅までず、ずいとだだちゃ豆でできている。う、旨い。やさしく上品な甘さの中に、ほっこりなごむ豆の味。前世が豆だったことをしっかり残した豆々しい食感。舌の上ですーっと溶けながらも、小気味良く後を引く豆の繊維質。癖になりそうな、実に美味なる冷菓であった。なめるというより、さくさくと食べる感覚。

 「だだちゃ」とは枝豆のことである。鶴岡ではお父さんという意味をこめ、だだちゃと呼ぶのだそうだ。(そうだったのか!)そして旬はごくごくわずかであるらしいのだ。たしかに、これ以降一度も東海道新幹線では遭遇できてない。が、去年12月の押し迫りつつある頃には、みかんのアイスクリームというのにも出会った。これも、オレンジシャーベットなどの代物ではなく、みかん、いや蜜柑の果汁がたっぷり入った実に濃厚な静岡&神奈川のアイスクリームであった。あ、もっと思い出した。4月には苺のアイスクリームもあったのである。

th_IMG_1474th_IMG_3206

 新幹線で楽しむご当地シリーズのアイスクリーム。普段は、バニラと抹茶しかないのだが、もっともっとバリエーションをそろえてほしい。

2016-01-06 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪西天満「老松 喜多川」

 クライアント様と大まかに言えば同業他社様との懇親会というか交流会である。K様主催の大宴会、いや、食事会である。メンバーは4名。

 夜の街でメジャーな大阪北新地から御堂筋を挟んで東側に老松町というエリアがある。古くは天満宮の参道として栄え、今は東洋陶磁美術館が近いせいか古美術店や画廊、ギャラリーが集まったエリアとして異彩を放っている。近くに裁判所があるので弁護士事務所や司法書士事務所も多く、筋向こうの北新地とはずいぶん趣が違っている。会社から自転車でふらりと行くにはちょうどよい距離なので、昔は東洋陶磁美術館に行った後、骨董屋を冷やかしたりしたものだが、ここ十年くらいは足が遠のいてしまっている。

 もともと老松神社というのがあったらしく、ご祭神は住吉大神と神功皇后であられる。現在は天満宮の境内に遷座されているが、かの神功皇后が九州より帰航の折り、巨松に風波の難を避けられ無事上陸されたことを寿ぎ、松の下に社を建てられたのがご由緒である。老松は住吉大御神が影向する松とも伝えられてい、なんとも壮大かつロマンに満ちた名前なのである。が、ここも例にもれず、旧地名を剥奪され、現在の地図上ではただの西天満になっている。

th_IMG_0569th_IMG_0570

 めざす店はその老松町の裁判所のすぐ近くにある。店名は「老松喜多川」。それだけでも老松という名前を大事にしていることがよくわかるし、入り口も神経が行き届いた佇まいである。

 個室もあるようだが本日はカウンター。カウンターの奥や壁面にはさりげなく焼物や陶板が飾られてい、うつわが好きなんだなということもすぐわかる。どんなに腕がよくても、うつわに興味がない料理人を私はあまり信用しないので、これはもういやがおうでも期待は高まっていく。

th_IMG_0572th_IMG_0571th_FullSizeRenderth_IMG_0574th_IMG_0575

 普段あまり日本酒を飲まないというK様が日本酒をおつきあいしてくれるというので、まずは特別純米の東北泉。どんな料理の邪魔もしないという柔らかな味わい。すうっと喉を流れていく。先付けはイイダコと赤貝、小柱のジュレがけ。このうつわが渋い。続いては白魚の天ぷら。海苔で巻き、カラリと揚げられている。早々に出されたお椀も妙なる美味。貝柱のしんじょと菜の花。すでに東北泉は空いて、お次ぎは貴。山口宇部の酒。杜氏名が大きく書かれている。永山貴博の「貴」の字をとったのだな。なるほど。旨酒である。

th_IMG_0578th_IMG_0579th_IMG_0580th_IMG_0581

大胆な染付には平目。塩でも醤油でもどちらもいけるので交互にいただく。この向付と小皿の取り合わせ、私の好きなセンスである。こういうのにはめっぽう弱いのだ。お造りは第二弾もあって金目鯛をあぶったものに雲丹を乗せている。こちらも菱型のほのかに枇杷の色をした菱型のうつわに入ってくる。これも好き。なもんでまた日本酒が空いて、お次ぎは王禄。超と右上にあるように、格別の純米酒である。東出雲ですねて無濾過の生酒。限定生産しているのでなかなか出まわらないというのだが、本当に日本酒は奥が深いと思う。そして、どんな造り手のどんな酒を選ぶかは、和食の店にとってはうつわ選びと同じくらい大事なことだと思う。

th_IMG_0583th_FullSizeRender[1]th_IMG_0585th_IMG_0586th_IMG_0587

 お造りはなんと第三弾まであった。この乾山写しの器に盛られているのはかつお。また日本酒が空いて、今度は伏見の澤屋まつもと。これはこだわりの鮨屋や和食でちょくちょく見受ける酒だが、なかなか旨いのである。そしてこれも乾山写しの丸皿に蟹の身をほぐした一品。会話と料理が上々なので、酒の進むこと。またたくまに空いて、お次ぎは小鳥のさえずり。純米吟醸。これも、落ち着きとふくらみを感じる酒である。九谷の色あざやかな色絵には、かますの焼き物。これに田酒(でんしゅ)というのを合わせる。特別純米、山廃仕込。上品な芳香は酒本来の魅力に満ちている。もうこのへんから、何がなんだかわからなくなってきているのだが、なにしろ、日本酒6種類。たぶん、四合くらいは飲んでいる。呂律も怪しくなっている。が、料理はまだまだ続く。

th_IMG_0588th_IMG_0590th_IMG_0596

 山菜の入ったあたたかな煮物椀。さすがにもう日本酒ははいらない。そうこうしているとごはんが炊きあがったという。見せてもらうと土鍋いっぱいに鯛がぎっしり。これは、どんなに満腹であっても別腹であろう。〆に少しだけいただく。デザートもシブい織部に入ってやってきた。抹茶のアイスクリームと苺。ご馳走様でした。

th_IMG_0597th_IMG_0598

 基本に忠実な全体構成の中で、奇をてらわずあくまでも正統派の料理をしっかりと作っている。見た目も味も井井として端正。料理とうつわのマッチングも私好みである。とてもよい店だと思う。たぶん連日、老松町界隈の法曹界の面々で埋まっているのだろうな。来るときは早めに予約しなくては。

2015-12-18 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

南森町「すし芳」

 私の下で一生懸命コピーを頑張ってくれている歩ちゃんが結婚した。とくに式や披露宴の予定はないと言う。ま、若いふたり同士、いろいろこれからの計画もあるだろうし、ウェディングドレスを着るのが憧れだったというような子でもない。すでに一緒に棲んでいたというから、日々の生活の延長上のごく自然な流れで入籍し、浮き足立たずに普段と変わらず生活している。せめて美味しいごはんでもと思い、「鮨とフレンチと和食と、あと何でも好きなところでいいけど、何がいい?」と聞けば、迷わず「鮨!」と返って来た。よろしい。鮨ね。いい趣味だ(笑)。

 そうなると、会社の近所ではあるがここだ。南森町のアバンギャルド極上鮨(第30夜)。産休から復帰し頑張ってくれている同世代の美和ちゃんも誘って、三人で出かけることにした。

th_IMG_0378th_トップ1th_IMG_0382th_IMG_0383

 祝杯はもちろん日本酒である。呉の土井鉄という純吟しずく。土井鉄也という杜氏の名を取っており、蔵に湧き出る「宝剣名水」を洗米から仕込みまで使い、袋に詰めたもろみのしづくを瓶に集めた名酒である。これで乾杯をし、しばし歓談していると、目の前に雲丹の箱が並べられる。北海道のムラサキ雲丹。海の滋養をたたえた丸々とした姿、惚れ惚れする。これは、雲丹から始まるよという合図である。いきなりかよ。よろしい、受けて立つよ。まずはシンプルに漆の匙に盛った雲丹。これを大きな口をあけ、すうっと流し込む。yumyum,yummy。ふふ、馬鹿馬である。で、今度は徳島の赤雲丹を海苔巻きにしてくれる。あるようでなかなかない雲丹の海苔巻き。これを初っ端に出してくる大将は、あいかわらずの傾きぶり。

th_IMG_0384th_IMG_0385th_IMG_0386th_IMG_0387th_IMG_0388th_IMG_0390

 と、今度は菜の花が出され、またしても、え、え、と驚く。お口の中を春の息吹でさっぱりさせたら、平目のお造りである。大分で穫れた4キロ級。もう縁側のトコなんてコリコリ、ゴリゴリである。とっくに空いた土井鉄の次は、純吟の日高見。芳醇辛口と銘打っているように、これは鮨のために仕込まれたのでは?と思うくらいよく合う酒である。そして何気なく出されたこの物体は、紛うことなき大好物のアレであるが、4キロ級の平目にもこんな旨い部位があるのである。鮟鱇よりもあっさりしていて、これはこれで日高見が進む。続いて、炙り、握りと平目カルテットが続く。ひとつの魚を手を替え品を替え。ほんま、この編集スタイル、たまりませんな。

th_IMG_0392

 と、今度は、色鮮やかな四角いひと品。これは甘エビを冷凍してカルパッチョ風にしたものである。少しずつ溶けていくのを味わうのである。その向こうにあるのはケジャン風のたれと和えたもの。いちばん奥のは海老を粽風に巻いている。洋・韓・和スタイルの海老三変化。楽しいなあ。

th_IMG_0393th_IMG_0395th_IMG_0394

 と、シンプルな白磁に入ってまたまた大好物のアレがやって来る。白子である。別名雲子。いいネーミングである。ふわふわまったりの雲を味わうのには、東北泉純米しぼりたて。ふっふ、生には生。そして雲子を軍艦仕立てにしたお鮨。馬・鹿・馬。

th_IMG_0389

 こちらの酒器はすべてバカラである。そのほとんどがアンティーク。酒が変わるたびに、グラスも変わり、舌だけでなく目も楽しませてくれるのである。グラスのためにパリの蚤の市とかに出かけるという大将、そのこだわりはもはや変態の域に達している。そういう気質を持ってるからこその変態鮨。毎回、どんな編集がなされているのか、まったく目が離せないのである。

th_IMG_0396th_IMG_0397th_IMG_0400

 その変態ぶり、極まれり、というのが次に出た。牡蠣であるが、これに合わせる日本酒は純吟の天遊琳。なんとラベルには牡蠣限定・酸度三と書かれているではないか。牡蠣のためだけに造られた日本酒。キレのある味わいは、牡蠣にベストマッチ。蔵元は三重県四日市。ううむ、あの的矢牡蠣の産地に近いぞ。これも変態がつくったに違いない。変態の道は、変態、ということを実感する。そして、生をつるりといただいたら、今度は手を出してと言われ、こっくりした煮きりを塗ったお鮨が掌に乗せられる。旨いなあ。そして箸休め(お箸使ってないけど・・・)は福岡の蕾菜。コロンとした可愛らしいかたちでコリコリした食感がある。

th_IMG_0401th_IMG_0402th_IMG_0404th_IMG_0405th_IMG_0407th_IMG_0408th_IMG_0409th_IMG_0410th_IMG_0411th_IMG_0412th_IMG_0415th_IMG_0416th_IMG_0417th_IMG_0418

 続いてはマグロである。高知の甲浦で穫れたヤツ。なんと美しい赤身であろう。日本酒は開運。純米の祝い酒。まこと、本日にふさわしい銘柄である。合間にシラスなどをいただきながら、今度は握りを。大将の酢飯は、マグロとの相性が抜群である。祝いの席であるから、赤の後は白である。アオリイカに大和芋をおろしたのがかかってる。そして海苔巻き。そろそろオーラスに向かい始めている。と、今度は軽く炙った鯖。これは千葉で穫れたのだそうだ。鮨ネタいろいろ好きなものはあるが、新鮮な鯖ほど旨いものはないと改めて思うほどの状態。脂には山葵がまた合うのである。日本酒は武勇酒蔵の純吟しぼりたて。こっくりした柔らかみのある旨酒である。軽く〆た握りも悶絶しそうになるほど旨い。ふうう。のれそれの酢みそ和えで一服したら、焼穴子の出番である。生がずーっと続いたから、ラストは香ばしい穴子。この順番はやはりよく考えられていると思う。しかしラストとはいえ、軽く海苔で巻いたのも出してくれる。スペシャル玉子焼きでフィニッシュかと思うでしょ。

th_IMG_0419th_IMG_0420th_IMG_0421

 まだまだあるの。小柱の酢みそ和え。また、生に戻ってしまった・・が、その後はたいらぎを炙って海苔でくるりと巻いたもの。このへんでそろそろかと思っていると、なんとまたマグロであるが、これは那智勝浦産。この脂まみれのところを大胆ふんだんに使って巻いてもらうトロ鉄火。歩ちゃんのお祝いと言いながら、実は自分がいちばん楽しみ堪能したかも。でも、自分が大好きなお店で、お祝いをしてあげられたというのがとってもめでたい。

th_IMG_0423th_IMG_0424

 本日はこんなデザートまであった。ももいちごという大きくて立派ないちご。徳島の佐那河内というところで生産されている幻のいちごで、大阪にしか入ってこないのだそうだ。中は白くて、酸味が少なく、びっくりするくらい甘い。もう一個食べていい?と思わず二個いただいてしまった。

 あいかわらずのカブキぶりで、変態道まっしぐらの大将。
 いつまでも、我が道を行ってほしい。

 

2015-12-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

オークションディナー@京都

 祇園の若旦那情報である。どうやら京都でもNOMAの宴なるものがあるらしいという情報。平日の夜だったので面白そうやんと参加することにした。

 正式にはKYOTOGRAPHIEという写真を中心としたアートイベントの一環としてのオークションディナーである。メインは国際写真祭で、ディナーの後にあるオークションが目玉なのである。このディナーにNOMAを率いるシェフのレネ・レゼピが参加し、しかもオークションにはNOMAのディナーを予約する権利も出るという。

th_IMG_0082th_IMG_0095

 会場はハイアットリージェンシー京都である。会社帰りに超高速で駆けつけ、なんとかスタートには間に合った。ディナーの前にレネ・レゼピによるNOMAのプレゼンテーションが始まった。最初にNOMAの日本上陸に際して、彼らがどれほど周到な準備をし日本の地方でいかに食材を探したかの旅の映像記録が流れる。たしかに日本人である私も知らないようなスパイスやキーウィの原種などが出たものなあ(第189夜)。そして驚くことに、レネ率いるスタッフたちは本当に日本の各地に足を運び、素材を吟味しているのである。これは貴重な映像であり、ちょっとしたドキュメントストーリーで、NOMAファンにはたまらないものであろう。ご本人も登壇し、いかに日本の食材にインスパイアされたかを語ってくれる。

th_IMG_0101th_IMG_0102th_IMG_0103th_IMG_0104th_IMG_0105th_IMG_0109

 そしていよいよディナーが始まったが、このディナーにはNOMAは一切関与していない。これはハイアットリージェンシーの総料理長によるもので、これはこれでまあそんなに悪くはなかったけれど、NOMAでもNOMAとのコラボレーションでもなく、やっぱりな。そりゃあ、東京のマンダリン以外でも食べられるのなら、意味ないよな。など落胆をひとり心の中で慰めながら、いただいたのである。ま、ホテルのフレンチである。それなりに美味しかったとだけ言っておこう。

th_IMG_0110

 食後はいよいよオークションである。新進気鋭の海外フォトグラファーの作品が次々にオークションにかけられる。ハッセルブラッド社のカメラがついてくるなどマニアならたまらないようなおまけまでついている。さすがにオークションの場というのは、もの凄い高揚感があり、興奮のあまり思わずひと声上げそうになるのだが、そこはぐぐっと我慢。そうこうしているうちに、NOMAのオークションが始まった。コペンハーゲンのNOMAディナー予約権利(料理含む)、2名分が2組と4名分が1組。キッチンツアー、NOMAスタッフと一緒にフィールド・トリップ、サイン入りクッキングブックという魅力的なおまけもついている。もちろん、コペンハーゲンまでの旅費と、現地での滞在宿泊費は別途である。

 世界でいちばん予約が取れないレストランの予約権利。ううむ、いったいいかほどぐらいまで値がつり上がるのだろう。話のタネとして10万円ぐらいまでなら、競り落とせるかな。と思っていたが、瞬く間に10万超えして、私も「10万!」「15万!」までは声をかけたが、その後はあっさりとあきらめた。2名分2組はそれなりに熱い競り合いとなったが、最後の4名分は2組目の2名分と同じ価格で落札され、4名分を落とした人はずいぶんよい買い物をされたと思う。

 祇園の若旦那は、伝説のDJが関西圏ならどこでも出張DJしてくれるという権利を競り落とし、すこぶるご満悦であった。オークションメインのディナー。ま、こういう一夜も、たまになら悪くない。

2015-11-30 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪「トラットリア・パッパ」

th_IMG_0361

 漢三人で(トーゼン、私も入ってる)なんだかもやもやしている気分にお疲れ様を言うべく、ちょいと食事でもということになったが、居酒屋だと腰を据えてしまいクダ巻いたり、暴れてしまうかもしれぬ。それはちと具合が悪い。で、いろいろ探していて、はた、と思いついた。イタリアンなので女子率は高いが、ここならおっさんが少々騒いでも、あんまり目立たなさそうだし、そういうグループにも優しく接してくれそうな懐の深さを感じる。よし、ここにしよう。

 予約が取れたので、翌日さっそくやって来た。ここは魚介類オンリーパワフルイタリアンと謳っているのである。魚介類好きのオーナーシェフが毎朝、中央卸売市場で仕入れてきた新鮮な魚をいかようにも料理してくれる、魚好きにはたまらない店なのである。メニューも、決まったものはあるものの、その日の魚介類をどう食べるかいろいろ相談しながら、食べたいものを作ってもらうというのがベストである。こういう店が私は大好きであるし、何より、何でも来いという心構えが男らしい。

th_IMG_0362th_IMG_0364

 まずはイタリアのスパークリングワインを。フランチャコルタのサテン。エレガントな泡立ちに白い花の香りがするシャルドネ100%。おっさんには少々もったいないけれど、私も飲むのでまあいいか。ひと皿めは、本日のおすすめである金目鯛と清水鯖のカルパッチョである。豪勢かつ大胆な切り身は、ほとんどお造りの感覚だ。金目鯛なんて、昔は静岡まで足を運ばないと食べられなかったと記憶しているが、ここ何年かのあいだに鮨屋でも普通に出るし、とうとうイタリアンでも使うようになったのかと感慨深い。そして、日本の流通システムの迅速さとスムーズさを思う。今や、どこの産地の鮮魚だってお金さえあればすぐさま手に入るのだ。イタリアンを食べに来て、日本という国の素晴らしさに気づく。システムがきちんと機能しているだけでなく行き届いているというのは、なんとありがたいことだろう。

th_IMG_0367th_IMG_0368th_IMG_0369th_IMG_0370

 前菜二品目は生ハムとモッツレラとトマトのサラダ仕立て。生ハムだって、今やあたりまえのようにどんな種類のものでも手に入るし、作ることもできるのだとまたしても感慨にふける。大昔、生ハムを国内で製造することはご法度であった。輸入されるものもほとんど種類がなく、当然とても高価であった。メロンと生ハムの一皿など、そうおいそれといただけるものではなかったのである。それが今では、バルでも気軽にいただけるようになったし、国内でも志の高い職人たちが、驚くべき味の生ハムを作るようになっている。そんなことをしみじみ思いながらいただく生ハム。普通に美味しい。そういえば大昔、フィレンツェの市場で生ハムや生サラミの塊をしこたま買い込んで、スーツケースの中に隠して帰ってきたことがある。税関で見つかれば没収される。それでも持って帰りたい。最悪のケースを想像して、もし見つかったら「じゃあ、ここで全部食べます」とその場でむしゃむしゃとハムを食べる様子までありありとイメージしていたが、すっと通してくれ拍子抜けしたことがある。その夜は家の近所の天皇バーに塊ごと持ち込んで生ハム祭りを楽しんだ。古き好き思い出である。そうこうしている間にワインは二本目。フランツ・ハースのマンナという白ワイン。しっかりと熟成したバランスのよい味わいである。で、この食べかけ(失礼)の白いのは白子のグラタン仕立てである。たいへんよろしいお味である。ま、白子さえ入っていれば、私は満足。笑。

th_IMG_0372th_IMG_0375

 パスタはカニがたっぷりのスパゲティ。これをするするっと啜った後は、メインのアクアパッツアである。本日の魚はスズキ。そこにムール貝、あさりを加え、たっぷりのトマトと共に煮込んだ南イタリアの郷土料理。ま、イタリアン潮汁であるな。スズキの身はほろりと取れ、ほっくりした白身をガーリックのよく効いたスープに浸していただく。海の恵みをあますことなく味わうひと皿。大満足かつ大満腹である。魚一匹まるごと堪能することについて、私の中で揺るぎないナンバーワンは何と言ってもキンキの煮付けである。続いて、ノドグロの焼き物、鯛の塩焼き、カレイの煮付けあたりの順番になるのだが、和風以外で挙げるとしたらこのアクアパッツアと中華の蒸し物は入れてもいいと思っている。それにキンキの煮付けは、どんなに大きくてもひとりで食べたいが、このアクアパッツアは二、三人でわいわい言いながら、取り合いしながら食べるのが、ダンゼン楽しい。そして、そうやって夢中になって食べている間に、なんだかもやもや気分はすっかり吹き飛んでおり、「もやもや」からいきなり「どやどや」といういつもの気分に戻してくれたのである。パワフルイタリアンに感謝、である。

2015-11-25 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

讃岐うどん「はゆか」

th_IMG_0249

 うどん県の生まれと育ちであるが、15歳から県外の学校に出たまま故郷では生活していない。もちろん実家に帰ればうどんを食べに行くが、365日あたりまえのようにうどんが日常にある生活ではない。そこへ行くと妹はほぼネイティブであるので、あいもかわらず毎日のようにうどんを食べている。実に羨ましい環境にいるのである。

 ある日、その妹から電話がかかってきた。以下「」内は高松弁。

 「おねえちゃん、ものすご美味しいうどん屋発見したん。今度帰って来たとき行こ」
 「え、それどこにあるん?なんちゅうとこ?」
 「はゆかいうん。 今わたしの中ではナンバーワンや」

 はゆか。そうこの地名でぴんと来た人はかなりのうどん通であろう。はゆかは羽床と書く。かの名店「山越」はこの羽床と呼ばれる地にあるのである。

 「え、はゆか?」
 「綾歌のほう、山越の近くや。車でないと行けんとこ」
 「え、山越より美味しいん?」
 「おねえちゃん。言うとくけど、話にならん」
 「なんとな!話にならんとな!」

 名店「山越」が話にならんくらい旨いというそのうどん。もちろん、羽床にあるのである。香川のうどんの中でも、旨いうどんは綾歌郡あたりに集中している。地図でいうと高松市と琴平町を一直線に結んだちょうど真ん中へん。このへんはうどんの聖地なのである。

th_IMG_0247th_IMG_0252

 帰省したついでにさっそく連れて行ってもらう。母と妹も一緒である。刻限は昼少し前。幸い、そんなに長い行列はできていない。列の最後尾がちょうどうどんを打っている作業場の前。手前のガラスには食べログのベストランチに選ばれたというポスターが貼られており、古いのは2000年。私が知らないだけで綾歌郡ではすでにポピュラーな店であるらしい。期待は高まる。

th_IMG_0253th_IMG_0256

 さて、何にしよう。妹が肉うどんが旨いというので、肉うどんとちくわ天を2本。さて、どんなんだろう。わくわくしながら、最初の一口。ずずーーーーっ。う、旨いっ。なめらかなのに、強いコシ。噛み切るとぷにぷにの食感。再び、ずずーーーーっ。う、旨いっ。妹を見やり「なに?これ?」と目で合図すると妹もにんまり。ずずーーーーっ。う、旨いっ。うどん歴は妹よりずっと長い母も「これは、たいしたものや」と頷く。ずずーーーーっ。う、旨いっ。いりこがぷんと香る澄んだ出汁に煮込んだ牛肉の甘さが溶け合い、当然のように最後の一滴まで飲み干してしまう。

th_IMG_0257

 これは、たまりませんな。どうしてももう一杯食べないと気がすまない。が、すでに正午。行列は店の外まで続いているのだが、おかわりは大丈夫だろう。「あのう、すみません。もういただいたんですけど、おかわりはここで言えばいいですか?」とレジで尋ねる。「あ、いいですよ」と快く注文を聞いてくれる若い男の子。よし、ではカレーうどんにしよう。「カレーうどん、玉子落としてください」それを見ていた妹もおかわりを注文しに来る。母はさすがに無理であったが、タマネギの天ぷらがずいぶんお気に召したようで、それをおかわりする。

th_IMG_0258

 よく躾けられた大型犬のようにテーブルに座って(心の中で舌を出しハッハッハッと)「待て」をしていると、カレーうどんができたとの声。待ってました、カレーうどん。じゃがいもゴロゴロ、にんじんざくざく。この見るからに素朴な風情こそが、うどんの聖地で食べるカレーうどんにふさわしい。再びいただきます。ずずーーーーっ。う、旨いっ。ううむ、カレーも馬鹿馬である。お出汁が、またしこしこの麺によくからむの。それにしてもこのコシをなんと表現しよう。嚼むとうどんに歯型がつくような感覚の弾力でありながら、けっして固くなく、すっと喉を通り過ぎて行く。うどんそのものに力強いパワーがありながら、出汁との親和性がきわめてよいのである。

 天ぷらさえ食べていなければ、このあともう一杯ぶっかけくらいは行けたかもしれない。が、母がさらにテイクアウトしたタマネギの天ぷらも、カリカリなのに中はむっちりしており、病みつきになる旨さであった。うどんの名店は、旨い天ぷらも揚げる。これは真理である。

 ああ、それにしても、綾歌郡。今の私にはそんなに気軽に来られないということだけが、悲しい。

2015-11-13 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

新地割烹「竹膳」

 みーさんは、クライアントでありながら我々の兄貴分のような存在である。今は仕事を通じてではなく、思い出したようにときどき一緒にごはんを食べて、情報交換をする間柄である。今回は、僕がちょくちょくひとりで行く肩肘張らないところに連れて行くからということで仕事の相棒とともにやって来た。

th_IMG_0046

 新地の堂島よりのビルの奥まったところ。店はカウンターにテーブル席、そして奥に小上がりがある。そこに陣取って、まずは日本酒を注文する。おすすめは、小左衛門の特別純米美山錦、しぼりたての生。長野県産の美山錦を使い、岐阜で仕込んだ旨酒である。しぼりたては季節限定。杏やりんごのようなほのかな香りがするそうだが、たしかにやさしい酒である。くいくい行けてしまう。私もたいがい酒のペースは早い方だけど、みーさんと来たらもうぐいぐい、ぐびぐびという感じ。

 こういう店はコースではなく、その日のメニューを見て、食べたいものを手当たり次第ジャンジャン注文する。日頃は吟味されたひと皿ひと皿いただくおまかせスタイルが多いので、こういう店でたくさんのお皿をテーブルに並べ、あれもこれもといただくのは楽しいし、相棒と好きなものを奪い合いするのも愉快である。

th_IMG_0041th_IMG_0043th_IMG_0045th_IMG_0047th_IMG_0049th_IMG_0051th_IMG_0044th_IMG_0052th_IMG_0053

 しかし、男性というのはポテトサラダが好きだな。私が知る限り、それがメニューにあれば、ほとんどの人が注文している。あれは一体なんであろう。上は団塊世代から、下は20代まで、みんな大好きである。あれもおふくろの味なのか。そして今夜もみーさんは当然のように、ポテトサラダを注文する。そこへ魚好きの私が、お造りの盛り合わせを頼む。こういうときの暗黙のルールは、それぞれが食べたいものを2〜3品注文するというスタイル。なので、お造りに続いてはふぐの唐揚げと白子焼きも頼む。するとみーさんは、ぬたと蓮根のはさみ揚げ、牡蠣フライと続く。「魚ばっかりやないか」と相棒が文句を言いながら、出汁巻きに、サラダ、ローストビーフを追加する。結果的に、魚も肉もバランスよくテーブルに並ぶことになるのである。

 どの皿も板前さんがしっかり作った料理なので美味しいのであるが、小上がりで畳の上に座り、日本酒を飲んでいるうちに、どんどん座はくだけていく。もちろん最初は仕事の話を真剣にしているのであるが、ぐいぐいぐびぐび酒が進むにつれ、話はどんどん与太っていき、しまいにぬたをつつきながら、ぬたはなんでぬたというのか、などという馬鹿バナシへと展開していく。ぬたの話は以前にも酒席で話題になったことがあるのだが、まず語感がなんともいえずこの料理の印象をうまくいい当てている。しかも、見るからにぬたっとした風情。ぬたぬたしたその雰囲気からそう名づけられたとか、味噌のどろっとしたビジュアルがいかにも沼を連想させるからとか、そいうえばぬたくるという動詞(ないけど・・)にはのたうちまわる感じもあるなあとか、酔っぱらっているので好き勝手いうのが楽しいし、こういう与太話から思いがけないアイデアというのも生まれたりする(いや、実際仕事のアイデアはこのところほとんど雑談から生まれている)ので、私はこういう時間をこよなく愛している。

 さて、ぬたである。語源由来辞典で調べてみると、ぬたはやはり、味噌のどろりとした見た目が沼田を連想させるからこの名がついたとあり、ああやっぱりなあと再び盛り上がる。そういえば、以前浅草の天丼で有名な店でぬたを注文したことがあって、真っ黒い一品がやって来たので、「これ何ですか?ぬたを注文したはずだけど」と言うと、「それがぬたです」と言われたことを思い出す。関西でぬたと言えば、白味噌と相場が決まっているので、真っ黒いぬたには正直魂消てしまったのである。かの地では白味噌ではなく、八丁味噌を使っており、味もかなり濃いめであった。しかしネタがマグロであることを考えると、このケースはやっぱり八丁味噌のほうが正解なのだと思う。というようなことも口にし、ぬたネタだけで一時間盛り上がる。そして、シメはちりめんじゃこをかけたごはんに、お吸い物。

th_IMG_0055th_IMG_0054

 まことに、こういうスタイルは気取らなくって、馬鹿言えて、実に楽しいのである。こんな店を何軒かキープしておきたいものである。

2015-11-11 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

神戸三宮 鮨「栄美古」

th_IMG_3740

 長年タイミングが合わずフラれ続けた店である。やっと互いのスケジュールが合った。ご縁ですね、こういうの。

 三宮駅と中山手通に挟まれたエリアは、震災以降、風景がすっかり様変わりした。昔のようにブラブラできる繁華街というよりは無国籍の歓楽街の様相を呈しており、もう十年ほど足が遠のいている。だが、さすがに20年も経つと、少しずつ昔の姿を取り戻しつつあるのはうれしいことである。北野坂に向かう道をまっすぐ上がっていき、ちょっと西に入って、山側に折れたところ。もう店構えからして、旨い鮨屋の雰囲気に満ち満ちている。

th_IMG_3757th_IMG_3755

 煤竹でできたシブい引き戸を引き、こんばんはとカウンターに座る。旨い鮨の匂いがする。うん、まずは正解。しかも三千盛があるではないか。日本酒のラインナップは、男山、三千盛、黒龍、萬寿、獺祭、八海山。ワインも充実している。カウンターにはかのケンゾーエステイトがつくるrindoも並んでいた。私は和食、とくに鮨のときには、時と場合によってはグラスシャンパンくらいはおつきあいで飲むことはあっても、ワインは絶対合わせない。生の魚に発酵させたブドウ酒はいくらなんでも合わないだろうと思っているからである。日本の魚や酢飯に合うのは日本酒に決まってる。誰がなんと言っても日本酒なのである。

th_IMG_3742th_IMG_3744th_IMG_3745th_IMG_3746th_IMG_3747th_IMG_3748

 であるので、当然三千盛である。まず出てきたのは、ふぐ。関西の鮨屋では冬は普通にふぐが出るということをしばらく忘れていた。ありがたや。ポン酢でいただく。コリコリの身。やっぱりふぐは冬の王者の三盆指に入るな・・と一人悦に入る。出足は上々である。続いては、平目の握り。うん、これもよくイカっている。小皿は、ハリイカに納豆醤油をかけたもの。なかなかのお味である。四角い物体は、アコウの煮こごり。すっと舌の上で溶けていく。小さな呑水に入っているのは、生穴子のタタキ。ううむ、これは初めて食べたぞ。馬鹿馬だ。赤貝のお造りも、申し分のないイカり具合。コリコリである。三千盛がどんどん空いていく。

th_IMG_3749th_IMG_3750th_IMG_3751th_IMG_3753th_IMG_3754th_IMG_3756

 次の平目のヅケはちょっと辛かった。そのせいかどうかは知らないけれど、ここで青のりの赤出しが出る。ナマコとこのわたは、酒飲みにはたまらないアテになる。ちびちびやるつもりが、三千盛をぐいぐい。こりゃ戦略だな。のどぐろの焼物は、こんがり焼かれた皮の下においしい脂がたっぷり隠れてる。握りは連子鯛。こちらはレンコと呼ばれる鯛の仲間。すっきりした旨味がある。小皿はカツオのたたきにタマネギをのせている。萩の小皿には平目の明太子和え。ここで茶碗蒸しが出され、中入りである。

th_IMG_3758th_IMG_3759th_IMG_3760th_IMG_3761th_IMG_3762th_IMG_3763th_IMG_3765th_IMG_3766th_IMG_3767

 小皿攻撃のアイダに握り。テンポよく美味しいものが少しずつ出されるスタイルは、通常の鮨屋のダンドリを楽しく裏切って次は何が来るのだろうかとわくわくさせてくれる。好きだな、このプレゼンテーション。さて、中入りの後はいよいよ握りだな。まずは中トロ。非常に美しく、ほとんど全身トロになりかけている中トロである。お次ぎは何の握りかなと思いきや、もう一品変化球。自家製カラスミである。このなめらか、かつ美しい切り口を見よ。中はしっとりと生の状態になっている。小さな手巻きは、根室の雲丹。海苔で包んでさっと巻いてくれる。赤いのは煮イカ。こんなの鮨屋で初めて食べた。ここでまたしても小皿攻撃。ふぐの白子を塩焼きにした一品。握りを食べて、小皿を堪能して、また握り。リズムは完全に店側に牛耳られている。うふふ、悪くない。このこんがりしたのは、なんとマグロの脳天のヅケ。旨いっ。旨いよ。そしてまた小皿。今度は煮ダコである。しっとり柔らかく、噛み締めるとほんのりまだ磯の香りがする。

th_IMG_3768th_IMG_3769th_IMG_3770th_IMG_3772th_IMG_3773th_IMG_3774th_IMG_3775th_IMG_3778

 コハダでちょっとさっぱりした後は、煮ハマグリ。甘めの煮切りがハマグリの柔らかさに、やさしく寄り添う。ああ、旨い。にんまりしていると、またしてもおつゆ。今度は大貝のスープである。ここからは握りの連打。穴子。柔らかく煮た後、香ばしい焦げ目をつけた一級品。ああ、もう一貫おかわりしたいが、我慢して次を待っていると、この美しい色はマグロのつら身だという。ほっぺのあたりのいちばん美味しいところ。そして酢できゅっと〆た平目。ラストは、ヨコワの腹身。もう、脂が乗りまくっていて、ほとんどトロと変わらない。デザートに玉子をいただいて、めくるめく鮨コースが終わった。

 ネタにひと味工夫を加え、飽きさせることなく食べさせる。たとえば、平目はシンプルな握りだけでなく、ヅケに明太子和え、酢〆と四回登場。マグロも中トロ、脳天のヅケ、つら身と部位の違うのが三種類。アイダに小皿や違うネタをうまくはさんでいるので、同じものを食べているという感じはしないし、この構成を職人芸のように見せかける域に持っていっているのが上手い。こういう流れもあるのだなと頷ける非常に楽しい時間であった。

 また、タイミングが合いますように。

2015-11-04 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

Noma@マンダリン

th_IMG_3705

 今年初頭のグルメな噂のなかでダントツのぶっちぎり(失礼)だったのは、何と言っても「Noma」の上陸だろう。コペンハーゲンのお店を一ヶ月休んで、スタッフ全員で東京に来るのだという。

「Noma」の何が凄いかっていうと、「世界のベストレストラン50」でなんと1位を4回もとっていて、世界一のレストランとしてその名を轟かせているからである。しかもシェフのレネ・レゼピはあの「エル・ブリ」の出身なのである。「エル・ブリ」というのは、スペイン、カタルーニャ地方の山の中にあるレストランで、50席しかないシートに年間200万件もの予約が殺到していたと言われる世界一予約が取れないレストランで、その独創的な料理は世界中の料理人に影響を与えたと言われている。今やすっかりポピュラーになっているエスプーマ(食材をムースのような泡状にして出す)を考案したのも、この「エル・ブリ」のシェフである。ところがこの店は2011年の夏閉店したのである。その心意気を引き継いでいるのが「Noma」なのである。
 
 いつかは行ってみたかった「エル・ブリ」。わざわざカタルーニャ地方まで、そのためだけに出かけて行くなんて食いしん坊にとっては究極の贅沢である。でも、もうできなくなってしまったのである。で、「Noma」であるのだが、コペンハーゲンにあるこの店だって、予約はまったく取れない。それが、日本に来るのである。少々お高くたって、行かなければならんだろう。

 しかし、1月の抽選には外れた。地団駄踏んでもどうにもならぬ。ところがある日、東京のホテルを予約するのに利用している一休からスペシャルな案内が届いたのである。大好評につき、2月も少しだけ営業を延長するのだという。「Noma」が店を出しているのは、日本橋のマンダリンオリエンタルホテル。その宿泊とセットなら、まだ席が取れる可能性があるのだという。宿泊料とセットになったかなり強気の値段ではある。しかし、コペンハーゲンまでわざわざ行くことを考えたら、ある意味リーズナブルとも言えなくもない。さっそくスケジュールをチェックすると同時に、こういうのにつきあってくれる友人も抑え、申し込んだらあたったのである。

 そうこうするうちに、1月すでに行った人のブログなどがあがりはじめ、どうやら蟻を食べさせるらしいということがわかってきた。蟻ですって?好き嫌いのない私であるが、好んで虫を食べる趣味はない。一体全体どういう料理を出すんだろう。めらめらと食い意地が燃えて来た。万全の体調を持ってして臨まなければいけない。

th_IMG_3670

 さて、当日。申込の条件として相席とあったので、6人がけの丸テーブルに三組である。相客に軽く会釈をして、ドリンクメニューを見せてもらう。事前にワインとドリンクのペアリングの告知もあったが、なにしろワインが24700円、ドリンクでも16500円である。ふーん、これはあり得んぞ。それよか好きなシャンパンやワインをボトルで飲んだ方がいいわ。なので、シャンパンをお願いする。ヴェット・エ・ソルベ。シャンパンというよりドライなワインのような味わい。これ、イケる。

th_IMG_3642

 一皿目。噂の蟻である。氷を敷き詰め、そのまわりには貝殻をずらりとデコレーション。赤いプレートは渋い漆器である。中央に鎮座するのは北海道のぼたん海老。海老のまわりの黒いのが長野の蟻である。蟻には独特の酸味があって、これが海老に絞るレモンとか酢橘のかわりになるのだそうだ。だから、口に入れると蟻のシャリっとした感触はあるものの、軽い酸味は別に嫌じゃない。もちろん手づかみで食す。さすが、バイキングの国から来ただけのことはある。ワイルドだ。

th_IMG_3644th_IMG_3646

 二皿目。柑橘類をサラダ仕立てにしたもの。八朔、文旦、タンカン、みかんを切って、昆布出汁とオイルにピパーチという島コショウを混ぜたドレッシングがかかっている。山椒がピリリと利いた味。これを漆塗りのスプーンとフォークでいただくのである。素材のセレクトに日本への敬意とサービス精神が横溢している。うつわやカトラリーの選択にもメッセージがある。

th_IMG_3649

 三皿目。漆盆の上にナプキンが折りたたまれ、その上に乗っているのはあん肝トースト。あん肝を凍らせたものを薄く削っているのである。口に触れると体温でぬめっととけていく。もちろん、これも手づかみである。どんどん気持ちが野蛮人になっていく。

th_IMG_3652th_IMG_3657

 四皿目。「タ・コ・ヤ・キ〜」と言いながらデンマーク人が持ってきたものは、たこ焼きではなく、イカソーメン?いや、イカそばである。順番を間違えたな。なんとこれは甲イカを蕎麦のように切り、上にイカのわたを発酵させているソースを塗っている。この蕎麦を松の香りをつけた出汁に石垣島の薔薇を散らしたものにつけて食べるのである。黒々したイカをピンクの薔薇につけるなんて。なんちゅう発想。日本人ではこうはいくまい。良いとか悪いとかではなく、アイデアがぶっ飛んどるわな。ちなみにこのお箸をプロデュースしたのは、三角屋の三浦さんである。黒檀でできた希少な一品だ。

th_IMG_3658

 五皿目。北海道馬糞雲丹のタルト。これもナプキンの上に乗っているので、当然手づかみである。台は羅臼昆布の粉末を練り込んだ生地。雲丹の下にはサルナシのペーストが敷かれている。このサルナシ、キウイの原種で(五回會のとき「本湖月」のデザートではじめていただいた)すっぱ旨い。ふっくら芳醇な雲丹との相性はなかなかよい。

th_IMG_3660

 六皿目。作り立ての豆腐の上に、くるみ、味噌、柚子を乗せて。豆腐がまったり溶けていく。生のくるみの食感も、しゃりしゃりして面白い。

th_IMG_3661

 七皿目。二日間干した帆立の貝柱をピューレ状にし、バターと蜂蜜を加え、ホイップし冷凍している。こうすることで、まわりにはショワショワの泡状のものがつき、食べるとまるで揚げ煎餅のような不思議な触感が生まれる。仕上げに昆布オイルとごま油を少々。こういうのはもうサイエンスの世界である。どんだけ実験したんだろうな。

th_IMG_3664

 八皿目。南京。かぼちゃである。カツオ出汁で似たかぼちゃに、ローストした羅臼昆布の細切りを並べ、桜の花の塩漬けをデコレーションした一品。ソースはとろりとしたバター風味に桜の木のオイルを浮かべて。

th_IMG_3665th_IMG_3666

 九皿目。フワラーガレット。黒にんにくをつぶして葉っぱのカタチにしてる。しかし、これが不味いのなんのって。オーストラリアのベジマイトって知ってます?あれを初めて食べたときと同じくらいのオーマイガッドな衝撃。うえ〜って感じ。箸休めでも、口直しでもない、摩訶不思議なブレイクである。もちろん、全部食べたけどね。

th_IMG_3668

 十皿目。根菜の盛り合わせ。むかご、クワイ、百合根、ちょろぎ、蓮根、牛蒡。これを味噌漬けの卵黄につけて食べる。ソースは焼き昆布の出汁にアーモンドを加えたソース。これは楽しいし、日本で昔から親しまれてきた根菜のよさを外国人のシェフに教わっている感じ。忝ない。

th_IMG_3671th_IMG_3674th_IMG_3676th_IMG_3679

 十一皿目。メインである。なんと、野生の鴨の丸焼きである。網で獲った鴨を三週間熟成させているそうだ。これをまずは丸ごと見せてくれる。ファンキーでワイルドな演出である。その後、部位ごとにちゃんと切り分けてくれ、マツブサの実のソースで食べる。鴨は大好きなので、ウハウハ言いながら食べたけど、向かいに座っている人にあてがわれた鴨は生焼けでほとんどピンク色であった。連れが、野生の鴨の生はいろいろ寄生虫があるからなあ、などと恐ろしいことを言う。聞こえてるってば・・・それにしても、それを食べるのは苦行だったろうなあ。

th_IMG_3677th_IMG_3682th_IMG_3687

 十二皿目。イーストと椎茸のなかで炊かれたカブ。ううむ。十三皿目。米でつくったアイスクリーム。麹と柚子風味。白いのはサクサクしたお米の煎餅。鴨の口直しとしては蟻、もといアリである。十四皿目。砂糖で丸一日煮込んだ人参芋。キーウィのソースで食べる。もう似たようなかぼちゃ食べてるし・・・別にさつまいもをご丁寧に味付けしなくても・・・・

th_IMG_3688

 十五皿目。発酵させたセップ茸をチョコレートでコーティングしているのだが・・・苔のボウルの上に素晴らしいデコレーションで乗っているのだが・・・小枝はワイルドシナモンなんだが・・・味の想像を超えて、うえ〜。不味い。ま、これはご愛嬌であるな。

 全十五皿。
 普段我々が使わないような知らないような日本の食材まで綿密にリサーチして取り入れているその執念と探究心には圧倒された。これは美味しいとか旨いという次元を超えたシェフ、レネ・レゼピの高次元なパフォーマンスであり、プレゼンテーションであり、食べることのできる一瞬のアートなのだろう。一皿、一皿にこめられた創作への熱情は、たしかにひしひしと伝わってきた。世界一の評価というのは、その飽くなき好奇心と面白いものを独創的に表現してやろうという精神に捧げられているのではないか。レネによる度肝を抜くアミューズを一度は経験してみたいという人は世界中には確かに大勢いるだろう。もちろん、私もその物好きの一人である。

2015-10-29 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

北新地「弧柳」

 今夜はクライアント様との会食である。新しいプロジェクト推進のため、互いにやるべきことを再確認する場である。本当は個室というのが望ましいのだが、会食が決まったのが三日前である。探しに探し、ようやくこちらが予約できた。

th_IMG_3604

 よく知っている大阪・北新地の道を一本南に入ったところ。こんなところに、こんな名店があったのね。なんと、こちらは某グルマン機関で星を3つもとっているのである。いや、星3つの店もいろいろあって、銀座の某鮨屋なんて(私にとっては)最悪であったから、盲信するわけにはいかないが、ま、ある種の目安にはなるだろう。

 こちらはカウンター13席のみ。奥のカウンターは4人ぐらいが向き合えるかっこうになっているのが面白い。

th_IMG_3610

 さてと。和食のときは、日本酒にするというのが私の鉄則である。いろいろ聞いていたら、大好きな新政のスペシャルがあるという。立春朝搾り。平成二十七年乙未二月四日と書いている。つい一週間ほど前に搾ったぴかぴかの生原酒なのである。ふわっと広がる吟醸香。こっくりしつつもまろやかな甘み。目を細めつつ、日本酒ならではの奥行きのある旨さをしみじみと味わう。

th_IMG_3605th_IMG_3606th_IMG_3607th_IMG_3609

 先付は、お椀に入った山菜。春の息吹をたっぷりどうぞという趣向であろうか。染付に入っているのは雲丹であえたイカ。お味もだけれど、この花びらのような皿が素晴らしい。ちゃんと料理との相性を考えているのがよくわかる。そして大きな塗のお盆にずーっと下ごしらえしていたお造りが出される。魚庭という面白いネーミングがつけられている。四角いお盆に、扇のカタチの織部の向付、そして丸、四角、楕円、扇型の小皿がバランスよく並び、水仙まで銘々のお盆に活けられているのである。たしかに魚庭ではあるな。ま、このコーディネイト、あんまり私の好みではないのだが、この一品にご主人の気合がこめられているのはよくわかる。コリコリの鯛、イクラをまぶしたイカ、すーっと溶けていく大トロ(卵黄の醤油漬けでいただく)、キリッとしたアジなど、魚はどれもしっかり吟味されている。

th_IMG_3611th_IMG_3613

 メインのお椀は、ふぐの白子のお吸い物である。まるでお雑煮のお餅のようにこんがり焦げ目のついた白子。ふっふ、お口の中がとろとろになるわ。お出汁も美味しい。たまらず新しい日本酒を所望する。今度は、銘酒山形正宗、純米大吟醸。袋採り一斗瓶囲いというスペシャルバージョンである。蔵元である水戸部酒造、名刀正宗のように切れ味鋭い日本酒をめざしているのだそうだ。ううむ、正宗か。余談だが、亡くなった父はたいそう日本刀が好きで、いっとき水心子正秀の脇差を持っていた(あるいは憧れていて話に何度も出てきただけかもしれないが)ような記憶がある。名刀→刀、正宗→正秀という連想である。たしかにキリリとした素晴らしい味わいである。

th_IMG_3612th_IMG_3614th_IMG_3615th_IMG_3616

 四角い黄瀬戸に乗っているのは琵琶湖のわかさぎ。貴重な魚である。河内れんこんが添えられている。白いお皿は寒ブリにカニ味噌をかけ焦げ目をつけた一品。うーん、これはたまりませんな。やっぱり私、ブリもとっても好きなんだと改めて認識する。おかわりしたいくらいである。この白いのは、大根を薄く切ったものだが、その下には白海老が隠れている。海鮮の連打に、心の底からにんまりする。丸紋を描いた染め付けに盛られているのは宮崎牛の炭火焼。このほとんど贅沢なレア状態を、とうもろこしのお味噌でいただく。付け合わせは軽く揚げた海老芋である。

th_IMG_3617

 〆に立派な漆のお椀と織部のお皿。あれれ、もう一度お椀?と思うのだが、これは留椀。それにしても立派な蒔絵である。この意匠は鶴だろうか。織部が松の文様になっている。鶴と松。蓋をあけると、なんとごはんではなく、おかゆである。高槻のキヌヒカリというお米を箕面の天然水で炊いたものだという。これは絶品の味わいであった。おかゆというのが、何ともやさしく、あたたかい気持ちにさせてくれる。

th_IMG_3618

 最後に渋い三島の皿に盛られたデザートをいただいた。新地の板前割烹で星を取っていることを考えれば、コースの価格はなかなかリーズナブルであろう。ご主人も真摯に料理をつくっておられる。コース全体を振り返れば、やはり魚庭(なにわ)とネーミングされた造りのアソートがこちらの料理のメインなのだろう。全体に味は申し分ない。が、水仙といい小皿のコーディネイトといい、供し方に少々ツーマッチな感じを受けた。枯山水的な懐石を期待していくと、いきなり蘇州あたりの石庭が出現するという印象。ご主人はまだまだお若いとお聞きした。今はまだプレゼンテーションに凝りたいお年頃なんだろう。5年後、10年後どうなっていくのかにはおおいに興味があるし、きっとこの先もっともっと洗練されていくに違いない。なので、また何年かしたら、訪れてみようと思う。

2015-10-27 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

京都三条「ブランカ」

 今夜はあのソニア・パークさんが主宰するブランドARTS & SCIENCE京都店オープンのレセプションパーティである。満を持しての京都デビューである。私も近頃けっこうハマっているブランドなので、招待状をいただいた。二条木屋町のあの通りの一角があんなに人で賑わっているのを初めて見た。店内は人がぎゅうぎゅうで立錐の余地がないとはこのことだ。なので、さーっと見渡して、レセプション会場へと向かうことにした。

th_写真[2]th_写真[1]th_写真[6]th_写真[5]

 現地で待ち合わせしている三浦さんや内藤のわかだんに電話してみると、パーティの前に軽く腹ごしらえしているという。合流するには時間がなかったので、私も川沿いののれんをひょいとくぐる。なにしろ、金沢で居酒屋デビューしているので、もう入れない店はない。ところが、ここがなかなかの老舗であって、突き出しもおでん、日本酒もおいしく、たいそう居心地がよかったのである。だが、この後パーティなのであまりゆっくりもしていられない。後ろ髪を引かれながら、店を後にした。

 パーティの方も、けっこうな人数が集まっており、こちらも満員である。ARTS & SCIENCEの洋服、今までは東京でしか(金沢にも取り扱っている店はあるが)手に入らなかったのである。それが、これからは京都でも買える。関西のファッショニスタたちにはたまらないであろう。少し前に、南青山の店にあった白いスプリングコートがあまりに素敵でさんざん悩み、何度も試着して断念した。それとおぼしき白いコートをソニアさんは会場で着ているではないか。ううむ、やっぱり、自身のブランドだけあって、カッコいい。何より、しゅっとしてはる。スリムな彼女だからこそ着こなせるのだわと、コートを断念したことを己に納得させる・・・。

 パーティというもの、たいていビールやワインをいただいて、おしゃべりするというのが定番であろう。友人の友人を紹介してもらったり、はじめての人と話しが弾んだりと、いろんな出会いがあるのが楽しい。今宵も、わかだんにくっついている着物美女、昔からのお友達かなと思っていると、初対面というではないか。だけど、気の合う者どうしは、なぜか引き合うのである。

 で、こっからが本題なのであるが、宴もたけなわ。そろそろ失礼しようかという話になるのだが、パーティ前に軽く腹ごしらえしているとはいえ、みんなお腹のほうがそろそろグーグー言っている。京都で、それなりの人数で、パーティのシメに行く店といえば、この面子ではあそこしかない。そう、あそこ。「ブランカ(第134夜)」である。タクシーに分乗して、みんなで向かう。

th_IMG_3523th_IMG_3525th_IMG_3526th_IMG_3527th_IMG_3528th_IMG_3529

 三浦さん、内藤軍団、着物美女。総勢7名でカウンターを占拠。いろんなものを少しずつ出してねと、まずは砂ずり。こんなにパクチーがかかっているのは初めてであるが、これがまたよく合うのだよ。コリコリ。青いパパイヤのサラダは、シャキシャキ。この生ピーナッツがまた食感にバリエーションをくれるのである。ここにもさりげなくパクチー。そして島らっきょう。ここに来てこれを食べないわけにはいかないのである。ほのかに苦く、シャキンとした噛みごたえ。たっぷりのかつおぶしと共に、シャリシャリシャキン。このコロッケは、三浦さん特注である。旨い。続いて、オオタニワタリとジャコイリチー。これ、初めて食べた。オオタニワタリというのは、独特のヌメリとシャキシャキ感のある石垣島特産の葉野菜。シダの仲間であるらしく、食用である。この先がくるくるっと巻いているのが、いかにも南の野菜って感じ。この美味しそうな焦げ目のついたのは、九条葱と小エビのチヂミ。石垣島で磨いた腕が、京野菜と出会ったのだなとにんまりする旨さ。

th_IMG_3530th_IMG_3531th_IMG_3532th_IMG_3533

 そして、誰だ、もち豚のジンジャーステーキなんて頼んだのは。ま、パクチーがこんなにかかっていると、それはそれでヘルシーな気分になってくる。だけどもうお腹がパンパンになってきた。なのに、わかだんがジャージャー麺を注文する。ちょっとだけなら大丈夫かしらん。いや、待って、この皿はなあに?これ、また違う麺じゃない。しかし、この油そばのような一品も馬鹿旨だったのである。拌麺というそうだ。そうしたら、今度はごはんの上に麻婆豆腐が乗ってくる。こんなのもう無茶!と言いながらも、食べるとこれがまた癖になるような美味しさ。しっかり平らげる。一同、ほとんどへらへら笑いながらも、完食。恐ろしい軍団なのである。

 挙句の果てにだよ。

th_IMG_3534th_IMG_3536
 
 店主はごはんを炊いている。宮津の減農薬米。これをちゃっちゃとおにぎりにして、サッと炙った海苔で巻く。このつやつやした米を見て。こんなの出されたら、食べちゃうじゃないの。もちろん、きれいにいただいたことは言うまでもない。

 お腹ぽんぽんの一同、さすがに店を出てからは、それぞれのねぐらへおとなしく帰った。この店はかなり危険である。

2015-10-23 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

京都「佳久」

 写真家エバレット・ブラウンさんとは、松岡正剛師匠のイベントの喫煙所で仲良くなった(第40夜)。今でこそ禁煙しているが、当時はちょくちょく吸っていたようである(笑)。以来、未詳倶楽部でご一緒したり、ブラウンズフィールドに遊びに行ったり、写真展にでかけたりのおつきあいが続いている。

th_写真th_写真[2]

 エバレットさんの日本を視る目にはつねづね感服しているが、もっと魂を揺さぶられるのは彼の写真とその手法である。写真ではなく、正確には湿版光画という。この手法、1850年頃から普及し、乾板写真が発明される1870年頃まで使われていたそうである。エバレットさんも1860年代のカメラとレンズを使い、湿版ネガを用いている。木製の三脚にカメラをセットし、それを担いでどこへでも行く。ガラスに液体状のジェルを敷き、撮影現場で簡易テントのようなラボを組み立て、ガラスのネガを作る。露光に時間がかかるので、大抵の場合被写体は15秒から30秒くらいのあいだ動けないのだそうだ。大変な作業である。その気の遠くなるような手間と引き換えに、湿版光画には私たちが忘れ去っていた時間と空間が写りこむ。深い皺が刻まれた職人の手には、積み重ねてきた時間だけがつくる技の気配のようなものが影向しているし、祭りの中心でこちらを見据えている少年の眦には、まっすぐな矜持とでもいうべきものがみなぎっている。だから、光画に圧倒され、魂が揺さぶられるのである。

 そのエバレットさんから、京都で日本文化に関わる人達と食事するからご一緒しましょうと誘っていただいた。これは、是が非でも行かねばならぬ。ま、大阪北区から京都へは、1時間もあれば行けるのである。早速、指定された店へと出向いた。

th_IMG_3479th_IMG_3481

 烏丸御池。京都市役所の裏手あたりである。目指す店は、いかにもらしい風情でひっそりと佇んでいる。こういう店は教えてもらわなければ、なかなか探せない。のれんをくぐって、引き戸をガラリ。案内されたのは、カウンターの向こうの和室。すでに鍋の準備も整っている。ほどなく、エバレットさんとそのお友達が来られた。久々にお会いする。相変わらず精力的にいろんな活動をされているようだが、今夜の趣旨は日本文化を愛するものどうしの縁をつないでいただくということだろうか。

th_IMG_3483th_IMG_3484th_IMG_3485th_IMG_3486

 私はまずは熱燗をいただく。うっかり細かな食材を取材し忘れてしまったが、それは会話に夢中になっているせい。話は日本の染色に始まって、江戸の祭りにまで飛んでいく。お友達のNさんは、染色の専門家で紋様や意匠などにとてもお詳しい。話が弾んでいる間に、テーブルには小さな七輪が置かれ、なんと鱧を焼いている。鱧って夏の魚じゃないの、と思われる方も多いだろうけど、本来の旬は晩秋である。夏よりも脂が乗っていると好む人も多いという。酒が進んでしかたがない。

th_IMG_3487th_IMG_3488th_IMG_3489th_IMG_3491

 本日のメインは鴨鍋である。こちらの鴨は正真正銘長浜からやって来る。関東の人にはピンとこないかもしれないが、長浜というのは琵琶湖の湖北にある市で、鴨は湖北の冬の味覚として夙に知られている。むろん合鴨ではなく、シベリアから飛来する真鴨であり、天然鴨の猟が解禁になる11月から3月までの限定付きのお楽しみなのである。鴨鍋の旨さを決めるのは、たたき(つみれ)の出来で、鴨の骨ごと包丁で叩き、ミンチ状にしたものをまず鍋に投入する。このたたきからにじみ出る旨みこそが、鴨鍋の真髄である。ひとしきり鍋をいただいた後は、鴨ロースをしゃぶしゃぶにする。このズラリと並んだ美しい色のロースが一人前である。赤ワインが大好きなエバレットさんにおつきあいして、私も鴨ロースは赤ワインでいただく。天然の力をいただくと、身体に野性的な気がみなぎっていくのがわかる。

th_IMG_3493

 鴨鍋をたらふくいただいた後は、いよいよシメである。雑炊か、と思っていると、こちらのお店では鍋の出汁を使って汁そばをつくってくれる。しまった!最初からわかっていれば、鴨ロースを二切れくらいとネギを残しておいて、鴨南蛮にできたのに!後の祭りであるが、鴨のエキスをじんわり含んだ出汁とそばだけで、じゅうぶん美味しい一品であった。当然、汁は最後までずずいと飲み干す。

 食事が美味しいと、盛り上がった話も忘れ、ついつい飲みと食に走ってしまうのは、いたしかたないし、いつものことである。今宵もそんな素晴らしく美しい夜であった。エバレットさん、今度はぜひ東京で。いや、思いっきり辺境で、というのもいいかもね。

2015-10-21 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

三宮フレンチ「マロニエ」

 年に一度か二度ほど一緒にご飯を食べる妹分のようなコたちがいる。私は基本的に、キレイな女のコたちが好きなので(誰だって好きか・・)、こういうお誘いは大歓迎である。週末の三宮で、というご指定だったので、さてどこにしようかと悩んでいたら、彼女たちが何度か行ったフレンチにしましょうということになった。

 はじめての店はどんなジャンルであれ楽しみである。しかも週末よく徘徊している元町近辺。縄張りである。

th_IMG_3453

 待ち合わせの刻限、店に向かう。朝日ホールの山側の路地を入ったところの二階。ふーん。こんなところにフレンチがあったのね。エレガントな内装の店内は、すこぶる感じがよい。すでに集合していた妹分たちとまずは乾杯である。こういうシチュエーションでは、当然シャンパンをいただく。が、こちらのお店、シャンパンボトルは3本しか種類がない。しかもどれも価格が一緒である(と記憶している)。なので、まずはピエール・カロのブラン・ドゥ・ブラン。ラベルの上にノン・ドゼとあるのはあえて辛口になるよう、瓶詰めのときに糖分を加えていないという印。すっきり辛口のテイストである。

th_IMG_3458

 驚いたのは、シャンパングラスである。ご覧のようにトレーにいろんなカタチのグラスを乗せ、好きなのを選ばせてくれるのである。好きなお猪口を選ばせるというカタチを取っている和食はよく見受けるが、フレンチで見たのは初めてである。こういうの女性には人気なんだろうなと思う。このアイデア、店でというより自分の家で人を招くとき(あんまりやらないけど)に応用できそう。家にあるグラス類って、たいてい割ってしまったりして数が揃わない。なら、いっそ、お気に入りをひとつずつ買い揃えるという方法があるじゃん!と気づく。そうなのよね。バカラとかセットで買うのは大変だけど、一個づつならなんとか買える。

th_IMG_3454th_IMG_3456

 さて、今宵のメニューである。まず前菜に驚かされる。どこから見てもデザートである。白い皿に乗っているのはオペラ(チョコレート菓子の)をイメージした鴨のババロア。グラスの中にあるのはチョリソーのマドレーヌ仕立て。黒いお椀に入っているのはカリフラワーのスープ。クランチしたブラックオリーブを入れて食す。なんだか、楽しい仕立てである。こういうのをアミューズというのだろうね。二品めは、春の野菜畑。ホタルイカ、シマアジ、白魚、寒ブリ、平目の昆布締めなどをそれぞれ美しくデコレーションし、春野菜をアソートした一品。こういった魚や野菜を使い、創意工夫を凝らしたプレゼンテーションをするのは昨今のトレンド。女性にはこういうのも受けるのであろう。美しいとは思うが、おっさんの私には量が少ない(笑)。

th_IMG_3457

 この二皿が出てくるまでに、かなり時間がかかったので、シャンパンは予想通りすでに二本目である。今度は、リシャール・シュルラン、ブリュット・カルト・ドール。ピノ・ノワール勝ちなので、さすがにエレガントな味わい。ま、このクラスであれば、何を飲んでも外れはない。

th_IMG_3459th_IMG_3460th_IMG_3461th_IMG_3463

 続いての皿も、え?ティラミスと思うが、ここはイタリアンでもないし、最初のデザート仕立ての皿で、こちらのシェフの手の内はわかっている。これは、北海道のじゃがいものパンケーキなのである。中には帆立も隠れてい、シャンパンときのこのソースがかかっている。スフレのような一品の下には、明石の鯛。まわりを取り囲んでいるのは春野菜たち。ここで口直しのブラッドオレンジのソルベをいただいて、いよいよメインである。千葉産の牛ヒレ肉のロースト。トリュフと赤ワインのソース。すでにシャンパンも尽きたので、この皿に合わせてグラスで重めの赤をもらう。

th_IMG_3464th_IMG_3465

 最後は、またしてもプチソルベ、そして苺のシャンパンとプチ菓子のデザートをいただいた。

 今宵は、おしゃべりが主体なので、こういうきれいなフレンチでも満足である。この後、バーでいっぱい飲んで解散したのだが・・・私は家の近所の天皇バーにふらふらっと立ち寄ったはいいのだが、あろうことか深夜にオムライスを食するという暴挙に出てしまった。本音では、食べ足りなかったということであろう。ほんとにおっさんである。いや、おっさんではなく、中学生か。

th_IMG_3466

2015-10-16 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

舟和「芋ようかん」

 昔からここの芋ようかんは大好物である。

th_IMG_3386th_IMG_3387

 年に一度、浅草へ新春歌舞伎を観に行く。これは若手による花形歌舞伎というもので、ここ数年は応援している尾上松也丈が出ることが多いので、コンスタントに通っている。浅草公会堂は浅草寺のすぐ隣にあり、開幕前や幕間に仲見世通りやオレンジ通りなどをうろついていて、本店を発見した。
そうか、こんなところにあったのね。

 大昔の関西では百貨店の催事でしか手に入らなかったが、気がつけば新幹線の品川駅でも売るようになったので最初の頃こそ何度が買ったが、いつでも買えると思うと有り難みがなくなるものである。が、それでも、本店というのはとくべつである。

th_IMG_3400th_IMG_3402

 本店での人気ナンバーワンはもちろん芋ようかんである。が、あんこ玉も美味しそうである。しばし悩むが、おみやげにもしたいのでやはり芋ようかんが王道であろう。こちらの芋ようかん、甘藷(さつまいも)を一本一本手で皮をむき、砂糖と塩だけで作る。だからさつまいもの素朴な味が活きた、飽きない味になる。日持ちしないので、店では秋冬の食べ方として焼芋ようかんというのもすすめている。オーブントースターで焼き目をつけたり、フライパンにバターを落とし焼くのである。私は、食べ飽きたときは、適当な大きさに切り芋きんつば風にして焼く。バターをたっぷりまぶして焼き、シナモンなどをかけるのもおすすめである。

th_IMG_3375

 そして本店では、芋ようかんのソフトクリームというなんとも魅力的なものまで売っていた。芋ようかんが入っているのである。このポテトチップスのようなものもさつまいもでできている。芋金貨というお菓子である。クリームの舌休めにときおりポリポリ。ふっふ、これは歌舞伎の幕間のおやつとしてはちょうどいい。店先の小さなベンチに腰掛け、ゆっくりと味わう。寒い季節ではあるが、芋ようかんというのはなんだか焼き芋を連想するので寒くはない。

  店頭を観察していると、芋ようかんやあんこ玉とともに“すあま”というのが飛ぶように売れている。“すあま”?「すはま」の間違いではないのか、と思うのだが、何度確かめても“すあま”とある。それにどう見ても「すはま」とは別物の紅白の餅菓子のようである。

 「すはま」は洲濱と書く。関西ではおなじみの大豆粉に砂糖と水飴を合わせ練った和菓子で、しゃりっとした感触がきなこ好きにはたまらない。、京都の植村義次のはあまりにも有名である。が、こちらの“すあま”は、たぶん素甘ということであろう。調べてみると、やはり餅菓子の一種で上新粉に甘みをつけ蒸したものであった。これはこれで美味しそうなのである。来年の浅草新春歌舞伎に行ったら、“すあま”にも挑戦してみよう。

2015-10-15 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

同心「大阪とらふぐの会」

 噂を聞いたことはある。

 大阪に、完全会員制のふぐ専門店のあることを。何でも住所電話ともに非公開で、会員に連れて行ってもらわないと入れないという。ネットで調べてみたら、そこにはこう書かれている。

ご来店に関して

当店は、ふぐ愛好家の集まる隠れ家的店舗になっております。
会員制のため住所・電話番号は公開しておりません。
当店でのお食事につきましては、現会員様(ファミリー)とご一緒にご来店いただくか、もしくは現会員様(ファミリー)よりご紹介いただくことにより、当会の会員様(ファミリー)とさせていただきます。

 噂は本当なのである、ところが蛇の道は蛇とはよく言ったもので、ここの三番目にできたPREMIUMという店、我が社から歩いて100メートルくらいのところにあるのである。我がメインクライアント様の社屋の向かいなのである。しかも。我がクライアント様のお偉いさんたちは、あろうことかここの会員なのである。これを僥倖と言わずして何をか言おう。

th_IMG_3234

 ある夜の会食。「ふぐは好き?」と問われ、一も二もなく「好きに決まってますよ」と返事を差し上げると、どうも件の「とらふぐの会」に連れてってくれるらしい。シーズンなので、早い時間の予約しか取れなく、スタートは5時半である。会社から這ってでも行ける距離である。何の問題もない。そして約束の時間にその店に向かう。

 マンションである。入り口はオートロックになっている。どこにもそれらしい表記はない。知っている人だけがその部屋番号を押せるのである。ファンキーなシステムである。やがて応答があり、ロックが解除された。エレベータに乗り11階をめざす。ドアが開くと、そこには和風の門構えが出現する。紛れもなくそこはふぐ専門店なのである。

th_IMG_3238th_IMG_3240

 個室に通されたが、なんとマンションの高層階の庭に日本庭園があるのである。竹が植えられ、灯籠が鎮座し、灯りが妖しく発光している。全員そろったところで、さっそくのふぐコースである。

 こちらで使っているのは、すべてとらふぐ。体重2〜3キロ前後の大型ふぐがメインであるそうな。うふふ、美味しそう。まずはヒレ酒を注文しなくっちゃ。

th_IMG_3248th_IMG_3251

 こちらのヒレ酒は「炎のナイアガラ」と呼ばれる。何故かというと、ヒレ酒がやって来ると部屋の電気を消し、ヒレ酒を豪快にじゃぶじゃぶさせて、さらにそこに日本酒を注ぎながら火をつける。青い炎を滝に見立てているのである。いやあ、大した趣向であるよ。こういうベタさは大阪ならではであろう。ヒレは香ばしく焼かれ、ふぐの出汁もたっぷり出ている。旨いっ。

th_IMG_3241th_IMG_3242th_IMG_3244th_IMG_3245

 料理は最初に、皮の湯引きが出る。金粉が乗っている。コリコリの食感。美しい緑釉のかかった織部に敷かれているのはてっさ。薄造りの身で葱と辛めの紅葉おろしをくるりんと巻いて食する。ポン酢も徳島のすだちをベースにしているそうで、たいへんに好みの味である。ヒレ酒にはやっぱりてっさだなあと目を細めながら、たちまち平らげる。続いて出されたのは、なんとアレ。こんなの食べて大丈夫なのか?と思いながらも箸が止まらない。意外とあっさり。そしてヒレのスープ。なかなかよい按排の味である。

th_IMG_3250th_IMG_3255

 こちらのメインは焼ふぐである。焼き肉のように焼くのである。皿に載ったふぐの身は二種類。遠江という表皮から三枚目の皮と遠江のひとつ内側になる三河という部位を使う。ふぐの部位にこんな乙な名前がついているとは今まで知らなんだ。ふぐには皮が三枚ついているらしい。二番目の皮には身に薄皮がついており身皮と呼ぶそうで、それが転じて三河になったのだという。で、その隣の皮が遠江(とうとうみ)とはなんと洒脱なネーミングであろう。こういう見立ては日本ならではの遊び心であるな。すべての部位を特別なオイルでコーティングしている。直火で焼くと、水分が逃げずぷりりとしたゼラチンたっぷりの旨味が味わえるのだそうだ。それにしても、後が詰まっているからなのか、皿はどんどん運ばれて来る。こちとらの食するペースが早いからいいようなものの、こう矢継ぎ早では息つく暇もない。なので、ヒレ酒をまたしても注文する。しかし、この焼ふぐの味わい、ふぐの概念がかなり変わる。むっちり、もっちり、ぷりり。

th_IMG_3253th_IMG_3256th_IMG_3258

 続いてはおまちかねの白子である。こんがり焼かれて、もうそれだけで中身のとろとろ具合が想像できる。こちらでは出始めの秋口には、白子のお造りも楽しめるそう。白子のお造り。う、う、う。食べてみたい・・・。唐揚げは、あっさり香ばしい。「とげ塩」というふぐの外側についているとげを天日で乾かし、焼いて、特別な塩とブレンドしたスペシャル塩をつけて食べる。さすがに、すみずみまでのこだわりが半端ではない。このあとはてっちりであるが、もうすでにおなかはパンパンである。が、ある程度てっちりをいただかなければ、雑炊の出汁が出ないのである。みんなで頑張る。

th_IMG_3259

 そして〆の雑炊。ふぐのエキスをたっぷりふくんで、これはコースを平らげたあとの次元の違うお楽しみであろう。幸せである。お腹もぱんぱんである。ぽんっ、と腹鼓を打つ。

 この日二回転するらしく、恐ろしい勢いでコースが出されたのだけが残念である。相棒は、部屋の椅子やじゅうたんにいっぱいしみがついているのが、嫌だと言っていた。圧倒的に年配のおじさま方が接待にも使うことが想像されるので、どうしても汁をこぼしたりすることが多いのであろう(笑)。

 次回は、もう少し遅めの時間にしてもらい、ゆっくりと落ち着いて堪能したい。

 店のホームページによると、一度でもファミリーに連れて行ってもらえば、自動的にファミリーになるのだそうだ。いずれにしても、この店、とらふぐを心から愛する人が集まるエクスクルーシブなファミリー組織であることは間違いない。マーケティング的に見ても、面白い趣向である。

2015-10-09 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

新地「casa M」

 食事をご一緒しましょうとずーっと誘ってくださっていたSさま。が、なかなか互いのスケジュールが合わない。あれやこれやと調整しつつ、年を越してやっと都合が合った。私の誕生日をフェイスブックで見たようで、誕生日もお祝いしましょうというお申し出。素直に有り難く祝っていただくことにした。もちろん私がシャンパンを好きということもご承知である。泡まみれでやりましょうとうれしいメッセージまでいただいた。

th_IMG_3206

 現地集合である。指定された住所に赴くと、あらら、新地の中にもこんなファンキーな一角があるのね。雑居ビルと雑居ビルの間の路地に突如として出現する赤鳥居。(厳密には赤鳥居に見える鉄柱であるが・・・)そこには、や・き・と・りというファンキーな提灯までぶらさがっている。ほんとうにこの奥にシャンパンを出すような店があるのかしら。おそるおそる足を踏み入れ、突き当たりを左に曲がると、そこにも雑居ビル。そしてめざす店はそのビルの4階にあるのだった。

 ビルの名前を薬師堂ビルという。薬師堂?

 そう、この西側には薬師堂がある。創建は、なんと推古元年(593年)。聖徳太子による四天王寺創建時に建立され「なにわの守護」とされたという由緒あるお堂で、堂島という地名も実はここから来ているのだそうだ。堂島が拓けてからは「堂島のお大師さん」と呼ばれ、人々の信仰も厚かったようである。そのお堂、元々は旧毎日新聞社(今の堂島アバンザの場所)にあったようだが、今の薬師堂ビルのすぐ南側に移され、平成11年に堂島アバンザが完成したとき、再び元あった場所にモダンな建物となって戻ってきた。お堂には薬師如来像や弘法大師像などが安置されているのだそうだ。いやあ、知らなんだ。

 本題に戻ろう。

th_IMG_3215th_IMG_3208

 なんとSさまはスペシャルなシャンパンを用意してくれていた。「ローラン・ペリエ グラン・シエクル1990」である。シャンパン好きなら目を細めるエレガントな辛口。おまけに凄いボックスに入っている。しかし、Sさま、今日はたくさん飲むのだからと、最初のボトルは、「コント・ド・ラモット」である。これはこれで美味しいのであるが、少しずつクオリティをグレードアップしていくというダンドリであるな。なんと剛毅なお方、ありがたや。

th_IMG_3210th_IMG_3211th_IMG_3207th_IMG_3212

 そのシャンパンに合わせて出されたのは、卵の上にオシュトラキャビア、そそてトーストの上に乗せたフォワグラテリーヌ。上にはソーテルヌのジュレが乗っている。卵好きとしては、ダブル責めである。鶏の卵とチョウザメの卵。海と山の幸の幸せな融合である。続いては、足赤海老が刺さったクリームポタージュ。甲殻のエキスをゼリーにしている逸品。たまりません。濃厚な海の香りをシャンパンのまろやかな泡が優雅に包みこんでいく。目を細め、ただただ唸りながら味わう。続いての一品はマグロのタルタルであるが、上に乗っているのはアボカドをアイス仕立てにし、それを削ったもの。まわりに添えられているのはワサビ菜である。ねっとりしたタルタルにシャキッとした冷たいアボガドが、立体的な旨さを生み出す。なんて素敵なマリアージュ。

 ここまでで、1本空いたので、いよいよグラン・シエクルを開ける。

th_IMG_3214th_IMG_3213

 で、牡蠣の食べ比べである。伊勢の浦村の牡蠣はスモークオイルをたらしていただく。パスタに入っている牡蠣は五島列島のである。同じ牡蠣でも、産地によって、調理のしかたによって、まったく別の料理になって、お楽しみがダブルになるという趣向。こういうのは近頃の志の高い料理人に共通しており、鮨やイタリアンでもこういうチャレンジをする料理人を知っている。コースが平板ではなく立体的になり、ぐぐっと奥行きが出る。料理もアートであるのだなと実感するひとときである。

th_IMG_3218th_IMG_3220th_IMG_3221

 メイン一品目は、サゴシのソテー。塩加減が絶妙で、これがまたシャンパンによく合う。そして、サゴシの下には、浅蜊のリゾットが隠れているのである。二品目は美濃ポークのロースト。あっさりしているのに、丹精こめて育てられた豚特有の旨味がある。またたくまにグラン・シエクルが空いてしまう。ふう。なんてこった。しかたがないので、「ギィ・シャルルマーニュ」をグラスでいただく。至高のブラン・ドゥ・ブランである。デザートはチョコレートムースとココアのアイスクリーム。

th_IMG_3223th_IMG_3222

 泡は酔う。気持ちを心地よく蕩けさせてくれる。もうメインあたりから、呂律がまわらなくなっている。が、それはそれでいいのである。幸福である。口福でもある。Sさま、ありがとう。本当に泡まみれの夜でした。

 それはそれとして、今度新地に来たら、酔っ払ってしまわないよう薬師如来さまにお参りして行こう。

2015-10-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

南森町「宮本」

 「宮本」に関しては全月制覇を目論んでいるので、畢竟この店の登場回数は多くなるだろう。すでに5回目(第2夜、第67夜、第111夜、四回會)である。今回は正月編。といっても、もう松の内は終わっているのだが、そこはやはり日本の季節にとってひとつの節目になる大事な月である。メニューはそれなりに正月の気分に満ちているに違いない。期待感を携え店に向かった。

th_IMG_3174

 こちらの外観であるが、マンションの一階とは思えないしつらえで、玄関には信楽(たぶん)の大壺にいつも季節の花が投げ込まれている。今月は、南天に松があしらわれ、これは門松を意識してのことだろう。玄関に入る前からその季節のメッセージが感じられるのは、やはり和食の醍醐味である。

 ところで門松をたてない暮らしになって久しいが、今の小学生に聞いたらどれくらい知っているのだろう。宮本のすぐ南側には堀川小学校がある。ここは天神橋商店街という商業地のど真ん中にあるので、父兄の多くは商売に携わっている人も多いであろうから、こういう習慣は親が教えているだろうか。いや、もう門そのものがある家も少なくなっているし、この辺はマンションも多いから、きっと知らない児童の方が多いだろうなと想像する。天満宮も近いし、天神祭のときは神輿も練り歩く土地柄である。教師にとっては日本の文化を教える絶好の地であると思うけど、実際はどの程度教えているんだろう。私がもし教師なら、学校のすぐ北側のお店の玄関に飾っている花を毎月観察してごらんくらいは言うだろう。こういう素晴らしい文化をスルーしてしまうのはあまりにもったいないと思う。

th_IMG_3177

 さて、正月の宮本である。こちらでいつも楽しみにしているのが秋田の銘酒新政のナンバー6であるが、今回はお正月バージョンがあった。元旦搾り2015。純米の搾りたて生酒である。絵馬もついている。年の瀬から新年にかけて搾った生を元日に出荷するというめでたい酒である。こいつあ、春から縁起がいいわえ〜清冽な生の味わいである。まことに、まっこと、めでたい。

th_IMG_3175th_IMG_3178th_IMG_3180th_IMG_3181

 先付けは甘鯛の昆布締め。鶴の羽をかたどったこのめでたい皿はどうだ。赤い漆の盃と緑の釉が映えて何とも正月らしい風情に満ち満ちている。昆布締めももともとは正月の料理であろう。いい具合に熟成した甘鯛を生酒で味わう正月絶佳。よい心持ちである。次の一品は、このわたの飯蒸しである。ううむ、このわたとおこわ。相性が素晴らしい。そして真打ちのお椀は、こちらもめでたい扇が描かれたお椀で供される。蓋をあけると、白子のしんじょと筍、そしてどん、とどんこしいたけ。馥郁とした香りを堪能しながら、また一献。なんと美しい色合いであろう。造りは、淡路のハリイカと熊本の平目である。どこまでもねっとりしたイカとこりりと歯切れのよい平目の食感の対比。至福であるなあ。

th_IMG_3183th_IMG_3185

 扇面のうつわに重ねられているのは島根からはるばるやってきたもろこである。もちろん子を持っている。文句なしに旨い。この酢の加減がまたよい。酒も進む。お楽しみ八寸は、手前から姫クワイ、カラスミ、湯葉味噌漬け、田作り、黒豆、才巻海老、黒鮑の蒸したの、千社唐、イクラと蛤のみぞれ和えである。今年はちゃんとおせちをいただいていないので、たいへんに嬉しい。ひとつひとつ丁寧につくられてものが少しずつ寄せられた八寸、目にも絢で気分も華やぐ。この吹き寄せのようなアソートの方法は日本の文化そのものであるといつも感心する。

th_IMG_3184th_IMG_3186th_IMG_3188th_IMG_3189th_IMG_3192th_IMG_3193

 さて、まわりは黒漆、中央は溜塗にリズミカルなラインを入れたこの素晴らしいうつわ。はて、何が乗っていたのか。すっかり失念してしまっている。写真を撮り忘れるほど美味しいものだったに違いない・・・チェンジした日本酒は山形天童の山形正宗。この辛口具合はたまらない。手前の見込みに鐵と描かれたぐいのみは、私のお気に入り作家さんの作品。いろいろ浮気をしても何杯目かの日本酒のときには、結局これを手にとってしまう。古染付のうつわには、海老と湯葉、ほうれん草の炊合せ。お出汁はもちろんずずいと飲み干す。渋い唐津らしきうつわに入っているのは、富山の白海老とラディッシュ。ううむ。絶妙な味わいである。そして、阿蘇の赤牛のごはん。これも、迂闊にも取り忘れてしまった・・・デザートは苺とポンカンのゼリー。ブルーのガラス器が涼しげである。そして女将お手製のわらび餅とお薄をいただいて、正月のご馳走は終わった。

th_IMG_3194

 改めてもう一度、床を拝見する。お軸は「松風四山より来る」である。本日の心づくしをすべてありがたくいただいて、心のなかで深々とアタマを下げる。いつも丁寧な素晴らしい仕事をありがとう、宮本さん。

2015-09-25 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

学芸大学「チニャーレ」

th_IMG_3137th_IMG_3138

 学芸大学にすっごく美味しいイタリアンがあるの。一度行きましょう。ここ数年仕事を一緒にしているスタイリストのナカちゃんがいつも熱っぽく語る店。店自体がすごく狭いので入れる人数に制限があるうえ、めっぽう旨いらしいので予約を取るのが非常に困難なのだという。そして、何年か前、やっと予約が取れ出向いたのだが、さすがに噂に違わず素晴らしい料理の数々であった。こんな店が家の近所にあったらもうほとんど入り浸り状態になるであろうクオリティで、近くに住んでいるナカちゃんが羨ましいなと心底思った。

 その後、何度も予約にチャレンジして、2回ほど伺った。ところが、シェフの腕前をほしいと思う人はやはりちゃんといるもので、品川あたりにできる大きな店のディレクションをするとか、こちらをたたんでそっちに行ってしまうとか、いろいろな噂を聞いた。その準備のため、店を閉めている日も多いという。ナカちゃん情報によると、直接シェフに電話してOKな日を確認してからでないと行けなくなってしまったのである。しかし、これくらいのことであきらめたりはしない。何度も日程を調整しつつ、やっと久方ぶりにお邪魔することができたのである。

th_IMG_3113th_IMG_3114th_IMG_3116th_IMG_3125th_IMG_3124

 こちらの店はカウンター5席のみである。かなりぎゅうぎゅうになって座る。花が活けられたカウンターにはキャンドルが飾られ、所狭しと野菜や果物、生パスタなども置いてあり、壁面の棚にはグラスや旅の本が無造作に並んでいる。シェフがたまたま彼氏で、その彼氏のアパートのキッチンに遊びに来ている。そんな感じの隠れ家然としたコージーなインテリアなのである。そのうえ女性率がきわめて高く、わいわいやっているうちに仲良くなってしまう。いつだったか、私のことを知っているという女性がいて、私も見覚えのある顔だったので、誰だったかしらといろいろ思い出していたら、ここ数年ハマっているブティックに勤めている人だった。そういう偶然もある。実に楽しい。

th_IMG_3118th_IMG_3119th_IMG_3120th_IMG_3123th_IMG_3128th_IMG_3130

 その日のおすすめは黒板に書いてある。いろいろ料理の内容を教えてもらいながら、注文していく。今夜は、まずは青森産平目と鯛のカルパッチョからスタートである。ぷりぷりである。またこの付け合せの野菜が美味しいのである。空豆、菜の花、小さなクワイ。すでに皿の中には春が満ちている。二皿目はのれそれのアヒージョ。大好きなのれそれがオイルの中にたっぷりと閉じ込められている。ワインは「MOLIN」2012 LUGANA CaMaiol。すっきりしたアロマの辛口である。続いてはホワイトアスパラのソテー、カルボナーラ仕立て。たっぷりのパルミジャーノがかかっている。これをすっきり辛口で流し込む。ううむ。まっことシェフは天才である。シンプルなのに奥深い味。卵好きを唸らせるカルボナーラ仕立てとは。参る。参りまする。そして、黒板に書いているときから気になっていた毛蟹のセビーチェ。セビーチェとは魚介類のマリネで、柑橘系の果汁を絞っていただく一品。イタリアではなくペルーの郷土料理であるらしいが、ここは東京目黒区。北海道の毛蟹なんだから、もう日本のイタリアンになっている。それに、付け合せにわらびを持ってくるというセンスに唸る。で、本日のメインは、和牛のイチボステーキにした。この美しい立方体。カリカリのポテトチップスが肉の食感に軽快なオノマトペをプラスしてくれる。普段あまり赤を飲まない私も、これにはブルゴーニュの赤を合わせてしまう。

th_IMG_3133th_IMG_3131th_IMG_3136

大満足であるが、ここに来てパスタを食べないわけにはいかないので、雲丹のペペロンチーノを。ふふふ。これをペペロンチーノって言うのだろうかねえ。盛り沢山雲丹のパスタ、でいいのではないだろうか。それほど贅沢な雲丹の嵐である。当然、馬鹿馬である。パスタを堪能したら、どうしてリゾットも食べたくなって、空豆、菜の花、トマト、ゴルゴンゾーラのリゾットを注文した。春のエキスで炊いたお米。香りも、味わいも、鮮烈である。

 このレベルであるから、これからイタリアンレストランを経営しようかという人が目をつけるのは当然であろう。だけど、カウンター越しに料理の相談をし、調理する姿を見ながら手際のよさに驚き、出来上がった料理を食べてその旨さに仰天する。そんなライブな感覚は、やはりこの規模だからこそ楽しめる特別なエンターテイメントだと思う。できれば、いつまでもここでお店をやってほしいな、と願うのは私だけではないだろう。次はいつ来られるかな。後ろ髪を引かれながら、店を後にした。

2015-09-17 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

苦楽園「はた田」

 恒例のお誕生会である。前回は芦屋川の和食(第18夜)に連れてってもらった。今回は苦楽園なのだという。楽しみだな。

th_IMG_3071th_IMG_3072th_IMG_3073

 その店は、阪急神戸線夙川で甲陽線に乗り換え、苦楽園を降りた高級住宅街の中に突如として出現する。店の構えはあくまでさりげないのだが、灯りの演出といい、入り口のしつらえといい、気配そのものに凛とした研ぎ澄まされたものが漂っており、旨い料理を出す店であることは容易に想像できる。

 友人が予約を入れたとき、招待者の職業を問われたそうである。何故かと聞き返せば、同業の方同士重ならないようにという配慮だったという。プライベートであるし、悪企みをするわけでなし、重なったとしてもまったく問題はない。しかし、どれくらいの範囲で同業とするのだろうな。金融関係なら、大雑把に金融全般なのか。もっと細かく分けているのか。銀行同士は避けるとしても銀行と信用金庫は同席できるのか。街金と郵便局はありなのか。いろいろ考えると面白い。どういう基準で線引きしているのか機会があれば聞いてみたいと思う。

th_IMG_3074th_IMG_3075th_IMG_3080th_IMG_3077

 さて、本題。最初に出されたのは意表を突くひと品。この白いのは甘鯛と白子のグラタンである。和食好きを標榜しながらも、実はけっこうグラタンが好きなのである。白子とホワイトソース。多層な白に魅惑的な焦げ目のついた香ばしい味わい。これは、馬鹿馬である。第一投は、和食という期待を嬉しく裏切る変化球である。ガツンと一発。こういうので来られると、一気に引き寄せられますな。第二投も出された瞬間、え?何?というひと皿。アワビとブロッコリーを山椒と粒マスタードで和え、そこにどんこ椎茸を加え、銀杏の素揚げを添えている。はじめていただく組み合わせである。これもなかなかイケるのである。日本酒は農口。能登杜氏四天王である農口氏がつくる酒であるが、私はこの旨さを北陸で知った。(第127夜)。なかなか手に入らないと聞いているので、誕生日に出会えるとは運がいい。メインのお椀は、ズワイガニのしんじょ。茶懐石で出されるようなシンプルな黒漆のお椀にさりげなく入れられている。変化球二投が来て、やっと本気でストライクを取りに来たという感じである。スコーン、とど真ん中。しかもきわめて正統で、端正な味である。

th_IMG_3079th_IMG_3082

 お造りは古伊万里のような白磁の皿に盛られた松川鰈とヨコワ。鰈の肝、短冊に切られた山芋と芽葱も添えられている。この盛りつけもたいそう美しいし、色もきちんと計算されている。黒のお椀の深遠から、白の開かれた端正へ。ちゃんと美しい流れがある。お造り、もうひと皿はアオリイカと雲丹。こちらも白と雲丹の色の対比が鮮やかである。どの味も文句のつけようがない。旨い。

th_IMG_3081th_IMG_3084th_IMG_3085th_IMG_3086th_IMG_3088th_IMG_3089

 続いての皿は、タコとセロリのジュレがけ。菜の花と子持ち昆布。蕗の薹の天ぷらに厚焼き卵。まだ1月であるが、来る春を待ち望むかのような皿である。季節の先取り。これが和食であり、日本の文化なのである。まだまだ寒い季節だからこそ、やがて来るであろう春の気配に恋焦がれる。そこにまだないものの面影を感じる。日本の想像力とはかくも豊かなのである。美しい緑の織部には、笹がれいの若狭焼き。骨やしっぽはパリパリのせんべい状態になっている。若狭焼というのは、もともとはぐじ(甘鯛)などのうろこの細かな魚をうろこがついたまま焼くのをいうらしく、この笹かれいにも軽くうろこが残っている。軽く一夜干ししているのであろう笹かれいのほどよい塩気と絶妙な焼き加減が織りなす若狭の名物。あますことなく、きれいにいただいた。焼き穴子と大根、水菜とお揚げを炊いたので口中を爽やかにした後は、からすみ茶漬けである。賽の目に切られたからすみにあられ、海苔がすでに景色になっている。これをずずいと頂戴して、デザートの伊予柑ゼリーを楽しんだ。

 変化球を織り交ぜながらの堂々たる完投ぶり。すべてちゃんとミスすることなく受け止めた。こういう組み立ては、やはり和食でしかできない遊びであろう。まず季節がある。素材がある。そして、主題がある。その枠組みの上に、どんな「図」を載せるかは料理人の裁量であろう。そして、洋の素材や方法を使ったとしても、和食という確固たる「地」の上では、その軸はちっとも揺るがないのである。

 日本に生まれて、関西に住めて、ほんとうによかった。

2015-09-09 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

四十萬谷本舗「かぶら寿し」

th_IMG_3060

 金沢を訪れるのは春から新緑にかけてが多かった。ゴールデンウィーク後半に二泊ぐらいの予定でサッとサンダーバードに乗る。この季節はこの季節で、カレイや岩牡蠣、アジやイカも美味しいし、4月解禁の白エビや甘エビ、ガスエビなどもある。それはそれで、北陸でしかいただけない海の幸ではあったので、冬の金沢は意識の中からずっと抜け落ちていた。

 魚好きとしては、不覚としか言いようがない。蟹と言えば、関西では松葉や越前までで、加能蟹のことは思いも及ばなかったし、ましてや寒ブリのことなど想像もしなかったのである。寒ブリは関西でも流通しているので、じゅうぶんそれで満足していたのである。

 今回、松岡正剛師匠のおかげで冬の金沢に来ることができ、地元で食べる寒ブリの旨さを知ってしまった。そして、かぶら寿しがかくも私の味覚のストライクゾーンにハマるとは。表面に糀がついているし、若狭のへしこの類いであるとずっと思っていたのである(へしことは鯖の塩漬けをさらに糠で漬ける保存食。けっこう塩辛いのであまり好みではない)。ところが、はじめて、食べたかぶら寿しは、端正で上品なかぶらにねっとりしたブリの脂がからむ、極上の味わいではないか。端麗と濃厚。清楚な白と婀娜っぽい桜色。端正と華麗。かりりとまったり。山と海の幸の、まさしく幸せなまでの調和である。

th_IMG_2924th_IMG_3049th_IMG_3025

 まずは錦城楼のコースでいただき、ハッとした。近江町の魚屋さんでもその旨さを確認し、帰る直前のおでんやさんで念を押した。金沢駅で帰りのサンダーバードを待ちながら、名店街をうろうろしていると、目の前にかぶら寿しを売っている店があった。四十萬谷本舗。うん、名前からして旨そうではないか。 このかぶら寿し。馴れすしの一種で、もともとは北陸地方の保存食であった。四十萬谷本舗のホームページによると、藩政後期に「宮の腰というところの漁師が豊漁と安全を祈って正月の儀式のご馳走として、輪切りにしたかぶらにブリの切り身をさはみ麹で漬け込んだものを出しお互い味を競った」とも「前田の殿様が深谷温泉へ湯治に来られたときの料理のひとつとして出された」とも諸説はいろいろあるようだ。「金沢市史」には宝暦7年(1757)頃、年賀の客を饗応する料理として「なまこ、このわた、かぶら鮓」という記録も残っているのだそうだ。この三つは、今だってたいそうなご馳走である。海の幸に恵まれている土地でないと、そうそう食べられないものばかりである。

th_IMG_3061

 さっそく自分用と天皇バー用に買って帰った。舌の肥えた天皇バーのマスターも、常連のみなさんも、おおいに喜んでくれたことは言うまでもない。

2015-09-08 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

金沢おでん「大関」

 「かにめん」。

 ううむ、初めて聞く単語である。「かにめん」の「かに」は、どう考えても蟹であろう。めんとは、何か。金沢では、カニ漁が解禁になると香箱カニの殻に、カニから取り出した身や内子、みそをきれいに詰め直し、蒸し、それをおでんのネタとするのである。つまり、「めん」は面ということなのだ。

th_IMG_3051th_IMG_3050

 ハイパー企業塾の金沢合宿をいろいろお世話くださった方から幹事のW氏が仕入れた貴重な情報である。鮨はもちろん旨いに決っているのだが、金沢に来たらおでんもおすすめですよというサジェッションがあったのだと言う。そこで、塾終了後、まだ電車の時間があるという有志の面々と後帰りの連中で連れ立って、教えてもらった「大関」という居酒屋に繰り出した。が、しかし、予約でいっぱいで入れない。しかたなく、別の店に入ったのだが、ふっふ、私はまだ次の日夕方までは時間がある。5時から開くと聞いたので、翌日帰る直前に寄ってみた。

th_IMG_3048th_IMG_3049

 ひとりだったので、すぐさまカウンターに座ることができた。この手の居酒屋にひとりで来ることはほとんどない。もしかしたら、初めてかもしれない。メニューを見ると、ここはおでんも出すが、海鮮もどっさりあるではないか。寒ブリの食べ納めとばかりあるかどうか聞いてみると、がんどならあるという。かんどはブリの小さいのである。注文する。かぶら寿しも当然ある。注文する。あらら、鱈の白子もあるじゃない。注文する。お酒は何にしようかな。「すみません、日本酒は何がありますか」と聞けば、女将さんらしき人が、「ウチは大関しか置いてません」というではないか。そして、ハタと気づく。店の名前が「大関」なのだ。そりゃあ、大関しか置いてないわな・・・。ようがす。大関、上等だ。こういう店で飲む大関、それはそれで悪くない。

th_IMG_3043

 さてと、海鮮ものを注文した後、おでんがぐつぐついってるコーナーに見に行き、噂の「かにめん」を発見した。センターで鎮座している大きな丸いのは車麩である。その車麩の向こうに、「かにめん」がいる。左手前にも隠れてる。それにしても金沢のおでん、見た目がド派手で楽しいな。バイ貝も有名らしいし、銀杏が入っているのも珍しい。いろいろ悩んだ挙句、「かにめん」、豆腐、牛筋、平天を注文した。「かにめん」はさすがにスペシャル価格でたしか1200円くらいだったと記憶している。おでんとしては高いが、香箱蟹だと思えばリーズナブルともいえる。お味はというと、ううむ、身と内子、みそが渾然一体とおでんだしで煮こまれており、カニの高貴な香りは消えているのだが、おでんだしのファンキーかつ庶民的な味わいにカニがなじんでこれはこれで美味である。お箸で詰められた身を少しずつ殻からほぐしながら食するのである。合間に大関。またかにめん。で、大関、の繰り返しである。

th_IMG_3044th_IMG_3045

 こんな贅沢なおでんダネがあるなんて、ほんと知らなんだ。ま、想像するに、冬のあいだ茹でガニやカニ酢ばっかりじゃ飽きるので、ちょっとおでんに放り込んでみたらこれはこれでなかなか旨いやないか・・・てなとこから生まれたんだろうか。香箱ガニを一生懸命ほじほじするのは手間もかかるし、面倒くさい。それがあらかじめほぐされ殻に詰められた「かにめん」は、寒い冬にはこたえられないご馳走だろうと思う。

 そして、旅先の居酒屋で、その土地でしか食べられないものをそこの地酒できゅっと飲る。(今回は大関であるが・・・)今まで、さすがにひとりで居酒屋へはよう行かんかったが、もう大丈夫である。こういうのに味をしめると、旅も、普段も、もっともっと楽しくなりそうだ。

2015-09-02 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

近江町市場の「お昼ごはん」

 ハイパー企業塾合宿の集合時間は昼過ぎ。ちょうどお昼を食べての参加ということだったので、前乗り組で誘い合わせランチを食べにいくこととなった。集合は、駅前の日航ホテル。近江町市場は歩いて5分ほどである。冬のオンシーズンの金沢に来て、サクッとランチというシチュエーションで近江町市場に行かないわけにはいかないだろう。行くのは観光客ばかりとも言われるが、よいではないか。駅から近い中心地にこんな魅惑的な市場があるのである。冬の海の幸がここにはてんこ盛りなのである。

 近江町と書いて、地元では「おみちょ」と言うらしい。すでに元禄時代には今の原型ができ、文化年間には金沢の台所として賑わったという。その歴史は290年というから、江戸時代から金沢の胃袋を支えてきた堂々たる市場である。海鮮、海産はもちろん、鮨屋や丼屋、青果や加工品など約185店舗が軒を並べ、観光客でいつも賑わっている。

th_IMG_2885th_IMG_トップ

 適当な店にふらっと入って、サクッと海鮮丼をいただいた。寒ブリ、甘エビ、雲丹、蟹・・・。ちゃんとまっとうに美味しい味である。白海老の天ぷらというのもみんなでシェアした。これはこれで、じゅうぶん北陸の海の幸を堪能したという気分にしてくれる。なので、岡島さんと後帰りでもう一泊した次の日もやってきた。この後は帰るだけなので、ちょっと腰を据え、食べたいものをじゃんじゃん注文する。

th_IMG_3025th_IMG_3028th_IMG_3026

 寒ブリのお造り。ノドグロのお造りに焼き物。そしてかぶら寿し。今回感動したベスト3を全部注文した。それらをまだ午前中から熱燗と一緒に食すシアワセといったら!たぶん目の前の市場で売っているものを無造作に捌いてシンプルに出しているだけだろうけど、新鮮このうえない。名だたる鮨や割烹店が仕入れているものとは質は違うであろうが、こういう市場でわしわし食べる魚も実に捨てがたいと思う。

th_IMG_3031

 食後に市場をうろうろした。丸々太った寒ブリが、一本20,000円で売られている。食後なのに、これを捌いて食べたらどんなに美味しかろうと思う。よっぽど担いで帰ろうか、いや、適当に捌いてもらい保冷ボックスに入れれば持って帰れるな、とけっこう真剣に悩んだ。天皇バーに持って行きマスターに刺身にしてもらい、ついでに飲み仲間がいればみんなで食べられる。カマは煮付けにして、刺身で食べきれないのは醤油につけて次の日に焼いて・・・いろいろ妄想はふくらんだが、天皇バーが休みということもあり、ひとりでは食べきれないと断念した。が、こうしてあらためて写真を見ると、この太り具合はたまりませんな。来年のお楽しみにとっとこうと思う。うん、絶対。 

2015-09-01 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

ひがし茶屋街「みつ川」

th_IMG_トップ8

 土日を利用してのハイパー企業塾の合宿も終了。せっかくの金沢、前乗りは当然であるが、次の日も祝日なので終わってからも居続ける。いわゆる後帰りというやつである。ハイパー塾の幹事でここ3期をご一緒している岡島さんと、一緒に泊まって食事に行く約束をしている。夜の金沢で食事といえば当然鮨である。「みつ川」は日曜もやっている頼もしい鮨屋なのである。

 ハイパー終了後、何人かで別れを惜しみ、居酒屋で香箱がになどをツマミに、軽くは飲んでいる。ご一緒したOさんがこの後私たちが鮨に行くという話を聞きつけ、ぜひとも合流したいという。ううむ。この手の店で当日の席を確保するのは難しかろう。だけどせっかくのことだし聞くだけは聞いてみよう。

 予約は7時である。急遽1名なんとかならんかのリクエストに、7時から8時までの1時間だけならなんとかしましょうということになり、1時間だけでもご一緒することになった。ここは席数も少ないし、今やすっかり金沢を代表する鮨なので、カウンターは時間刻みでフル稼働のようである。当日受けてくれただけでも感謝すべきであろう。よかった、よかった。

 さて、昨年の5月以来(第71夜)であるから、8ヶ月ぶりである。

th_IMG_2983th_IMG_2984

 初っ端からタラの白子でが出てくる。うふふ。今やどこに行っても出回っている白子であるが、真冬の金沢でいただくものは鮮度と質がまったく違う。舌の上でとろりと婉然と溶けるのだ。その、ただただ至福の味わいに目を細める、唸る、感嘆する。お造り三種盛りは、平目、ヤリイカ、鯖。どれも素晴らしい活かり具合である。

th_IMG_2985th_IMG_2986th_IMG_2989th_IMG_2990th_IMG_2991th_IMG_2992

渋い唐津の皿に盛られているのは、コリコリしたカワハギに肝をまぶし、さらに葱を加えた極上の一品。黒龍が進むったらありゃしない。そして、当然のごとくノドグロの焼いたものが出てくる。これはもう冬の北陸では欠かせない定番であろう。お次は、北陸の至宝加能ガニと味噌である。うふふ。オンシーズンに来ただけのことはある。ズワイガニって、どうしてこんなに旨いんだろね。端正なのに、複雑かつ深い海の滋味。カニだけを丸ごと食べるのももちろん好きだけど、こうして美味しいところを少しずつ楽しむというのが、大人ならではの美食と言えるのかもしれない。続いて、下足をこのわたで和えた一品。このわたで和えるかな、普通。そうとう贅沢な大将の遊び心である。イクラは大根おろしとすっきりと。これでノドグロやカニの興奮を鎮めたと思ったら、カワハギにたっぷりの肝。ふひょひょひょひょ、だね。いけませんね。すでに黒龍の二合目が終わろうかという按排。そうこうしていると、ついに、ついに、フグの白子が出た。好物を三つあげよと言われると、一にアンコウの肝、二にフグの白子、三に雲丹というくらいのランクであるので、こうれはもう黙ってただただ熱いうちにいただく。香ばしさも完璧な一品。

th_IMG_2993th_IMG_2994th_IMG_2995th_IMG_2996th_IMG_2997th_IMG_2998th_IMG_2999th_IMG_3001th_IMG_3002th_IMG_3003th_IMG_3005th_IMG_3006

 いつもツマミを食べながら、もう少しゆっくり、じっくり味わいながらと思うのに、結局バクバクあっという間に食べてしまう。これをもっと大人の余裕で楽しめるようになることが目下の目標なのだが、まだ修行が足りないのかなかなかそれができない。と言いながら、握りに突入する。まず平目。ほどよくコリッとし、端然たる味わい。イカはいつものように大葉をはさみ三枚におろしたものをさらに細かく刻んでいる。これにより口の中ですぐさまふわりとイカの旨味が広がるのである。弥助にインスパイアされた技が訪れるたびにどんどん洗練されていっている。炙った鰆は、香ばしさと上品さが絶妙なバランスを保っている。甘エビのぷりぷり具合とねっとり濃厚な味わいも、格別。そして、寒ブリ。ああ、冬に来てよかったとしみじみ思うデリシャスさ。身はゴリゴリの筋肉質なのに、そこにサシのような脂肪がバランスよくついていて口の中ですーっと溶けていく。つぶ貝もイキがよい。コリコリ。赤身、アジ、コハダの定番たちも間違いのない味である。そして炙ったのどぐろにいたっては、もう言葉がない。やっぱり冬の脂の乗り方は半端じゃないね。巻物をいただいた後に、パリッとした表面に塩をぱらりと振った穴子、とろとろになった雲丹で〆る。

 いつ来ても、エッジの効いたツマミと握りである。金沢という天然の旨い魚に恵まれた土地と、大将の腕の相乗効果による高次元の鮨イノベーション。ここにしかない鮨という意味では、やはり夜のナンバーワンである。今回の金沢ではずーっと行きたくてやっと念願かなった店(第172夜)もあったが、ここはもはや私にとっては金沢の夜のホームグラウンドのような店である。一泊しかできない場合は、やっぱり迷わずここに来るだろう。

2015-08-28 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

金沢主計町「太郎」

 ハイパー塾二日目のお昼ごはんは、ひがし茶屋街のすぐ近く主計町にあるなべ・割烹料理の「太郎」に集合となった。このあたりも料亭や茶屋が並ぶエリアで、古都金沢の面影を色濃く残している。こちらは、なべなら金沢随一との呼び声高く、秘伝のだしと日本海の新鮮な魚貝や地場の野菜でつくる寄せ鍋が絶品であるという。

th_IMG_2956th_IMG_2957
 
 二階に上がると、すでに鍋の準備ができている。みんな好きな場所に陣取り鍋を囲む。寄せ鍋の具材は、鯛、鱈、牡蠣、鶏肉、鶏団子、筍に銀杏、しいたけにえのき茸、葱に菊菜に白菜と、盛りだくさんである。仲居さんがすべて取り仕切ってくれる作法となっており、頃合いを見計らい取り分けてくれるので、気分はお大尽。だしは秘伝というだけあって、薬味なしでじゅうぶんに美味しい味である。

 部屋の中は鍋の湯気で暑いくらいであるが、外は雪景色である。そのうちに、ゴロゴロドーンと大きな音で雷が鳴り始めた。長年こちらで働いているという年配の仲居さんが、「ああ、ブリ起こしやねえ」とおっしゃる。「何ですか、ブリ起こしって」と聞けば、この季節に鳴る雷のことをこの土地ではそう呼ぶのだと教えてくれた。「これが鳴ったら、大雪になるね。風も強くなってねえ」ともおっしゃる。

 ブリ起こし。

 初めて聞く言葉である。12月から1月にかけて、ブリの穫れる時期に鳴る雷のことをこう呼ぶのである。これが鳴ると、風も雪もどんどん強くなるのだという。そして、ブリ起こしと呼ばれるくらいであるから、この雷の音で海の底の方にいたブリが驚いて網にかかると信じられているのである。実際、この時期が寒ブリのまさにシーズンなのである。

 やがて、本当に雪が激しくなってきた。風も強くなり窓をガタガタ鳴らす。だが、ブリ起こしが鳴るということは、寒ブリが大量にやってくるという合図でもあるのだ。脂がたっぷりのったブリがいちばん旨い時期。漁港はブリ漁でおおいに活気づくのだろう。

 気象をあらわす言葉が、風土や生活に密着している。このような土地にこそ、四季折々のほんとうの生活というものがあるのだなと思う。北陸の滋味がたっぷりしみだした鍋を食べながら、そんなことをしみじみと考えた。

 来年もブリ起こしを聞きに、そして脂ののったブリを食べに、金沢へ行きたいと思う。

2015-08-25 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

金沢「金城樓」

th_IMG_2910

 料亭「金城樓」はひがし茶屋街のすぐ手前、浅野川にかかる大橋の手前にある。隣の大樋美術館へは金沢を訪れると必ず行くので、いつも前は通っている。見るからに豪奢な建物で、料亭でありながら旅館でもあるとは聞いていたが、値段も値段だしあまり食指が動かなかった。

 今回のハイパー塾の晩餐はここで、とのことである。なんという豪勢さであろう。玄関に立ち驚いたのは仲居さんが黒留袖を着ていたことである。一人や二人ではない。全員が着ているのである。黒留袖というのは既婚のご婦人の正装で、素人は身内の結婚式のときにしか着ない、着られない着物である。だが花柳界では、お正月の正装としてはもちろん、舞妓さんから芸妓さんになったときにも正装とし着るようである。あと「お化け」という風習。花柳界を舞台にした小説などを読むとけっこう出てくるのであるが、節分には邪気払いの習慣として「お化け」を模した衣装で邪気を払う風習があるようで、このときの正式な装束も黒留袖だという。

th_IMG_2912

 金城樓では、松の内のあいだは仲居さん全員が黒留袖を着る習わしであるという。我々塾生たちは雪国での合宿というので、防寒第一にダウンコートにブーツ、ジーンズなど、みんなおもいっきりカジュアルな服装で来ている。いくら大広間での食事とはいえ、黒留袖に相対すのが普段着というのは非常に忝なく、申し訳なく思う。

 さてと。一年前にも書いたが(第21夜)、いくら仲居さんが黒留袖の正装であろうと、場が金沢随一の料亭であろうと、勉強に来ているので酒は飲ませてもらえない。そのことはよくわかっている。わかっているつもりである。食後には講義もある。よくわかっている。

 そこで、おちゃけの出番である。ううむ、日本酒をこんなふうに湯呑みにどぼどぼ大胆に注いで飲むのは素敵。そういう気分になりながら、お茶で酒の妄想をする。想像力さえあれば、それはそれで楽しいのである。

th_IMG_2915th_IMG_2916th_IMG_2917th_IMG_2919th_IMG_2920th_IMG_2924

 冬の金沢のご馳走。なにしろ松の内であるし、仲居さんは黒留袖の正装だし、まことに晴れ晴れしい。八寸には「立春大吉」と書かれた短冊が添えられている。五目豆、昆布巻き、数の子、紅梅梅、田作り。お正月気分満載である。お椀の蓋にも富貴長命と書かれている。こういう言葉は縁起物で、いつまでも健康で、長く富貴を謳歌できますようにという願いがこめられている。自分でもそう願いつつ、蓋をあけるとくわいの真丈にお餅。白と赤と緑のコントラストが黒塗りの漆になんと映えることか。金沢のお出汁はもちろん関西風である。すーっと染み渡る滋味。お造りは寒ブリ、ヤリイカ、すずき。盛られた皿にも文字が書かれてい、お造りに隠れているがこれは福という字であろう。使ううつわひとつひとつにも、新春のめでたさを寿ぐメッセージがある。煮物は能登産の合鴨を使用したという治部煮。金沢名物である。小麦粉をまぶした鴨と金沢のすだれ麩、きのこなどを、濃いめのとろりとしたたれで煮た一品。わさびを添えているのも特徴である。名前の由来は諸説あって、治部右衛門某が持ち込んだとか、じぶじぶ煮るからからだとか、鴨を使うからジビエがなまったとか。どれもそれらしいけれど、定かではないようだ。面白い。続いて名物のかぶら寿司である。私はずっと若狭のへしこのたぐいだと思っていて今まで食べたことがなかったし、冬のオンシーズンに来たこともなかったので今回はじめて食べたのだが、これには素直に感動した。蕪を塩漬けにし、そこへ塩漬けにしたブリの切り身を挟む。これを人参や昆布と一緒に糀に漬け込み発酵させるのである。カリカリした蕪の間に旨さをねっとり熟成させたブリが存在を主張する華やかな一品。さすがにこれをおちゃけでいただくのだけは、辛かった。酒の肴としては最高の部類に入るであろう。あつあつのごはんでも行けそうだし、深夜の茶漬けにもチャレンジしてみたい。

th_IMG_2923th_IMG_2925th_IMG_2927th_IMG_2929

 焼物は、柳鰆の照り焼き。柳鰆というのは、瀬戸内海で獲れるあの鰆ではない。こちらで揚がるのはカジキマグロで、それをここでは柳鰆と呼ぶのである。これに気づいたのは何年か前に近江町市場の鮨屋に行ったときのことである。壁に貼られた短冊のリーズナブルグループのかたまりの中にサワラとあり、イカとか下足と同じ値段がついていたのである。これはおかしい。あのサワラの地位がこんなに低いなんて。職人さんに聞いてみると、ああこっちでサワラと呼ぶのはカジキマグロのことです、と教えてくれたのである。もちろん、カジキマグロであったとしても、味はけっして悪くない。蓋物は加賀野菜の七福神蒸しである。加賀蓮根、くわい、加賀芹、一本葱、五郎島金時、源助大根がこの蓮根のすり流しの下に隠れている。食事は天然ヒラタケと原木しいたけの炊き込みごはん。デザートは苺、キウィ、杏仁豆腐、黒蜜ゼリーの入ったフルーツポンチ。

th_写真[1]th_写真[2]th_写真

 大満足のご馳走であった。料亭の座敷や調度品に、仲居さんの黒留袖の裾模様に、料理のテーマやうつわのすみずみにまで金沢独特の美があふれていた一夜。この後、ゆるゆると別室に移動したのだが、そこにはまた別の至福が待っていた。アーティスト・ミヤケマイさんの極上の掛け軸である。ハイパー塾今期のテーマが「アートとサイエンスのあいだ」であるので、美の都金沢にふさわしいゲストとしてミヤケマイさんが師匠のお眼鏡にかなったのである。

 いやあ、お酒を我慢するとこういう眼福に出会えるのである。

2015-08-20 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

金沢「乙女鮨」

th_IMG_2856th_IMG_2858

 5年越しである。金沢に来るときは、まず「小松弥助」の予約をする。そちらが取れれば、夜は「みつ川」をキープする。たいていこのセットが整い次第金沢に来るのだが、二泊すると翌日も鮨には行けるのでここ「乙女鮨」も何度もチャレンジしていたが、ずーっと駄目だった。そもそもが、日曜休みであるので、チャンスは土曜の夜しかないのであるが、これが実に狭き門なのである。

 今回は、松岡正剛師匠率いるハイパー企業塾の合宿である。11月にはすでに予定が発表されていたのですぐさま予約した。さすがに二ヶ月前なので余裕で取れた。さて面子はどうしよう。

 幹事組のみなさんをお誘いしたのだが、おひとり以外からははかばかしい返事が得られない。そうこうしているうちに、他の留年組からぜひとも鮨をご一緒したいというお声もいただき、予約していた4席がめでたく埋まった。

 いよいよ当日。現地集合である。こちらのお店は金沢の繁華街である香林坊から少し入ったところの路地のどんつきにある。教習所にあったようなクランク状になったところの最初の角でタクシーを降り、路地を真っ直ぐに進むと入り口がある。灯りに浮かび上がる建物は、さすがに金沢の有名鮨といった良い風情である。ガラリ。こんばんは。お、一番乗り。しかし、すぐさま全員が揃う。さすがに企業人のみなさまは、ちゃんと定刻には来られる。

th_IMG_2868th_IMG_2859

 さてと。日本酒のメニューだけでも見応えがある。とくに左側のふたつ。手取川の古々酒大吟醸と菊姫のBY大吟醸。古々酒大吟醸は三年寝かせた熟成酒。BYというのはBrewery Yearで醸造年を意味するらしい。今年のBYは平成24年の酒造年度であるかな?一年ものの若い大吟醸、数量限定なので、なかなかお目にかかれないレア物らしい。まろやかな年増にするか、フレッシュな乙女にするか。うーん、迷う。が、ここは乙女鮨。まずは乙女を味見してから、年増へと行くのが順番であろう。

th_IMG_2860th_IMG_2861th_IMG_2862th_IMG_2863th_IMG_2865

 さて、乙女のツマミ攻撃はというと。初っ端は平目であります。コリコリ。活かってる。続いて立派なアカイカ。パラパラと胡麻と塩が降られている。そして軽くシメた鯖。この三品だけで、ここが紛れもない名店であることはすぐにわかる。色鮮やかな九谷に乗っているのは、ヨコワとつぶ貝。ヨコワのフレッシュさと言ったらどうだろう。貝は塩でいただく。ゴリゴリの食感。そして、待ってました。こういうの大好きなんですが、カワハギを肝で和えた一品。うーん。このへんから魚卵とか肝責めのうれしい予感がする・・・

th_IMG_2866th_IMG_2867th_IMG_2870

 もういっちょ、待ってました!これは、そうそう大好物のタラの白子。フレッシュで清楚で、だけどその奥にとろとろの濃厚さを秘めている。そしてノドグロの焼き物。旨いっ、旨いっ、旨いっ。ああ、ノドグロよ。錦織圭も好物というあのノドグロ。昔は日本海側に住む人だけの密かな楽しみだったであろうこの魚も今や全国区。(余談だが、ケイが日本に帰ったら何したいですかという問いに、ノドグロ食べたいと言ったおかげで今年はノドグロの値が高騰しているのだそうだ。金沢のいろんな人から聞いた・・・)続いて出されたのは、寒ブリのカマ。いえね。冬の金沢の至宝が蟹とブリであることは知っている。どちらも大好物である。しかし、金沢で食べる寒ブリがこんなに素晴らしいとはいまだかつて想像したことすらなかった。氷見のぶりは冬の関西ではわりと流通しているし、鮨屋でも出される。しかし、さすがに目の前の漁港で揚がった寒ブリの旨さにはかなわないことを身を持って知る。なんだ、このブリは。みっしりと滋味のつまった肉厚の身。蓄えられた脂肪の層が連なって、煮られてなお、こちらを攻撃してくるのである。これだけでも、来てよかったとしみじみ思うのである。

th_IMG_2871th_IMG_2872th_IMG_2873th_IMG_2874th_IMG_2875th_IMG_2876

 いよいよ握りの部に突入である。まずは甘エビ。美しいエメラルド色の卵が乗っている。まったり甘く、とろりと舌の上で溶けていきながら、独特の余韻を残す。ううむ。続いて、平目の昆布締め。これも並大抵の仕事ではない。旨い。そしていよいよ真打ち登場である。冬のダイヤモンド、加能蟹。(加賀と能登で獲れるから頭文字をとってこう呼ばれている。いわゆるずわい蟹です。これが越前で水揚げされると越前蟹、山陰なら松葉蟹、間人なら間人蟹と名前が変わるのである。)味噌をさりげなく乗せてあるのを見るだけで涙が出そうである。軽く炙ったノドグロはこれもいかん。いかんぜよ。コハダが出てきたのはご愛嬌であるな。ま、コハダの酢で、興奮状態のアタマと舌を休めるという意味があるのだろうか(笑)。いや、そうではなかった。これは、次に出されるもうひとつの真打ちの脂を最大限に楽しむための大将の用意周到な戦略であった。そう、出されたのは脂まみれのブリ。お腹のゴリゴリのとこ。うほほほほ。わざわざ金沢まで来たご褒美であるな、この味は。蟹、ノドグロ、ブリ。冬の金沢のゴールデントリオであります。こんなに美味しいものが目の前で獲れるのである。金沢にはやはり蟹の解禁後の冬に来なくっちゃ。今まで、5月ばかりに来ていたこの年月を少し後悔するが、そこはそれ。こうして違う季節に来ると、古都がまたひとつ胸襟を開いてくれたという気がするのである。

th_IMG_2877th_IMG_2878th_IMG_2879

 しかも。この日、前日になってやっぱり鮨が食べたいと言い出したハイバー幹事のW氏約一名。乙女鮨の予約は今さら人数も増やせず、後ほど二軒目で合流ねということになっていたのだが、カウンターのお客様が一組早めに帰ったのである。大将に聞けば、今からでも大丈夫というので、電話した。喜び勇んで駆けつけたW氏。高速で至福の鮨を堪能し、感激の様子。いやあ、よかった。この素晴らしさは共有した人でなければわからないものね。シメにトロ鉄火をいただいて、焼き目も香ばしい穴子でフィニッシュ。薄味の赤だしもたいへんに美味であった。

 翌日、松岡師匠に「昨日、鮨はどこ行ったの」と聞かれ、「乙女鮨です」と答えると、「金沢は弥助か乙女らしいね」とニヤリ。ええ、師匠。鮨ですから、私、ハズシませんとも。心の中で私もニヤリとほくそ笑んだ。

2015-08-18 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

大阪中崎町「入道」

th_IMG_2832

 この店、昔は堂山の交差点をすぐ入ったところにあった。最初に連れて行ってもらったのは、もう30年ほど前になる。おいしい魚を中心に食べさせる高級サラリーマン御用達の店という雰囲気に満ちており、店内はグレー一色。圧倒的にスーツを着た男性客中心の店であった。ふぐをカジュアルに食べさせることでも定評があった。東京の友人を連れて行くと、みんな感動してくれた。ふぐの皮を白子で和えたものなど、当時の東京ではよほどの高級店でしか出なかっただろう。まだ、そんなに出回っていない頃に水ナスの美味しさに目覚めたのもこの店である。最初は背伸びして行っていた店も年を重ねるにつれ、だんだん自分の「分」というものに近くなり、やがて肩のこらない旨い店としてリストに入れられるまでになっていた。

 ところがある日忽然と店が消え、移転したという情報を耳にした。今の場所に移り、リニューアルしたのである。お魚(おとと)三昧というキャッチも店名の前についた。10年ほど前のことである。新しい店は、中崎町の路地の奥にあって、入り口だけ見ると隠れ家のような佇まい。ところが、ガラリと引き戸を開けると、中は広々としたオープンキッチンのまわりをカウンターが取り囲み、テーブル席もゆったりしている。和食というよりは、フレンチレストランのようなモダンな空間である。

 料理は基本、変わっていない。その日の一品一品を、大将が個性的な達筆の筆文字で書いているところも昔と一緒である。だけど、料理のダンドリや大将の包丁さばきをカウンターから見られるようになり、料理を待つ間ワクワクさせてくれる。移転してからも、そう頻繁ではないが、時折思い出し伺っている。昔から日本酒の品揃えも充実しており、ブレイクするずっと前から獺祭の発泡したものとか普通に置いていた。しかし、これはまもなく消えた。(理由を女将さんに聞いてみると、発泡しているので誰もいない深夜に勝手に栓がポンポン抜けるのだそうである。たしかに、それはちょっとまずい。だけどその様子を想像したら、なかなか愉快な光景ではある。)

 年明けてすぐ、アメリカから友人が帰省しているというので、四人ほどで集まり食事することになった。場所をまかせられ、思いついたのはここである。

th_IMG_2824th_IMG_2827

 コースを頼むと、大将手書きの絵献立が手渡される。これを眺めるだけでも、期待値が上がる趣向である。日本酒を注文すると、黒豆と苺を白酢で和えた一品がまずやってくる。この洒落た一品の写真を取り忘れたのが残念であるが、黒豆と苺という取り合わせで軽いジャブをくらったという感じになる。お椀は、ふぐのあら汁。ふぐのヒレをあぶったものも入っているし、隠し味にはベーコンまで入った個性的な一品。ふぐの香ばしさはちゃんと活きている。普通はふぐにベーコンとは思いつかない組み合わせだろう。このセンスが、大将ならではのクリエイティビティなのである。これがまた、日本酒と相性がよい。

th_IMG_2829th_IMG_2830th_IMG_2831th_IMG_2833th_IMG_2834

 お造りは、ふぐのぶつ切りと冬の七草を混ぜたもの。本日は七草なのである。関西の和食はこういうところは絶対外さない。本日はそれにマグロ、イカ、平目。縁側のコリコリ具合がたまらない。続いて、パリっと炙った海苔の上に、帆立のつけ焼き、さらに雲丹を乗せた一品。海苔でくるりと巻いて、磯辺焼きのように食べる一品。アメリカに住んでいる友人もこういうのは大喜びである。備前の大皿に乗っているのは、皮をパリパリに焼いた鯖。一見普通の焼き鯖のようであるが、これがめっぽう旨い。脂がのった鯖の生命力が漲る素晴らしい一品である。大根でくるりと巻いた中身はもろみ。これがまた鯖と合うのである。次の一品は、冬の根菜白味噌煮。堀川ごぼう、丸大根、えび芋、こんにゃく、人参、玻璃草それぞれが、しっかりと存在を主張している。まだ正月開けであるから、これは関西風の白味噌雑煮を彷彿とさせる。そして、おしながきにお楽しみ?と書いてあった一品は、えび芋と先ほどの鯖のフライである。細かなパン粉でカラッと揚げられた鯖に、レモンをきゅっと絞っていただく。うーん、これも実に素晴らしい。

th_IMG_2836th_IMG_2837

 シメは牡蠣雑炊であるが、このぷりぷりの牡蠣をごろうじろ。なんとも立派な一品ではないか。雑炊と名はついているが、ごはんはほとんど見えず、牡蠣のスープのようである。いやあ、贅沢な一品。大満足の新春コースであった。デザートは、バナナのアイスと金柑。この特製バナナアイスがまたまったりとしていて馬鹿馬なのである。

 久しぶりの入道。大阪の割烹料理はやっぱりええわ。旨いのに、どこか庶民的。それなりのしつらえなのに、緊張しない。かしこまらないし、気取ってないし、ゆったりくつろげる空気感。こういう店は大事にしないといけない。

2015-08-17 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

最後の「エッグベネディクト」

th_写真[1]th_写真[2]

 Park Hyatt の寝室は西を向いているのだが、強烈な朝日が入る。何故かというと、お日様が摩天楼のガラスに反射してまっすぐに部屋を直撃するのである。これは凄い。逆反射する朝日を浴びるという、マンハッタンでしか体験できないゴージャスな朝。フライトは正午近いので、10時過ぎにホテルを出れば余裕で間に合う。せっかくのスイートルーム、ルームサービスで朝食を摂ることにする。いや、本当は斜め向かいのNoma’sでもう一度パンケーキのエッグベネディクトを食したかったのではあるが、千夜千食のためにも違うのも食べておかなきゃということである。

 169夜には書かなかったが、昨夜ちょっとしたトラブルがあった。まず、昨日部屋を出て行くときにドントディスターブランプをつけたままにしたことに気づき、一階のレセプションで消し忘れただけだから部屋は掃除しておいてねと伝えたのにもかかわらず、夜帰ってきたら部屋の清掃がなされていない。まもなくパーティでみんなが来るので、タオルとアメニティの補充だけをしてもらった。これだけでもホテルとしては失態であるのに、昨夜はもうひとつイライラする出来事があったのである。みんなでシャンパンを飲んだり、料理をいただくので、グラスとお皿、それにナイフとフォークのセットをルームサービスで頼んだ。電話で対応してくれた男性は、グラスは何に使うのか?と詳細に聞いてくれ、シャンパンとワインの両方飲むならそれぞれ違うグラスがいるね、など気の利いた対応をしてくれ、おおさすがと思っていた。ところが、部屋に届くまでに信じられないくらいの時間がかかったのである。ほとんど一時間。途中何度か電話でプッシュするのだが、もう出ると返事はいいのだが、いっこうに動いてくれない。料理のセッティングが終わっているのに、なかなか乾杯できずみんなイライラ。やがてやってきたおじさんは、ワイングラスを持って来てないし、なんだか要領を得ない。結局、二度往復してもらい、それにも信じられないくらいの時間がかかったのである。

 思うに、電話に出るレセプションの人間はおそらくハイアットの生え抜きであろう気の利いた対応をするのだが、それを実施するルームサービスサイドとの連携がうまく取れていないようなのである。テキパキと洗練された様子と、やる気のないレイジーさの対比がくっきりと浮き彫りになる。アタマとカラダの連携プレイができていない。オープンやリノベーションラッシュのニューヨークのホテルはもはや供給過剰なんだろうなあと思う。実動部隊の教育が行き届いていないから、ハイクオリティな対応がキープできないのである。東京のホテルでも似たようなことはよくある。とくに新しいホテルほど同じような問題を抱えている。

 そんな状況で、そんなにゆっくりも待てない朝食のルームサービスは少し心配でもあったが、15分ほどで迅速に持って来てくれた。運んでくれた人も昨夜とはうってかわったきびきびした物腰で、朝と夜では印象がまったく違っていた。

th_IMG_2751th_IMG_2752

 肝心のエッグベネディクトは、軽めのボリュームで申し分がない。サラダの量も少なめで、卵好きとしてはポーチドエッグだけを堪能できるので、さくっと食べたい朝食としてはすこぶるよい具合なのである。白い皿に盛りつけている様も、非常に洗練された印象だ。こういう引き算された洗練こそがハイアットスタイルであろう。何より贅沢な付け合わせは、ビルの谷間から望むセントラルパークの風景である。コーヒーを二杯いただき(部屋で煙草吸いたかったなあ・・・特別に200ドル払うと吸わせてくれるという。部屋のクリーニングのための代金であろう。さすがに、そんな根性も金もないけれど・・・)、ゆっくりしたところで、チェックアウトした。

写真[14]

 最後に、振り返って部屋を眺める。タマミちゃんが持って来てくれた花が、二日間目を楽しませてくれた。さよなら、ニューヨーク。また来年。

2015-08-11 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

パーティ@Park Hyatt NY

写真[13]写真[11]

 ハイアットグループのゴールドパスポートという会員になっている。秋頃に、ポイント交換でNYにできたばかりのPark Hyattのウエストサイドスイートに泊まれるというオファーがあり、ポイントを使い果たせばちょうど二泊分の予約ができることに気づいた。もちろん、通常の二泊分の宿泊料はかかるが、その料金で普通なら絶対泊まれないPark Hyattのスイートに滞在できるなら、これは是が非でも体験しておきたい。

th_写真[2]th_写真[1]th_写真[5]th_写真[4]th_写真[3]th_写真[6]

 チェックイン当日、最初は低層階に案内された。スイートであるから部屋は素晴らしいのだが、隣のビルの部屋が見える。これじゃあせっかくのPark Hyatt、泊まる意味がない。高層階のリクエストもしている。拙い英語でなんとか高層階へ変えてもらい、そちらの準備が整い次第荷物を入れてもらうことにし、街へ出かけた。夕方、ホテルに戻り、部屋に案内され、ひとり歓声をあげる。ビルの谷間からセントラルパークが見える。寝室からは摩天楼が見渡せ、カーテンをあけたままにし電気を消せば夜はマンハッタンの夜景に包まれる。お風呂からの夜景も期待できそう。そうよ、これ、これ。求めていたのはこの景色。そしてはた、と気づく。今までは、ヒップなホテルを追い求めていたので、どうしてもSOHOとかNoMad、ロワーイーストサイドというロケーションが多かったが、NYにはこういった典型的なパークビューホテルというのもあるのだ。昼間はセントラルパークの景色を眺めながら、夜は摩天楼の夜景を楽しむ。こういうベタさを昔は嫌っていた。が、歳とってくるとオーセンティックなものも悪くはないという気になってくる。いや、むしろ、この歳だから泊まってみたい。王道スタイルを余裕で楽しむだけの年季は重ねてきている。摩天楼の帷に包まれて眠るなんて、マンハッタンでしか体験できない贅沢であろう。

th_IMG_2738th_写真[10]th_写真[9]
 
 NY最終日はいつも現地に住む友人たちと食事をするのだが、今回はこの素敵な部屋でシャンパンパーティをすることとなった。タマミちゃんは家の近所にあるというゼイバーズでおいしいスモークサーモンや生ハム、イクラなどをしこたま仕入れ、洗面所を使ってオードブルをじゃんじゃん作ってくれる。家から漆のうつわまで持ってきてくれたのでテーブルはかなり本格的である。フィッシュもシャンパンや美味しいパスタを調達してくれた。ホテルの部屋にそれなりにスペースがあれば、気兼ねなくくつろげるし、酔っぱらっても横にベッドがあるし、とにかくゆっくりできる。そして、窓から見える摩天楼の夜景がなによりゴージャスである。大人になると、こういう楽しみ方もあるのねとしみじみとする。

写真[5]写真[7]

 もともと仕事で知り合った彼女たちであるが、以来20年以上もこうして途切れず友情が続いている。年齢も趣味も嗜好もそれぞれ違うが、唯一共通しているのは仕事がライフスタイルの中にあたりまえのように組みこまれていて、好奇心や向上心を磨きながら経験を積み重ねて来た結果がそれぞれの個性を創っているという点だ。会うたびにいろんな刺激をもらうし、現地だからこそ聞ける情報も教えてもらう。彼女たちにも、私から刺激を受けることが少しでもあればいいなと思っている。

 今年も一年お疲れさまでした。来年も変わらずよろしく!!

2015-08-10 | Posted in 千夜千食 | Comments Closed 

 

Noma’s「エッグベネディクト」

th_IMG_2620

 セントラルパークにほど近い56丁目。5thと6thの間にそのホテルはある。ロビーを入って(56丁目から)奥左手に、朝食で名高いNoma’sがある。というより、帰国する前の二日間だけ泊まったホテルの斜め前にそのホテルがあることを発見した。ル・パーカー・メリディアン。そして、遠い記憶の中でここの朝食がとっても美味しかったということを思い出す。昔は行列に並んでいたが、最近はネットで予約できる。前日の夜にチェックすると8時の予約が取れた。その時間に出向くと、ちゃんと席があるというのはいい。

 ここはエッグベネディクトだけでなく、パンケーキのバリエーションが充実しているのに加え、フレンチトーストやクレープなど魅惑的なメニューがいっぱいある。が、どれも信じられないくらいのボリュームで、しかもクリームやフルーツやシロップてんこ盛り状態。こんなの毎朝食べていたらそりゃあ肥満体になるだろうと思わせるようなものばかり。注文には細心の注意が必要なのである。

th_IMG_2621

 テーブルにつくと小さなスムージーを持って来てくれる。絞りたてのオレンジジュースもおかわり自由である(量が多いのでおかわりは無理であるが)。それにコーヒーを飲むだけで、少食な人ならおなかがいっぱいになるだろう。メニューを眺めながらさんざん悩んだあげく、エッグベネディクトにした。卵がないとやっぱり朝は始まらない。

th_IMG_2625

 やがて運ばれて来たエッグベネディクトは堂々たる威容。スプラウトらしき野菜とジャガイモがゴロゴロしているのが一見ヘルシーに思えるのであるが、それがカロリーを上げるのに一役買っていることは間違いない。そのかわり、オランディーズソースはわりあいさっぱりしており、ちょっと安心する。ま、安心するとは言っても、総カロリーはたいそう高いと推察される。ここはアメリカである。そんなことで怯んでいては、美味しいものにはありつけない。さて、いただくとしようか。卵の真ん中にぐぐっとナイフを入れると、あれ、下の台はマフィンではなくて、ふんわりしたパンケーキなのである。

 つまり、ポーチドエッグやハムを味わいつつ、Noma’s名物のパンケーキもいただけるという寸法。これは凄いと思いませんか?せっかくニューヨークに来ているのだから、名物パンケーキは食べたい。だけど、パンケーキだけだと甘ったるくて朝ごはんとしては満足できない。卵やハムをサイドオーダーしてもいいけど、それはそれで量が多すぎる。そんな優雅な迷いをこのひと皿が解決してくれるのだ。それにマフィンよりパンケーキの方が、口当たりもソフトで、このさっぱりめのオランディーズソースともよく合っている。そういうことも計算済みでこのメニューが組み立てられているのであろう。美味しいだけでなく、よくできていると感心する。

 久しぶりのNoma’sの朝ごはん。パンケーキのエッグベネディクトがある限り、私はきっと来年もここに来るだろう。

2015-08-04 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

DOMINIQUE A「クロナッツ」

th_IMG_2633

 一昨年、ニューヨーク行きの機内誌で目にしたクロナッツ。その記事は、すでに超人気で朝の6時から並ばないと買えないとか、代行で並ぶビジネスが流行っているとか、店を開けたら15分で売り切れるとか、そんなことを伝えていた。ニューヨークの友人も食べたことがないというのだが、ひとりヘアメイクのタマミちゃんだけは、一度撮影現場で口にしたことがあるという。評判どおり、とても美味しかったらしい。そして、手に入れるために朝早くから並ぶのは本当で、並んで買った人が一個100ドルで転売しているらしいという噂もあるようだ。一日の販売数は限定200個。

 こういう話を聞くと、なんだかメラメラとチャレンジ魂のようなものが燃えてくるのである。だけど、朝の6時にSOHOのSpring Streetまで行くだけでも、気が遠くなりそうである。年末である。その時間帯なら気温は間違いなく氷点下であろう。たかが、ドーナツのために、それも一人二個までしか買えない制限がついているようなものをわざわざ買いに行くなんて。ううむ。無理である。

 しかし、手に入れるのが難しければ難しいほど燃えるのである。だからといって1個5ドルのものに100ドル出すほどの根性もないし、そこまで酔狂でもない。するとタマミちゃんが、一ヶ月前にインターネットで指定した日に買える整理券のようなものがあるらしいとの情報をくれた。それに、来年また私がくる頃にはフィーバーは収まっているだろうから、来年のお楽しみにすればと言う。ま、手に入らないものはしかたがない。そうして、クロナッツは一年間のおあずけとなった。

 クロナッツとは、三ッ星フレンチ・ダニエルのパティシエだったドミニク・アンセルが自身の店で販売しているスイーツで、クロワッサン生地を揚げたドーナツの中にフレーバーたっぷりのクリームをはさんだもの、であるらしい。外はクロワッサンのようにサクサク、中はクリームがとろりと溢れだす魅惑の味わいで、一度食べるとその味にハマってしまうという悪魔のスイーツ、であるらしい。

th_IMG_2626th_IMG_2628

 一年後の今年。な、なんとタマミちゃんがわざわざ並んでくれ、ついに念願のクロナッツを食することができた。ドミニク・アンセルのロゴが入ったこの美しいイエローのパッケージを見よ。開けると中にはコーヒーグレーズかしら、美味しそうな色がコーティングされ、生地のまわりにはパウダーシュガーがまぶされている。ナイフを入れるとサクっと切れて、うん、やっぱり断面は完全にクロワッサン。そして薄い層の中にたっぷりのカスタードクリームとジャムがはさまれている。

th_IMG_2631

 カリカリっ、サクっ。ふんわり、そして、とろ〜り。

 この異なる食感と、クロワッサン生地と油とクリームが奏でるリッチなテイスト。ひと口でノックアウトされました。たしかに、美味しい。さすがに、私はドーナツフリークではないので、中毒にはならないだろうけど、もしエルビス・プレスリーが生きていたら店ごと買い占めるだろうと思った。

 タマミちゃん、本当にありがとう。

◎追記

 2015年6月、ドミニク・アンセルが満を持して日本に上陸した。お店があるのは表参道。表参道ヒルズの近くである。しばらくは、長い行列が続くであろう。

2015-08-03 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

NY NoMad「Birch Coffee」

トップ

 大昔、アメリカで飲むコーヒーほど不味いものはなかった(笑)。アメリカンとはよく言ったもので香りのまったくない泥水のようなコーヒーは、はっきり言って飲めやしなかった。まともなコーヒーにありつこうと思ったら、わざわざイタリアンレストランに行かなければという時代があったのである。その後、90年代に仕事でオーストラリアに何度も通う時期があったのだが、シドニーのカフェではすでにカフェマキアートとかエスプレッソが普通にあり、これはなかなか洒落てるなと思っていた。そのうちニューヨークでも、オー・ボン・パンなるボストン系のカフェがちらほらと増え、そこではコマシなコーヒーが飲めた。そして気がつけばシアトル系の波がやってきて、スターバックスやタリーズなどが出現。アッという間に日本にも飛び火した。

 私も当初はスターバックスのコーヒーをよく飲んでいたが、日本で定着し始めるとあの独特のフレーバーとアメリカ的ストイックさの象徴のような禁煙にだんだん嫌気がさしてきた。そして、ある日ハッと覚醒するのである。日本では昔から喫茶文化があるじゃないか。豆のセレクトや焙煎方法にも店ごとにこだわりがある。そしてそういう店では、店主とのコミュニケーションが楽しめたり、オリジナルの豆が変えたり、煙草が吸えたりするのである。なんだ、もともとあったこっちの方がシアトル系よりずっと民度もクオリティも高いではないか。

 そうこうしているうちに、今度はサードウェイブと呼ばれるトレンドがやってきた。ポートランドやサンフランシスコ系の品質重視の波である。日本上陸したときのブルーボトルコーヒーの騒ぎは記憶に新しい。NYブルックリン系も話題になっている。だけど、今となっては、ご近所に本社のある萩原コーヒーとか京都のオオヤコーヒーとか、倉敷珈琲館のコーヒーとかの方がしっくりくるし、それが手に入らなければ別に昔からあるイノダコーヒーでもじゅうぶんと思うようになってきた。もっと言うと、今も各町内にある昔ながらの珈琲屋さんでもまったく問題がない。ネルドリップで淹れたり、水出しのダッチコーヒーだったり、パーコレーターを使ったりと、もともと、こっちの珈琲文化の方が多彩なのである。しかもほとんどの店が煙草を吸わせてくれる。珈琲でも日本再発見なのである。

th_IMG_2496th_IMG_2498th_IMG_2500

 ところが、滞在しているホテルの近所を歩いていてよさそうなコーヒー屋さんを発見した。それが「Birch Coffee」である。店の雰囲気や内装を見るだけで、きわめて小規模展開で豆の焙煎にはこだわっているであろうことは見て取れる。注文するときに名前を言うと、できあがったよと名前を呼んでくれるサービスも楽しい。奥には小さな本棚もあって、部分的にはライブラリーカフェっぽくもある。それに、なんだか、フレッシュジュースとかヘルシーなドリンクも売っている。夕方、カフェラテをテイクアウトして、今度は朝ごはんを食べに出かけた。卵とトマト、アボガドのトーストサンドイッチである。全粒粉のパンを軽くトーストして、本当にシンプルに挟んでいるだけだが、これがなかなかデリシャスなのだ。素直でストレートな素材の味がした。

th_IMG_2507th_IMG_2497

 ここのコーヒーは、マイルドだけど適度な酸味があって私の好みど真ん中。サンドイッチと一緒にラテを飲んで、さらにオリジナルロースターというのをテイクアウトした。豆そのものも欲しくなったので、Birch Brend とFrench Brendというのを二袋ほど日本に持って帰り、しばらくの間楽しんだ。これ、日本から個人輸入できないかなとサイトを見に行ったが対応してなくて、そもそもコーヒー豆の輸入はすごくややこしいらしいこともわかった。来年はもう少し大量に買って帰ろうと思う。

2015-07-30 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

NYイタリアン「il Buco」

th_IMG_2465th_IMG_2466th_IMG_2471

 初めて行ったのはもうかれこれ10年前くらいになるだろうか。デザートのパンナコッタにかけられていたものに衝撃を受けた。てっきりカラメルだと思っていたそのとろりと濃厚な液体は、熟成が進みこっくりと甘みを増したバルサミコだったのである。こういう使い方もあるのか、と妙に納得したことをよく憶えている。

 バルサミコは、北イタリアのモデナという地方に伝わる伝統的なお酢で、ブドウの果汁を濃縮させ木の樽で熟成させたものをいう。もともとイタリア語ではバルサミコというのは「芳香性の」という意味だそうで、名前そのものがあの独特の香りを表しているというわけだ。

 私はけっこうお酢好きで、海鮮焼きそばには当然のごとくお酢をどぼどぼかけるし、小籠包のような点心もできれば黒酢でいただきたい。りんご酢やブドウ酢はもちろんキッチンに常備している。最近のお気に入りはブドウ酢を冷たい紅茶やスパークリングウォーターで割って飲むことで、それだけで身体がスッとして、心なしか健康になるような気がしている。バルサミコも近所のいかりスーパーがいろんな種類を揃えているのであれこれ試してみたが、それなりの値段を出せば熟成香のあるまろやかな味のこりゃあさぞ高級品であろうと頷けるものも手に入る。

 「il Buco」の棚にはオリーブオイルだけでなくこのバルサミコがズラリと並んでい、何やら古そうなボトルもある。冒頭書いたデザートに使うというのは、イタリアではポピュラーな使い方であるらしい。

 今回は、それ以来である。いや、10年のあいだ一度くらいは行ったかもしれないが、それでも久しぶりである。ちゃんと昔と同じ場所で内装も当時とたぶんほとんど変わらずにあるということだけで、凄くうれしいし、なんだかホッとする。テーブル席の予約がとれなかったので、バーのカウンターに座る。

th_IMG_2473th_IMG_2475th_IMG_2477

 友人によれば、ここで最近のお気に入りは芽キャベツのサラダ(たぶん、芽キャベツだったと思う・・・)だという。もちろんメニューには載っていない、いわゆる裏メニューである。芽キャベツの爽快な苦味をたっぷりのチーズがマイルドかつリッチな味わいにしてくれている。これはたしかに旨い。前菜にもう一品、それとパスタとリゾットをシェアしたのだが、うっかり料理名をメモするのを忘れてしまったし、店内がかなり暗いので写真のクオリティが悪いことをご勘弁いただきたい。

th_IMG_2478th_IMG_2480th_IMG_2481

 デザートはもちろん、あのパンナコッタである。ちゃんとドルチェメニューのいちばん上に、“cooked cream”drizzled with 10−year balsamic vinegarとある。口に入れると、バルサミコの芳醇な熟成香とともに、10年前の新鮮な驚きが還ってきた。また、行こうっと。

トップ

2015-07-28 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

NY Sushi 「Nakazawa」

 毎年恒例の友人揃ってのディナー。今年はこの「Nakazawa」であるのだが、ニューヨークでは評判が高く、予約が取れないということでも話題になっているようだ。もちろん、7時や7時半というディナーのゴールデンタイムの予約は無理で、やっと予約できたのが8時45分スタートである。

 夕方にセントラルパークで集合していた我々は、復活したタヴァーン・オン・ザ・グリーンですでにマンハッタンなどを飲んで、鮨への準備は万端である。(余談であるが、タヴァーン・オン・ザ・グリーンは2009年に倒産してクローズしていたのだが、経営が変わって2014年にリオープンした。ニューヨークに来始めた頃ここはゴージャスなグリーンルームで、何度か連れてきてもらったが、当時のザ・ニューヨークといういかにもの雰囲気に満ちていた。今はすっかりカジュアルになっている。ま、それでも、イルミネーションの素晴らしさは健在であるけれど)

 ちょうど、日本を経つ前に見た「情熱大陸」でこちらの店の大将が取り上げられていた。そうか、「すきやばし次郎」にいたのか。家族そろって移住したのか。20貫の握り一本メニューなのか。目指しているのはニューヨーカーの口に合う鮨なのか。いずれはすべてアメリカの魚でまかなう、ニューヨーク前にしていくのか。ふーん。面白そうではないか。期待は高まる。それに、自宅の庭で魚を燻したりして、研究熱心でもありそうだし。

 店があるのは、グリニッジビレッジ。このエリア、ミートパッキンディストリクトで買い物して、ゆるゆる散歩しながらウエストビレッジ経由でソーホーへ行くときのルートである。小さなストリートが入り組んで交差する町並みは、古き良きニューヨークの面影を色濃く残している。最近は冬しか来られないけれど、初夏や秋に来たらどれだけ美しい風情だろうかといつも想像する。

th_IMG_2590th_IMG_2591

 セントラルパークからタクシーに乗り、一同Nakazawaをめざす。外観はカジュアルなレストランといったさりげない印象。気取ってなくて好感を持つ。入るとすぐ左にカウンターがある。が、レセプションの対応が少々いけなかった。女三人、季節は冬。みんなボリュームのあるコートをまとっている。それを薄手のハンガー一本に三枚重ねてかけようとした若いレセプショニスト。思わず口うるさい友人(笑)が、それは無茶よと指摘する。たしかに無茶である。居酒屋ではないのである。れっきとした鮨レストランなのである。

 気を取り直して・・・。カウンターは満席である。テレビで見たご主人がカウンターの真ん中で、軽妙な感じでお客と喋りながら鮨を握っている。今、ニューヨークでいちばん予約が取れないゴールデンシートである。しかも一組2名様までという制限がついているので、3名以上は座れない。案内されたのは奥のテーブル席である。

 日本酒のリストを見せてもらい驚いた。ひとつは凄い品揃えに、ひとつは値段に。いや、普通の日本酒もあるんだけど、菊姫の大吟醸1600ドルとか獺祭その先へは1400ドルとかを見るとさすがの私もびっくりしてしまう。そもそも獺祭その先へがあるということも凄いけど。

th_IMG_2595th_IMG_2596th_IMG_2597

 こちらの流儀はツマミなしの握り一本勝負。まず出てきたのは、二種のサーモン。手前のは北海道の時しらずに沖縄の塩をぱらぱらとかけている。向こう側はアラスカサーモンを軽く燻したもの。ひと口食べて、ガツンときたのはシャリの具合。典型的な江戸前である。ご主人が修行したあの名店は一度しか行ったことがないが、ここまでくっきりしていたかどうか。悪くない。ネタとも凄く合っている。二皿めはホタテを柚子胡椒で握ったのと、イカに梅パウダーと醤油をちょんと乗せたもの。続いてはシーバスに柚子胡椒とブラックバス。ううむ、それぞれ親戚のような魚のアソート、これ、なかなか楽しいではないか。

th_IMG_2599th_IMG_2600th_IMG_2601.トップjpg

 お次は、鯵、サヨリ、真魚鰹。それぞれが遠い親戚か、三兄弟のような趣。海老は、ぼたん海老と車海老。うん、食べ比べって愉快、楽しい。そして次なる三兄弟は、キングマグロという解説があったがさわらと鰤、燻したハガツオ。このハガツオというのはじめて聞いた。説明してくれるのがアメリカ人で、一生懸命魚の名前を日本語で言ってくれるのはいいけれど、「え?ハガツオ?」「ハガツ〜オ」「ハツガツオ?」「ノーノー、ハ〜ガツ〜オデス」と何度聞いても耳慣れないので腑に落ちない。でも調べてみるとハガツオというのはたしかに存在するカツオの種類なのであった。ま、それなりにデリシャスだったので、いいけれど。

th_IMG_2602th_IMG_2603th_IMG_2604

 お鮨はそろそろ終盤。やって来たのはトロとヅケ。やっぱりマグロ兄弟とこの江戸前のシャリはよく合っている。そしていくらと雲丹の軍艦ブラザーズ。どちらも勢いがあって、なかなか美味である。オーラスは、玉子と穴子。これは子つながりかしらん(笑)。玉子もちゃんと仕事がされている。しめて20貫の鮨ディナー。日本のネタもあったけど、それにこだわることなく大西洋周辺の新鮮なネタをアグレッシブに取り入れ、ニューヨーク前鮨に昇華させている。その気概はじゅうぶんに感じたし、燻したり、柚子胡椒をはさんでみたりの工夫も見られ、鮨としての美味しさを追求していることはよくわかった。しかし、またしてもお後がいけなかった。

th_IMG_2607th_IMG_2609

 スタートが8時45分だから、鮨が終了したのは11時近く。さあ、お勘定をとフロアを見渡すと、もう客は私たちを入れて一組だけ。フロアにいたマネージャーらしき日本人の姿も消えているし、何より驚いたのは人っ子ひとりいないカウンター。いや、別に大将と何の面識もないし、私たちに挨拶する必要がないこともじゅうじゅう理解はしている。だけど、鮨職人全員がいない。しかも、こちらのカウンターは入り口にあるから、誰もいないカウンターは目立つのである。件のレセプショニストも、すでに帰っている。店に残っていたスタッフは、たしか二、三人。責任者不在である。こんなことってあるんだろうか?ニューヨークのレストランで8時45分スタートというのは、別に非常識な時間帯ではないと思う。でもこれじゃ、遅がけに入店した私たちが悪いみたい・・・店はもう終わっているといわんばかりの様相。きれいに後片付けされた寒々しいカウンターに別れを告げ、店を後にした。

th_IMG_2610

 鮨は悪くなかった。プレゼンテーションも楽しかった。だけど・・・ま、一回行ったから、もういいか。

2015-07-23 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

MOMAの「THE MODERN」 

 MOMAは時間が許せば何度でも訪れたい場所である。単にアートを楽しむというだけでなく、ここのミュージアムショップで写真集を眺めたり、可愛い文房具やポストカードを探すのも楽しいし、中庭でぼーっとするのも好きだ。時期によっては面白いインスタレーションや企画展もあって、いつも刺激をもらえる。それに、それに、何と言っても「THE MODERN」 がある。こんな美術館はなかなかないだろう。

th_IMG_2408th_IMG_2410

 ここ数年ランチばかりだったので、今年はディナーのテーブルを予約した。夜のメニューを見ていたら、テイスティングというのを発見した。Tasting( Caviar / Beetroot / Foie Gras / Loup de Mer / Black Truffle & Beef / Sorbet / Chocolate)このズラリ並んだ素材を使って、シェフが腕をふるうというわけね。せっかくなので、チャレンジすることにした。ついでに、せっかくなので(笑)、シャンパンはロゼにしてみた。あ、もちろん、グラスでね。

〜 Tasting 〜

th_IMG_2413th_IMG_2414

Caviar
さて、初っ端から意表を突く皿は、ポーチドエッグにソースをからめキャビアをどっさり乗せたもの。これが一品目の Caviar であるな。この長方形の物体は、ブリオッシュをカリカリにトーストしてカットしたものである。これでとろとろの卵をすくい、キャビアをまぶし食するというスタイルである。ううむ。ブリオッシュのバターが濃厚すぎて私には少々ツーマッチ。三種類もあるバゲットの中からいちばんシンプルなのを選んで、そちらですくってちょうどいいくらい。超リッチかつ贅沢なお味。

th_IMG_2415

Beetroot
これは、いわゆるビーツである。私にはビーツの何がキャビアやフォアグラと並ぶほどの食材かはわからないのだが、こうして堂々と出されるということは、それなりの地位をこちらでは確保しているということか。ビーツに洋梨をアソートし、まわりにはオーツ麦のクランチを散らしている。ビーツだけでも甘酸っぱいのに、洋梨のねっとりした甘さがそれに重なって、これははっきり言って口に合わない。が、まあ量もそんなにはないので、我慢して残さず食べる。

th_IMG_2417

Foie Gras
いやあ、椀飯振舞である。フォワグラをほとんどそのまんまの状態でパイ仕立てにしている。で、ここに合わせているのはなんとオレンジと金柑である。金柑は大好物であるが、なにしろあの独特の芳香はきわめて個性的である。フォワグラと意外に合うことはわかったが、それでも金柑のねっとりした甘さは少し過剰な気がする。しかし、これならアンコウの肝と金柑という取り合わせもありだな、などと思い始めると、ここに日本酒があったらどんなにいいかなど余計なことを考える。いや、日本酒とフォワグラは合わないだろうけどね。

th_IMG_2419

Loup de Mer
これは魚の名前であるらしいのだが、聞いたことがない。欧米ではポピュラーな魚であるらしく、地中海で穫れる鱸とよく似た魚のことを言う。あっさりとした白身である。これをほうれん草のソテーと一緒にいただく。ソースに軽く醤油のニュアンスを感じて、ホッとする。これまでの三品が少しリッチすぎある種のくどさを感じていただけに、このひと皿でちょっと落ち着く。なんだ、私ってやっぱり日本人じゃないとひとり苦笑。醤油を含む出汁文化って、だけどやっぱり凄い。こういうコースの中に組み合わせられてもまったく違和感がないし、むしろ全体の中に鮮やかな句読点を打ってくれる感じがする。素晴らしい。

th_IMG_2421

Black Truffle & Beef
黒トリュフとテンダロインである。この素晴らしい立方体!上には黒トリュフ。左の野菜はルタバガという蕪の一種をブイヨンで含ませ煮にしたもので、スコットランドではチューニップとも呼ぶらしい。食感が心地よく、トリュフとの相性もよい。このソースは肉汁をぎゅっと閉じ込めながらも、味わうと口の中で官能的に蕩けていくようなセクシーな出来栄えで、いや、はっきり言って馬鹿馬であった。前菜の逸脱を、魚や肉のメインでちゃんとなだめてくれた。そんな流れであった。これはこれで計算づくなんだとしたら、さすがとしか言い様がない。

th_IMG_2424

Sorbet
マンゴーのソルベである。東南アジアでならわかるが、なぜ北米にこんなに超濃厚なマンゴーがあるのか!と舌を巻くほどのねっとりした完熟マンゴー。果肉そのままでも抱腹絶倒の旨さにあるに違いない上等のマンゴーの雑味を完全に取り除き、ソルベにしているというのが凄いと思う。いやさ、天晴であるわ。

th_IMG_2425

Chocolate
左の白いのも、チョコレート。右はヘーゼルナッツのチョコレート。濃厚なマンゴーの後に、さらにリッチなチョコレート攻撃である。全体としてさほど量があるわけでもないのに、さすがの私もこのコースの組立の複雑さと過剰さにちょっとやられちまったという気がする。

 全5品+デザート2品。Tasting とメニューに書いているところに、three と four というのもあり、それはその中から3つとか4つ好きなのを選べるのであった。後の祭りである・・・。いや、全体的に素晴らしく手のこんだ食材と調理であるにはあったが、長旅をしてきた身体では少々リッチすぎたかしらね。お腹パンパン・・・。来年は、やっぱり好きなのを選ぶアラカルトに戻そう。

2015-07-21 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

NY「Schiller’s Liquor Bar」

 ニューヨークのやり手レストラン王、キース・マクナリーが手がけるバルサザール。こちらのオニオンスープとニソワーズのために、ワンブロック横のホテルにかつて泊まっていたことがあると(第12夜)書いた。それくらいバルサザールは大好きなレストランなのであるが、ここはそう気軽に行けないのが玉に瑕だ。朝から晩までいつも予約でいっぱいで、その日思い立って行ったとしても絶対に座れない。だけど、ニューヨークにいる間せめて一度くらいはオニオンスープを食べないと日本に帰れない。

 友人とランチしようということになったのだが、彼女が素敵なアイデアをくれた。バルサザールの系列店がいくつかあるので、そちらに行こうという提案である。そのうちのひとつ、ロワーイーストサイドにある店なら、SOHOほどの混雑はないであろうということである。もちろん私に異論があるはずがない。バルサザールと同じあのオニオンスープが食べられるのなら、マンハッタン中どこだって行くよ、飛んでくよ。

th_IMG_2386th_IMG_2387th_IMG_2388

 131 rivington。店の名はシラーズ・リカーバー。ううむ、名前だけ聞くと昼間っから開いているアル中が通う店のようである(笑)。外観もいかにも古ぼけたダサい雰囲気を匂わせており、そのあえての演出が好事家には「ここはむむ」と思わせるようなつくりとなっている。中に入ると派手なバーカウンターがあるのだが、その一角だけを切り取るとほとんどバルサザールのバーの一部をモザイクのように嵌め込んだようにも見えるから、ファンにとってはここが紛れもなく系列の店であることは一目瞭然だ。

th_IMG_2398

 早速テーブルに座り、恋い焦がれたオニオーンスープを注文する。と、ところが、今日は残念ながら準備がないというのである。嘘やろ。それ、メインに来たのに、どうしてくれるんや。こういうトラブル時に、きわめてアグレッシブに、しかし下品にならずクレームを言うのが、友人のフィッシュである。やんわりと、バルサザールの予約が取れず、それでもオニオンスープが食べたくてわざわざ来たのに、と上品にごねる。接客してくれたウェイトレスは、私たちのオニオンスープへの情熱を瞬時に理解し、厨房に聞いてみるといったん引っ込んだ。ま、オニオンスープを出すには、たまねぎを炒めておくという下ごしらえが必要だから、今すぐつくれと要求しても無理なものは無理なのかもしれない。しばらくしてウエイトレスが戻ってき、「できる」といういい知らせを持ってきた。明日の分のストックが厨房にはあったようで、胸を撫で下ろす。ま、材料がないわけではないので作ったるか、とシェフかコックかはわからないが判断したのだろう。こういうシチュエーションのときに、店の実力がわかると私は思う。非常にエクセレントな判断である(笑)。

th_IMG_2391

 ではオニオンスープが出来上がるまで、私はベリーニを。グラスに惜しみなくたっぷり入れてくれるというスタイルがうれしいではないか。

th_IMG_2393th_IMG_2394

 待つこと15分。恋い焦がれたオニオンスープがやってきた。そうよ、これこれ。ぽってりしたうつわも、チーズのかかり具合も、ポットの縁にこびりついた美味しそうな風情も、バルサザールとおんなじ。もちろん、お味の方も素晴らしい。ふうふう言いながら、目を細め、喉をごろごろ鳴らしながら、いただく。もちろん、ニソワーズも注文した。こちらはツナが丸ごとどん、と乗っかった豪快バージョンだけど、これはこれで素晴らしく旨い。もうこの二品だけで、ランチとしては充分のボリュームとクオリティ。

th_IMG_2395

 デザートには、キーライムパイを注文した。キーライムパイは、フロリダで穫れるキーライムという小さなライムが原料。皮は緑色だが、果汁は黄色く、この果汁に卵黄や練乳を混ぜてフィリングにする。アメリカではとてもポピュラーで、メレンゲをトッピングしていることが多い。甘酸っぱいので、多少大きくてもそうくどくない。これも大昔ニューヨークで初めて食べ、以来ときおり注文するデザートのひとつである。

 シラーズ・リカーバー。ここはなかなか穴場である。同じようなメニュー構成のバルサザールの系列店でもう一軒よく行くパスティスというのがミートパッキングディストリクトにあるのだが、こちらも年がら年中混んでいるし、現在は休業中である。なので、来年もまずはバルサザールをあたってみて、そっちが駄目ならこっちに来ることにしよう。

2015-07-17 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

NY鮨 「sushi of gari」

th_IMG_2343

 着いたその夜に、さっそくの鮨である。一年ぶりのガリさんの鮨(第8夜参照)なので、これはしかたがない。こちらの空いている日とガリさんの都合が合うのが、滞在期間中はこの日しかなかったのである。今は客のリクエストに応じるときだけ、店に出てくれるのだそうだ。今夜は、私のためだけに出てきてくれたと聞くと、かたじけなさに涙こぼるる、である。当然ガリさん前カウンターは私ひとりである。本当に完全独り占め状態なのである。

th_IMG_2347th_IMG_2346

 せっかくなので、鮨の前にガリさんのツマミを堪能することにした。本日のスペシャル日本酒は、写楽の純米、初しぼり。会津若松の旨酒、堂々たる一升瓶である。ガリさんが日本に帰るたびに、抱えて帰ってくるそうな。スターターは、端正な桐の台に並んだ刺身三種。熊本の牡蠣、トロ、鯵である。これは、まったくもって普通の刺身である。こういうのから始まると、ここはどこ?という気になってくる。しかし、二品めで、ああsushi of gariだと実感。

th_IMG_2348th_IMG_2349th_IMG_2351th_IMG_2352th_IMG_2354th_th_トップ

 この一見すると豆腐餻のような物体はブリである。脂の乗った舞鶴のブリをサイコロ状に切り、酢みそに鶉のたまご、わさびを加えたソースをかけている。このソースがブリの脂をマイルドにし、こたえられない旨さを生んでいる。寒ブリをサイコロ状に切り、こんなソースをかけるという発想自体が、きわめてユニークであるし、普通は勿体なくてできないであろう。なんと大胆で贅沢な一品であるか。ふっふ、わざわざ来た甲斐があったと心の中で呟く。次なる一品は、ミル貝をなんとアンコウの肝のソースで和え、ポロ葱を白髪葱風に切り揚げたものをまぶしている。口に含むと、ミル貝のコリコリとあん肝のまったりさに、カリッとしたポロ葱の食感が合わさって、恐るべき三重奏が始まるのである。うふふふふ。それを写楽で流しこむ。あら、これは毛蟹ね。と思っても、ただの毛蟹じゃありゃせんぞ。バターと軽くソテーして、とろろ昆布のパウダーと塩を混ぜたものを振りかけた一品。続いては、ホタテに梅胡瓜マヨネーズを和えたもの。変化球の連打である。この香ばしそうなのはスコットランドのトロサーモン。ひと晩漬けこんで、とろろ昆布パウダーに醤油を混ぜたものを塗って軽く表面を炙っている。青花のうつわに盛られているのは、ずわい蟹を雲丹ソースで和え、塩昆布を刻んだものを乗せた一品。ずわい蟹VS雲丹だなんて。こういうツマミ。あらかじめ考えておくのもあるけれど、ほとんどがその場でひらめいて、つくるのだという。まったくもって、名人芸である。

th_IMG_2358th_IMG_2359th_IMG_2360th_IMG_2361th_IMG_2362th_IMG_2363th_IMG_2365th_IMG_2366th_IMG_2368th_IMG_2370th_IMG_2371th_IMG_2372

 一年ぶりのガリさん流をツマミで堪能したところで、そろそろ握りに行かなくっちゃ。まずは、平目の昆布締め。白板昆布がくるりと巻かれている。これはきわめて正当派。トロの上には刻んだタクアンが乗っている。トロタクの巻物は好物であるから、これはもう一度リクエストしたいくらいハマる。トロとタクアンという組み合わせって、どうしてこんなにマッチするんだろう。残り物のトロの切れっ端にその辺にあるタクアンを混ぜて巻いてみたら、これがなんと合うことか。てな具合で誰かが発見したのだと思う。お江戸の時代には、マグロといえば赤身しか食べず、脂の多いトロは捨てていたと聞くから、脂っこい下世話な魚を少しでもさっぱりと食べるために庶民の知恵として生まれた組み合わせだったのかもしれない。が、それが今は、きわめて贅沢な食べ方になっているのが面白いところである。軽く締めた鯖には胡麻を擂りおろしたソースが乗っている。ヤリイカは芸術的な切り目を施され、上のグリーンはブロッコリーのソースである。鯛の上には土佐酢のジュレを切ったもの。黒胡麻が振られている。雲丹にかかっているのはイクラのソース。軽く焼き色がついているのは太刀魚のバターソース。マグロの赤身には豆腐を裏ごしたソースがこんもり。おっと、この三品はネタの記録がないのだが、察するところ、赤身の上にトマトを乗せたものと、鯵らしきものには、何か揚げた短冊が乗せられている。そしてこれはブリだろうか。昆布をパリパリにしたものがトッピングされている。最後の鮨は海苔の唐揚げしたものを台にし、そこにユッケ風にしたマグロを乗せた一品。牡蠣のグラタンをいただいて、今年は全19品。やっぱりツマミから始めると、握りはそんなには食べられない。が、ガリさんのツマミは握り同様に強烈なインパクトがあるものばかりである。

th_IMG_2373th_IMG_2374th_IMG_2375

 ああ、今年も無事に一年が終わり、ガリさんのお鮨を食べに来ることができた。デザートまでしっかりいただきつつ、しみじみと幸せを噛み締めた滞在初日の夜であった。

2015-07-15 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

都内某所「すっぽん尽くし」

 セレンディピティという言葉がある。何かを探しているとき、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力のことである。ふとした偶然をきっかけに、何を見つけるか。別の価値あるものも、気づいてみれば探していたものであったりすることが多い。大事なことは、それが目の前に来たときに、それに気づけるかどうか、である。気づかない人もけっこう多いと聞くから、ひとつの能力であるとか才能と言われるのかもしれない。

 さて、私は普段から寄り道したり、脇道にそれることが好きで、その結果、「これって、セレンディピティ?」という出会いは多いほうだと思う。だけれど、今回のセレンディピティは少し格別のものだった。

 12月吉日。この日はハイパー企業塾の帰りであった。いつになく荒れた回でもあり、うかうかしている間に三次会に参加しそこね、クールダウンしようといつもの白金の店へ寄った。隣に座っている男性の声が大きい。聞くとはなしに聞いているうちに、天皇問題についてあれこれと隣の連れらしき女性と話している。そのうち、彼はこちらに話を振り始めた。トピックスが天皇問題とあって、先程からうずうずしている。話を振られた瞬間から会話が止まらなくなった。詳しい内容は省くとして、地元でもこれだけ話題が合う人は、天皇バーのマスター以外にはいない。アウェイの東京でこんな話ができるとは。すぐに意気投合した。気がつけば、一時間半。古事記から日本書紀、出雲神話に伊勢神宮と、話はどんどん盛り上がっていく。やがて彼が「姐さんは焼き物とかも好きでしょ」と尋ねた。もちろん大好き、朝鮮のものや唐津などがとくに好きと言うと、ある人物の名を出した。もちろん知っているし、なにより本の愛読者であるし、彼に連なる人の熱狂的なファンである。すると、彼はその人物と友人であり、年末にその人の家での忘年会に誘われているのでよかったら一緒に行かないかと誘ってくれたのである。

 実にうれしい話ではある。が、いくら話が盛り上がったとはいえ、初対面の相手である。その人の友人宅へのこのこ伺うのは、いくらなんでも図々しすぎる。そのことを伝えると「こういう出会いも縁のものだから、気にすることはないですよ」ときっぱりと言う。翌日、「主催者の了承を取りましたので、遠慮せずおいでください」というメールが来た。縁のもの。そこまで彼がきちんと筋を通してくれたのなら、これは縁というものに乗っかってみよう。そう決意した。もちろん、好奇心の方が勝っている。

th_IMG_2246th_IMG_2247th_IMG_2249th_IMG_2242th_IMG_2245th_IMG_2250

 忘年会当日。突然の参加を詫びつつ恐縮しながらも、その人のサロンに伺った。「今日はすっぽんしかないですよ」と念を押されるが、とんでもない。すっぽん尽くしとはなんと贅沢な。異論などあるはずもない。席につくと、私以外は全員が男性であった。サロン中央にはどっしりと重厚感のある木のテーブル。その上にいかにも年代を経た風情の木の盆、盆の中には所狭しと酒器がのっている。ひとつひとつのうつわの説明を受けるのだが、ほとんどが桃山時代とか、戦国時代とか、もう私の骨董とは次元が違うものばかりである。おそるおそる手にした酒器は、桃山の唐津だという。主が片口に入った日本酒を豪快に注いでくれる。彼の右側には七輪があり、その上ですっぽんを焼いている。捌いたすっぽんの網焼きである。こんなの初めていただいた。日本酒と合うし、なによりこの漆のうつわだってただものではない。次に日本酒をいただいた酒器は、縁が欠けており、金継ぎも施されている。いや、厳密には欠けているのではなく、最初からこういうカタチなのである。「たぶん、灯心を入れるためのへこみじゃないかなあ。昔はこれに油をいれていたんだと思う」との説明がある。そして、これはじいさんからもらったものだと言う。じいさん、と無造作におっしゃるが、それは骨董好きで有名なあの偉大な方のことである。あのお方伝来の酒器なのである。

 この日は私以外、初めての参加という男性が二名おり、やがて宴もたけなわという頃合いを見計らって、それぞれが大事に抱えている桐箱を開ける。中には唐津のぐいのみや徳利が入っており、それを主をはじめとするゲストに見てもらうという趣向なのである。徹頭徹尾、うつわの話が中心なのである。

 ああ。こういう変態たちが本当に生息しているのである。今までは、小説やエッセイの中でしか知らなかった数寄者たちが、ほんとうにぐいのみや徳利をさすり、目を細め、実際に酒を入れ呑みながら、実に幸せそうに、そのブツを慈しみ、愛おしんでいるのである。こういう世界が、本当にあるところにはあるのである。しっかりと息づいているのである。

th_IMG_2269th_IMG_2270トップth_IMG_2280th_IMG_2275th_IMG_2254

 そういう話を交わしながら、主は酒を注ぎ、傍らの七輪に鍋を乗せ、すっぽんを調理する。漆のうつわた古瀬戸のうつわに無造作にすっぽんを投げ込んでくれる。そのうち、サンマを豪快に炙ったものも出され、主はいつのまにか七輪の上で魚を焼くための網を持っている。そして気がつけば、すっぽんのエキスがたっぷり入った雑炊まであっという間に作っているのである。

 口福だけでない、眼福をたっぷりと味わった一夜であった。

 まっすぐ帰らず寄り道して、天皇話で盛り上がり知り合った人(この人は映画監督であった。作品を一本観たが、とてもいい映画であった)がつくってくれた不思議なご縁。これをセレンディピティと言わずして、何と言おう。

 この日、誓ったことがある。本当にほしいと思ったものは、やはり買わないと自分の身にはつかない。そのことを痛いほど実感した。そして、敬愛する白洲正子さんのことを想像した。白洲さんは、かつて小林秀雄と青山二郎の丁々発止の骨董談義に圧倒され、それについていきたくて、負けたくなくて、いつかは彼らをアッと言わせたくて、骨董の世界に飛び込んだ。その日の白洲正子さんの気持ちが、ほんの少しではあるが、この夜私もわかったような気がした。まだまだ端くれである。いや、端っこにも手が届かないレベルであろう。だけど、いつか再び、清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟で買ったものを手にこちらにお邪魔する日を夢みたい。そういうものに日本の何処かで出逢うセレンディピティを期待して。

2015-07-13 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

京都祇園「八寸」

th_IMG_2204

 年末の連休あたりでいつも南座へ行く。もちろん顔見世を観るためである。と同時に今年最後の京都の懐石を食べるというイベントも兼ねている。今年は、いつものあの店がうっかり油断しているうちに満席になってしまい、難民になってしまった。この際、チャレンジしたいリストにある店に片っ端から電話したが、すべてアウトである。ふと、東京の友人がここはいいと言っていたことを思い出し、ダメもとで電話したら運良く空いていた。

 新しい店。祇園。お墨も付いている。わくわくしながら、のれんをくぐると、そこにはどっしりした奥行きのあるカウンター。うん、このスタイルは大好きなのだ。カウンター後ろの食器棚の上には、年季の入った趣味のよい大皿が飾ってある。鴨をかたどった陶器もある。雰囲気、うつわのセレクトともに、嫌じゃない。カウンターの真ん中あたりに案内される。全12席。中で立ち働く人は4名ほど。ご主人であろう方は、常連客の相手に余念がない。適度なにぎわいとざわめきがあり、非常によい雰囲気である。料理が楽しみになってきた。

th_IMG_2207th_IMG_2209th_IMG_2210

 先付けにはこのわたの茶碗蒸し。ううむ、これは渋いな。しょっぱなから、私の好きなところを突いてくる。またこの漆のうつわが、さりげないのに洗練されている。こういう漆器で蒸すのは、温度調節など技術がいるのではないだろうか。八寸は、間人のこっぺがに。いわゆるせこがにであるが、この間人という名前は関西では松葉蟹の最高峰として燦然と輝くブランド中のブランドである。贅沢に外子までついており、そのメインの蟹に牛蒡の鰻巻き、鴨ロース、琵琶湖のもろこ、なまこにこのこ、からすみ大根がコーディネイトされている。

 少し脱線するが、間人は「たいざ」と読む。この地名にぴんと来た人は、間違いなく歴史好きであろう。そう、かの聖徳太子のご母堂であらせられた間人(はしひと、はしうど)皇后が、一時期この地に行啓され、去られるときにおん自らの名を贈ったといわれている。しかし、土地の者達、いくらなんでも皇后の御名をそのままお呼びするのは畏れ多いとして、皇后が退座されたのにちなんで間人を「たいざ」と読み替えたというのである。もちろんこれは伝承である。だが、ロマンティックな話ではないか。上古の時代と今とが丹後ではいまだ地続きであるのだ。こういう物語は痺れるし、蟹の季節になって間人蟹という名前を聞くと、いつもこの物語を思い出す。

th_IMG_2215th_IMG_2212th_IMG_2218

 料理に戻ろう。いや、その前に本日の酒。澤屋まつもとという純米。伏見にこんな旨いのがあるなんて知らなんだ。酒はこのまつもと一本なのだそうだ。お造りは、鯛、アオリイカ、カンパチに赤貝。鯛をまるでてっさのように、盛りつけている。皿の赤と緑が透ける効果を狙った心憎いしつらえである。即全らしき赤絵のうつわ、ほ、ほしい。そしていよいよお椀だが、この漆の椿の見事さといったらどうだろう。蓋をあければ、す、すっぽんのおつゆである。くっきりと澄んだお出汁。すっぽんの滋味は、清涼であるのに濃厚。いのちをいただいているというしみじみした心持ちになる。

th_IMG_2220th_IMG_2222th_IMG_2224th_IMG_2225th_IMG_2227th_IMG_2229th_IMG_2231th_IMG_2234th_IMG_2235

 青白磁のうつわには、巻き湯葉。しっとりと出汁を含み、噛めばじんわりと旨味が滲み出す。陶器のお椀の蓋をあけると、中には京の冬の定番、ぐじの蕪蒸し。南座の顔見世と蕪蒸しは間違いなく師走の風物詩として私の中ではセットになっている。今年も一年、無病息災で過ごせたことに心の中で感謝を捧げながらいただく。さて、再びおでましになったのは、間人蟹様のおみ足である。蟹味噌と優雅に和えた身も出される。ああ至福。ああ絶佳。淡路の鯖鮨は、まるまる太って脂ののった鯖を軽く〆、松前昆布を巻いた一品。あまりの旨さにこれはもうひとつ別にテイクアウトすることにする。最後は猪のすき焼き仕立て。これを自然薯のたれでいただく。猪の野性味を自然薯に合わせるという発想が素晴らしい。野生には野生を。動物と植物であっても、生命力のあるものどうし、見事なまでのマッチングである。

 デザートはラ・フランスと苺のジュレがけ。この唐津は、中里隆さんっぽいな。それにしても、こちらのうつわ、すべてが渋い趣味で、ひとつひとつ素晴らしいものを使っているが、使いこまれていてまったく「どや」という威圧感も嫌味もない。それでいて手に取ると、ひとつひとつ吟味して、料理に合わせているのがよくわかる。こういうのをほんまもんの洗練というのだろう。

 この店も、当然お気に入りリストに入れる。また、通いたい店が増えた。

2015-07-07 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

忘年会@会社サロン

th_トップth_IMG_2151

 歓迎会や忘年会ができる店というのは限られる。総勢15名であるので個室が理想なのであるが、ちょうどいい店がなかなか見つからない。チェーン系の居酒屋はまっぴらごめんだし、それなりの店になると騒ぎにくいし。で、数年前に一度お試しで会社の一階でやることにした。ちょうどすぐ隣になかなかエッジの利いた料理を出す店もあるので、そこに予算を伝えつくってもらうことにした。隣の大将、おもいっきり張り切ってくれ、実に贅沢な素材を使った料理を出してくれた。素材がいい上に、美味しいのだから、今は社員の誰もが外に行きたがらない。

 会社でやると、シャンパンは飲み放題、それなりのワインもビールも、何ならウィスキーも日本酒も飲めるし、いただきものの貴重なお酒もこういうときには開ける。で、酔っ払ったらソファで寝られるし、煙草も吸い放題だし、すぐ上に行けば仕事も続行できるし、クライアント様からの電話にも出られる。いいことづくめである。すっかり習慣化しているのである。

 仕込みは簡単。まず、デザート用のスイーツはあらかじめ宅配で注文しておく。こういうときのために持ち駒はいろいろある。で、隣に予算と時間を伝える。こういうときのために趣味で集めている大皿が役に立つ。近所のワイン屋でシャンパンと赤白ワインを配達してもらう。お酒も飲食店で支払う金額の半額以下で、たいそう素晴らしいクオリティのものが買える。気持ちに余裕があれば、近所で花を買ってきて活ける。ダンドリは、たったこれだけである。

th_IMG_2152th_IMG_2155

 忘年会当日。まずは恒例のシャンパンによる乾杯である。一階のサロン開きのお披露目パーティをしたとき、シャンパングラス(のカタチをしたプラスティックのにせもの)は死ぬほどある。これに、レア物(近所のワイン屋さんプッシュのポル・ロジェ、サー・チャーチルが愛したシャンパンとしても知られているそうな)シャンパンを注ぐ。ウチの男どもはビール党だし、女のコたちは酒に弱い子が多いので、シャンパン飲み放題といっても、それはほとんど私一人が飲み放題という意味である(笑)。

th_IMG_2158th_IMG_2161th_IMG_2164

 料理は、まずはビーフと海老のサラダであるが、この肉のクオリティを見よ。サラダにしているのにもかかわらず、サシが入っているのである。海老もそのまま生で食べたいぐらいのレベルのものを惜しげもなくふんだんに使っている。小皿に乗っているのは、牡蠣のスモーク、イカの塩辛、黒豆、砂肝の煮付けなど、酒の肴になりそうなものばかり。日本酒に変えたいのだが、シャンパンが開いているので、無理やり合わせる。悪くない。圧巻の串刺しは、鶏の肉団子。大将は、手間がかかるのにこうやって実に意表をつくメニューを毎回考えてくれるのだ。そして、外側をこんがり炙った地鶏のロースト。生状態の身は美しいピンク色である。新鮮な鶏でなければ、こんなことはできないのである。

th_IMG_2167th_IMG_2168th_IMG_2171

 このあたりから、ワインも白やら赤やらをポンポン開ける。これは今回チャレンジしたレ・マッキオーレのパレオ・ロッソ。イタリアの複雑系フルボディである。小売価格で6,000円くらいだから、普通飲食店では頼みにくいクラスのワインである。会社でやるとこういう飲み方ができるのである。

 刺身盛りはさらに豪快かつゴージャスである。時は12月。そうずわい蟹の季節である。鳥取の松葉ガニというタグつきのお蟹様である。そして、イカにシメ鯖、ぶり、鯛、鰆、マグロの赤身に中トロ。もう社員一同レロレロである。続いて黒豚ロースのとんかつ。これは昨年も出て、男どもに人気であったので今回もリクエストした。こだわった素材の揚げたてだから、ほんまたまりませんな。

th_IMG_2173th_IMG_2174th_IMG_2179th_IMG_2181th_IMG_2184th_IMG_2185

 シメはお鍋。牡蠣がゴロゴロ入った鍋だったのであるが・・・後半戦、いきなり大将が皿を持ち、入ってきて鍋に投入したのは白子!白子といってもですね、ご覧のようにこれは【ふぐの白子】。目の前で気前よく入れてくれるんである。感涙にむせびながら、鍋をすする。そして、残ったこの美しいスープを見よ。頃合いをみはからって再び大将が登場。今度は卵と葱持ってきて、雑炊をつくってくれるのである。しかも。ふたつある鍋のうち、もうひとつにはパルミジャーノを投入するではないか。和と洋のツーバージョン。うふふ。ふふふふふ。白子と牡蠣のエキスがたっぷりつまったスペシャル雑炊。頑張った一年の終わりにふさわしい忘年会のメインディッシュ!私は、二杯おかわりした。

th_IMG_2186th_IMG_2187

 とまあ、毎回こんな具合のゴージャスなラインナップなのである。今年のデザートは、神楽坂の紀の善から取り寄せた抹茶ババロアである。あんこと生クリームつき。これ、大好物なんであるよ。さんざん贅沢三昧した後でいただく抹茶ババロア。みんな黙ってもくもくと食べる。が、そそれぞれの顔を見やれば、全員が満足そうな幸せそうな表情になっている。今年も一年お疲れさまでした。

2015-07-03 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

佐島山茂丸「釜あげしらす」

 156夜に引き続き佐島ネタである。カメラマンM(4)くん(第42夜参照)と三浦半島で撮影すると、しきりに帰りにしらす買いましょうよというのである。大量に買って帰ったしらすをごはんの上にてんこ盛りにして、豪快に食べるのだという。しらすをすくう仕草までしてくれる。しらす丼かあ。なにやら魅力的ではないか。魚好きであるから、しらすをゲットするのに異論があるはずはない。幸い、大人ばかりの撮影チームは、みんな美味しいものには目がないので、寄り道も厭わない。

 相模湾ではしらす漁業が盛んで、しらす干しが神奈川県名産100選にも選ばれている。しらすというのは魚の種類ではなく、ウルメイワシ、マイワシ、カタクチイワシの生まれてから一ヶ月くらいの魚の総称で、体にはまだ色素がなく、鱗もできていない半透明の仔魚のことを言うのだそうだ。つまりイワシの赤ちゃんというわけだ。この漁獲したしらすを茹で上げたのが、釜あげしらす。天日しらすとも呼ばれている。

th_IMG_2114

 お店に伺うのは撮影を終え、遅めのお昼ごはんを食べた後だから、生しらすにはお目にかかったことがない。だが、釜あげしらすでじゅうぶん美味しいし、なにより新鮮である。

th_写真 

 初めて寄ったとき2パック買い、ひと晩ホテルの冷蔵庫に入れておき、翌日神戸に持って帰った。炊きたてのごはんを小さめの丼に盛り、刻み海苔をちらし、その上にしらすをたっぷり乗せる。具沢山の豚汁もつくった。すくっても、すくっても、しらすがいっぱいの幸せを味わう。こういうシンプルかつ豪快な料理は楽しいし、食べるのも実に愉快である。

th_IMG_2117

 次に寄ったときは2パック同じように買い、その日のうちに家に戻り、同じようにしらす丼にして食べた。同梱されている食べ方を書いているチラシには、しらすトーストやしらすスパゲティもおすすめだとある。食パンはあまり食べないし、冷凍庫にもストックはなかったので、しらすスパゲティ(厳密にはエンジェルヘアパスタであるが)を作ってみた。にんにくと鷹の爪をおもいっきり入れ、しらすを鷲掴みにして投入。仕上げには刻み海苔をトッピング。これがまた、自分でつくって言うのもなんだが、死ぬほど旨かった。

 ロケ場所の関係で最近は三浦半島に行っていないが、なに、行かなくてもちゃんとここは通販対応してくれるのである。家でゆっくりできる週末をみはからって、今度は注文してみたい。

◎釜あげしらすを注文する

2015-07-02 | Posted in 千夜千食 | No Comments » 

 

佐島・地魚料理「はまゆう」

 ロケーション撮影のときはたいてい朝ごはんだけで昼過ぎまで頑張って、終了後にみんなでお昼ごはんを食べに行く。葉山や逗子でスペシャルな撮影をしたときちょくちょく立ち寄るのがここ。佐島魚市場で毎日魚介類を仕入れ、調理してくれる地魚の店である。こちらのおじいさんにあたる方が定置網漁を行う漁師だったというから魚の仕入れも見極めもプロである。ご両親が始めた食堂が前身で、今では地魚料理専門店として名を馳せている。

 おじいさんが常々言っていた「お惣菜にするシイラ、メジナ、ボラ、悪食のクロダイ、雑魚を使って商売をするな」が遺言で、それを忠実に守っているのだという。素晴らしい。当然、朝捕った魚しか使わない。マグロは佐島でメジマグロの水揚げのないときは仲買を通して三崎で仕入れるらしいが、それ以外はすべて市場で入札する魚介類と漁師から買う魚だけというから、徹底している。こういう姿勢、大好きだし、地魚と言うからにはこうでなくちゃあいけない。

 魚好きとしては、漁港の近くの地魚は魅力的ではあるのだが、産地で食べる魚が必ずしも旨いかといえばそうでもなかったりするのが面白いところである。刺身といえど、それも料理であると考えると、刺身にしたときにいちばん美味しい頃合いを見極め、包丁を入れ、どういう厚さで切って出すかには、料理人の経験と魚に対する知識やセンスがおおいに関わってくる。腕に覚えのある料理人(鮨職人が多いが)が出す刺身は、産地の新鮮さに勝ることが多い。それは、技術の洗練具合と言い替えてもいいのだが、ただ新鮮なだけならそりゃあ圧倒的に産地のとれとれが旨いに決まっているのだが、そうとも言えないところが、たかが魚でされど魚の奥深さである。

th_IMG_2108

 そういう意味ではこの店は、新鮮さとそれを料理する技術の両方を兼ね備えており、さすがに魚を熟知しているだけのことはある。地魚を無造作な感じで出しながらも、ちゃんと美味しく食べさせる計算が行き届いている。この日注文したのは、刺身定食。マグロ、イカ、カンパチ、アジなどとれとれのお刺身が8種類も乗っている。どの魚もいい具合に活かっており、魚好きをううむと満足させてくれる。看板メニューの「はまゆう御膳」は、刺身三種盛りに焼魚、揚げ魚にごはんと味噌汁がつく定食だ。こんなのお昼に食べたらバチがあたりそうなゴージャスさ。さすがに撮影ランチでは無理だが、いつかプライベートで来てチャレンジしてみたいと思う。

2015-06-29 | Posted in 千夜千食 | No Comments »